古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第280話

 エムデン王国の重鎮達を集めた会議で、アウレール王はハイゼルン砦を乗っ取った旧コトプス帝国の残党共をウルム王国より先に殲滅すると指示を出した。

 ある程度の方針と担当を決めれば後は臣下達が細かい指示を関係各所に出して進める、今回はライル団長の聖騎士団と常備軍のコンラート将軍が主力となり宮廷魔術師からは第三席のラミュール様が行く事となった。

 

 そして先行隊として僕が指名されニーレンス公爵とローラン公爵が善意と思惑により私兵を各百人付けてくれた、この他に補給部隊・伝令・供回りも含めれば合計三百人前後になるだろう。

 

 だが、アウレール王の指示に異議を唱えた者が居た、元宮廷魔術師団員筆頭で現宮廷魔術師第十一席、マグネグロ殿の弟子でもあったビアレス殿だ。

 彼は同期の新人宮廷魔術師、現状の宮廷魔術師関連で火属性魔術師の地位が下がっている事と、これ以上嫌いな僕に手柄を立てさせたくない事。

 後は自分のプライドとかが絡み合ってアウレール王の指示に口を挟んだんだ。

 

 しかし臣下として王の決定に逆らうのは大問題だぞ、既に侯爵の何人かから叱責が出ている。第二席の僕は彼等と同格だがビアレス殿は格下だ、出過ぎた杭が僕だけでなく慌てたか?

 

「良いではないか、指名されて嫌々やるよりは名乗り出た方がヤル気が有るでしょうな。ビアレス殿の勇気には感激しましたぞ」

 

 嫌味ったらしく立ち上がり、拍手までしてビアレス殿を褒め称えたのはバニシード公爵か。周りは冷やかな目で彼を見ている、わざとらしいし結構嫌われているのかな?

 

「バニシード公爵様……」

 

 しかし僕が嫌々だと話を捻曲げて来たぞ、だがビアレス殿は彼のリップサービスに感激している。少しは自分が追い込まれていると自覚しないと不味いぞ。

 

「その勇気に感じ入ったぞ。よし、微力だがハイゼルン砦奪還の手伝いをしよう、我が精鋭五百人を預けるぞ。必ずハイゼルン砦を落とすのだ」

 

 この流れは僕等は少ない戦力でハイゼルン砦を落とす流れだ。断れ、少ない戦力で攻城戦を仕掛けなければならなくなるぞ。とばっちりは嫌だぞ。

 

「はい、必ずや御期待に応えてみせます!」

 

 馬鹿共が!アウレール王は時間稼ぎを僕に命令したのに、何を勝手に奪還に目的を変えやがった。

 

 しかも精鋭を預けたって事はビアレス殿が総指揮官で総責任者なんだぞ、万が一上手くハイゼルン砦を奪還出来ても手柄の殆どはバニシード公爵が掠め取る。

 暗に僕にも時間稼ぎでなくハイゼルン砦を奪還しろと押し付けて来た、競争に負けても引き分けでも僕の立場は悪くなる、やられた。

 

 思わずバニシード公爵を睨み付けてしまったが、ニヤリと笑いやがった。二百人前後で難攻不落のハイゼルン砦を落としてみろって言うんだな!やってやろうじゃないか。

 

「ふむ、些か腹が立ったがリーンハルト卿はどうだ?ビアレス殿に譲るのも俺は構わんぞ」

 

 真剣な顔で言われたが辞退など不可能だろう、公爵二家からも援軍を貰えると言われたんだ、引けば腰抜けになり受けても本隊到着の前にハイゼルン砦を奪還出来なければ評価は下がる。

 ヤル気満々のドヤ顔で僕を見るビアレス殿に腹が立つ、お前は僕に対する当て馬で良い様に使われているのに気が付いているのか?気付いてないんだろうな……

 此処は引けない、弱気な対応は一度は許されたマグネグロ様の件も蒸し返されそうだ。競争相手の失敗には全力で追撃してくる様な連中ばかりだな。

 

「譲る気など更々有りません。ですが先手は譲りましょう、ビアレス殿が率いるバニシード公爵の部隊の一週間後に僕は王都を発ちます、どちらが先にハイゼルン砦を落とせるか競争ですね」

 

「おい、リーンハルトや。それは……」

 

 周りが騒がしくなったしサリアリス様も言葉を途中で止めてしまった、僕は今アウレール王の前でハイゼルン砦を奪還すると明言したんだ。

 バニシード公爵は端から僕等二人ではハイゼルン砦は落とせないと確信して、僕に断るか弱気な発言をする様に仕向けて来たんだ。

 常識では難攻不落の要塞に立て籠る二千人の軍隊に二百人や五百人程度の兵力で勝てる訳がない、籠城する敵を責める場合は五倍の戦力で当たるのが常識だ。

 

