古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第266話

 自由行動二日目、昨夜は冒険者時代にお世話になった友人達を招いて泊まって貰った。

 初めて知り合った冒険者パーティの『静寂の鐘』に冒険者養成学校のOGである『野に咲く薔薇』、エレさんの幼馴染み二人が所属する『マップス』とライラック商会の依頼で知り合ったコレット。

 

 家庭問題で悩んでいたコレットは家臣に迎える事にして『野に咲く薔薇』の三人はお抱え冒険者になってくれた、それが朝食時にバレて残りの二組もお抱え冒険者になってくれた。

 まぁお抱え冒険者と言っても対価を払い優先的に依頼を受けて貰うので普段は自由にして貰う、家臣のコレットは年間金貨五百枚払って色々として貰う。

 勿論、今まで通り冒険者ギルドの依頼をこなして貰いレベルアップに励んで欲しいんだ。

 

 朝食を食べた後は辻馬車を呼んで家まで送らせて貰う、急に出世してしまったが変わらず友好を続けてくれるのは嬉しいし得難い相手だ。

 

「リーンハルト様、騒がしかったですが楽しかったですね」

 

「本当にね、ヒルダさんとポーラさんとの夜更かし恋愛経験話は楽しかったわよ、リプリーちゃんは寝ちゃったけど」

 

 僕はアグリッサさん達と遅くまで武器や防具についての討論会をしていた、一般的なマジックアーマーについてニケさんは詳しいので色々と為にはなったな。

 

「僕も幾つか面白い発想が得られたよ、違う視点からの考え方も有効だな。余裕が出来たら研究したい」

 

 そんな暇が有れば良いなと心の中で続ける、旧コトプス帝国絡みで忙しくなる筈だから良い気分転換になったな。

 

「本当に魔法の事ばかり考えているのですね?」

 

「ジゼル様の話ではエムデン王国の事も考えているって聞いたよ、中々大変なんだって」

 

 ウィンディアの話を聞いて独自のジゼル嬢との連絡手段や伝手が有る事が分かった、それは最近の話題で僕はウィンディアやイルメラには話してない。

 

「宮廷魔術師ともなれば仕事も大変なんだよ、だから二人には癒しを求めるんだ。今日は冒険者ギルド本部とライラック商会に行ってくる、帰って来たら執務室に籠って仕事だな」

 

 仕事と言ってもお祝いの品の処理と手紙書きだけどね、アシュタル達のお蔭で九割は片付いたが二十人位は僕が判断し処理しなければならない。もし来週マグネグロ様に勝つ事が出来たら同じ事を繰り返すのか?

 

「さぁ中に入ろう、出掛ける前に少し話そうか?ヒルダさん達の事も気になるし……」

 

 二人の腰に手を回し屋敷の中に誘導する、来週の事は今は考えずに切り離そう。

 

「私達もアグリッサ様達の事が気になります」

 

「そうだよ、女性三人と個室で盛り上がるって気になって仕方がないよ」

 

 む、身体を寄せて来たと思えば浮気を疑われているのか?僕を見詰める瞳だがイルメラは不安を滲ませ、ウィンディアは悪戯っぽい輝きが有る。

 

「ふむ、イルメラ達の為に錬金した装備品の方が高品質なんだよな……よし、ライラック商会で今風のドレスを買ってあげよう。

但し幾ら今風と言っても胸元が開き過ぎている物は駄目だ、他の男に胸元を見せるなど言語道断だからね」

 

 アーシャとジゼル嬢が新しいドレスを購入したので見に来て欲しいと連絡が有った、だから同じ様にイルメラ達にも今風のドレスを買ってあげよう。

 余り着る機会は無いが屋敷で着ていても良い、要はこれから正装する機会も増えるから慣れて欲しいんだ。

 

 それとヒルデガードさんからも早くアーシャを屋敷に迎えて欲しいとお願いが有った……

 新しく貴族街に屋敷を買ってから招こうと思っているのだが、それでは遅いのだろうな。早く子供を作れって意味も有るのだろう。

 側室でも男子を産めば長男として世継ぎ争いではtopに立てるからな、僕の場合は普通と違って宮廷魔術師としての基盤を受け継ぐなら強い魔力が必要になるだろうけど……

 

 む?そうなるとアーシャやジゼル嬢よりも魔術師のウィンディア、僧侶のイルメラ、魔法戦士のニールとの間に生まれた子供の方が素質の高い魔術師になれるのか?

