古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第271話

 自分が過去に錬金した作品と三百年ぶりに出会えた、転生前、ルトライン帝国と同盟を締結する為に放浪の民であるジプシーの王に贈った十本のナンバーズワンド。

 王の側近十人の為に設(しつら)えたこのワンドは、『ワンドのエース』を筆頭にワンドの10まで作った。

 

 エースが想像を超える力、つまり錬金術を指し、2が財産で3が交易、4が急速で5が競争、6が勝利で7が勇気、8が素早さで9が警戒、最後の10が抑圧だ。

 占いを重要視する彼等が好んで使うカードに因んで命名したのだが、性能は十本全て同じ効果で携帯する武器として作ったんだよな、今思い出したよ。

 

「リーンハルト様、それは……何故、既に魔力が枯渇し機能の停止したワンドが形を変えたのですか?」

 

 只の古い壊れたワンドが槍みたいに伸びて先端から魔力の刃を発生させている、元持ち主としては驚いただろう。

 

「何故、でしょうね?」

 

 僕の手には60cm程だったワンドが150cm程伸びて先端部分に魔力が集まり刃を形成している。そうだった、このナンバーズワンドは魔力を込める事により鎌に変形する機能を持たせたんだ。

 

「デスサイズ、死神の鎌と呼ばれる伝説上の魔力刃を形成する武器ですわよね?」

 

 呆然としてしまったが、エロール嬢の解説に意識が戻り魔力供給を止める、そうするとワンドの5が縮んで待機形状に戻った。

 

「えっと、その……こ、古代の武器って素晴らしいですね」

 

 誤魔化すが誤魔化し切れてない、アーシャは単純に驚いている。でも僕が古代の知識を知っている事を見破ったジゼル嬢は左手でコメカミを揉んでいる。

 エロール嬢は目がキラキラと輝きワンドを凝視している、武器大好きなバーナム伯爵の派閥構成員らしいな。

 

「リーンハルト様、もう一度、もう一度お願いします。変形し魔力を刃として実体化するなど文献でしか読んだ事がありません!」

 

 興奮するエロール嬢の声に周りに人が集まって来てしまった、武器大好きな連中の前で迂闊にもマジックウェポンを起動させてしまったんだ。

 

「あははは、その……偶然にですね。壊れる可能性も有るので少し調べさせて下さい」

 

 無闇にこのワンドを見せるのは危険だ、壊れて使えないと思っていたワンドが使えるとなれば、バーナム伯爵も僕にくれるとは限らない。

 くれなくても作り方は思い出したから同じ物は時間と費用が有れば作れる、だが他の魔術師が調べても直ぐには解析出来ない物を簡単に起動させた事が広まるのが不味い。

 僕以外では解析し機能を書き換えないと使えない、起動したのはあくまでも制作者として登録してあるからで、知識の無い他の魔術師では直ぐには無理だろう。

 それこそ何年か研究し機能を把握して再現出来ないと難しい……

 

「流石は土属性魔術師の最高峰、宮廷魔術師第六席のリーンハルト様ですわね。今まで誰も分からなかったワンドを起動させたのです、エムデン王国には他にも何本か所有している方々が居るのです。

それらも調べられる様に交渉しましょう、只のコレクションが実用出来るとなれば交渉は可能です。私も手伝いますから……」

 

 夢が広がったんだろうな、有る意味別の次元に意識が飛んでしまったエロール嬢を見て思う、僕も興奮して熟考してる時は同じなんだろう。

 

「魔術師の性(さが)か……エロール様、落ち着きましょう。先ずは慎重に調べないと何とも言えないのです、貴重な古代魔法を紐解く資料にもなりますから迂闊な事は出来ませんよ」

 

 自分の迂闊さが原因だが色々と追及されるのは困る、来週落ち着いたら解析して幾つかの技術は魔術師ギルドに教えても良いかな。

 興奮するエロール嬢にワインを勧めて軽食を取ってくる様にメイドさんに頼んだ、軽く時事ネタを挟んだ会話で話を反らす事にする。

 もっともジゼル嬢は僕の思惑を理解し溜め息を吐きながら話題を振ってくれる、アーシャは単純に尊敬の視線を送ってくれる。

 両極端な姉妹だが、どちらも大切な女性なんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昼前から始まった僕の御披露目と秘蔵のワンドの授与は至極簡単に終わって、後は派閥を構成する貴族達との懇親会に変わってしまった。

 メインの筈の舞踏会は午後三時からなので今は武闘会の真っ最中、腕に覚えの有る若手貴族達が練兵場で己の武を競い合っている。

 

