古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

348 / 1000
第348話

 

 

 バーリンゲン王国の宮廷魔術師第八席、フローラ殿に圧勝した。勝因は魔法障壁の隙を突いた事、魔法障壁は魔術師により張り方が違う。

 形状も人それぞれだ、攻撃に対して面で形成したり半ドーム型にしたり完全に球体にしたり。自身からの距離も僕は完全球体で直径3mだが彼女は半ドーム型で直径4mは有った、前後左右上までは防げたが下が疎かだったんだ。

 

 普通なら自分に向かって来る攻撃はなるべく離れて防ぎたい、人間なら当然の反応だ。結構地面からは攻撃されないと思い込む人が多い、だから地面に防ぎきれない隙間が出来る。

 それが魔法障壁の常識の隅を突っついたインチキ攻撃方法だ、分かっていても自分の足元まで魔法障壁を張るのは難しい。

 

 フローラ殿の魔法障壁は常時展開型で中々の強度だったが、常識を突かれて負けた。納得してなさそうだが、山嵐の変形魔法は今の時代では半オリジナル魔法になるから能力査定としては高い評価だろう。

 防ぐ防げないは別としても新情報だ、だが本来のゴーレム関連の魔法は見れなかった。これを不満とするかゴーレムオンリーじゃないと分かっただけで良いとするか、どっちかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バーリンゲン王国の大臣との謁見は終了、次はマゼンダ王国だ。

 マゼンダ王国はリズリット王妃の祖国、輿入れの時は安全の為に大船団を率いて来た程だ。海路には危険が伴うが、その危険を犯してまで国交の為に嫁いで来たのがリズリット王妃。

 そのお陰で貿易は活発化し技術的交流も盛んに行われている、陸軍大国のエムデン王国と海洋国家のマゼンダ王国との交流は互いに利益が有る。

 

 本日二回目の謁見、マゼンダ王国の使者はミリシャ伯爵と三男のウォルト殿だ。ミリシャ伯爵は貿易港が有るラツィオの港街を治めている、貿易の責任者的立場の人だ。

 エムデン王国では珍しい褐色の肌を持つ筋肉質で精悍な壮年、その息子も同じ様に筋肉質で海の男って感じだな。彼等は祝辞を述べた後は特に絡む事は無かったが、お祝いとして珍しい宝石である大粒の真珠のネックレスをくれた。

 エムデン王国では真珠は珍しく、しかも高品質な品とくれば価値は高まる。誰に渡すのかと問われれば、本妻予定のジゼル嬢ですと答えておいた。実際に彼女に贈るのが妥当で、他の女性に贈るのは色々と不味い。

 

 彼等が退出した後にリズリット王妃から別口でリズリット王妃同伴で、再度彼等と会って欲しいと頼まれたので了承した。

 僕は王宮と後宮ではリズリット王妃派と思われているし、実際に便宜も図って貰っているので断れない。

 三回目以降の残りのバルト王国とデンバー帝国、それとルクソール帝国の使者は全員僕と同世代の見目の良い淑女を連れて祝辞を述べて、序でに彼女達の紹介もしてくれた。

 正直どうでも良いのだが国交を結んでいる国を代表して来てくれた使者殿達を無下には出来ず、当たり障りの無い挨拶と型通りのお礼の言葉を送って終了。

 

 本番は今晩の舞踏会だな、昨夜と違い今回の僕はフリーだ。エスコートする相手も居ないし王族も国王夫妻とグーデリアル様、他にも数人が出席されるらしいが詳細は未だ教えられてない。

 既に謁見で祝辞を述べているから舞踏会は持て成しの意味が強い、だから王族の方々は適当な時間に帰り本来の目標の僕をフリーにした。だが僕も拘束する用事は無いから嫌なら適当な時間に帰って良い。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 午前中に諸外国の使者達の謁見に同席、模擬戦を終えると昼食を挟み午後まで食い込んでしまった。セラス王女に頼んだリズリット王妃への相談はお茶会に呼ばれる形式で実現した。

 執務室にウーノが迎えに来てくれて彼女が先導してお茶会の会場に向かう、今日は午後から天気が悪くなり小雨が降りだしたのでテラスでなく室内だ。

 

「リーンハルト様、凱旋帰還おめでとうございます。侍女一同、リーンハルト様の御活躍を嬉しく思っています」

 

「ん?ああ、有り難う。国王の臣下として当然の事だけど、無事に達成出来て安心してるよ。だが式典が多くて困惑している、何日か王宮に留まらないと駄目だしね」

 

