古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

314 / 999
投稿日付間違えました、申し訳ないです。2時間遅れで投稿します。


第314話

「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」

 

 違う!『ようこそおいで下さいました』か『いらっしゃいませ』だよ……僕は君達の旦那様じゃない、デオドラ男爵の後継者でもない!

 

 そうは言っても聞かないんだろう熱い視線を向けてくれるデオドラ男爵家の使用人達に軽く手を振って応える、ノーチェックで正門から敷地内に入り屋敷の玄関前に馬車を横付けに出来るのは当主か来賓位なんだが……

 毎回思う豪華過ぎる出迎えだが側室の旦那が侯爵扱いなら仕方無いと割り切ろう、考え過ぎると胃が痛くなる。

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

 玄関扉を執事が開くと中から正装のアーシャとジゼル嬢が現れて笑顔で出迎えてくれた、事前に寄る事を伝えたから正装してくれたのだろうか?

 

「二人共に今夜は何時も以上に綺麗だね、ドレスも装飾品も良く似合っているよ」

 

 初めて見るドレスだ、アーシャは珍しく真っ赤なドレスで対照的にジゼル嬢は落ち着いた黒のドレスを着ている。二人共に僕が贈った装飾品を身に付けていてくれている。

 最初に贈った銀製の鷹と薔薇のブレスレットがお気に入りだと言ってくれたのが嬉しかった、共にレベルの低い時に出来る限りの技術を注ぎ込んで錬金した装飾品だ。

 それに『召喚兵のブレスレット』と追加で作った『魔法障壁のブレスレット』も身に着けてくれているがブレスレットばかりでアンバランスだな、今後の検討項目だ。

 

「明日は出陣ですから、今夜は家族だけで過ごしたいと思いまして……」

 

「私達とルーテシア姉様、それと御父様と御母様達だけで家族水入らずで過ごしたいと思います」

 

 そう言って両方から僕の腕に抱き付いて来た、二人共に少し頬が赤いのは珍しく大胆な行動をした事が恥ずかしいのか?そのまま屋敷の中に招かれたが両側に並ぶ使用人達の生暖かい笑顔が気になる。

 その中でも一際良い笑顔なのがヒルデガードだ、彼女は今夜がアーシャの子供が授かり易い日だと知っていてニヤけているのだろう。ある意味彼女はアーシャに忠実なメイドだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 豪華な食堂の入口でデオドラ男爵と本妻殿が前に、その後ろに側室の方々とルーテシア嬢が控えている。

 

「いよいよ明日は出陣だな、初めての本格的な戦争なのに落ち着いているのは流石だぞ」

 

「いらっしゃいませ、リーンハルト様。私達もリーンハルト様の凱旋を心待ちにしながらモアの神に無事を祈って待ちますわ」

 

 デオドラ男爵と本妻殿から激励の言葉を頂いた、ジゼル嬢手配の二陣の指揮官にはモリエスティ侯爵本人にモリエスティ侯爵夫人からお願いして貰った。彼女のギフトの効果で凄く協力的な指揮官となるだろう。

 ウォーレン殿達には僕の供回りとして明日から同行してくれる、いくらゴーレム軍団を操るとはいえ人間のお世話係が居ないのは駄目だそうだ。

 それと進行ルート上の街や村への事前工作、軍馬の世話や僕等の宿泊手配なんかも既に仕込んでくれているそうだ、この様な裏方の仕事は全く手を付けていなかったので助かる。

 何でも一人で出来るのは素晴らしいが世話をさせるのも身分上位者の義務らしい、この辺はジゼル嬢に任せておけば問題無い。尻に敷かれている?そうだよ、間違いではない。

 

「有難う御座います。最速で結果を出してお知らせ致します、ですがハイゼルン砦を落としても旧コトプス帝国の残党を一掃する迄は現地に拘束されるでしょう。

宮廷魔術師は単一最強戦力、簡単には帰してくれませんが手柄の一極集中を防ぐ為に後方待機で楽ですね」

 

 貴族的一礼の後に応えてから席に着く、正式なディナーらしく配置は上座に僕、それからデオドラ男爵夫妻、ルーテシア嬢達最後に側室の方々だ。

 出世したとはいえ初期の頃から世話になったデオドラ男爵よりも上座に座る事に抵抗は有るが、此処で辞退すれば先方の常識的対応を非難する事になる。

 

