古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第299話

 

 最後の説明になってしまった僕の宮廷魔術師に推薦してくれた恩人達、だが今は同僚の為に直接的な応援は頼めない。

 今回は同僚のビアレス殿と競う様にハイゼルン砦を落とさねばならない、公爵五家の覇権争いにマグネグロ殿の敵討ち、四大属性魔術師達の意地比べも有るかな?

 だがユリエル様達にも各公爵家が援助しているから大きな括りの中では味方側として貢献して貰っている、だがマグネグロ殿の他にビアレス殿も失脚となれば……

 

 エムデン王国宮廷魔術師の弱体化と捉えられ兼ねない、だから対外的に知らしめる為にもハイゼルン砦の攻略は派手に攻め落とす事にする。これも国家への貢献だろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 先輩宮廷魔術師二人と同期一人、完全に納得はしてなさそうだが一応は認めてくれたみたいだ。

 フレイナル殿は微妙に理解していなさそうだ、魔術師一人で難攻不落と言われたハイゼルン砦が攻略出来るか信じられないのだろう。

 だがマグネグロ殿が抜けた穴を塞ぐ事と彼の派閥の連中の対応については話が纏まった、引き抜きに成功した連中でも身辺調査は忘れずに頼んだ……間者は敵に深く潜り込ませた方が効果が高いから。

 

「リーンハルト殿は王家主宰の舞踏会に誘われているのか?」

 

「アウレール王主宰の舞踏会ですか?明後日ですよね、一応参加しますが直ぐに出兵しますから途中で退席しますが……それが何か?」

 

 会話の流れを断ち切る感じだったので不思議に感じたが、舞踏会で何か有るみたいだな。

 多分だが宮廷魔術師の中でも上位陣にしか誘いは無かった筈だ、サリアリス様は毎回欠席で品行方正じゃないリッパー殿には招待状は行かない。

 初御披露目となる新人宮廷魔術師だがビアレス殿にもフレイナル殿にも招待状は行っていない、言い方は悪いが格の違いによる選定方法で今回は僕だけらしい。

 

「そのな、俺達も舞踏会には誘われているんだ。宮廷魔術師第五席迄はな、サリアリス様は毎回欠席だが俺達は断れない」

 

「俺は誘われなかった、未だ早いって言われたんだぜ」

 

 フレイナル殿が拗ねているな、同期の年下が誘われたのに自分は駄目なのかって話だ。だが君には裏技が有る、親子だから通用するアンドレアル様に同行すれば良いんだ。

 正式に招待された者は何人か同行させられる、大抵は正妻か後継者だから。

 

 やはり格式か、今回は王家でも国王主宰だ。本来なら新人宮廷魔術師では無理だったが僕は異例の第二席だからな、特例か例外なんだろう。

 

「そうですね、格式有る王家主宰の舞踏会に欠席など相当な理由と勇気が必要だと思います。だから最初だけ参加して途中で帰ります」

 

「その、何だ。お前は誰かをエスコートするのか?」

 

 微妙な顔で言われたがエスコート?同行者って意味だろうか?

 

 腕を組んで考える、僕の立場で同行出来る候補と言えば正式な側室のアーシャだけだ。ジゼル嬢は本妻予定だが今は未だ婚約者で男爵令嬢だから身分的に辛いだろう、結婚後なら宮廷魔術師第二席夫人の立場となる。

 

「居ませんよ、エスコートする女性なんて。格式が高過ぎるから親族やアーシャ、ジゼル様を同行させると逆に辛い思いをさせてしまいますから。

それに僕は良い意味でも悪い意味でも有名ですから、今回は注目の的でしょう。同行者は居ない方が良い」

 

 多分だがザスキア公爵が離れないだろう、僕等が協力している関係だと周りに知らしめる為に。他にもニーレンス公爵はメディア嬢を連れて来るだろうな。

 この二人以外には王家主宰の舞踏会に参加出来る立場の女性とは知り合ってない。

 ああ、セラス王女に挨拶はしないと駄目だな。これからの後ろ楯で協力者たる彼女には配慮が必要だ、更なる性能向上のレジストストーンの話をしておくかな。

 

「うむ、まぁ何だ。確かに注目されるな、だが舞踏会を途中退場はマナー違反じゃないか?それに同行者無しも良くないぞ」

 

「そうでしょうか?」

 

 舞踏会は社交界に属する男女の出会いの場でも有るから、独身男性貴族は結構一人で来るぞ。それに主賓じゃなければ最後まで居なくても問題は無い、招待状にも主賓とは書かれてないし……

 

「そうだぞ、王家主宰の舞踏会とは大変なんだ」

 

