古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第313話

 リズリット王妃とセラス王女に魔法迷宮でドロップした『春雷』を錬金でコピーした事を教えてオリジナルと共にミュレージュ様に渡す様にお願いした。

 このリズリット王妃が命名してくれた『雷光』は、僕の宮廷内での地盤を固める布石だ。ミュレージュ様経由で近衛騎士団に広がれば多数の製作依頼が来るだろう、ライル団長にも贈れば聖騎士団も同様だ。

 剣だけでなく槍や短刀、斧等の刃物が有る武器なら麻痺効果を付加する事が出来るので装備する武器全てを統一する事も可能だし。

 

 ふふふ、武人ならば欲しがらない者は居ない筈だし製作日数を調整すれば色々と交渉にも使えるぞ。

 

「何故でしょう、優しく微笑まれてますが腹黒さを感じるのは。リーンハルト殿は近衛騎士団と聖騎士団との間に強い絆を作りつつ有ります、そしてコレは決定的な要因になるでしょう」

 

「戦士職に魔力の付加された武器や防具は必須で垂涎の的、高性能品を錬金で製作出来るとなれば余計にだわ。貴方は武の重鎮たるバーナム伯爵やデオドラ男爵に認められているし、ライル団長と聖騎士団員は模擬戦で負けたけど好意的だしね。

個人的な研究なら貴方の成果は貴方だけのモノよね、魔術師ギルド本部は絡めない。悪い子だわ」

 

「本当に出来の良い悪い子よ、配慮しつつ美味しい部分は独り占めなのね。この『雷光』もバーナム伯爵達には渡すのでしょ?」

 

 年上二人に悪い子扱いされてしまった、しょうがないわね的な表情なので許容範囲内だと思うのだが少し傷付いたのは内緒だ。

 

「はい、バーナム伯爵にライル団長、それとデオドラ男爵の派閥上位三人には贈ります。使い勝手を聞きたいですし武の重鎮たる御三方のお墨付きは欲しいですから、無料で進呈してもお釣りが来るでしょう」

 

 リズリット王妃とセラス王女とは末長く付き合っていけそうだ、ギブアンドテイクな関係だが互いに利益が有るので壊れる事は少ないだろう。

 王位簒奪の意思が無いのも伝わっただろうし今後は警戒も薄れるだろうな、良かった。その後も一時間程雑談をしてから自分の執務室へと戻る事にした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 リズリット王妃とセラス王女との昼食を終えて自分の執務室へと戻る、途中で案内役の衛士達から熱い視線を向けられるのはマジックウェポン『雷光(らいこう)』の件だろう。

 影の護衛や控えていた侍女達には聞こえただろうし、逆に内緒にして欲しい内容じゃない。積極的に広めて欲しいんだ。ハイゼルン砦を攻略し凱旋した後が大変だろうな……

 

 戦士職の垂涎の的である状態異常付加の武器、しかも麻痺系は数が少なくエムデン王国も依頼を出して『春雷』を集めているが十本にも満たない。

 それが錬金術による定期的な生産が可能となれば、自分にも入手のチャンスも有るから余計にだろう。魔法迷宮でのドロップは運の作用が大きく数が少なく貴重だが、錬金製なら安定供給だから金銭だけで何とかなる。

 僕との伝手が有れば更に確実だ、だからバーナム伯爵とライル団長それにデオドラ男爵にも贈る事にする。人前で使ってくれれば宣伝効果も期待出来てプレミア感も出る、恩も売れるし一石三鳥だな。

 

 全ての準備を終えて執務室に戻れたのは午後三時を少し回っていた、急がない仕事は親書や贈り物、それに恋文(派閥勧誘の手紙)の処理だけだ。

 

「ただいま、留守中に何か有ったかい?」

 

 専属メイド四人の横一列に並んでの出迎えにも慣れたし、彼女達の仲も表面上は良くなったので一安心だ。

 

「最終の直談判や直訴の親書類は全てザスキア公爵が対処してくれましたわ」

 

「何でさ?」

 

 僕の代わりに公爵自らが仕事してくれるって、僕等って凄く仲良しだと思われるだろ!

