古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第24話

『冒険者ギルド月例会議』

 

 各支部長並びに魔法迷宮出張所所長が全員集まり近状を報告する会議、特に重要なのが冒険者ギルド会員の動向だ。

 冒険者ギルドに有益・不利益等、各支部や出張所の責任者が知っている事は重要だ。

 大抵は有名な高レベルパーティの成果報告や新しく発見されたモンスターやアイテムが主だが、ギルド会員の不祥事や見込み有る新人の報告も重要だ。

 先ずは各支部から、その後は魔法迷宮出張所だが当然レベルの高い方から発表となる。

 

「では最後にバンク出張所パウエル所長の報告を聞こう」

 

 総勢40人以上の報告者の中で最後はバンクだ。管理する七つの魔法迷宮で一番難易度が低い。故に新しい発見は少なく精々有能な若手発見の報告くらいだ。

 

「はい、最近力を付けて来ているパーティの中で特に目を引くのが手元資料に有る『ブレイクフリー』です」

 

 報告書には彼等の見付けた(売り払った)アイテムの一覧と数が書いてある。

 

「ほう、まずまずのアイテム収集数だな。バンクの二階層までとすると一ヶ月くらい掛かったか?」

 

「そうだな、一階層のボスのレアドロップが多いな……大分頑張って挑戦し続けたか」

 

 木の盾と木の腕輪の数から考えれば普通なら二百回、いや三百回以上は倒さないとドロップしないだろう。

 

「いえ、彼等の四日間の成果です。

『ブレイクフリー』のリーダー、リーンハルトは未だ14歳ながら優れた素質とギフト(祝福)を持っているのです。

彼は土属性の魔術師でゴーレム使いです。

僧侶と二人のメンバーで、呆れる話ですがボス狩りと称してウッドゴーレムを狩り続けたのです。

そして『レアドロップアイテム確率UP』のギフト(祝福)の恩恵で高確率でレアドロップアイテムを集められるのです」

 

 周りからため息が漏れるのも当然だ。苦労して高レベルのモンスターを倒してもレアドロップアイテムの確率は精々が3%前後。

 だが彼のギフト(祝福)なら30%近くの確率だ、30回倒して1個と3回倒して1個の差はデカい。

 

「それは、今までよりも10倍近いドロップ確率だぞ。言い換えればパーティ10組分の収集率だな」

 

 その言葉に暫く黙り込んでいた面々が、彼の利用法を思い付いたみたいだ。

 

「ギルドで不足してるアイテムを集めさせるべきだ!」

 

「回復の指輪や蘇生ポーション、退魔の武器シリーズ……どれから集めさせますか?」

 

「いや、高レベルパーティの生還率を高める為にも高性能の防具からだ!」

 

「転売利益の大きい宝石類の方が良くないか?ギルドの運営には莫大な予算が必要で、常に予算不足に悩まされているぞ」

 

「金か?馬鹿か、そんな物は後回しだ!」

 

「経営陣として金の話は抜きには出来ないのだぞ、そんな事も分からんのかボケが!」

 

 冒険者ギルド月例会議はスゲー醜い罵り合いにまで発展した。

 

 

 

※それなりの地位のオッサン達が理性を取り戻すまで暫くお待ち下さい。

 

 

 

「落ち着いたか?資料を良く見ろ、彼は未だ14歳でレベル15だ。しかも来月から冒険者養成学校への入学も決まっている。

今は彼の育成に力を注ぐべきだな。

『レアドロップアイテム確率UP』のギフト(祝福)は他では見付かっていない、慌てて使い潰すのは勿体ないぞ!」

 

 議長の一喝で方針は決まった。

 

「それで一つ問題が有ります、バルバドス塾の生徒達が彼に対して干渉してきてます。まぁ一方的に喧嘩を吹っ掛けて返り討ちに遭ったのですが、あの連中は素行が悪く特権意識が高い。

しかもバルバドス氏は元宮廷魔術師ですからね、弟子が二人も負けては黙っていないでしょう」

 

 土属性の魔術師、ゴーレム使いとは国家としては微妙な扱いだ。

 戦力として軍は大規模広範囲攻撃魔法を使える火属性、大勢の兵士達の能力をブーストする風属性、負傷しても直ぐに治癒出来る水属性の方を好む。

 今は亡きルトライン帝国の伝説の宮廷魔術師筆頭、ツアイツ・フォン・ハーナウ卿は耐魔法属性を付加したゴーレム数百体を率いて戦争に勝ち続けたと言うが……

 今の時代では宮廷魔術師まで上り詰めたバルバドス氏でさえ最大制御数は質を落として数十体。大規模戦争では使えないが、迷宮探索ならピッタリの能力だ。

 

「バルバドス氏については冒険者ギルド本部から申し入れをしよう。

幸いな事に先の諍いについては管理小屋の王国騎士団も知っているし、弟子の不祥事を揉み消す見返りに不干渉にしろと話を付ける。

全く干渉するなとは言えないが被害が無いようにしてくれるだろう」

 

