古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第243話

 デオドラ男爵家に婚約者と側室のご機嫌伺いと相談が有ったので訪ねた。

 デオドラ男爵とルーテシア嬢が不在だった、彼女にも婚約者候補を用意するらしくデオドラ男爵が色々と動いている。

 ルーテシア嬢の夫は武門デオドラ男爵家に婿入りで、武と知の両方を求められ選定が難しいと零していた。

 確かデオドラ男爵は本妻の長男を後継者に指名していて、今は領地経営を教え込む為にアルクレイドさんと現地に行っている。

 

 ジゼル嬢いわくデオドラ男爵家一族の血を濃く引いているらしい、つまり内政よりも戦いが大好きだ!

 

 なので領地経営のノウハウを叩き込まれている最中らしいが、デオドラ男爵家を継ぐのは二十年位は先だろう、現当主が健在の内は無理だな。

 

「何を考えているのです?」

 

「少しお疲れなのでは有りませんか?」

 

 質問と労りが同時に来た、アーシャ嬢の部屋を訪ねたのだが丁度ジゼル嬢も居たのでそのままお茶会になった。

 

「いえ、年頃の淑女の部屋に来る機会など殆ど無いので緊張しています」

 

 本来なら貴族令嬢の私室に家族以外の異性が訪ねる事など無い、未だ自分の屋敷に迎えてないが側室だから許されるのだろう。

 アーシャ嬢の部屋は華美でなく落ち着いた雰囲気を醸し出している、私室と言っても寝室と応接室の二部屋有るのだが……

 

「リーンハルト様は女性の扱いに慣れているかと思えば純情な一面も持っているのですわね」

 

「余り見られるのは恥ずかしいです」

 

 初々しい態度だが誕生日パーティーでお披露目の後で、直ぐに僕の側室として嫁いだ事は、今でも嘆(なげ)く男達が多いと評判だ。

 決闘を申し込もうにもゴーレムマスターと言われた僕が、ゴーレム無しのハンデ有りで三対一でバーナム伯爵派閥の若手に圧勝しているのだ。

 負ける確率が高いし他家に嫁いだアーシャ嬢を奪うのは問題行為なので、その内には噂も鎮静化するだろう。

 

 だがエムデン王国の武の重鎮であるデオドラ男爵に認めて貰える男は少ない、故にルーテシア嬢の婿探しは難航している。

 政略結婚の側面も有るが基本的には有能な者を婿養子として取り込み、後継者のサポートをさせたいらしい。

 因みに僕は自分の家を興したので除外されたが、腹心のジゼル嬢を本妻として取られるのが痛いと冗談混じりに言われた。

 だからこそ本妻方が僕に対しての態度を軟化させたんだ、後継者争いに絡まない立場だからな。

 

「そうだ、報告が有るのですが前にエルナ様から(側室として)紹介されたバセット男爵の次女であるアシュタル嬢と、トーラス男爵の長女であるナナル嬢ですが……」

 

 名前をだした途端に二人に注目されたので言葉を続ける事が出来なかった、疑う目と悲しい目を向けないで下さい、側室や妾として迎えますじゃないですよ。

 

「噂の才媛のお二人ですわね」

 

「見目麗しい方々ですが、確か私達よりも年上だった筈では?」

 

 ふむ、同じ派閥の貴族令嬢だから情報は持っているんだな、ジゼル嬢が才媛と言うなら大丈夫か。

 

「その二人ですが、家臣として雇う事にします。元々はエルナ様から側室にと紹介されましたが状況が変わりましたから。

僕は一代で家を興したので家臣が居ません、有能な人材を集める必要が有ります。

幸い二人も僕の側室になりたい訳じゃなく自身の能力を生かせる場所を求めていた、だから嫁ぎ先で家に捕われて何もさせて貰えない事を拒んだのです」

 

 ジゼル嬢はカップを口に付けたままで動かず考え込んで、アーシャ嬢は人差し指を頬に当てて考えている。

 

「つまりリーンハルト様は二人を好待遇で雇い仕事を任せるのですね?」

 

「でもあの二人の御実家は嫁ぎ先を探すのに必死ですわよ、本人達にその意思が無くても……」

 