 

「所詮は伯爵以下の連中です。ザスキア公爵本人とセラス王女から託された『戦旗』の効果だけで真っ直ぐ帰られましたわ」

 

「公爵四家の取り分を奪う訳にはいかないですし、本気ならば所属する派閥の長である各公爵に直談判すれば良い。

アウレール王とセラス王女の両方から命じられたハイゼルン砦の攻略です、リーンハルト様の邪魔をしてると取られたら大変ですから素直に援助物資だけ寄越す様にさせましたわ」

 

 イーリンの説明を聞きながらリストに書かれた名前を確認する、確かに伯爵以下の連中だが何人かは覚えが有る、バニシード公爵の派閥の連中だぞ。

 鞍替えか何かしらの工作なのか分からないが援助物資は食料品ばかりだ、毒物が混入されてるかも知れないから用心の為にも捨てるか……

 

「アルノルト子爵も来たのか?彼が王宮に来れる立場だとは知らなかったよ」

 

 記載されたリストの中に見たくもない名前を見付けてしまった、堅焼きパンに干し肉と飲料水が一千食か……金額に換算しても高くて一食銀貨二枚として、千食なら金貨二百枚相当か?

 

「バニシード公爵に呼ばれた帰りに寄ったのです、この情報はバニシード公爵は知りません」

 

 セシリアが教えてくれた、彼女の情報網は確かだから安心だが、バニシード公爵とアルノルト子爵が蠢いているんだな。注意が必要だぞ。

 しかし僕を訪ねてザスキア公爵が出迎えたならば、アルノルト子爵も驚いただろう。僕に何かすれば後ろに居るザスキア公爵とも関係が悪化すると感じただろうな、ザスキア公爵が僕の執務室に居てくれる理由は周囲に僕等が蜜月だと思わせる為だ。

 

「他のバニシード公爵派閥の連中と同じく援助物資は食料品か、焼き捨てて二倍のお返しを送ろう。アレには僅かでも借りを作る気は無いんだ」

 

「何か細工されているとお考えですか?送り主が特定出来る援助物資なのですよ、疑われる事をするでしょうか?」

 

 イーリンの意見は鋭い、多分だが好き嫌いで勿体無い事をするのかって意味も含ませている。私情を挟むのは構わないが程々にって事だろう。

 説明をしておかないと駄目だと思い読んでいたリストから目を離して彼女達を見る。

 

「彼等の理想は僕が何も出来ずに本隊到着まで時間を浪費する事だ。

援助物資は貰った後は僕の管理下で責任の範囲だ、贈った後に誰か分からないが細工されたって言われたら証拠も無いし責任は追及出来ない。

全員が示し合わせた様に食料品を贈って来た、合計すれば一万食以上だよ。この中の一割にでも毒物が仕込まれていた場合……

僕が同行する公爵達の精鋭や近隣の街や村に援助して被害が出れば、それは僕の責任になる。その考えに至った時に信用出来る人達からの援助物資以外は使わない事にしたんだ。

毒物入りかどうか調べる事は可能だが手間も暇も無い、無駄な時間を使う位なら捨てた方がマシだが一応毒物混入が疑わしいと言って高価な品は捨て値でライラック商会に売ってはいるよ。

だがアルノルト子爵の分は焼き捨てる、ここには私情を挟んだ」

 

 ある程度毒性学を学んだ人物なら毒物混入の物を選り分ける事は出来る、僕でも可能だが時間を割くのは勿体無い、他にもヤル事は沢山有るんだ。

 

「謀略の可能性ですね、深く考えずに進言して申し訳有りませんでした」

 

 イーリンが深く頭を下げてくれた、考え過ぎかも知れない。だが転生前に同じ事を何度かやられている経験則からの判断なんだ、恩を着せつつ此方の妨害も同時に行う嫌らしい手段だ。

 罠に嵌まれば僕の管理責任不十分で味方に被害を負わせる事になる、本当に嫌らしいが有効な策では有る。

 

「構わない。心配して思った事を言ってくれたんだ、逆に感謝しているよ。有難う、イーリン」

 

「いっ、いえ。その勿体無いお言葉ですわ」

 

 む、ポーカーフェイスが得意な彼女にしては慌てたな。いや、これも演技かも知れないがザスキア公爵とはお互い協力していくと約束した関係なので邪推だな。

 

「何でも自分一人で出来るとは思っていない、指摘されて考え直す事も必要なんだ。一人だと視野が狭くなるから逆に有難いんだ」

 

 何でもかんでも意見されるのは迷惑だがピンポイントで指摘されて考え直す事は有難い、参謀(ジゼル嬢)不在だから余計にだ。後は王宮勤めの連中との交流だが……

 

 ロッテの旦那はニーレンス公爵派閥のモンベルマン子爵だった筈だ、財務系だから王宮勤めの可能性は高い。ハンナの旦那はバセット公爵の三男の娘でヤザル男爵だったし、此方も農業系だから同様だ。