 イルメラとウィンディアを見る、彼女達を側室に迎えるのは確定だが後見人を設けないと問題になりそうだな……

 孤児のイルメラとデオドラ男爵の家臣だった彼女達の後見人だと、誰か探さないと駄目だな。

 

「私達をジッと見詰めて何か有りましたか?」

 

「浮気なんて絶対にしないから大丈夫だよ」

 

「いや、それは疑ってないんだけどさ。生まれる子供の事を考えていたんだ、相続争いに巻き込まれた時に力になる後見人を探さないとさ」

 

 あれ?二人共に真っ赤になって俯いたけど何か変な発言だったかな?

 

「こっ、子供?赤ちゃん、リーンハルト様と私の赤ちゃん?」

 

「未だ早いと思う、けど欲しい……私達の赤ちゃん」

 

 ヤバい、何かトリップしたみたいに独り言を呟き出した二人を何とか屋敷の中に押し込んだ、サラの私は分かってますから視線が痛かったんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王都冒険者ギルド本部にライラック商会のライラックさんも呼ばれていた、担当のクラークさんの他にオールドマン代表まで待ち構えていたのには驚いた。

 事前にアースドラゴンとワイバーンは折半で話はついていたみたいで揉める事はなかった、明日大々的に発表し半数はオークションに回し半数は解体し素材として売り出す。

 ドラゴン種の骨についてはライラック商会に全て引き渡した、祝い品の返品で世話になっているので御礼を兼ねてだ。

 

 ドレスの見立て迄は一緒だったのだが赤ちゃん発言で微妙な雰囲気になった為にイルメラ達は先に屋敷へと帰した、折角甘い雰囲気になったのだが僕は本当に女性の扱いは初心者だな……

 

「では仮縫いと寸法を合わせたドレスは完成次第、お屋敷の方へ届けさせて頂きます。ですがお嬢様方は先に帰られて良かったのですか?」

 

 僕達の雰囲気で只のパーティメンバーではないと感じたのだろう、呼び方が名前からお嬢様方に変わった。

 お針子さん達に囲まれた仮縫いも終わり応接室に通されて紅茶を振る舞われた、最高級の茶葉だろう。

 最近バルバドス様に影響されてか砂糖を入れる量が増えているな、昔はストレートが好みだったんだが……

 

「お気遣い有難う御座います。ですが大丈夫ですよ、男の衣装合わせで待たせる訳にもいかないですし……」

 

 貴族クラスになると衣装は殆どオーダーメイドだ、デザインの見本を見て生地と色を選び採寸して仕立てて貰う。

 少し安いと既に出来ているドレスを着て寸法を合わせて貰うだけだが、僕は見栄と立場で高い方を買わねばならないのだ、いやらしい。

 ライラック商会からは情報は漏れないが見る人が見ればオーダーメイドじゃないと分かるらしい。

 そして僕の貴族服も複数新調する事にした、王族主宰の舞踏会や上級貴族の舞踏会やお茶会、サロンに誘われているのに同じ服で行くのは駄目だそうだ。

 爵位は新貴族男爵位だが役職は宮廷魔術師第六席なのだ、安い服は駄目だとライラック商会の衣装と装飾担当者が付きっ切りで色々と面倒を見てくれたので全て任せたが半日掛かった。

 イルメラ達のドレスと合わせて金貨二千枚を越えるが必要経費と割り切る、どうせ来週以降は面倒事が満載で暇も無くなるから丁度良いだろう。

 

「流石は私が見込んだ魔術師殿ですが、まさか二ヶ月で宮廷魔術師第六席まで出世するとは予想以上ですな。

しかも利益が半端無いのですよ、リーンハルト様の事は全力でお力添えしますので御用商人の件は公式にお願い致します」

 

 大量のドラゴンとワイバーン、素材に加工し転売すれば利益は何倍にもなるし独占に近いから価格設定は自由、稀少品だから文句も出ないか……

 

「ええ、構いません。これからも宜しくお願いします、ですがエルナ様絡みでベルニー商会とモード商会には配慮しなければならないのです」

 

 元々エルナ嬢は僕の側室候補としてルカ嬢とマーガレット嬢を引き合わせた、今は出世して釣り合いが取れなくなったのでインゴにと考えているけれど難しいだろう。

 だが声掛けをしたエルナ嬢の立場も有る、知らぬ存ぜぬは不義理だからな。だがライラックさんの顔は渋いぞ。

 