「では冒険者養成学校の方には私の方から、それとなく指導について優遇させましょう。既にOGである『野に咲く薔薇』が接触済みですから、無用な勧誘等は彼女等に防がせます」

 

「卒業後は徐々に冒険者ギルドの選抜メンバーパーティに参加させてレアドロップアイテムの収集をさせる、楽しみですな」

 

「しかし彼はバーレイ男爵のディルク殿の息子、パーティメンバーのイルメラは今は亡きイェニー殿の愛弟子。

かつて我が国を侵略戦争の脅威から勝利へと導いた英雄達の息子と愛弟子とは驚きだな」

 

「では彼等については将来冒険者ギルドにとって有益で有ると判断し見守る事にする。良いな?」

 

 これで冒険者ギルドとして『ブレイクフリー』は将来有望・有益と認知され、陰ながら手助けをする事が出来る。

 久々に見付けた有望な若者達だからな、これで早々に潰される事も無いだろう。

 彼等の成長が楽しみだぜ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「漸く迷宮探索が出来ますね。しかしバルバドス塾とは迷惑な連中でしたが、また来るでしょうか?」

 

 バンクの一階層を下り階段まで歩いていく。

 野次馬も一斉に攻略を開始したので30人以上の団体となって進んでいるが、先頭が高レベルパーティらしくたまにポップするゴブリン程度は瞬殺らしく歩みは止まらない。

 

「ああ、来るだろう。今回は自称No.2とNo.3らしいが、あの程度で元宮廷魔術師の高弟とは思えない。

それに弟子がやられたとなれば、バルバドス氏本人が来る場合も有る。元宮廷魔術師としての面子も有るから知らんぷりも出来ないだろうね」

 

 全く最近は厄介事ばかりじゃないか?『デクスター騎士団』しかり『バルバドス塾』しかり……

 

「でも二番目の負けた人と三番目の女の人に関わり合いにならないように釘を刺しませんでしたか?」

 

 人差し指を頬に当てて首を傾げる仕草に幼さを感じるが、君は本当に18歳なのかい?どう見ても同い年みたいに思えるのだが……

 

「他人の口約束を守らせるのは難しい。約束を破られても文句を二番目の奴に言えるくらいか……バルバドス氏は元宮廷魔術師だし当然貴族で爵位も上だ。何か言ってきたら僕では断れないだろうね」

 

 貴族社会は爵位と金がモノを言う世界だ、相手は僕よりドチラも上。最悪はゴーレム戦を挑まれたらわざと負けるしかないが、不利な条件は断りたい。

 傘下に入れとかイルメラを寄越せとか言われたら勝つしかない、その場合は正式に貴族の決闘に持ち込むか……

 廃れたとはいえ禁止されてはいない。もっとも今の僕がバルバドス氏に勝てる保証は無いけどね。

 

「大分周りの冒険者が減ったね……」

 

 二階層に降りてから更に下に降りる連中とボス部屋に行く僕等は二股の道で別れた、二階層を探索する連中は僕等以外に10人も居ない。

 

「そうですね、今日は何回ボスを倒すのを目標にしますか?」

 

「そうだな、60回くらいかな」

 

 途中コボルドに出会わずにボス部屋に到着、ゴーレムの編成を確認し部屋の中に入る。攻撃役の両手持ちアックス装備三体の後に防御役のロングソードにラウンドシールド装備の二体。

 何時でも魔法障壁を張る準備をしているイルメラは最後尾、僕はその前でカッカラを構える。

 グレートデーモンのブレスで焼かれたカッカラだが磨くと煤が取れて傷みも少ないので新しいのを買わずに使っている。

 

「部屋の中央の魔方陣が輝き出したぞ。ゴーレムポーンよ、実体化した瞬間に攻撃を開始するぞ!」

 

 迷宮にポップするモンスターは実体化するまでは剣も魔法も通用しない、無敵状態だ。

 だが実体化した瞬間から戦いに反応出来るのは五階層以降らしい、ポーラさん情報によればだ。

 実体化したオーク三匹の脳天にアックスが振り下ろされスプラッターな光景を僕達に見せた後、魔素となり光の粒子が周りに溶け込む様にして消えて行く……

 

「ハイポーションと耐魔のアミュレットが一個ずつとは幸先が良いな」

 

 魔方陣の上に転がっているドロップアイテムをイルメラが拾う、絶対に僕には拾わせてくれない。イルメラ曰く従者が居るのに主が拾ってはいけないらしい……

 

「さて先ずは10回連続倒した時のドロップアイテムを確認しよう、あと9回だ!」

 

「分かりました、良い品物だと嬉しいですね」

 

 一旦扉を開けて外にボス狩り待ちをしているパーティが居ないか確認してから扉を閉める。2回目のオークが魔方陣の上で魔素が変化して実体化していく……

 

「今だ!ゴーレムポーンよ、アックスを振り下ろせ」

 