 

「ハンナとロッテの旦那達は王宮に勤めているのかい?」

 

「はい、私達の旦那様は財務系の官吏です」

 

「王宮内に勤めております」

 

 ふむ、予想通りだな。ニーレンス公爵の派閥は財務系だしバセット公爵は農業で高い成果を出している、先ずは二人の旦那達と親交を深めるか。

 

「何時も世話になっている二人の旦那達と一度話したいと思っていたんだ、ハイゼルン砦攻略の後になるが食事でも一緒にどうかな?僕から屋敷の方にお誘いしても良いのだが……」

 

「いえ、私達の方がお世話になっているのです。是非とも御招待させて下さい」

 

「そうですわ、是非とも我が家に御招待させて下さい」

 

 ふむ、偉い食い付き様だな。招待する方になれば関係者一同で迎えられる、つまり引き合わせたい連中を全て呼べる。逆の場合は夫妻の他に親族が数名だ、身分上位者の屋敷に多数で押し掛ける事は失礼に当たるから。

 

「そうか、日程は任せるよ。それと紅茶と甘いお菓子か何かが食べたい、少し疲れたよ」

 

 そう言うとハンナとロッテが用意の為に控え室の方に向かった、ハイゼルン砦を攻略し凱旋すれば僕に会いたい連中は増えるだろう。

 そこに既に確約済みの二人の実家はどう動くかな?親戚一同お出迎えは普通で事情を知った同僚が押し掛けてくれれば尚良いな。

 

「リーンハルト様、宜しいのですか?凱旋後の謁見のお約束をしては大変な事になりますわ」

 

「親戚一同は当たり前、同僚や派閥関係者も殺到しますわ」

 

 イーリンとセシリアの心配も確かだ、ハイゼルン砦攻略後の僕の立場は更に強くなる。謁見は言い過ぎだが会えるチャンスが確約されてるとなれば、ハンナ達の旦那も色々とメリットが有り僕と懇意になりたがるだろう。

 

「僕は下級官吏達から嫌われているらしい、だから中間管理職の連中と懇意にしたいんだ。わざわざザスキア公爵が教えてくれた事を放置する訳にはいかない、ハンナとロッテの旦那なら所属派閥でも中間層だから最適だ。互いに利益になるからね」

 

「そうですか、御姉様の……」

 

「イーリン、ザスキア公爵と呼びなさい。未だ仕事中よ」

 

 今日のイーリンは少し変だな、慌てたり呼び名を間違えたりウッカリが多い。体調不良なのか?

 

「イーリン、具合が悪いなら無理せず休んで構わないよ。明日から一ヶ月前後は戦場暮らしで来れないから、無理はしなくて良い」

 

「心配して頂き有難う御座います、でも大丈夫ですわ」

 

 丁度ハンナ達が紅茶とケーキを運んで来てくれたので話は途切れてしまった、本人が大丈夫と言うなら少し不安だが信じるか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 定刻となったので帰る事にする、侍女四人に深々と頭を下げられて見送られた。

 今夜は子作りの為にデオドラ男爵の屋敷に向かう、アーシャから子作りに適した日が今夜だと教えて貰ったからだ。

 彼女は僕の側室だが従来男爵の娘、立場の強化の為にも僕の子供を生ませたいのだが……僕に子種が有るかが分からずに不安なんだ、転生前は多くの女性に子供を望まれたが結局一人も出来なかった。

 肉体は違えど精神は同じ、果たして今の僕に子種が有るかは実践するしかないんだ。

 

 エムデン王国から与えられた馬車に乗り込み、デオドラ男爵の屋敷へと向かう。明日は早起きをして自分の屋敷に帰りイルメラとウィンディアの顔を見ないと出陣しない、絶対しない。

 先ほど王宮内で擦れ違った侍女や警備の兵達の事を思い出す……

 わざわざ通路の脇に避けてから深々と頭を下げてくれる、明日僕が王都を発つ事を知っていたのだろう。

 

「リーンハルト様、エムデン王国の未来の為にもハイゼルン砦奪還の成功をモアの神にお祈りしています」

 

「我が国の宿願、ハイゼルン砦の奪還をお願い致します」

 

 そう口々に懇願された、僕は下級官吏には人気が無いが侍女や兵士達には人気が有るみたいだ。それが良いのか悪いのか悩む所だが……

 




今回で連続投稿は一旦中止、次回(9/4)からは毎週木曜日朝8時の週一投稿となります。
UAの伸びが凄く累計400万到達が夢ではない位置に来てしましました、有難う御座います。

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