古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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毎日連載終了と言いましたが、未だ行けそうです。今月一杯は連続投稿頑張ります。


第239話

 宮廷魔術師第七席に任命された、当初の目標を最短で達成した事になる。

 ウルム王国との戦争が避けられない程に緊張状態になっているのか分からないが、戦争になっても最前線で使い潰されない様な地盤固めにはなった。

 

 だが今は宮廷魔術師任命の御祝いと顔見せを兼ねたパーティーの真っ最中、三日間連続で催されたが最終日に漸く自由な時間が出来てサリアリス様と話し合う時間が持てた。

 

 サリアリス様からご褒美として転生前の自分であるツアイツ卿が書かれたと伝わる魔導書を手渡された、実際は偽物だったが僕に近い人物が書いたみたいだ。

 僕自身の生い立ちについて書かれた内容が事実に近い、あの吟遊詩人達が歌う僕からすれば荒唐無稽な話じゃない。

 この魔導書の著者は過去の僕の近くに居た人物に間違いないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「サリアリス様、実は僕からも贈り物が有ります」

 

 王宮内の与えられた部屋のソファーセットに座るサリアリス様に、僕が死にそうになりながら倒したシザーラプトルについて話す事にする。

 小型のドラゴン種だが群れを成して狩りをする事と牙から毒を吹き出す強力で危険な種族だ。

 

「何じゃ?儂に贈り物など気を使わなくても良いのじゃぞ」

 

 少し意外な顔をされた、一ヶ月間も遠征してたから用意が出来ないと思われたかな?

 

「デスバレーで倒したドラゴンは実は四種類、アースドラゴンとアーマードラゴン、それとツインドラゴンの他に冒険者ギルド本部でも捕獲数が少ないシザーラプトルを四体倒しました。

基本的に繁殖期以外は単独行動なドラゴン種には珍しく群れを成し狩りをします」

 

「シザーラプトルだと?儂ですら文献でしか知らないぞ、デスバレーでドラゴン狩りなどしなかったからの。それで捕獲したんじゃな?」

 

 流石に博識だ、期待に満ちた顔を見れば文献で読んで奴等の特性も記憶している。

 

「はい、一体は冒険者ギルド本部に譲りましたが三体確保しています。このシザーラプトルは牙の前面に穴が有り、そこから毒液を噴射するのです」

 

「ふむ、噛んで牙の先端から毒を注入する訳でなく前方に噴出する、しかし十体前後で群れを形成し獲物を狩る残忍で狡猾なドラゴンだと記憶しているぞ」

 

 興味深い対象を得られての嬉しさの中にも、危険なドラゴン種と対峙した僕の身を心配してくれているのだろう、直ぐに表情が曇った。

 

「はい、無知故に引き際を誤る所でした。ですが一ヶ月間のドラゴン種狩りで得た経験により、僕のゴーレム道の新たな一歩を踏み出す事が出来たのです」

 

 土壇場で可能にした強化装甲、ゴーレムシリーズの最上位であるキングの名前を仮に付けた『リトルキングダム』に君臨する僕が身に纏う究極のゴーレム。

 

「ほぅ?一ヶ月見ない間に相当レベルを上げたと思ったが何やら掴んだみたいだの、流石は儂が見込んだ男じゃ」

 

 身体を乗り出して頭をワシワシと撫でられた、サリアリス様には撫で癖が有るのだろうか?

 

「有難う御座います、シザーラプトルはお渡ししますのでドラゴン種の毒性について共に調べたいと思います」

 

 地上最強生物の毒素とはどんな効果が有るのか気になる、中々手に入らないから解毒も難しい筈だ。これから調べる事が楽しくなり二人共に自然に笑みが零れる。

 

「ふむ、幾ら強力な群れ成すドラゴンでも小型ではインパクトが無い。ツインドラゴンは全長15m以上だから民衆受けするか……

コイツの毒性については共同研究とするが対価は受け取れ、お主は本当に知的探求以外の欲望が薄いな」

 

 助手でなく共同研究者として扱ってくれるのか?嬉しいがサリアリス様に迷惑が掛かるのではないか?

