古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第247話

 自分付の侍女二人が公爵二家から遣わされた者だと知らされたが、黒幕相手が分かっている諜報員は脅威度が低いと放置する事にした。

 当の本人達にも話したが苦笑いをされたが要らぬ警戒を強いられるよりはマシだと思う、なので控え室で盗み聞きせずに壁際に控えている。

 

「さて、リーンハルトよ」

 

「何でしょうか、サリアリス様?」

 

 長閑に尊敬する格上魔術師とお茶を飲みながら魔術談義なら歓迎だが、彼女達の前では無理だな。

 僕もサリアリス様も興が乗ると内緒にしなければ駄目な内容まで検討し合いそうで怖い。

 

「我等宮廷魔術師はの、王宮に詰めて有事の際に対応するのは当然だが他にも仕事が有る」

 

 真面目な話と思い姿勢を正して真剣に聞く、新人宮廷魔術師の僕に宮廷魔術師とはなんたるかを教えてくれるのだな。

 そう言えば栄光有る宮廷魔術師に就任しても何をやるとか説明を受けてない、政務は無理でも何かしら有るだろう。

 因みに転生前は主に戦争で後は宮廷行事への参加や外交の手伝いだったな、まぁ外交に関しては王族の方の意味合いが強かったが……

 

「宮廷魔術師の下部組織に宮廷魔術師団員が居る、実際にはボンクラばかりで役立たずの集団だが見放す事は出来ない」

 

 サリアリス様は本気で言ってるんだよな、この人に認められる為のハードルは凄く高い、彼等だって……

 

「辛辣ですね」

 

 確かに変な連中も居たよな、ジョシー副団長の御息女など同性愛者の困った女性だったし……カーム殿?いや、ハーム殿だったか?

 

「才能無し、向上心無し、努力無し、言い訳ばかりの役立たずだが数が集まれば多少は利用価値も有る。だから模擬戦で鍛えてやれ、奴等はお主を軽く見ている馬鹿共じゃ」

 

 未だ居るのか、ドラゴンスレイヤーになっても宮廷魔術師第七席になっても根拠無く見下せるのが不思議だ、大方土属性魔術師なんかに負けないとか偏見だな。

 

「僕はポッと出の成り上がりの未成年ですからね、詳細を知らなければ甘くも見ましょう」

 

「ふむ、冷静じゃな。だが役立たずのボンクラ共にリーンハルトを馬鹿にされるのは業腹じゃぞ」

 

 結構本気で怒ってくれている、それは凄く嬉しい事だ。悪い噂では僕がサリアリス様に取り入って実力も無しに宮廷魔術師になったとも聞く。

 悪意有る噂の出所が分かれば色々と対策も有るが、今は誰が敵か味方か中立かを調べる事が重要だ。

 

「力量差を計るには戦う事が一番分かり易いですよね、余りデオドラ男爵に毒されたと言われたくはないのですが……そうですね、百人全員と一度に模擬戦をしましょう」

 

 エムデン王国の宮廷魔術師団員の力量も知りたい、何人かは仲間に引き込む必要が有る、多分だが冷遇されてる数の少ない土属性魔術師は全員引き込みたい。

 

「そうじゃな、お主なら負けないだろう。そして模擬戦を挑むと思ったぞ。儂が立会人を引き受けよう、下準備は出来ておる」

 

 悪戯が成功した時に浮かべる様な良い笑顔だな、いそいそと部屋を出るサリアリス様の後を付いて行けば広い野外の練兵場に宮廷魔術師団員が整列していた。

 これってサリアリス様が事前に命令して待たせてたんだよな、知らないから呑気に長話をしていたが一時間位は待たせたよな?

 

「サリアリス様?」

 

「ああ、待たせとった。詰所で雑談しとったからな、これも体力増強じゃよ」

 

 一概にサリアリス様が悪い訳でもないのかな?鍛練もせずに詰所で駄弁ってたから渇を入れる為に立たせた?

 だが宮廷魔術師筆頭に向ける視線ではないな、畏怖は良いが侮蔑が混じるのは暗殺疑惑のせいだ、つまり僕に殆どの原因が有る。

 サリアリス様の彼等に対する態度の一因もそれが含まれているんだ。

 

「ほれ、お前等が言うコネで入ったリーンハルトを連れてきたぞ。簡単に勝てるのじゃろ?ほれ、お前とお前が言ってたな」

 

「いや、それは……」

 

「私達は別に、その様な意味では言ってません」

 

 名指しで言われた二人が狼狽える、魔術師の頂点から詰問されれば動揺するよな。

 他の連中を見れば哀れみや小馬鹿にした感じ、我関せずを決め込むなど宮廷魔術師団員も一枚岩ではない。

 

「サリアリス様、もうその辺で良いでしょう。名前は知らぬが僕が実力不足と判断した訳だな、その疑問を払拭させてあげよう。

僕に不信感が有るのは構わないが勝手に見下されるのも困る、だから模擬戦をしよう」

 

 サリアリス様に詰問されていた二人を睨みながら話す、更に顔色が悪くなったな。つまり実力差は分かっていながら悪口を言ったんだな、本人の実力が無いなら実家が強い権力を持っているのだろうか?

