古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第272話

 超脳筋戦闘集団、バーナム伯爵の屋敷に招かれた。僕の顔見せの筈だがなし崩し的に武闘会へと変わって上位陣との模擬戦となってしまった。

 派閥の長、バーナム伯爵とは引き分け。今度はNo.3のデオドラ男爵と練兵場で向かい合っている、凄い欲望丸出しのギラギラした目で僕を見詰めないで欲しい。

 

「クハッ、楽しいな、リーンハルト殿。まさか今日も模擬戦が出来るとは腑抜け共に感謝せねばなるまい」

 

 既に興奮して目はギラギラしてるし口元は吊り上がっている、右手には抜き身のロングソードを持ってダラリと下げている。

 あのロングソードは確か前に模擬戦でボッカ殿が持っていた『風切り羽根』だったっけ?

 使用者の敏捷性をUPする効果が有った筈だ、つまり今回は機動戦を仕掛けて来るのか?

 

 僕の装備はヴァン殿とレティシアから貰った『剛力の腕輪』と『疾風の腕輪』に貴族服に着替えてローブを羽織っている、一応宮廷魔術師就任と席次UPの祝いも含まれているし舞踏会に備えて着替えた。

 戦わないアピールで着替えたのだが、そんなの関係無い流れで泣けてくる。

 

 手には既にカッカラを持っている、デオドラ男爵との距離は20mだが彼の瞬発力なら一瞬で詰められる距離だ。

 

「お二方の威圧感に耐えられる若手など居ないでしょう、僕だって貴方達と対峙するのには勇気が必要です」

 

 僕等の会話を興味深そうに聞く観客達、余り派閥上位陣を軽く見る様な事はしないアピールも必要だ。派閥等の集団行動の時は『出る杭は連携し全力で叩く』のが普通なんだ。

 

「自分を知る事は難しいと言うが、リーンハルト殿が俺の前に立つのに勇気が必要とは言うではないか?全長15mものツインドラゴンを何匹も一人で倒せるお前が俺が怖いだと?クハッ、クハハ、そうか怖いか?」

 

 はい、不気味な笑い声を上げる義父たる貴方が本当に怖いです。チラリと審判役を見ると同じ様に震えている。

 

「ルールは同じ、大怪我を負わせない、参ったで終了、十分経ったら引き分け、宜しいですね?」

 

「ああ、良いぜ。お前の本気を出させてやるぜ」

 

 ダラリと下げたロングソードを僕に突き付ける、どうやらゴーレムルークの数が少なかったのが我慢出来なかったらしい、意外と子供っぽいんだな。

 

「何時でも本気ですよ、節度を持って冷静に理性的に挑んでいます。それが魔術師の戦いなのです」

 

 此方もカッカラを頭上で一回転させて、デオドラ男爵に向けて降り下ろす。シャラシャラと宝環が澄んだ音を奏でる。

 

「行くぞ!」

 

「行きます!」

 

 デオドラ男爵がロングソードを上段に構える、振り下ろしての衝撃波攻撃だな。

 

「大地より生まれし断罪の刃よ、山嵐!」

 

「斬撃波疾走!」

 

 デオドラ男爵を中心に全方位から生える鋼の刃から直上に飛び上がり山嵐を避けてロングソードを降り下ろす。

 高さ5mから繰り出される真空の刃の軌道は単純だが威力が半端無い、だが撃ち下ろしなので観客席に被害は無い。バーナム伯爵とは同じ轍は踏まないってか!

 

 山嵐で生やした鋼の刃を操作して滞空しているデオドラ男爵に向けて伸ばす、二度目の攻撃は効かないだろう。

 

「魔法障壁全開!」

 

 今回は真っ向勝負でなく魔法障壁を斜めにして攻撃を流す事によりダメージを軽減、数歩前に動きカッカラを突き出す様に構える。

 

「アイアンランス、乱れ撃ち!」

 

 カッカラの先端に円を描く様にアイアンランスを錬成し連射する、先端は丸めたが速度と数は手加減無しだ。

 

「これだ、これを待っていた。死角から伸びる鋼の蔦と遠慮なく撃ち込まれる鋼の刃、威力も速度も申し分無いぞ」

 

 一秒間に三発は撃ち込んでいるのにロングソードで弾いたり体捌きで避けるのかよ、足場の無い空中で身体を捻り避けるって化け物だな。

 山嵐の変形魔法、鋼の蔦の変則的な動きにも全く動じないけどさ……

 

「着地した瞬間なら僅かに動きが止まるだろ!」

 

 デオドラ男爵が自分の着地点に衝撃波を飛ばし鋼の蔦を切り刻む、だが5mの高さから落ちるんだ、膝を曲げて衝撃を吸収するだろう。

 

「クリエイトゴーレム、抑え込め、円殺陣」

 

 着地点の周囲に三十体のゴーレムナイトを召喚、全てロングボゥを装備させている。目標に向けて矢をつがえて引き絞る、撃ち込むタイミングは着地した瞬間だ。

 

「射て!」

 

 着地して膝を曲げて衝撃を吸収した瞬間に矢を放つ、先端は玉状にしたが合計三十本の一斉射撃なら数本は当たるだろ……え?