 共同研究者だと立場は同等、新発見が有れば権利も折半だから格下に優遇し過ぎと周りから言われてしまう。

 

「いえ、僕は研究助手の立場で……」

 

「お前が助手扱いなら他のボンクラ連中などゴミ以下じゃろ?折角の貴重なサンプルだ、じっくり共に研究しようぞ」

 

 結局サリアリス様に押し切られる形でシザーラプトルの毒性については共同研究者という立場で押し切られた、嬉しいが煩い連中が騒ぎ出すだろうな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王宮に招かれて四日目、全ての行事を終えて解放される事になった。

 実際に宮廷魔術師になったが来週から週に三日ほど王宮に詰める事となった、何かを日常的にやらされる訳ではないが有事の際には率先して当たらねば駄目だ。

 宮廷魔術師達は自分の部屋を王宮内に持つ、屋敷に帰らずに居残っても衣食住の面倒は見て貰える。

 それなりの地位から宮廷魔術師に上り詰めるのが普通だから他の連中は貴族街に屋敷を構えている、フレイナル殿やビアレス殿は実家を継ぐから問題無い。

 

「つまり僕だけ貴族街に屋敷が無い訳だ、身分相応とか難しいな……」

 

 公用の馬車が使えるので自宅まで頼んだ、豪華な四頭引きの黒塗りの馬車に乗るのは僕一人だけ、この対応の変化に戸惑いを隠せない。

 窓から見る景色は貴族街の中で歴史を感じる屋敷が連なる、適当な屋敷を見繕って買うしかないだろう。

 何となく候補の空き屋敷が無いか窓の外を見続ける、空き家っぽい物は中々無いな……

 

「あれは、剣と麦穂を持つ勝利と豊饒の女神のレリーフは前に見た屋敷だぞ」

 

 転生前の配下だったブレイザー・フォン・アベルタイザーの家紋だが今は別の貴族が管理している、確か隣に住んでいるレレント・フォン・パンデックと名乗った温和で小太りな中年男性を思い出した。

 かつて僕が率いていたルトライン帝国魔導師団に押しかけて来た大貴族の跡取り息子だったブレイザーと違い魔力を一切感じなかったんだ、代を重ねて魔力を失ったのだろうか?

 この屋敷は朽ちるのに任せるって言ったが強固な固定化魔法が掛けられているので後百年は大丈夫だろう。

 

「朽ちるに任せる三百年に近い歴史を持つ屋敷、過去の魔術を用いた防御機構が残っているが誰も解明に挑戦しなかったのかな?」

 

 馬車は屋敷の前を通り過ぎてしまったが一度考え出すと止まらない、あの屋敷の秘密を解ければ僕が三百年前の魔法知識を持つ裏付けになるな。

 理由無く現代では使われない魔術を多用するのは怪しまれる、たかがライティングの魔法でも大騒ぎだったし……

 

「レレント・フォン・パンデックと名乗った人物を調べるか、敵対派閥の構成員だったら交渉は難しいし……」

 

 クッションの良く効いたソファーにもたれ掛かり目を閉じて今後の事を考える。

 不用意に話を持ち掛けて縁を持つと不利な状況になる可能性が有る、だが宮廷魔術師任命祝いの席で彼は挨拶に来なかった。

 本人じゃないかも知れないがパンデックの家名を名乗る相手も居なかった筈だ。

 

「ブレイザー・フォン・アベルタイザーか……」

 

 懐かしい記憶が蘇る、口の悪いセッタと良く喧嘩をして最後は魔導師団のオフクロ的存在だったバレッタに仲裁されてたな。

 僕を慕い集まってくれた五百人の魔導師団員達だが、彼等の一生は幸せだったのだろうか?

 僕の処刑の数年後に周辺国家が連合を組んで包囲網を敷き滅ぼされたと聞く、その周辺国家群を巻き込んだ戦争が魔法の衰退の原因らしい。

 

「リーンハルト卿、お屋敷に到着致しました」

 

「ん、有難う」

 

 御者の言葉に現実へと引き戻される、馬車を下りるとタイラントやイルメラ、ウィンディアと全員で迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

「うん、ただいま。変わりはないかな?」

 

 三日振りの我が家は殆ど住んでなくても暖かく僕を迎えてくれた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 宮廷魔術師になったからと言って自分の何かが変わった訳ではない、周りは気遣いをしてくれるが基本的には同じだ。

 三日三晩の御祝いパーティーは高級な料理やお酒を飲んで挨拶しかしてないから身体が鈍る、なので肉体の鍛練を行う為に朝六時に起きて裏庭に出た。

 これでも聖騎士団副団長の長男だったので戦う事に必要な筋力や瞬発力を鍛える方法は叩き込まれている。

 

「少し怠けていた為かキツイ……」

 