 全員が席に着いたのを確認した後、本妻殿の指示により食前酒と前菜が運ばれて来た。今日は昼も夜も堅苦しい会食になるのか、贅沢な悩みだが気楽にイルメラが作ったナイトバーガーを手掴みで食べていた頃が懐かしい。

 どうやら食前酒は白ワインにカシスのリキュールを加えたキールか、最近妙にアルコールに詳しくなってきたな。

 

「「「「乾杯!」」」」

 

 胸の高さまでグラスを持ち上げて乾杯の挨拶をしてから一気に飲み干す、胃がカッと熱くなり食欲が出てきた。

僕は食前酒には炭酸が爽やかなシャンパーニュが好みなのだが、酒豪で定着したらしく嬉しくないのに気を使ってます的にキツい酒を出される事が多くなった。

 

 暫くは食事を楽しむ、だが超肉体派の派閥で脳筋一族のデオドラ男爵家の食事は肉だ、肉がメインで他は添え物程度でしかない。

 特に今夜は出陣前の特別な夜なので普段出される上品な料理は出されなかった……

 

「肉・肉・肉・肉料理ばかりしか出されなかった、お腹が破裂しそうだよ」

 

 前菜もメインも肉、しかもボリュームも満点だから暫くは肉料理を見たくない。

 

 前菜はニュルンベルグソーセージのキャベツのマリネ添え、ハーブの効いたソーセージは確かに美味しいが出された本数が変だ。二十本とか二桁は変だ、これで心が折れた。

 メインがシュパンヘルケル、離乳前の子豚の丸焼きだが普通は薄くカットされて出されるが分厚く切られていた、ソースは美味かった。

 他にも色々出されたが食べ切れずにギブアップ、女性陣には常識的な量なのに僕とデオドラ男爵の分は異常だった。その異常な量を完食したデオドラ男爵は更に異常だ……

 

「大酒飲みだが大食いではないのだな、男なら沢山食べて体力をつけるべきだぞ」

 

 心配半分、呆れ半分くらいな表情で駄目出しされた。僕は貴方の一族の肉体派軍団でなく知能派なので無理です、無理なんです。

 

「無理です、僕は少食の類いですから。それに魔術師は体力よりも知力と判断力が大切なので満腹で思考力が鈍るのは避けるべきです」

 

 嫌な笑みを浮かべているが絶対飲み比べで連敗中な事を根に持ってるぞ、酒豪としての自信が年下に連敗では木っ端微塵ってか?

 重たいお腹を擦る、今飲み比べを挑まれたら負ける、胃に余裕が全く無いからワイン一杯飲み干せない。

 

「御父様、明日は大切な出陣式なのです。旦那様に無理をさせないで下さい」

 

 気弱で大人しかったアーシャも父親に意見出来るまで強くなった、妻は強しって事らしい。周りも少し驚いている。

 

「む、そうか?それは悪かったな、早々に休むとよいぞ。アーシャ、リーンハルトの疲れを癒してやれ」

 

「はい、分かりましたわ。ささ、リーンハルト様」

 

 食後の腹ごなしはしたいが今は休みたい、これ以上動いたら何かをリバースしそうだ。ゆっくりと立ち上がり一礼してからアーシャと共に退出する、早く横になりたい。

 ヒルデガードに先導されて廊下を歩く、この方向だとアーシャの私室か……まだ早い時間だし子作りはしないぞ、少し休んでから風呂に入りたい、子作りはその後でだ。

 

「旦那様、此方で少し横になって下さい。ヒルデガード、冷えた果実水を持って来て下さい」

 

「了解致しました、暫くお待ち下さい」

 

 案の定アーシャの私室に連れ込まれた、そのまま彼女のベッドに横になる。断り切れずに限界まで食べた事が悔やまれる、遠慮せずに適度に止めておけば失態を晒さずに済んだんだ。

 フカフカなベットに横になりアーシャの残り香を胸一杯に吸い込む、ふむ気持ちは落ち着いたぞ。

 

「ふぅ、食べ過ぎた。確かに美味しいが量が半端無いな、余裕で完食出来るデオドラ男爵は化け物だよ。何故あれだけ食べて追加オーダー出来るんだ?」

 