 2回目に実体化したオークの頭もカチ割る!一撃で倒せる分、一階層のボスのウッドゴーレムより倒し易いな。倒せる数も多いのでドロップアイテムの集まり方も早いので稼げる金額も多いのが嬉しい。

 出来れば冒険者養成学校に入学する前にある程度纏まった金額を貯めておきたいからな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 午前中一杯、バンク二階層のボスで有るオーク狩りを30回連続で行った。

 通常のドロップアイテムはハイポーション、レアドロップアイテムは耐魔のアミュレット。

 そして10回連続倒すとドロップするアイテムは……

 

「魔力の籠もった短い杖だな、だからロッドなのか……ワードとアクションで魔法が発動する、『ロッド・オブ・ファイアボール』だな。

ファイアボールと叫んで対象に向かい振り下ろせば発動するみたいだね」

 

 初めての攻撃系アイテムなのでワクワクしながら鑑定し効果を確認するが……

 

『ロッド・オブ・ファイアボール:火属性単体攻撃:10%の確率で使用後は破損』

 

 凄く微妙な結果が出た、20回目も30回目も同じ物がドロップした。

 

「ファイアボールか、火属性の魔術師の基本攻撃魔法だけど威力が低過ぎるな。試しにオークに使ってみたが一回じゃ倒せないし、これも換金アイテムかな?」

 

 手に持つロッド・オブ・ファイアボールを弄ぶ、長さ50㎝太さ3㎝、木製で先端に赤い魔力石が嵌め込まれている簡素な造りだ。

 多分だが後衛の盗賊系の遠距離攻撃手段の無い連中に気休めに持たせる武器か?いや一撃では倒せないがダメージは与えられるので牽制とかにも使えるのかな?

 

「そうですね……ですがロッド・オブ・ファイアボールは三階層以降のゴブリンメイジのレアドロップアイテムです。今の段階での換金は怪しまれませんか?」

 

 確かに売れば金貨5枚にはなるらしいが特に急いで売る程の事もないな。

 

「暫くは保管しておこう。それに30回目だとトータルで72匹倒してハイポーションが24個に耐魔のアミュレットが21個と稼ぎは十分だ。

昼食と休憩を挟んで午後は60回目まで頑張ろう!」

 

「そうですね、通常のドロップアイテムだけでも十分な稼ぎですね。リーンハルト様、明日はカッカラに代わる武器を買いに行きませんか?

グレートデーモンのブレス攻撃で大分傷んでますわ」

 

 ん?磨いたら大丈夫だと思ったけどイルメラ的には買い替えが必要なのかな?。

 溶けてはいないので性能は変わらないのだが、低層階で金属にこれだけのダメージを与えられる敵は居ないか……

 まさか『デクスター騎士団』壊滅のグレートデーモンと結び付ける奴は居ないと思うけど念には念を入れるか。

 

「そうだな、明日は朝一番に武器屋に行って新しい杖を買うか……

いや、別に魔術師然とした装備じゃなくても今の僕なら皮鎧とロングソード、それにライトシールドくらいは装備出来るな」

 

 僕がある程度守備力を上げれば、イルメラが怪我をする確率が下がるか。

 

「そうすると魔術師と僧侶二人のパーティの噂が当てにならなくなりますね」

 

 む、僕等の先行している噂話と違うパーティ編成なら、バルバドス氏関連の連中を誤魔化せるかな?

 

「良いアイデアだね、明日からは僕は軽戦士の格好をするよ。勿論、ゴーレムを引き連れてるところを見られたら意味無いけど迷宮外なら有効かな」

 

 資金稼ぎ目的で毎日バンクに来るのも後二日程度だからそれも良いか……『静寂の鐘』の連中には帰り掛けに会って伝えれば良いだろう。

 ローブ姿でない僕を見たリプリー達の反応を思うと自然に笑みが浮かんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「冒険者ギルドめ、この俺に命令とはな。全くもって面白い。

だが過剰な干渉をしてくるとは、この『ブレイクフリー』のリーンハルトとかいう小僧には秘密が有りそうだな」

 

 未だ人型ゴーレムに拘る部分が気に入らない、古臭い考え方が気に入らない、未だ14歳の餓鬼のくせに未熟とはいえ俺の弟子が倒されたのも気に入らない。

 見所は無いが貴族の子弟だから入門させた連中だが、お遊びが過ぎたな……あの二人は処分するか。

 だが調べる価値は有る、冒険者ギルドのお気に入りの餓鬼には奴等が利する秘密が有るのだろう。それを調べれば楽しい事になりそうだな。

 場合によっては手合わせも面白いな、下らん過去の考え方に拘った人型のゴーレムを俺のゴーレムで蹂躙してぇな。

 

「くっくっく、楽しそうだ。いや楽しいだろう、格下の絶望する顔を見るのは無上の楽しみだ」

 

 普段は元宮廷魔術師として取り繕っているが俺の本性は外道だからな。リーンハルトか、精々俺を楽しませろよ。


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