 

「それは……そんな事は……」

 

「一人じゃ卑怯です、貴方は宮廷魔術師じゃないですか!」

 

 その一人で挑めない宮廷魔術師を蔑んだ事を理解出来ないのだろうか?

 

 サリアリス様の目が細くなり底冷えする魔力が滲んで来た、彼女は本心で僕を蔑んだ二人に怒りを感じている。

 だがこれ以上は問題行為だし、これは僕の問題だ。彼女に向けられる悪意は僕が引き受けるのが当然だろう。

 

「誰が一対一でと言った?思い上がるなよ、僕に不信感が有る奴は纏めて相手をするに決まってるだろ。さぁ相手をしない奴は下がれ、僕に挑む勇気が有る奴は残れ。安心しろ、手加減はしてやるよ」

 

 狼狽えていた二人が僕に憎しみをぶつけて来た、これで良いんだ。

 他の連中を見れば、カーム殿とセイン殿が何人かを後ろに引っ張っている、僕の実力を知る連中は模擬戦を避けたか。

 それに土属性と水属性、風属性の一部は下がったが火属性は全員残った、つまり属性別に派閥が有るのだろう。

 

 残った連中を見回す、半分位は敵意だが残りは不満や不安が見て取れる、つまり派閥の一員として上には逆らえないから仕方無く残ってるんだ。

 

「約半分かな、じゃあ始めようか?」

 

 無言で睨む先頭二人に声を掛けて練兵場の中央部分に歩いて行く、ざっと見て全員レベル30前後の一人前以上の能力だな、どうやって凹ますかな……

 

 互いの距離は30m程離れて向かい合うが更に後ろに下がって行く、つまりゴーレムを錬成して接近する迄の時間稼ぎのつもりか。勉強不足だな、僕のリトルキングダム(視界の中の王国)は半径300m、情報が手に入れられる時点でも100mは有った。

 

「そんなに離れてどうするんじゃ?まぁ良いか、始めろ」

 

 凄く投げやりな感じて立会人役のサリアリス様が号令をかけた、先ずは攻撃を防いでみるかな、横一列に火属性魔術師達がならんで呪文の詠唱を始めたし。

 その後ろの風属性魔術師達は補助魔法を準備し始めたが遅いな、遅すぎる。

 

 十五秒数えた頃に漸く魔法の詠唱を終えたみたいだ、各々の前に炎の大球が浮かび上がる。

 

「「「ファイアボール!」」」

 

前列二十人位が一斉に飛ばした炎球の威力は中々だが大体500度位かな、土壁で防げるぞ。

 

「アースウォール!」

 

 攻撃と同時に自分の前方に土壁を盛り上げる、勿論だが耐火仕様の分厚い壁だ。

 当然だが炎球は土壁の表面に当たり弾けたが穴を穿つ程の威力は無い、直線だけで誘導弾も無しとは拍子抜けだ。

 

『馬鹿な?手加減抜きだぞ』

 

『兵士を百人単位で燃やし尽くす炎球の集中攻撃が、只の土壁で防げるのか?』

 

『ヤバいぞ、僕等の詠唱後にワンワードで土壁を錬成したぞ』

 

 本命は後ろに隠れた二列目だろうが未だファイアボールを唱え終わった連中も未だ残っている、魔力の高まりは隠せないし多分だがサンアローを唱えているのは三人。

 アースウォールを魔素に還す、サンアローの前にファイアボールの二陣が来るが魔法障壁でも大丈夫なのは確認した。

 そのまま歩いて前進するとタイミングを見計らっていた残りの十人がファイアボールを撃ち込んで来た、躊躇しなかったな。

 

「「「ファイアボール!」」」

 

「魔法障壁よ!」

 

 威力の確認済みの炎球が僕の胸元一点に飛んでくる、中々のコントロールだし連携も取れている。

 

 だがこの程度の威力ではデオドラ男爵の一撃を防いだ僕の魔法障壁は破れないぞ。当たった部分から激しい魔素の火花が散るが、更に魔力を籠めて消し飛ばす。

 

『一点突破の業火十連撃が防がれただと?』

 

『俺達の必殺技が通用しないなんて嘘だ!』

 

『化け物め、だがサンアローで消し飛ばしてやるぞ』

 

 凄く恥ずかしい必殺技名だが確かに一点に集めた威力は凄い、城壁の門位なら大ダメージを与えられるだろう。そして本命のサンアローを警告無しで撃つかよ!