 少し前を歩くウーノから祝いの言葉を貰った、本来は会話しながら歩く場所ではないが小声だし悪い気もしない。だが目的地に着いた時に次回の侍女達とのお茶会も楽しみにしていますと言われた時は苦笑した、それは遠慮したいんだ。

 

 案内された部屋は初めて入る応接室だ、広い室内に大きな窓が有りベランダに出れる様になっているが窓から見える空は薄暗い。

 既にリズリット王妃とセラス王女が席に着いていて此方に微笑み掛けて来た、壁際には高級侍女が六人並んでいるが普段より多くないかな?

 

「いらっしゃい、リーンハルト卿。いえ、バーレイ伯爵とお呼びした方が良いかしら?」

 

「またはローゼンクロス伯かしら?王宮内は貴方の話題で騒然としてるわよ、あの戦いにもならない模擬戦も凄い評価だわ。完全オリジナル呪文ですからね、実際に見たから分かる難易度に各国の使者達は真っ青だわ」

 

 踝(くるぶし)まで埋まる毛足の長い絨毯の上を彼女達の近くまで歩いて近付く、普通なら豪華過ぎる内装や調度品に気後れしてしまうだろう。

 

「お招き頂き有り難う御座います。呼び方についてはお任せしますが未だ馴染みません、気恥ずかしいのです」

 

 お茶会に招かれたお礼を言って一礼する、その後で侍女の案内で引いてくれた椅子にすわる。直ぐに紅茶と焼き菓子が用意される、香りからしてアップルティーかな?

 焼き菓子はクワルクベルヒェン(フレッシュチーズのクワルクを使ったフワフワのドーナツ)だな。

 何も入れずに一口飲む、林檎の酸味が爽やかで美味しいので甘めのクワルクヘルヒェンに合う。

 

「先に難しい話を済ませましょう。わざわざ私に会いたいとセラスに頼んだのを考えると、今のリーンハルト卿でも対処に困る話なのですね?」

 

 今夜の舞踏会まで時間に余裕が無いので、先に話を聞いてくれるのは有り難い。流石はリズリット王妃だ、話が早くて助かる。セラス王女も趣味の話題を振らずに大人しく聞いてくれている、だがウズウズしてるぞ。

 

「メルル様から親書を頂きました、彼女はバニシード公爵の七女で王位継承権第三位のヘルカンプ様の側室でお気に入りの方です。

丁寧なお詫びの後に実家であるバニシード公爵家と懇意にして欲しいとお願いされました、ですが和解は無理でしょう。バニシード公爵本人も僕との和解など受け入れられないでしょうし、他の公爵四家も追撃していますから……」

 

 此処で一旦話を止めてリズリット王妃の反応を見る、やはり困った顔をしたな。セラス王女は不機嫌そうだ、面倒事で僕が拘束されるのを嫌っているのかな?

 

「なる程、理解しました。今のリーンハルト卿なら王族絡み以外の相手なら何とかなるでしょう、しかしヘルカンプの側室絡みなら話は別です。下手に親書など送れば問題になりました、これは私が配慮しなければ駄目でしたわ」

 

「ヘルカンプ兄様の幼い側室の事ね、権力争いに負けたから情に訴えるのも問題だわ。でも溺愛してるから頼まれれば、ヘルカンプ兄様は動く可能性が有る」

 

 そう言って軽く頭を下げてくれたが、王妃に謝罪させた方が大問題だぞ!

 

 それにセラス王女の予想は溺愛している側室からのお願いに、ヘルカンプ様は何かしらのアクションを起こす可能性が有るんだな。

 確かに僕だってイルメラ達に懇願されれば善悪は別問題と割り切り動く、故にヘルカンプ様も動かないとは言い切れない。問題も多い方と聞いているし、王族の権力を行使されたら宮廷魔術師第二席の立場でもキツいな……

 

「謝罪など不要です、問題を持ち込んだのは僕の方ですから。ですが迂闊にメルル様に返事を返すと、要らぬ誤解を受けそうだったので相談したのです。

万が一にも僕がメルル様に対して良からぬ思いを抱いて接近した等と言われたら、反論しても身の潔白は証明出来ません」

 

 ヘルカンプ様からすれば僕が親書を出した事実だけが残り、手紙の内容は握り潰せる。腹が立って焼き捨てたと言われたら反論すら不可能だ、王族と臣下とは、そういう(絶対に勝てない)関係でも有る。