 少しベルトを緩めると楽になったがだらしないな、貴族の紳士としては恥ずべき行動だ。枕元の脇に腰掛けたアーシャが額に手を当ててくれる、冷たい手が気持ち良い。

 確かジゼル嬢の手もヒンヤリと冷たかったが姉妹で似ているんだな。冷たい手の女性は反対に心は温かいそうだ。

 

「情けない所を見せたね、いくら出世しようが宮廷魔術師第二席まで上り詰め様が大量の肉料理に負ける様では未だ未熟だな……」

 

「少し位弱点が有った方が親しみやすいそうですわ、でも少食は弱点では有りません。御父様も御兄様方も沢山お食べになりますが、それは欠点だと思います」

 

 ああ、アーシャは控え目な体臭だな。軽く香水を着けているみたいだが、嗅ぐと安心する匂いだ。

 

「私は心配です、何故宮廷魔術師になられたとは言え、リーンハルト様が戦争なんて危険な任務を押し付けられなければ駄目なんですか?」

 

「地盤固めの為にだよ、出世と共に敵も増えたから王宮内での発言力を高めなければ駄目なんだ。でもハイゼルン砦は安全に攻略出来るから心配しないで、僕はアーシャの涙には弱いんだ。これも弱点だろ?」

 

「知りません」

 

 少し怒らせてしまったか?だが額に乗せられていた手が今度は頭を撫で始めた、頭を撫でてくれるのはサリアリス様だけだから新鮮だ。

 

「無闇に危険な真似はしない、約束するよ。だが僕は宮廷魔術師第二席としてエムデン王国でも上から数えた方が早い地位に居る、権力は多いが責務も多いんだ」

 

 頭を撫でている彼女の手を掴んで口元に持っていきペロリと舐める、きめ細やかでツルツルした肌だな。

 

「ななな、舐めるなんて!旦那様は変態ですか?」

 

「戦場でアーシャの味を忘れない為にだよ」

 

 変態なんて言葉を知っていた事に驚いたが言葉で否定しても手を引っ込めないので更に指を一本ずつ丁寧に舐める、何故か背徳感が気持ち良いな。

 

「もう!今夜忘れない様に刻み付けてくれれば良いのですわ」

 

 アーシャとイチャイチャしている所をドレッサーの陰から生暖かい目で見るヒルデガードにはお仕置きが必要だな。『ああ、仕えし姫の幸せの為なので覗きではないのです』とか独り言まで聞こえるぞ。

 結局五本の指を全て舐め終わるまで掴んだアーシャの手は放さなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後一休みしてからアーシャと一緒に風呂に入り、そのまま子作りに励んだ。配慮と自制心って奴が風呂で身体を洗った時に一緒に流れてしまったらしくアーシャに負担を掛けてしまった……反省だ。

 

 翌朝は未だ寝ているアーシャをそのままに、六時に起きて風呂に入り身嗜みを整える。イルメラとウィンディアに会うのに控え目だがアーシャの匂いを纏っているのは不義理だ。

 朝食は辞退して七時にはデオドラ男爵の屋敷を出る、九時に中央広場に集合だから時間は殆ど無い。彼女達と話せるのは三十分が限界だろう。

 

「悪いが急いでくれ!」

 

 御者に声を掛けて急かす、出陣すれば一ヶ月以上は拘束される、アウレール王が望んだ結果を出す迄は聖騎士団や常備軍は帰還出来ない。

 ライル団長とコンラート将軍、そして同行する宮廷魔術師第三席のラミュール殿のプライドや面子も関係有るな。ライル団長に頼まれれば先に帰還は出来ない、戦力は多い方が良いから……

 

「ハイゼルン砦を落とし、周囲に潜伏する別動隊まで殲滅しなければ駄目か。その後にウルム王国内に潜伏する残党共の引き渡し要求、蹴られればウルム王国との開戦も辞さないだろう。アウレール王は本気だ、本気で旧コトプス帝国とケリを着ける気だ……」

 

 悩む心とは逆に空には雲ひとつ無い快晴だ、今日の出陣式では金属製のゴーレム軍団は太陽の光を反射して光輝くだろう。

 暫くは窓の外の景色を楽しむ、早朝なので人通りは少なく清々しい。

 

「リーンハルト卿、到着致しました」

 

「ん、有り難う」

 

 正門が開き敷地内へと入る、四季の花が花壇を彩っている。噴水の脇を通り馬車を正面玄関に横付けすると玄関扉が開き大切な二人の女性が飛び出して来た。

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

「お帰りなさい、リーンハルト君」

 

「ただいま。イルメラ、ウィンディア」

 

 軽く抱き寄せて二人の匂いを胸一杯に吸い込む、ああ転生後に変な性癖が発現したが悪くはない。寧ろ快感だ!