 そう、アーシャ嬢の疑問は尤もだ、貴族令嬢は家長の決めた相手に嫁ぐのが常識だ、次男以降なら自立して他家に雇われる事も有るが女性は政略結婚の為に手放さない。

 彼女達は何等かの理由でそれを断り続けて来た、相手の欠点を指摘しプライドを粉々にしたりと聞いたが多分噂が変化して広まったと思うんだ。

 仮にも見合い相手を侮辱する事は問題行為だし彼女達は自分達より格上の相手を狙ってる、そんな相手をどうやって断るのか興味は有るけどね。

 

「二人の実家の説得はエルナ様に任せました、下世話な事ですが金か魔力付加の武器防具で交渉して貰います」

 

「それは……そうですわね、あの二人ならリーンハルト様の邪魔にはならないでしょう」

 

「家を興すというのは大変なのですね、私も早く手伝いたいのです。でもお母様が花嫁修行が終わる迄は駄目だと……」

 

 ジゼル嬢の声が若干低く平坦に変わった、これって嫉妬かな?

 アーシャ嬢は純粋だから家臣の話をそのまま信じた、だが花嫁修行の内容が気になる、予定では来週末に我が屋敷に迎えるんだ。

 

「二人の身柄はジゼル様に一任します、僕は政務関係には疎いので貴女の部下として面倒を見て下さい」

 

 ニールと同じく丸投げしよう、下手に関わると要らぬ誤解を受けそうだ。

 

「別に浮気を疑ってはいませんから、お気遣いは不要ですわ。確かに家臣は必要です、彼女達なら能力的には十分ですし同じ派閥の令嬢ですから問題は無いでしょう」

 

 誤解が解けたので一安心だな、多分だがジゼル嬢と結婚すれば家の仕事の殆どを取り仕切ってくれる筈なので助かる。デオドラ男爵が手放すのを残念がるのも分かるな……

 

「実は王宮勅使より身分相応に貴族街に屋敷を持てと言われました。確かに他の宮廷魔術師達は貴族街に自分の屋敷か実家が有ります、今の屋敷も気に入ってますが早目に引っ越しが必要なのです」

 

 全く気が進まないが有事の際に王宮に素早く行く為と国家の権威の宮廷魔術師として必要な事なのだろう。

 そして気になっている屋敷がレレント・フォン・パンデック殿の所有している屋敷だ、転生前の部下だったブレイザー・フォン・アベルタイザーの家紋が刻まれた古い屋敷。

 

「直ぐに出世されるのも大変なのですわね」

 

「異例中の異例ですし仕方ないのでしょう、でも貴族街に屋敷を購入となると難しいですわね」

 

 珍しくジゼル嬢が言い淀んだ、だが敵対派閥以外で売りに出ている貴族街の屋敷なんて直ぐには見付からないだろう。

 探すとなると紹介者を介するか直接交渉するかだが、従来貴族の上位陣でもなければ紹介など難しいし、派閥の関係で誰彼構わず交渉は出来ない。

 折角会いに来ても話題の半分は仕事絡みで申し訳ないとは思う、壁際に控えるヒルデガードさんの笑顔も怖い。

 

「貴族街の外れに気になる古い人が住んでない屋敷が有ります、古い魔術構成の人除けの呪文が施されていました。持ち主は、レレント・フォン・パンデック様ですが知ってますか?」

 

 情報通なジゼル嬢なら知っているかと思い聞いてみる、敵対派閥じゃない事だけでも分かれば後は直接交渉してみても良いだろう。

 

「パンデック家ですか?バーナム伯爵やニーレンス公爵の派閥には居ませんね……私でも直ぐには思い付きません、調べてみますので時間を下さい」

 

 ふむ、比較的僕に友好的な派閥の家ではないのか、だが悠長にはしてられないし次善の策としてサリアリス様やバルバドス師を頼ってみるか……

 

「助かります、僕はサリアリス様やバルバドス様の方に売りに出している屋敷が有るか聞いてみます」

 

 彼等が紹介出来るなら派閥争いは関係無い、残りの従来貴族の伝手はニーレンス公爵かローラン公爵だが後が怖くて頼めない。

 

 その後はヒルデガードさんの無言の圧力に負けた訳ではないが、奥方達を交えて普通のお茶会として会話を楽しんだ。

 泊まっていけと誘われたが、冒険者ギルド本部に用が有るのでデオドラ男爵家をあとにした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔術師のフードを目深に被り冒険者ギルド本部に入る、結構顔を隠す連中も居るので不思議には思われない。