 

「クリエイトゴーレム、耐火仕様ゴーレムよ。弾き飛ばせ!」

 

 鋼鉄製の3mのゴーレムルークに耐火仕様の盾を構えさせる、悪いがアンドレアル様は元よりフレイナル殿よりも格段に威力が低いので防ぎ切れる。

 正面に盾を構えて僅かずつ前進させる、連続照射は何秒出来るかな?

 

『クソッ!馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、何で土属性魔術師ごときがぁ!』

 

 やはりな、属性の有利さだけで見下していたのか、宮廷魔術師団員とはいえ質は低いな。

 

「全くの興醒めだ。ゴーレムルークよ、やれ!」

 

 盾を構えていたゴーレムルークを連中に向かい走らせる、サンアローに魔力を注ぎ込み過ぎた連中に防げるか?

 僅かに対応した連中がファイアボールを撃ち込むも、耐火仕様のゴーレムルークの鎧部分の表面を焦がすだけだ。

 

 腰からロングソードを引き抜きサンアローを撃ち込んだ三人の直ぐ脇に降り下ろす!

 

『ひぃ!』

 

『お、お助け……』

 

『こ、降参です。降参しますから!』

 

 轟音をたててロングソードの刀身が大地にめり込んだ、彼等の魔法障壁などゴーレムルークの全力で振り下ろしたロングソードなら厚紙程度の強度しかない。

 

「魔術師とは常に魔導の深淵を求め続ける者の総称、努力を怠らずに精進して下さい」

 

 恐怖を張り付けた顔で懇願されたが宮廷魔術師団員といえども、この程度ではウルム王国との戦争に不安が残る。興味が無くなった連中は放っておいてセイン殿達の方に向かう、彼等が土属性魔術師達だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「馬鹿め、だから言ったんだ。リーンハルト殿は非公式だがフレイナル殿に勝っている、属性の優劣で何とかなる男じゃないって」

 

「四属性最強って盲信したツケが来ただけよ、最悪のタイミングでね。セイン殿はリーンハルト様と同じバルバドス塾に通ってたわね、最近の実力アップは?」

 

 宮廷魔術師団員のイロモノ、『毒霧』のカームが話し掛けて来た。俺は慎み深い淑女が好みだが見るだけなら大好物だ、薄い衣にキツイ性格は……良いものだ。

 

「俺の新生グレイトホーンの改良のアイディアはリーンハルト殿から教えて貰ったんだ、メディア様のお気に入りでも有るから付き合いには注意してくれ」

 

「もう遅いわ、喧嘩を吹っ掛けてヤル前に負けたから。でも仕方無いと今は思ってる、アレを見て挑む勇気はないわ」

 

 喧嘩って?どんだけ強気なんだ、この女は……こんな女を妻にしたら毎日が罵倒の日々だな、全く羨まけしからんぞ。

 

「セイン殿、久し振りですね。それと……カーム殿も久し振りです」

 

 言い淀んだのは喧嘩を吹っ掛けられた相手だからかな、このイロモノ女の薄着を極力見ない様に注意しているのか、まぁ見たら興奮するからチラ見が基本だ。

 

「ええ、文句無い圧勝でしたな」

 

「本当に宮廷魔術師団員の恥さらしが大量よね」

 

 ああ、自分が罵られている訳ではないが、何て言うかクルものが有るぞ。リーンハルト殿は困った顔だな、男女間の秘め事については未だ子供と言う訳だな、この部分なら勝てる圧勝だな。

 

「所詮は属性の優位さを勘違いしただけで、どの属性が最強とかはないのです。セイン殿、何故息遣いが荒いのです?」

 

 え?ああ、性的興奮ですよ、リーンハルト殿。

 

「いえ、リーンハルト殿の戦いに知らずに興奮してしまったみたいだ」

 

「そうですか?」

 

 凄く疑いを含んだ目で見られたが、俺は男に蔑まれても嬉しくないぞ。それは酷い勘違いだ。

 

「ああ、出来れば火属性魔術師との戦い方をご教授願いたい」

 

 此処はメディア様にも言われているが、先を考えて取り入った方が良いだろう。

 


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