「問題が有りますか?」

 

「規模的には中堅の商会ですが私達とは商売上の付き合いが殆ど無いのです、向こうは海運業の伝手も有るのでリーンハルト様には利点は有りますね。

一度顔合わせの場所をセッティングして貰って宜しいでしょうか?」

 

 商人として色々と派閥や柵(しがらみ)が有りそうだな、ライラックさんも善人と言う訳ではない。利害が一致しているから色々と手助けをしてくれるんだ。

 だから僕が他の商会と接触するのを嫌がる、当然だから配慮が必要だ。

 

「ライラックさん程は融通しませんよ、元々はエルナ様が彼等の娘を僕の側室候補として引き合わせたのですが……

ほら、出世し過ぎたので釣り合いが取れないので御破算になったのです。今は弟のインゴと何とかしようと動いてますから」

 

 嘘を言っても隠し事をしても意味が無いから正直に教える、だが一度縁を結んだ相手だけに無下にはしたくないんだ。

 ルカ嬢もマーガレット嬢も悪い娘じゃないし、もしもインゴと結ばれれば実家の商会にもある程度の配慮は必要なのだが……望みは薄そうだな。

 

「なる程、アシュタル様もナナル様も元々はリーンハルト様の側室候補と聞いていますが家臣として雇われたとか……確かに商才も有り有能ですので手強い相手になりましたよ」

 

「余り買い叩かない様に言っておきます」

 

 苦笑いを浮かべる、自分で才媛で商才が有ると言い切ったお嬢様方だからな、ライラックさんとも交渉したのだろう。

 

「お願い致します、勿論私達も利益ギリギリで提供致しますので」

 

 お互いに苦笑いだが、ライラックさんは買い取った商品の転売で利益を出すつもりだな、僕には安く物を売り適正価格で買い取り高く転売し利益を得るのか。

 だから珍しい品々を沢山提供するか定期的に錬金した武具や防具を卸すかな、どちらが良いのだろうか?

 

「最後に一つ報告ですが……マテリアル商会も接触して来ました。『ブレイクフリー』のメンバーであるエレさんの母親であるメノウさんを妾として囲っていたのです」

 

「それは……ああ、確かに一時期噂になってましたな。黒髪の美女と鑑定スキル持ちの連れ子の事は。マテリアル商会は現会長が高齢で相続争いで揉めていますし私達とは商売敵の関係です」

 

 鑑定スキル持ちだと?エレさんの事だが噂になる程だったのか、知り合いや周りが相続問題で揉め過ぎだぞ。

 

「パーティメンバーの母親の元旦那ですが特に配慮はしません、エレさんも嫌いみたいですから……」

 

 彼女の人見知りと軽い男性恐怖症の原因みたいだからな、自分と母親を捨てた相手と思ってるそうだし。

 

「マテリアル商会の会長の後継者候補は二人、実子の長男と長女ですが互いに争ってますよ。長男は有能ですが長女の旦那も有能みたいでどちらが有利か私達でも分からないのです」

 

「距離を置きますから大丈夫ですよ、ではそろそろ帰ります。仕事が溜まってるんです」

 

 色々と新しい情報が得られたが今直ぐ何とかって話ではない、今は放置でも良いだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二日目は雑務で終わりそうだ、ライラック商会の本店から帰る為に馬車を用意して貰った、僕のはイルメラ達を帰すのに使ったから。

 店の裏の馬車停めは上級貴族専用で家屋から乗り込める屋根付きであり此処に馬車を停めれるのは伯爵以上らしい、他にも子爵と男爵、爵位無し貴族と分けられている。

 僕も冒険者時代は爵位無し貴族の場所だった、これは差別ではなく身分の違い過ぎる客が鉢合わせしない為の措置だ。

 上級貴族とバッタリなど下級貴族からすれば半分以上は避けたいだろう、僕なら柵(しがらみ)が面倒臭いから嫌だ。

 

「これはこれは、今をときめく宮廷魔術師第六席、『ゴーレムマスター』のリーンハルト卿ですわね?」

 

 やたら豪華な馬車から護衛付きで降りてきた中年女性、身分の高い貴族の奥様だろうか?名前を聞かないと対処出来ないのが辛いな。

 


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