 二百回の腕立て伏せだけで両手の筋肉がパンパンだ、魔術師は知識の吸収に重きを置くが最低限の肉体強化は必要だ。

 一通りの鍛練を終えると汗だくになった、綺麗に刈られた芝の上に寝転ぶ。

 様子を伺っていたウィンディアがタオルと飲み物を持って近付いてくるのをボンヤリと見詰める、もうメイド服は着ないそうだ。

 屋敷の事はメイド長のサラとメルティで仕切っているので大丈夫、似合っていたので残念だな。

 

「はい、タオルだよ」

 

 隣に座り両手でタオルを差し出してくれる、洗い立ての真っ白なタオルだ。

 

「うん、有難う。助かるよ」

 

 上半身を腹筋の力だけで起こしてタオルを受け取る、先ずは顔を拭いてから首筋、両手を拭いて首から下げる、微かに洗剤と香料の匂いがした。

 

「はい、アイスレモンティーだよ」

 

 程良く冷えたグラスを受け取り半分くらい一気に飲む、一ヶ月間荒野を徘徊したので暑さの耐性は上がったかも?

 ニコニコと微笑む彼女に見られてると体力の無さが分かって恥ずかしい、きっとデオドラ男爵家基準だと皆さん凄い体力だろう。

 

「ふぅ、落ち着いた。明日から魔法迷宮バンクの攻略を再開するよ、八階層に下りてみよう」

 

 並んで座るウィンディアの膝に頭を乗せる、彼女の膝枕も久し振りだ、懐かしい柑橘系の匂い。

 

「今日は午後からバーレイ男爵夫人とインゴ様が来るんだよね」

 

 額に乗せられた手が冷たくて気持ちよい、午後からエルナ嬢とインゴが来るのだが何故か全員で四人と言われた。

 

「誰か分からないが他に二人連れて来るらしい、嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない」

 

 エルナ嬢に紹介された側室と妾候補は四人とオマケのグレース嬢だ、だが宮廷魔術師となり挨拶時に娘同伴で来る人が多かった。

 つまり他の二人とはエルナ嬢が断れなかったか、どうしても会わせたい女性だろうな。

 

「側室候補さん?大変だよね、今まで見向きもしなかったのに出世したら掌を返した様に……」

 

 つい三ヶ月前は廃嫡して平民となり冒険者として自由に生きる予定だった、だから周りの連中も特に気に掛けてなかった。

 

「まぁ角が立たない様に断るさ、僕にはアーシャ様と一応ニールが居るし来年はジゼル様を本妻として娶るからさ」

 

 額に置かれたウィンディアの手を軽く握る。

 

「えっと、その……」

 

「成人後、本妻としてジゼル様を娶る。その後になるが僕の側室になってくれ」

 

 話の流れ的に今しか言えないと思い多少強引だがウィンディアに求婚する、膝枕をしてるから見上げる顔は真っ赤だな。

 

「うん、勿論だよ。だって私は最初からそのつもりだったけど、リーンハルト君が出世してどんどん遠くに感じて……私なんかじゃ釣り合いが取れないと思ったわ」

 

「肩書きが厄介になっただけで僕の中身は変わらないよ。ウィンディア、僕は独占欲が強くて我が儘で嫉妬深い魔法馬鹿だ。君には苦労をさせると思うけど必ず幸せにするよ」

 

「うん、有難う。必ず待ってます」

 

 立ち上がって抱き締める、だが早朝の屋外だからそれ以上の事はしない、全ては来年の成人後だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 これでイルメラとウィンディアには求婚した、全ては成人後にジゼル嬢を迎えてから彼女達を側室に迎える。

 ウィンディアは後見人にデオドラ男爵が付くがイルメラは孤児院育ちの平民だ、周りが煩く騒ぐ可能性が高い。

 やはり早く彼女達を冒険者ランクC以上にする必要が有る、ランクCなら下級貴族に近い待遇は得られるからな。

 または誰かの養女になって貰い嫁いで貰うか?幸い僕と親族関係になりたい貴族は多い、利の有る相手なら断らないだろうし彼女の力にもなる。

 

 執務室で宮廷魔術師になった祝いの品々の対応に追われる、前回よりも倍近い数の手紙と品物だ、三日間王宮に居て目を離した隙に山盛りだな。

 

「ライラック商会を頼ろう、僕等だけじゃ無理だ……」

 

 愚痴と泣き言を言い続けながら何とか二割位を処理した時点で来客が来た、窓から見える庭にバーレイ男爵家の馬車が見える。

 

「エルナ嬢にインゴ、それにあの二人か……」

 

 前にお茶会で会った才媛と噂される年上の二人組が追加の客だ。

 


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