 もう何組目か忘れたが同じ派閥の貴族の父娘と挨拶を交わし少し会話をしてから別れるを繰り返す、玉虫色の回答で変な約束はしてないがお茶会や食事に招待が多い。

 

「殆ど全員が年頃の娘を連れて来てますわね、実子は勿論ですが親戚から養子まで形振り構わずです」

 

「それだけ旦那様が人気者なのですわ、少し妬けます」

 

「有力な親族が居ない有能な人材、我が子を押し込めば色々と有利になりますからね。彼等とて自分の家の存続が最重要なのですから」

 

 上からエロール嬢、アーシャにジゼル嬢だ、確かに親戚の殆ど居ない今なら食い込めるよな、娘一人嫁がせればOKだからローリスク・ハイリターンだ。

 そして綺麗どころを独り占めしてるので若手男子貴族からの嫉妬の視線が酷いな、アーシャの誕生日パーティーでキラルク殿・アメン殿・バスケス殿の三人を倒し、今派閥の長であるバーナム伯爵と引き分けたのに敵意剥き出しかよ。

 多分だが未だに婚約者の居ない派閥の長の養女であるエロール嬢目当てだろう、彼女と結婚出来ればバーナム伯爵家と親戚関係という太い繋がりが生まれるから……

 

「だがガス抜きが必要だな、鍛え抜かれた脳筋達は思考回路が常人とは違うんだよな」

 

 勝てる勝てないじゃない、自分の思いを押し通す為に戦いを挑む、単純なだけに誤魔化しが利かない。

 漸く挨拶攻勢が終わりテーブルに座れたのは良いが、周りが聞き耳を立てて様子を伺ってるので落ち着かない。

 

「ガス抜きですか?確かに立場も実力も上なのに気に入らないと考えている若い貴族の子弟が数人居ますわね。リーンハルト様は彼等をどうかするのですか?」

 

 流石に良く見ているしギフトである『人物鑑定』と合わせて判断しているのだろう、そしてその思いが酷いのが数人って事かな。

 ワイングラスが空になると直ぐにメイドさん達が入れ代わり立ち代わりで新しいワインを注いでくれるのは、僕が酒豪でバーナム伯爵達を飲み負かしたのを知っているんだ。

 

「余りお酒は召されない方が宜しいですわ、夜は長いのですよ」

 

 アーシャもイルメラに似てきた、僕の身体や健康について色々と気にしてくれるのは嬉しいが過保護気味なんだよな。

 

「勿論です、美女三人と同席して飲み過ぎなど愚かな事はしませんよ。多分ですが今夜もバーナム伯爵から飲み比べの申し込みが来るでしょう、だから控えてます」

 

 勿論負けませんがね、と笑っておどけてみせる。だが水属性魔法によるズルなんだよな、いや魔法も僕の力だから大丈夫なはずだ?

 

 間が持たない為に早いピッチで飲んでいるが魔法で体内のアルコール分は除去出来るので大丈夫だ、副作用はトイレが近くなるだけだし……

 一応今回の主賓の為にメイドさん達も良く注意してくれているので、新しい料理を運んでくれるし手付かずの冷めた料理は回収してくれる。

 僕も少食の類いなので女性陣を含めて料理は殆ど手付かずだが、ワインだけは既にボトル二本分は空けている。

 

「あら?それは私も大切な女性の括りで宜しいのですね?」

 

 悪戯っ子みたいな顔で僕を見ているが半分以上は冗談と気遣いだろう、同じ事を言うのは二回目だし。彼女の嫁ぎ先は義父たるバーナム伯爵の意向で決まる。

 僕が宮廷魔術師第二席になったら、もう国家の思惑絡みの相手ばかりになるだろうな……

 

「エロール様はアーシャの大切な友人ですからね、その意味での大切な括りです。色恋沙汰は全く有りませんので安心して下さい」

 

 きっぱりと否定してから手に持ったワインを煽る、赤ワインが渋く感じるのも銘柄や味覚の為だけではないだろう。

 分かりやすく頬を膨らませて拗ねる彼女を見て思う、自分の嫁ぎ先が気になっていて義父の為に最大限効果の高い相手を探しているのだろう、義理堅い娘さんだな。

 

「さて、他の方の模擬戦も一段落しましたね。そろそろ僕も二回戦と行きますか」

 

 わざとらしくテーブルから立ち上がると一番早く反応したのはバーナム伯爵とデオドラ男爵だった、貴方達では有りません、不満を抱えた若手貴族の男達の事です!