 軽く背中を叩いた後に腰に手を回し屋敷の内へと誘導する、中にはアシュタルとナナル、タイラントとコレット、それと使用人達が整列している。恥ずかしい所を見られたな。

 

「悪いが時間が余り無いんだ、紅茶と軽い食事を頼むよ。一緒に食べよう」

 

 あと四十分位かな?自由になる時間は。昨夜の肉料理が残っているが少しは胃に食べ物を入れないと強行軍に身体が持たないだろう。

 

「分かりました。サラさん、リーンハルト様に軽い食事の用意をお願いします」

 

 僅かな時間を惜しむ様に応接室へと向かう、流石に三人並んで座る訳にもいかず二人は向かい側に座って貰う。

 

「暫くは王都に戻れない、だが屋敷で燻っているのも良くはないだろう。だから『野に咲く薔薇』のアグリッサさん達とニールと共にバンクの攻略をして欲しい、前衛戦士職三人だからバランスの取れた臨時パーティになるだろう」

 

 ニールについてはジゼル嬢とアーシャの護衛だが彼女もDランクの冒険者であり魔法戦士だ、実戦は彼女自身の糧となるのでお願いしてある。

 

「分かりました、無理をせず堅実にバンクの攻略をします。少しでも力を蓄えてリーンハルト様のお役に立てる様に頑張ります」

 

「そうだね、頑張ってレベルアップするね。だから無事に帰ってきてよ、絶対だよ」

 

 そういってウィンディアが僕の左腕に抱き着いた、彼女はデオドラ男爵の関係者だったから戦争の悲惨さと絶対に安全じゃない事を理解しているんだ。

 

「大丈夫、無理はしないし自分の命を大切にするよ。準備は万全だし色々と根回しも手も打った、慢心もしない。必ず二人の元に帰ってくるよ」

 

 感極まったのかイルメラまで僕の右腕に抱き着いて来た、暫くは二人の柔らかい何かを堪能していたが控えめなノックで我に返る。

 

「申し訳御座いません、ですが料理が冷めてしまいますので……」

 

「いやすまない、気を遣わせてしまったね」

 

 真っ赤になったサラが料理を乗せたトレイを押しながら部屋に入ってきた、凄く申し訳なさそうなのは恋人の語らいを見てしまったからか?

 ヒルデガードと違いサラは覗きはしなかったみたいだ、僕は良い使用人に恵まれているな。

 

 

 

『ブレイクフリー』

 

前衛:ゴーレムポーン1~600体 ゴーレムナイト1~300体 ゴーレムルークは単独で8体まで、混成部隊も可能。

   単体最強 ゴーレムビショップ 5体 強化装甲装着型 ゴーレムキング

 

後衛:リーンハルト レベル39(土属性魔術師)ゴーレム制御:ギフト(空間創造・レアドロップアイテム確率UP)空間創造は第四段階まで解放。宮廷魔術師第二席にして侯爵待遇 ドラゴンスレイヤーの称号を持つ。

 

後衛:イルメラ レベル32(モア教僧侶)治癒・防御魔法:ギフト(回復魔法効果UP)

 

後衛:ウィンディア レベル30(風属性魔術師)攻撃・補助魔法:ギフト(消費魔力軽減)

 

後衛:エレ レベル28(盗賊)索敵・罠解除:ギフト(鷹の目)

 

 

お抱え冒険者

 

『野に咲く薔薇』

 

前衛:アグリッサ レベル29 リーダー (戦士)

 

前衛:ニケ レベル28 防御担当 (戦士)

 

前衛:ライズ レベル30 攻撃担当 (戦士)

 

 

家臣団

 

コレット レベル26 (土属性魔術師) ゴーレム4体の同時運用可能。

 

アシュタル&ナナル 適齢期のお嬢様方だか婚姻よりも自身の能力が発揮出来る場所を求めていた。

 

ニール レベル28 (風属性の魔法戦士) 元々はジゼル嬢とアーシャ嬢の護衛のつもりだったが側室(予定)に昇格。

 




この話で長かった第4章も終わり、第5章はハイゼルン砦攻略がメインになります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。