古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第279話

 

 エムデン王国アウレール王が非常召集を掛けた、参加メンバーは国政を担う重鎮達だ。

 先ずは公爵五家、上位からニーレンス公爵、バニシード公爵、バセット公爵、ローラン公爵、ザスキア公爵、最後のザスキア公爵は唯一の女性当主だ。

 勢力順位の変動が有り色々変わったが、概ねこの順位で落ち着いたらしい。

 

 次に侯爵七家、上位からアヒム侯爵、ラデンブルグ侯爵、モリエスティ侯爵、クリストハルト侯爵、エルマー侯爵、グンター侯爵、カルステン侯爵で何気にモリエスティ侯爵が三位に収まっている。

 此方の順位は勢力比べではなく格式が重んじられる、公爵五家よりも古い血筋の家も有るそうだ。

 

 最後は宮廷魔術師だが、筆頭サリアリス様、第二席が僕、第三席ラミュール様、第四席ユリエル様、第五席アンドレアル様、第六席空位、第七席リッパー殿、第八席から第十席まで空位。

 第十一席ビアレス殿、第十二席フレイナル殿。上位三席迄は侯爵と同列、此方は格式よりも純粋な戦闘力により順位が変わる。

 

 それと近衛騎士団エルムント団長に聖騎士団ライル団長、常備三軍(歩兵・騎兵・弓兵)の将軍職としてコンラート将軍、アロイス将軍、マリオン将軍も呼ばれている。

 マリオン将軍は珍しい女性の将軍だ、家督を継ぎ実績を積み重ねて昇進した苦労人でも有るらしい。

 

 近衛騎士団は約百人、聖騎士団は三百人、常備軍は各三千人を動員出来る。

 これは常設軍としての戦力数なので補給部隊等は含まない、後は各貴族の私兵軍や国民の動員兵が有りエムデン王国は前の大戦で八万人近い兵力が有ったが今は六万人前後。

 国民から徴兵すれば三倍以上にはなるが、そんな事をすれば国が成り立たなくなる、あくまでも国の機能を維持し戦う人数だ。

 

 このメンバーが一同に会する事は五年以上無かったそうだ、今回は仇敵である旧コトプス帝国の残党と戦う為に集められたと思う、つまり戦争だな。

 急な宮廷魔術師の席次変更とマグネグロ様の死亡により多少の混乱は有ったが、僕は第二席として認められて筆頭であるサリアリス様の隣の席に座っている。

 上座から公爵五人、次に侯爵七人、宮廷魔術師八人、騎士団二人に将軍三人の順に並んで座る。

 

「謁見の間じゃなくて、更に奥の謁見室に通されるのは初めてです」

 

 謁見の間はそれなりの人でもアウレール王に会えるがお言葉を貰えるだけだ、距離も有るし護衛も沢山居る。謁見室は更に上位者でないと会えないより近い場所でアウレール王と話し合える場所だ。

 

「じゃが落ち着いておるな、変に萎縮しないのは良いが肝が据わり過ぎじゃぞ」

 

 合計二十五人が座っても余る長いテーブルには紅茶が用意されていて王族付きの上級侍女達が甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

 しかし周りからは値踏みを含んだ視線が突き刺さるな、比較的友好的なのはニーレンス公爵とローラン公爵、モリエスティ侯爵とラデンブルグ侯爵、微妙なのがバセット公爵かな。

 分かり易い敵意剥き出しなのはバニシード公爵、彼はマグネグロ様と比較的友好的だった、縁有る宮廷魔術師が退場すれば恨みもするか……

 

「我が子達から聞いてはいるがリーンハルト卿は素晴らしい魔術師ですな、定説では四大属性の内で一番弱いと言われている土属性魔術師なのに四大属性最強の火属性魔術師に勝つとは大したものだ」

 

 笑顔で話し掛けてくれた、しかも僕とレディセンス様とメディア嬢の仲が良いと遠回しに周りに言ったんだ。

 

「そうですな、我が跡取り息子の恩人の可能性は早くから信じていたが、宮廷魔術師に就任して十日と経たずに第二席になるとは感動すら覚えたぞ」

 

 豪快に笑って自分の息子のヘリウス様とも縁が有るんだ的に話を放り込んで来た、公爵二家の言葉に他の参加者が色々な表情をした。敵意の方が多い、出る杭は集団で連携して打たれるかもな……

 

「我が妻との繋がりでリーンハルト卿とは先日サロンで会ったが、珍しく妻が絶賛していたぞ。今度は屋敷の方に招待しよう、是非とも来てくれ」

 

 マダム、旦那にギフトでどんな命令をしたんですか?友好的なのは嬉しいのですがモリエスティ侯爵夫人のサロンに呼ばれる意味は重いのですよ。

 