 ふむ、先輩宮廷魔術師としてローカルなマナーを教えてくれているのかな?では苦労を掛けるがアーシャを連れて行くか。

 

「ではアーシャを同行させます、唯一の側室ですから誰も文句は言わないでしょう。彼女自身もマナーは確りしてますし美しい華でも有ります、周りの注目を集めるでしょう。だが言い寄る虫は潰しますけどね」

 

 お前が女の事で惚気た上に毒を吐くとは驚いたと三人に言われた、別に女性関係が淡白でもないし優しいだけじゃないのだが……

 

「まどろっこしいな、お前に言いたいのは俺の娘をパートナーとして同行して欲しいって事だ!」

 

「ユリエル様の御息女をですか?それは周りが色々と深読みしませんか?」

 

 最近聞いたな、年の離れた同僚の娘と結婚した中年貴族の話を……何処でだっけ?ああ、バーナム伯爵主宰の舞踏会で会ったコリン子爵の次男のグランジ殿だ。三十代半ばの彼が見初めたのは十八才だったらしい。

 

「まぁ警戒するなよ。俺の長女がな、今年十二歳なんだがお前の噂を聞いて是非とも最初の舞踏会のパートナーになって欲しいって頼まれてな。最初の社交界デビュー、しかも国王主宰だ。本来ならば……」

 

「本来なら父親か兄とか親族ですよね、いきなり他人の僕に託すのは問題ですよ。しかも僕は婚約者が居る身ですよ」

 

 ユリエル様の言葉を遮る、意味深な行動は控えるべきだ、僕は色々と問題を抱えているのに更に新しい女性問題は避けたい。

 

「そこまで警戒するなよ、娘のウェラーも土と水の属性魔術師なんだ。最初のエスコートは優秀な魔術師が良いって言われてな」

 

「優秀な魔術師ならアンドレアル様やフレイナル殿でも良いじゃないですか?」

 

「でもって何だよ、でもってさ」

 

 苦笑いのアンドレアル様に本気で怒っているフレイナル殿、ついで扱いは悪かったかな。

 

「属性の違う魔術師じゃ嫌だってよ。水属性魔術師の最高峰は『慈母の女神』ラミュール殿だが女同士だろ、土属性魔術師の最高峰はお前だ、『ゴーレムマスター』殿?」

 

「それはそうですが、僕と一緒に舞踏会に出る事は深い意味が有る。ユリエル様と親戚関係になるのは嫌ではないですが、今は問題が有りますよね」

 

 土属性魔術師の最高峰の自覚は有る、実際に古代の知識を持っている僕は人間の括りでは最強に近いだろう。だがユリエル様の背景を考えると素直には喜べない。

 

「俺もウェラーをお前に嫁がせるつもりは無い、てか手を出したらお前でもどんな手を使っても潰す。虫除けにお前は最適だ、だから一緒に舞踏会に行ってくれ」

 

 何時の間にか後ろに回られた、肩に置かれた手に力が入る、本気で怒っているのが分かる。ユリエル様が娘を溺愛する父親だったとは知らなかった、実際に僕との親戚関係とか無関係に娘に集る悪い虫を寄せ付けないために使うつもりだ。

 ユリエル様の立場なら色んな思惑で彼女に近付く有象無象も多いだろう、そんな奴等への虫除けに僕は最適だな。

 

「そ、それなら仕方無いですね、協力致しましょう」

 

「そうか、悪いな。当日迎えの馬車を出すから頼むぜ」

 

 漸く肩から手を放して笑顔を見せてくれたが、恫喝の笑みに近い。だが半分以上は愛娘の為だろうが僅かに打算も入っているだろう、同じ土属性魔術師だから弟子入りとは言わなくても教えを乞うかもしれない。

 僕の秘密に探りを入れるのには近しい立場が最適、弟子入りが最も効果的だ。

 

「いえ、エスコートならば僕の方で馬車を用意して迎えに伺います」

 

「ウェラー嬢か、可愛くなったよな。前はお転婆で大変だったんだ、俺なんて魔法の的扱いだったぞ。まぁ頑張れよ」

 

 フレイナル殿が馴れ馴れしく肩に手を置かれて顔を近付けて教えてくれたが、宮廷魔術師の息子でも的扱いとは相当なお転婆姫なんだろう。

 その後は暫く雑談をしてから自分の執務室に戻った、根回しは全て完了したが新しい問題も出来た。子煩悩の父親から睨まれながら娘の面倒を見るのは辛い。

 

 帰り際に言われた、魔術師ギルド本部に恩を売り若手土属性魔術師を引き抜けと……

 あのライティングの魔法の構成を教えるだけでも十分な対価になるそうだ、平民の魔術師ならば変な派閥争いにも関係無いし、ロップスさんでも引き抜くかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お疲れ様でした、早かったですわね」