 だからヘルカンプ様に仲裁を申し込まれる前に、リズリット王妃に相談したかった。

 

「あの子は本当に問題ばかりを起こしますが、側室に向ける愛情は歪んでいるけど真剣なのです。

分かりました、この件は私から二人に話します。確かに王位継承権第三位では有りますが所詮は予備品、万が一にも彼に王位継承権が回って来ても……」

 

「国が傾く無能には継がせられない、前王の件で身に染みて理解しています。だからヘルカンプが王族として権力を扱えるのは第二位以下の場合だけ、安心しなさいな」

 

 リズリット王妃の言葉をセラス王女が引き継いだ、これって無能と判断されたら王位を継ぐ前に消すって事だよな。有能な後継者まで途中に居る奴は排除するんだ、王家の闇を知らされた。

 ヘルカンプ様は自分が望まなくても王位継承権が第一位になったら始末される、それは王族全員が理解してるのか?

 

「お任せ致します、宜しくお願い致します」

 

 深々と頭を下げる、これでヘルカンプ様とメルル様の件は大丈夫だが大きな借りを作ってしまった。この借りは早目に返さないと問題になりそうだ、増える前に精算しよう。

 

「暗い話はお仕舞いよ、早く例の物を見せて下さい」

 

 話は済んだとばかりに、セラス王女がテーブルから身を乗り出してレジストストーンを催促してきた。リズリット王妃も苦笑している、先程までの重たい雰囲気は無い。

 空間創造より作っておいた深紅と深緑のレジストストーンを取り出してテーブルに置く、未だ装飾品として加工はしていない。

 

「毒と麻痺の回避率35%のレジストストーンです」

 

「これが……素晴らしい輝きね、宝石類と比べても遜色が無いわ」

 

 我が子を労る様に掌に包み込んで持ち頬擦りを始めた、やはり筋金入りのマジックアイテム狂いだな。自作品を喜んでくれるのは嬉しいので構わないが、知らない人が見たら引くだろう。

 暫くはトリップして戻ってこないだろう、紅茶を飲んでクワルクベルヒェンを食べる。フワフワでモチモチの食感で程よい酸味、僕の好みの味だ。

 

「僅か一ヶ月でレジストストーンの底上げに成功するとは驚きですわね、未だ回避率を上げられますか?」

 

「多分可能ですが時間は掛かります、先に魔力構成を簡略化して手順書を作り『王立錬金術研究所』に所属する魔術師達に製作の手解きをします。回避率20%迄は直ぐに作れるでしょう、それ以上は練度が必要です」

 

 魔術師ギルド本部とレニコーン殿に連絡を入れておかないと駄目だった、副所長のリネージュさんに先に教え込んで彼女が他の所員に教える事にしよう。

 僕が直接に時間が有る時だけおしえるのは効率が悪い、このレジストストーンの製作は魔力構成と手順を教えても根気が必要な作業となる。練度が上がらないと回避率の低い物しか出来ない、説明書が有っても模倣は簡単じゃないんだ。

 

「作り方を教わった位では製作は不可能、やはり錬金とは個人の資質に頼る部分が多いのですね。簡単に作れないから価値が有る、魔術師ギルド本部も理解して素質有る平民達を集めるでしょう」

 

 貴方の手足となる家臣団候補に、魔術師ギルド本部所属の魔術師を大量に送る事で干渉力を高めたいのでしょう……そう言われてしまったが、その通りだと思う。

 

 だが貴族絡みの派閥構成員だと有能で有っても問題が多い、だから平民で柵(しがらみ)の少ない魔術師を集めたいんだ。一応は僕の配下らしい宮廷魔術師団員のセイン殿と仲間達は、全員がニーレンス公爵の派閥でメディア嬢が裏の支配者だ。

 だから鍛え上げても最終的に敵対する可能性も有る、その為にも他にも実行部隊を作るのも必要。バーナム伯爵の派閥構成員でも有るが、自らの派閥も作る必要が有る。この魑魅魍魎が蠢く王宮内で生き抜く為に力が欲しい……

 

「その通りです、僕は……あの、そろそろセラス王女を止めた方が宜しくないでしょうか?」

 

 頬擦りの後に匂いを嗅いで、今まさに舐めようとしている。流石に王女として許容範囲を越えた痴態を臣下に見せるのは、僕も口封じされそうで怖いです。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。