「ほぅ?俺は本隊到着まで時間を稼げと言った筈だがな、ハイゼルン砦奪還とは大きく出たな」

 

 不機嫌なアウレール王に顔面蒼白のビアレス殿、改めて言われて目標が本隊到着までの時間稼ぎからハイゼルン砦の奪還に変えられた事を理解したな。

 しかし今更間違いでした、そんなつもりは有りませんとか身分上位者に言えない、言える訳が無い。

 

「バニシード公爵の心意気に感じ入っただけです、先にハイゼルン砦を奪還出来ると言われたのです。ならば競い高める事を是とする僕は、その申し出を断る事は有りません。

流石はバニシード公爵、難攻不落のハイゼルン砦をビアレス殿と協力して落とせる自信がお有りなのですね」

 

 爽やかに巻き込んでやる、自分だけ逃げられると思うなよ。

 

「貴様っ!俺は自分がハイゼルン砦を奪還するとは言ってないぞ、あくまでもビアレス殿の手伝いだ」

 

 黙って頭を下げる、もうどうでも良いんだ。僕を巻き込むなら一蓮托生だぞ。折角上がった公爵五家の順位を落としてやる。

 いくらバニシード公爵とビアレス殿が結託してもハイゼルン砦は落ちないだろう、先手を譲ったのは彼等の犠牲を強いる事と失敗の実績と情報収集の為だ。

 必ず先に攻めなければならない状況だ、五百人程度で攻城戦をしかけても被害が増えるだけだ、だが僕が来る前の一週間で結果を出さないと駄目だろ?

 

「まぁ良かろう。バニシード、手を抜いて俺を失望させるな」

 

「アウレール王、お待ち下さい!」

 

 有無を言わさずにバニシード公爵に責任を押し付けたぞ、これは総力を上げてでもビアレス殿を応援しないと不味いだろうな。

 だが短期間で一万人近い戦力を集める事は不可能、本隊到着迄に準備出来る兵力は頑張っても倍の千人いくかな?

 あとは冒険者ギルドや魔術師ギルドを通じて高レベルで高ランクの連中を雇うかだが、今の段階で戦争に協力する連中が居るかな?

 居ても魔術師ギルドならサリアリス様が圧力を掛けられる、冒険者ギルドは僕にも交渉する事は可能だろう、対価は大きくてもヤル価値は有る。 足の引っ張り合いとか嫌な言葉が頭の中に浮かぶが、自分の為にもやるしかない。

 

「リーンハルトや、少し話そうかの。ローラン坊やも来るかい?」

 

「そうだな、話を詰めねばなるまい」

 

「同行させて貰おうか。俺にも関係有りそうだし仲間外れは無しだぞ」

 

「ふむ、まぁ良かろう。儂の部屋に来ると良い」

 

 うわぁ、宮廷魔術師筆頭と公爵二家との四者面談はキツいぞ。周りの視線が痛い。

 バニシード公爵もビアレス殿を連れて行ったが同行者は無し、公爵五家と侯爵七家には協力者が居ないと思って良いのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 サリアリス様の執務室は特別で僕等とは違い王族の居住区に近い場所に有る、なので防諜に関しては一番適している。

 しかしエムデン王国でも上から数えた方が早い連中ばかりだ、緊張するな。

 

 先程とは違いそれなりに広い執務室に移動したが緊張度合いは格段に上がった、全員渋い顔だしサリアリス様も少し不機嫌だし。

 公爵達は自分の心配も有るがサリアリス様は純粋に僕を心配してくれているのだろう、嬉しいが何時も心配と苦労と迷惑を掛けているな。

 

「リーンハルトよ、流石に不味い事になったぞ」

 

 開口一番、僕等だけでハイゼルン砦は落とせないと考えているな。どれだけ援助が出来るのか、彼女自身は王宮から出れず僕等には直属の配下は居ない。

 

「そうだな、我等も手助けはするが籠城戦では二百人や三百人では焼け石に水だぞ」

 

「バニシードの奴が先手とは言え全ての責任を押し付けられない、お前の評価も一緒に落ちるのだぞ。あそこで弱気は駄目だったのは分かる、だが問題を先伸ばししただけだ」

 

 一応全員が心配してくれているのは分かる、だが状況は良くないと思われているんだな。公爵二人の心配には損得勘定や状況判断も絡んでくるから単純には喜べない。

 