 

「未だ甘いぞ!」

 

 山嵐の刃の蔦を掴んで鞭の様に振り回し放たれた矢を全て弾いた、この人無茶苦茶だ。

 

 弾かれた矢ではゴーレムナイトに傷は付けられない、武器を投網に変えて拘束する為に放つ。

 扇形に広がる投網には流石のデオドラ男爵も方位の一角に突撃して円殺陣から逃げ出そうとするが、二重の包囲は伊達じゃない。

 武器を打撃武器のメイスに切り替える、振り下ろしや水平に薙いだり攻撃パターンを変えて撹乱するもロングソードの一振りで真っ二つにされた。

 

「刀身に闘気を纏わせているとでも言うのか?」

 

 円殺陣を三重に変える、内側は接近戦、中側は内側を足場に飛び掛かり頭上から攻める、外側は弓矢を射掛けて牽制する、更に山嵐がデオドラ男爵の足元を撹乱する事で四種類の攻撃パターンで攻める。

 

 予想はしていたが何とか凌いでいる、素晴らしい技量と反応速度だな、浅い傷は何ヵ所か有るがそれだけだ。

 時間は後二分と少し、この戦い方は中弛みして良くないな、何よりデオドラ男爵が不機嫌そうだ。致命傷は与えられず時間稼ぎにしかなってない、これでは周りも納得しないだろう。

 

「ゴーレムナイトよ、魔素に還れ」

 

 一瞬で三十体のゴーレムナイトが光の粒子に変わり、風に乗り空中に溶け込んで消える、ある意味幻想的な雰囲気になる。

 

 肩で息をするデオドラ男爵を見てストレスが溜まってしまったなと反省する、アレは発散させないと大変だ。

 

「どうした?あんな攻撃じゃ時間稼ぎにしかならんぞ」

 

 やはりお怒りだな、目が血走って怖い。観客席の淑女達から悲鳴が上がる。

 

「全くその通りでお恥ずかしい限り、折角の模擬戦が時間切れでは観客の方々に申し訳ないですね。なので一騎討ちで雌雄を決しましょう……ゴーレムビショップよ、お前に任せるぞ」

 

 ゴーレムナイトの上位種であるゴーレムビショップの初御披露目だ、全長2.5mの中型ゴーレムだが6mの大型ゴーレムルークよりも制御ラインを多くしている。

 戦士職に換算するとレベル60以上、パワーもスピードもゴーレムナイトの五割増しの単体最強ゴーレム、それがゴーレムビショップだ。

 

「ほぅ?中々の迫力だな、しかもナイトよりも強そうだな。良いぞ、こういう戦いを待ってたんだ!」

 

 ゴーレムビショップのメイン武器はハルバード、槍と斧を合わせた突くと叩き切るの両方の攻撃が出来る。

 鎧兜の形状はルトライン帝国の近衛騎士団と同じ、胸の紋章は僕の家紋と同じで特徴は額から突き出た角だ。

 これは隠し武器でランダム錬金毒が仕込んで有るし両手の指先にも毒を仕込んで有り、対象を握ると最大十種類の毒を与える事が出来る。

 勿論だが今回は毒は使わない、単純に基本スペック頼りの戦いをするつもりだ。

 

 相対する距離は15m、この間合いは双方共に攻撃範囲だろう。

 

「先手必勝。行くぞ、刺突三連撃!」

 

 爆発的な加速で真っ直ぐにデオドラ男爵へと突っ込む、ゴーレムビショップは中型だがスピード特化型の攻撃重視だ。

 

「中々のスピードだが、その技は何度か見せて貰った。カルナック剣闘技の秘技に酷似しているな!」

 

 スピードに体重を乗せた素早く重い一撃、いや三撃を繰り出す、手加減ではないが急所を避けた両肩と右太股を狙う。

 だがデオドラ男爵は身体を左右に振って肩の攻撃をかわし、右太股への突きは繰り出したハルバードを踏みつける事で凌いだ。

 一瞬の攻防でハルバードを抑えられた事を悟ると手を放して抜き手でデオドラ男爵の胸元を狙う。

 

「よくやる、よく制御が追い付くな!」

 

 ロングソードの刀身で抜き手を防ぐ、甲高い音と共に右手の中指と薬指が曲がるがお構い無しに膝で蹴り上げる!