「我が領地で奴等の汚い策略によりオーク共が異常繁殖した時に、数百匹のオークにトロールやワイバーンを単独で倒したのだからな。私はリーンハルト卿が今の地位に居ても驚かないな」

 

 ラデンブルグ侯爵、その情報は一応秘密の筈です。やはり予測通りに詳細まで調べられていたんだな。

 

「ふん、所詮は戦うしか能が無い弱小派閥に居るだけの事は有るな。次は筆頭殿に噛み付くのか?」

 

 もう我慢出来ないって感じで、バニシード公爵から敵意を含んだ言葉を貰った、嫌いな事は隠さないって事だな。何人かが頷いた、名前は知らないが顔は覚えた。彼等は敵対派閥と思って良いだろう。

 

「僕は魔術師、国家に仕える為に宮廷魔術師となりましたが求められているのは他の方々とは違い純粋な戦闘力だと理解しています。

それには常に自己鍛練と魔導の深淵を追い求め続ける事が必要、だが宮廷魔術師団員達は現状に満足し鍛練を怠っていたので引き締めたのです」

 

 先ずは建前を言う、間違えではないが本音でもない、だが必要な事だ。

 

「立派な志(こころざし)だな、ではリッパー殿に勝負を挑んだのは何故だ?」

 

 分かり切った事だから突っ込んで来た、このやり取りも必要な通過儀礼なので突っ掛かってくれるのは正直有り難い。自分からでなく求められたから堂々と建前を言えるのだから。

 

「それは自身の鍛練の為にです、宮廷魔術師団員達とは違い苦戦させられましたが技術は向上しました、流石はリッパー殿です」

 

「ボロボロにしたのに持ち上げるなよな、何時か仕返ししてやるぞ」

 

 台詞には恨みが込もっているが口調はそれ程でもない、力の差が大きい限りリッパー殿は仕返ししてこない。慎重で狡猾、人を傷付けるのが好きだがヤラれるのは嫌なのが彼だ。

 

「何時でも挑戦を受けますよ、それが本来の魔術師の生き方なのです。魔導の追求に必要な事ですから喜んでお相手しましょう」

 

「ケッ、俺はお前のそう言う真面目な所が大嫌いだぜ」

 

 中指立てて威嚇されたよ、リッパー殿は癇癪持ちの子供だな。単純で分かり易いので助かる。だが周りの態度は軟化した、脳筋の戦闘狂じゃないアピールは必要だ。

 少なくとも話し合いで交渉出来る事、直ぐに力ずくで解決しない事、その二点だけでも知らせておけば今は良い。

 

「だから安穏と宮廷魔術師第二席に居座り自分の派閥を作り好き勝手していたマグネグロに、儂が戦う様にリーンハルトに頼んだのじゃ。奴はヤリ過ぎたのじゃ、宮廷魔術師団員共の弛みも奴が原因じゃよ」

 

 吐き捨てる様に言った、サリアリス様とマグネグロ様の不仲説は知っていたが結構深刻だったんだな。殺してしまったが哀れみを微塵も感じていない。

 

「いえ、サリアリス様に言われなくても戦いを挑みました。師であるバルバドス様を侮辱されたのです、四大属性最強と根拠無いデマに踊らされて宮廷魔術師関連の結束を乱していた悪の元凶でしたから」

 

 宮廷魔術師筆頭からの指示にする方が僕にダメージは少ないが安易に優しさを受けては駄目だ、僕はサリアリス様に向かう敵意を全て受けると決めたのだから。

 

「そんな奴を放置していたのが問題ですな、あまつさえ援助までしていた奴が居るそうですぞ?」

 

「全く酷い奴も居たものですな、連帯責任を取らせるべきでしょう」

 

 バニシード公爵に対して地味な嫌味攻撃が始まった、分かっていて嫌味を言っているんだ。そして本人も知っているけど我慢しているな。

 その我慢がどれ位保つかが問題だ、コメカミがピクピクしてるんだよな。上級貴族の当主には感情的に抑えが利かない人も居る。

 我が儘じゃなくて、子供の頃からそういう我慢をしなくても良い育て方をされているから無理なんだ。

 

「アウレール王がいらっしゃいます」

 

 近衛兵から丁度良いタイミングでアウレール王の登場の知らせが来た、絶対に一波乱有るだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 お姿を見るのは二回目となるアウレール王だが、少し機嫌が良さそうに見える、因縁の敵と戦えるから嬉しいのだろうか?