「ハイゼルン砦は難攻不落で有名です、実際に過去に奪われて何年もウルム王国に取られたままです。バレル川を背にした岩山に作られた天然の要塞、普通なら無理でしょう」

 

 言葉を一旦止めて三人を見る、何を分かり切った事を言ってるんだって感じだな。エムデン王国の正規軍が何年も落とせなかったモノを何とか出来るのかって事だ。

 

「僕の『リトルキングダム(瞳の中の王国)』は半径500mの場所に任意でゴーレムを百体単位で召喚出来るのです。

ゴーレム操作の奥義には半自立行動と遠隔操作を組み合わせる事も出来ます、それに攻城戦用の大型ゴーレムも複数体同時運用が可能です。

近くまで行けばハイゼルン砦の内部に大量のゴーレムを召喚する事も可能です、今回の件は僕とは相性が良いですね」

 

 何処のインチキ野郎みたいな目で見られたが、実際にザルツ地方の討伐遠征で『リトルキングダム』は見せている。崖の上にもゴーレムを召喚に制御出来るんだ。同じ事をハイゼルン砦でしても問題は無いだろう。

 

「リーンハルトや、運用出来るゴーレムの強さと数は?」

 

「戦士職の強さと比較するとレベル20のゴーレムポーンで三百体は運用可能です」

 

「うーむ。そうか、三百体か……」

 

 数を聞いても悩んでいるな、二千人対三百体では負けると思われているのかな?実はレベル35のゴーレムナイトでも三百体迄は運用出来るけど言うと荒れそうだ。

 

「良く勘違いされますが、運用出来る定数が三百体なので倒されても壊されてもその場で修復出来ます。だから数は常に三百体で減らないのです」

 

 二千人が三百体に襲いかかれば数の暴力で倒されると思うかも知れないが、実際に減るのは敵兵だけなんだ、魔力が尽きる迄は減らないのがゴーレム軍団の強みでもある。

 

「ふむ、だから不死人形達で無言兵団か。とんでもないゴーレム運用方法だな、文献でしか残ってない古の大魔術師ツアイツ卿も同じだったのかも知れんな」

 

 ええ、全く同じ方法で過去に攻略したハイゼルン砦を再攻略する予定です、全盛期の三割の力しか取り戻していませんけど問題は無いでしょう。

 

「だから安心して下さい、必ずサリアリス様の期待に応えてみせます」

 

「はっはっは、ならば問題は無いだろう、いきなりゴーレムが防御陣地の内部に大量発生して倒しても減らないとなれば敵からすれば悪夢だろう」

 

「全くリーンハルト卿には驚かされますぞ、従来の方法と違う新しいゴーレム運用方法を確立したとなれば現代に蘇った古(いにしえ)のゴーレムマスターと言っても差し支えないな」

 

 三人共に頷いているけど確かに僕は転生した三百年前のツアイツ・フォン・ハーナウ本人だけどね、何故か僕の周りには転生前の自分と連想して繋げる人が多いんだよな。

 盛り上がる三人を見て今後の事を考える、ハイゼルン砦の攻略自体は今の僕でも大丈夫だろう。

 

 問題は……ビアレス殿との事だが共闘はしない、先に一度は攻めさせないと駄目だが被害甚大と分かっていて行動出来るか?

 ライル団長率いる討伐軍かウルム王国の討伐軍が来てしまえば時間切れで失敗だ、幾ら僕でも二千人の籠城する守備兵を倒すのには一日か二日は掛かる。

 出来ればビアレス殿には最初に攻めたが失敗して貰い、次に僕が成功する事が好ましいし万人受けする流れだ。

 強敵が居れば分かるし対処も出来る。大丈夫だ、何とかなるだろう。

 

「我々を前に熟考とは魔術師とは本当に思考の海に沈むと中々浮かんで来ないのだな?」

 

「はっ?申し訳御座いません。大体の方針を考えていましたので……」

 

 無言で三人に見詰められて考えに耽るのを止めた、この癖は治らないから注意が必要だな。

 

「約束通り我々は精鋭騎士団を預ける、好きに使って構わない」

 

「そうだな、ウチの精鋭騎馬隊と荷馬車隊なら迅速に行動出来るから安心してくれ」

 

 いや、安心出来ません。普通の援軍が精鋭騎士団や精鋭騎馬隊になってます、これは勝てると分かって発言力を高める為に本当に最精鋭を寄越すだろう。

 

「気を使って頂き有難う御座います」

 

 ニーレンス公爵はバニシード公爵と敵対してる、相手の失脚の為なら何でもするだろうな。ローラン公爵も同じだし公爵二家から精鋭部隊を預けられるってどうなんだ?

 


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