 

「誰か、我こそはと思う人達は居ませんか?十人まで同時にお相手致しましょう」

 

 挑発とも取れる言葉に逸早く反応したのは目を付けていたグループだ、ヒソヒソと話し合っているが名乗りをあげないな。

 他の連中も困惑気味だ、もしかして外したかな?それなら恥ずかしいぞ。

 

「我こそはと思う戦士は居ないのですか?」

 

 駄目だ、完全に沈黙してしまった。どうした、文句の在りそうな若手貴族の為に募集しているのに反応無しは辛いな、まるで僕が空気が読めないみたいだ。

 

「フハハハハ!そうか、候補者は無しか?」

 

「全く口先だけかよ、威勢が良い奴は皆無とは情けないな」

 

 俯く若手貴族の中から候補者が名乗りを上げるかと思えば全く居ない、椅子から立ち上がったのはバーナム伯爵とデオドラ男爵の二人だけだ。

 おぃおぃ、他に候補者は居ないのか?本当に居ないの?このままじゃ派閥の長とNo.3と模擬戦になってしまうぞ。

 

 駄目だな、二人が周りを睨み付けて立候補者が出ない様に威嚇している、ガス抜きは失敗だ……

 

「では、デオドラ男爵に勝負を申し込みます。バーナム伯爵とは最初に戦ってますから連戦は駄目でしょう」

 

「ふざけんな!俺が、俺が戦いたいんだ!」

 

「良かろう、受けて立つぞ!バーナム伯爵、諦めろ。アイツは頑固だから言い出したら聞かない」

 

 ああ、派閥上位陣と連戦になるとは誤算だな。しかし今更後には引けないだろう、若手貴族達め、恨めしそうに見てるなら挑んで来いよな。

 八つ当たりな感じに僕を睨んでいた連中に睨み返す、僕の視線を追って周りの連中も彼等を見て納得したみたいだ。

 

『ゴーレムマスター殿は若手の不満を解消する為に挑戦者を募ったのか?』

 

『それに真っ先に食い付いたのがあの二人ですか、有る意味納得ですが空気を読むべきでしたな』

 

『まぁ反抗的な態度なのに、勝負を挑まれたら逃げるなど……』

 

『武人として恥ずかしいですな』

 

 ふむ、ヒソヒソ話だが十分に聞こえるぞ。脳筋連中だけかと思ったが流石はバーナム伯爵の派閥に居る貴族だけの事は有る、バーナム伯爵の事を良く理解してるし状況の把握も出来ている。

 脳筋の武闘派だけでは成り立たないのが貴族の派閥だ、僕に反発するのは一部だけで他は派閥への貢献を期待し取り入ろうとしている。

 

「食えない連中だな、貴族の柵(しがらみ)って本当に大変だ……さて、デオドラ男爵。場所を移しましょう」

 

「おうよ!早く練兵場に行こうぜ、腕が鳴るぜ」

 

 不貞腐れてワインをガブ飲みし始めたバーナム伯爵の回りにも何人か集まりだした、色々と大変だな。

 デオドラ男爵の周りのにも人々が集まり共に練兵場へと向かっている。

 

「予定が狂いましたわね、まさか尻込みするとは……」

 

「あの若手の集まりは父親がバーナム伯爵に認められて派閥に加入しているのです、本人達はバーナム伯爵達と模擬戦もしていません。勿論、この派閥に居るので武力は人並み以上とは思いますが……」

 

「旦那様、余り無茶は止めて下さい。私は心配です」

 

 呆れ、状況説明、心配と三者三様のお言葉を貰った、確かに普通は親が入っている派閥に子供も自動参加だよな。

 独立して他の派閥に入り直すとかは良く聞くが彼等の場合も同じ、だがバーナム伯爵の派閥に思い入れは少なそうだ。

 

「元々派閥のTOP3とは戦うと思っていたからね、残りのライル団長は仕事の関係で夕方からだろ?

それにデオドラ男爵とは何度も模擬戦を行っている、お互いの手の内は知っているから最悪の大事にはならないさ」

 

 涙ぐむアーシャの為にハンカチを取り出して目元を押さえる、周りの淑女達から黄色い声が上がる、正直やり辛い。

 

「大丈夫ですよ、全力でぶつかって引き分けを狙いますから」

 

 負けられない、でも勝つのも問題だ。全く少しは自重して欲しいと思うのは我が儘だろうか?

 




気が付けば通算UAが300万を超えて検索1位になってました、教えて貰ったので実際は一昨日辺りかららしいですが……
感謝を込めて今週一杯は連続投稿頑張ります、評価してくれた方も随分と増えているので合わせてお礼を言わせて頂きます。
今後とも宜しくお願いします。

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