 

「御不在時に特に問題は有りませんでしたわ」

 

 自分の執務室に戻るとハンナ達が笑顔で出迎えてくれる、彼女達の背後の連中と上手く行ってるからだろう。時刻は帰宅まで三十分ほど残っている。

 丁度良いからユリエル様の御息女について聞いてみるか、彼女達の情報の精度は中々だからな。

 

「ああ、お茶は要らないよ。少し聞きたいのだが、ユリエル様の御息女のウェラー嬢の事を知っていたら教えてくれないか?」

 

 執務机の前に四人が整列する、つまり全員が知っているんだな。目線で確認し合ってるが結果はセシリアが言うみたいだ。

 

「ユリエル様の愛娘であるウェラー様は土属性魔術師として中々の才能が有ると聞いていますわ。何人か男性の実子も居ますが、ユリエル様は彼女を後継者として指名して貴族院も了承済みです」

 

 直系男子が居るのに彼女を後継者として指名し貴族院にまで根回しをして対外的に認めさせた?早い段階でか?

 

「ふむ、宮廷魔術師第四席の後継者に相応しい才能が有るんだな。我々魔術師は男女関係無く才能が有れば後継者になれるから」

 

 男尊女卑が当たり前、女性には相続権は無く他家に嫁いで子孫を残す事が最大の義務なのだが魔術師は違う。そこには才能のみが必要とされるんだ。

 例外は有る、ザスキア公爵や常備軍のマリオン将軍とか要職に就く女性も居るが本人の才能が有って尚、相当の努力と運がなければ厳しい。

 

「彼女は水と土の二つの属性を持っていますがメインは水です、リーンハルト様と違いゴーレムは多用しませんがユリエル様と同じく複合魔法を使います」

 

「ユリエル様の二つ名は『台風』だね、風と水の複合魔法だ。その娘は水と土の複合魔法を使うか。それは僕より若いのに有能だな、使う魔法は分かるかい?」

 

 組合せの可能性として幾つか想像出来るが、今の時代だと違う可能性も有りそうだよな、楽しみだ。

 

「凄く楽しそうですわね、ウェラー様の多用する魔法ですが単体の水属性魔法は主に状態異常系、つまり毒です。

補助の土属性魔法は人形ゴーレムが複数体、複合魔法は自身の周囲を沼に変えて泥を操ります。彼女の二つ名は『土石流』です」

 

 それって、僕の下位互換じゃないか?毒特化のゴーレム使い、僕は切り札として毒特化は秘匿しゴーレム使い一本だが彼女は両方公(おおやけ)にしている。

 しかも『土石流』って事は広範囲を沼に変えて多量の泥を操れるな、下手したらマグネグロ殿より厄介だぞ。

 

「何と無く親近感が沸いたよ、僕に近い魔術師だね」

 

 あれ?四人共に顔をしかめたけど、もしかして年下狙いとか思われた?それは不味いな、全くそんな気持ちは無いのにユリエル様が溺愛する彼女に手を出すみたいな勘違いは嫌だ。

 

「その、人伝なので確認は取ってないのですが……

ウェラー様は父親であるユリエル様を馬鹿にしたマグネグロ様を倒す事を目標にされていたそうです、それを先に殺してしまったリーンハルト様に対して、良く思ってないそうです」

 

「つまり僕は彼女の目標を横取りした男って事だね、それでも舞踏会のエスコートに指名した。直接じゃないけど同じ属性の最上位では指名と変わらない、何故だ?」

 

「リーンハルト様?まさか王家主宰の舞踏会にウェラー様をエスコートして行かれるのですか?」

 

 ヤバい、独り言になってたか?声を出していたのか?

 

 見上げると四人がジッと僕を見詰めている、これは正直に話して誤解を解いておかないと不味いぞ。

 

「ああ、ユリエル様から直接頼まれた。初めての舞踏会には同属性の最上位魔術師にエスコートさせたい、だが手を出せば全力で潰すって脅迫付きでね」

 

 四人一斉に溜め息を吐かれたぞ、僕だって出来れば遠慮したいのに何故だ!

 

「そうですか、気を付けて下さい。彼女はリーンハルト様以上に気性が荒く好戦的です、多分ですが問答無用で仕掛けてきますわ」

 

「勝負を挑む、魔術師としてか……逆パターンは久し振りだが負けはしないさ。今の状況で年下に負けるのは大問題だからね」

 

 嗚呼、思い出した。ミュレージュ様にも模擬戦を挑まれていたんだ、どうしようかな?

 


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