 流石に宮廷魔術師が堂々と出入りするのは遠慮して身元がバレない様に気を配る、訪ねた用件は盗賊討伐の懸賞金の受け取りだ。

 屋敷の方に届けると言われたが下級魔力石も買いたいので自分が行く事にした。

 ボルガ砦攻防戦で、ハボック兄弟に傭兵団の赤月、後は名前も知らない野盗共二百人近くを纏めて聖騎士団に引き渡したが依頼中の事故の為に冒険者ギルド本部が代行して処理してくれた。

 

 夕方近い為か依頼達成報告に来た冒険者パーティでギルド内部は混んでいる、ざっと見回しても知り合いは居ないな。

 少なくとも二十組くらいのパーティがカウンターで報告したり壁に貼られた依頼を確認している、僕も少し前までは彼等と同じだったんだけどね。

 

 事前にクラークさんから奥の応接室に直接入って構わないと言われているので、混雑している他のパーティを横目にギルド職員にギルドカードを見せて中に入る。

 目敏い連中は僕が誰だか気付いたか冒険者ランクの高い誰かが来たと思って注目している、だからローブは目深に被ったままだ。

 対応してくれたギルド職員が案内までしてくれるのだが、宮廷魔術師になった事で対応が随分変わったな……

 

「こちらでお待ち下さい、直ぐに担当のクラークを呼んで来ます」

 

 一番上等な応接室に通されて直ぐに女性職員が紅茶と焼き菓子を用意して壁際に移動する、未だVIP待遇には戸惑う。

 

「これはリーンハルト様、わざわざ御足労願って申し訳ないですな」

 

 クラークさんよりも先に冒険者ギルド代表のオールドマンさんが部屋に入って来た、確かに宮廷魔術師が来たのに担当職員だけで対応は駄目なのかな?

 笑顔で迎えるオールドマンさんが向かい側に座る、先ずは型通りの挨拶を交わし近状の報告をする。

 

「なる程、貴族街に屋敷を構えろとは大変な事ですな。流石に我々も売りに出ている屋敷は知りません」

 

 駄目元で冒険者ギルドの代表である彼に、所属の貴族の伝手が何か有るかと聞いてみたが無理か……

 

「いえ、お気遣いなく。幾つか手は有りますので一応聞いてみただけです」

 

 恐縮しない様に大丈夫だと言っておく、暫く雑談をしてからクラークさんが袋の乗った台車を押して来たので漸く本題だな。

 

「ご無沙汰しております、リーンハルト様。先ずは宮廷魔術師就任の件、おめでとうございます」

 

「有難う御座います、改めて言われると照れ臭いですね」

 

 アースドラゴンを一体引き渡した時点で既にノルマを達成し宮廷魔術師就任が確定していたからな、改めて言われると照れ臭い。

 

「さて懸賞金ですが、ハボック兄弟が金貨七百枚、傭兵団赤月の団長以下懸賞金が懸かっていた連中八人を合わせて金貨五百四十枚、その他の野盗共は合わせて金貨四十七枚です。

合計で千二百八十七枚になりますので、お納め下さい」

 

 金貨の入った袋を台車からテーブルに乗せる、金貨千枚以上は大金だが最近金銭感覚が狂ってるな、大して驚かない。全て空間創造に収納する、これから物入りだし助かるのは確かだ。

 

「これから一週間に三日は王宮に詰めます、なので長期間の指名依頼は受けられません。魔法迷宮の攻略が主になります、取り敢えずはバンクの第八階層に挑む予定です」

 

 流石に地方遠征は無理だし今の僕の立場に指名依頼を出せるのは極僅かだ、多分だが錬金絡みのアクセサリーや鎧兜の制作だけになるだろう。

 

「それは残念ですが、魔法迷宮を攻略してくれるのは助かります」

 

「宮廷魔術師として鍛練を疎かには出来ませんし、僕のレアギフトは魔法迷宮でのみ生かされます」

 

 レアドロップアイテム確率UPのレアギフトは日常生活では役に立たない、それに魔法迷宮は色々と調べたい事も多い。

 ボス部屋の連続十回撃破ボーナスとか解明したい謎も多いし、バンクの最下層でもレベル35位なら経験値的にも上げられる。

 イルメラ達の鍛練と資金集めに最適だ、他の魔法迷宮の探索はウルム王国との事が解決しないと無理だろう。

 

「私達も助かります、これからもリーンハルト様とはギブ&テイクの関係を続けさせて頂きたいですな」

 

 愛想笑いで流したが互いに利用価値が有る事を再認識したので満足かな。

 


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