 

「甘いぞ、接近戦は俺の得意の距離だ」

 

 膝蹴りを同じく膝でブロック、片足だけでは力が入らず仕方無く真後ろに跳び下がる。だがデオドラ男爵が逃がさないと踏み込んで来た。

 

「偽刺突三連撃!」

 

 ロングソードで見よう見まねで技を真似て来た、ゴーレムビショップの喉元・心臓・臍の辺りを正確に突くが防御力を増しているので貫かれる事は免れた。

 激しい金属音がしたが、逆に突かれて押し出される形で距離を稼げた、そのまま補修をしてロングソードを構える。

 

「ふむ、殆どダメージ無しか。ゴーレムナイトよりも格段に強いな」

 

「はい、現状の単騎制御の中では一番の戦力です。ですが、もう……」

 

「そうだな、時間切れだな。残念だが勝負は引き分けで良いぞ、俺も前半は苛ついたが後半は楽しめた」

 

 互いに姿勢を正して一礼すると観客席から拍手が巻き起こる、これで後はライル団長だけだが絶対に模擬戦しろって迫るだろうな。

 

 カッカラを空間創造に収納して特別席の方へ目を向ける、どうやらジゼル嬢達の周りに来客の淑女達が集まっている。

 困り顔のアーシャとエロール嬢、澄まし顔のジゼル嬢を見れば色々なお誘いを受けているとみた。

彼女達に軽く手を振ってからデオドラ男爵の方に向かう、どうやらバーナム伯爵と共に飲もうって流れか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「先ずは乾杯だ、俺とデオドラ男爵と引き分けた事に対してな」

 

「全く時間制限は止めないか?折角の盛り上がりに水を差すだろ?」

 

「あくまでも模擬戦ですからルールは必要です、時間制限無しでは絶対に周りに被害が出ますよ」

 

 前回のリベンジだと意気込む二人とワイングラスを合わせる、飲み比べは二連勝中なんだ。

 

 円卓に三人で座る、さり気なく周りには派閥の上位陣らしき壮年の連中が集まり耳を傾けている。

 更に近くに若いメイドさんが二人控えている、摘まめる料理は無しで氷を入れたワインクーラーに入った赤ワインのフルボトルだけが置いてある。

 銘柄は……アリアンス?高級品には違いないな、オークの香りとカシスプラムの風味が効いた飲みやすいワインだ。

 

「先ずは派閥加入を認めて貰い有り難う御座います、今後も精進しますので宜しくお願い致します」

 

 深く頭を下げる、来週頭に宮廷魔術師として精進する為に第二席のマグネグロ様に勝負を挑みます。

 

「ん?ああ、俺達こそ頼むぞ。お前は俺の派閥のNo.4だ、王宮での順位は俺達の中ではお前がNo.1だけどな」

 

「そうだな、爵位だって宮廷魔術師のお前は伯爵扱いだから俺と変わらない。参ったな、トータルでお前が一番偉い事になるぞ」

 

 早いペースでワインを飲んでいる、既にフルボトルを一本空けているが未だ全員平気だな。てかワイングラスが空になると直ぐにメイドさんが注いでくれる、知らない内に僕の真横に居るのだが普通は主の側に居るだろ?

 

「この派閥は特殊ですから王宮の序列など関係無いと思います」

 

 普通は爵位の高い者を頂点に派閥を形成するが、此処は一番強い者が派閥の頂点なんだ。戦ったから分かる、バーナム伯爵は未だ本気を出していない余力が有る。

 悔しいが今の僕では出し惜しみ無く全力で向かっても勝てないだろうな……

 

「何だよ、恨めしそうに見詰めんな」

 

「いえ、手加減されても引き分けなのかと思いまして」

 

 周りの連中も頷いている、改めて派閥の長の強さを認識してるのだろう、接戦の引き分けは手加減していたんだなと……

 

「そういう気遣いは要らないぞ、俺達だって殆ど本気だった。周りが見えない位に興奮したしな、またヤろうぜ!」

 

 やろうの発音が変じゃなかったか?何とか愛想笑いをしてワインを空ける、いや直ぐに注がなくても大丈夫ですよ。

 

「そのメイド二人だが俺の親族の娘だ、花嫁修業の一環でウチに置いているんだが……そうだ、お前が面倒を見てくれよ」

 

 つまり屋敷に派閥の長の息の掛かったメイドを雇うのか?

 

「特に人手が足りない訳でもないですから、折角の御厚意ですが断らせて頂きます」

 

 失礼の無い様に深く頭を下げる、自宅でまで防諜対策に頭を悩ませたくないから。

 

「だとよ。ルーシュ、ソレッタ、振られたな」

 

「はい、本当に悲しいですわ」

 

「全くです、私達を見ずに即答って酷過ぎませんか?」

 

 女性二人に凄く悲しそうな顔をされたが、ストレスで胃に穴が開きそうだ。

 


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