 護衛の近衛騎士二人を残して侍女達が部屋から出て行った、他に漏れては駄目な内容なのは予想している。

 

 アウレール王が王座に座ると周りを見回す、しまった目が合った時にニヤリと笑ったぞ。

 

「よう、ゴーレムマスター。色々と聞いてるぜ、だが今戦力の要となる宮廷魔術師を減らされたのは痛いぞ」

 

 やはり言われたか、宮廷魔術師第二席を物理的に引退って言うか墓場に送ったし……

 

「魔術師の性(さが)としてお許し下さい、強い相手に挑む事は我等魔術師として当然の事なのです。そして手加減無しの全力で挑めとマグネグロ様は言って下さいました」

 

 変な言い訳はしない、あくまでも魔術師としての研鑽の為に挑んで勝ったんだ。マグネグロ様の面子も有るから下手な事は言えない。

 ニヤリと更に笑いが深くなったぞ、これは対応を間違えたのか、失敗したか?

 

「変な言い訳をしないだけマシだな、今回は不問にするが次は自重しろよ、ゴーレムマスター」

 

「はい、有難う御座います」

 

 良かった、罰は無かった……横目で見たサリアリス様も安心した様子なのは、実は僕ってヤバい状況だったのかな?

 

「ふむ、話は聞いてるかもしれないが旧コトプス帝国の残りカス共が国境辺りに湧きやがった。潰すぞ、奴等の存在を俺は許せない」

 

 アウレール王は本気だ、本気でハイゼルン砦を落とすつもりだ。周りの雰囲気も変わった、前大戦から何回か小競り合いは有ったが本格的な戦争は久し振りだ。

 

「時間との勝負ですな、既にウルム王国も討伐軍を編成しています。先に落とさねば外交上問題になりますぞ」

 

「周辺の街や村が襲われています、私とヘルクレス伯爵は既に私兵を編成し対応していますが先のオーク異常繁殖の時のダメージが大きく厳しい状況です」

 

 ラデンブルグ侯爵の報告に周りの連中も難しい顔をした、もしかしてオークの異常繁殖って今回の件と連動してた。その他色々な情報が報告される、だが先発軍が指名されていない。

 

 状況はかなり厳しい、ウルム王国の討伐軍は予定よりも大分早く三週間位で到着しそうだ。

 周辺の街や村の住民の避難は粗方完了しているが疲弊したラデンブルグ侯爵とヘルクレス伯爵の私兵軍では略奪部隊を押し返せない。

 

「ライル団長、聖騎士団の出撃の準備を進めろ。同様にコンラート将軍も常備軍の準備だ、全力で出撃するから急げよ」

 

 それ以外にも補給部隊や予備軍、資機材の手配や治療部隊、予算配分とか細かい指示が出される。治療に関しては宮廷魔術師第三席、ラミュール様が一任された。

 

「さて、粗方の指示は出したが最後の問題だが……誰か居るか、糞野郎共を抑える為に先行する奴はよ」

 

 最後でデカい問題を立候補で決めさせるって結構酷い、先発隊は僅かな兵力しか用意出来ないから約二千の籠城する敵兵を倒すのは難しい。

 普通なら誘き出すしか勝機はないだろうな、自身の領地に他からの応援が必要と言われた二人も渋い顔をして腕を組んでいる。

 

「誰も居ないのか?ゴーレムマスターはどうだ?」

 

 全員の顔を見回した後に僕に視線を固定して話を振って来た、アウレール王からの指名では断れない。やはり何かしらの罰が有るかと思ったが戦争の先鋒を押し付けられたか。

 

「アウレール王の御命令と有れば、喜んで先発隊として行かせて頂きます」

 

「即答とは驚いたな。だが良いな、任せた」

 

 周りも特に反対はしない、何人かは安堵の溜め息を吐いたし嫌な役を押し付けられなくて良かったと思ったのだろう。

 普通なら少数部隊で攻め落とせないし、厄介事は他人に押し付けて本隊の到着までの時間稼ぎをしろって事だ。

 

「リーンハルト卿、約束通り援軍を送る。ウチの精鋭百人を連れて行きなさい」

 

「ふむ、我が娘からも頼まれているからな。ウチからも援軍を同数出そう」

 

 ニーレンス公爵とローラン公爵が競って援軍を合計二百人も出してくれるそうだ、恩が重なるのが辛いが助かるのも事実だから断れない。

 善意だけじゃない、万が一の手柄分配の保険的な意味合いだろう。

 

「有難う御座います、助かります」

 

 彼等も言った限りは精鋭を寄越すだろう、僕のゴーレムポーン三百体と合わせれば……

 

「お待ち下さい。その大役、私に命じて下さい」

 

「ビアレス殿、何を言い出すのだ。アウレール王のお言葉に不満が有ると言うのか?」

 

「新人宮廷魔術師の癖に王に意見するとは控えんか!」

 

 誰だか分からないが反論されている、最後のは僕に対しての嫌みも含めたな。一悶着有るとは思っていたが先鋒を競うとは思わなかったぞ。

 


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