古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第364話

 

 

「数の暴力って凄いわね、通路で苦戦したグレートデーモンが瞬殺だよ」

 

「六十本の弓矢を至近距離から射ち込まれたら防げない、防いでも二陣の三十本で倒される」

 

「流石はリーンハルト様です、既にグレートデーモンなど相手ではないのですね」

 

 キラキラした瞳で僕を見詰めるイルメラさんの純真無垢さに心が痛む。僕のボス狩りは殆ど反則なんだよな。普通は六人前後の冒険者パーティが命懸けで挑む相手が、資金と経験値集めにしか感じていない。

 

「九階層のボスであるグレートデーモンも大丈夫だね、八階層の蒼烏より機動力が無いから狙い易く倒し易い。先ずは十回連続で倒してボーナスアイテムを貰おう、今回は何かな?」

 

 毎回貴重なアイテムがドロップするから楽しみだ。前回は『春雷:刀身に雷を纏う(追加効果:麻痺)』だったが今回は何だろう?

 

「毎回珍しいアイテムですから楽しみですね。前回は武器の『春雷』でしたし今回は防具でしょうか?」

 

 ふむ、四階層位迄は大した物ではなかったが、五階層以降は迷宮探索に必要な物がドロップする。今回は隠し階の十階層の探索に必要な物か、それとも冒険者としての装備品か楽しみだな。

 

「春雷は模倣品の『雷光』を作り出す事が出来た。古代のマジックアイテムを手に入れて研究する事は凄く楽しいんだ。でも僕は皆に贈れる装飾品が良いな」

 

 ボス部屋にポップするグレートデーモンは、ノーマルが『デモンソード』と『デモンリング』でレアが『治癒の指輪』だ。レアのドロップ率は1%以下らしいが、僕なら10%位だから六体固定なら二回に一個は手に入る筈だ。

 

 上級貴族の本妻や令嬢達が欲しがる筈だ。故に旦那や父親に懇願するのだろう。売りたい場合はオークションだが、贈る場合は該当しない。賄賂に最適だがイルメラ達の為に六個は確保する必要が有る。

 少なくとも六十体だから十回は倒す必要が有る。連続ボーナスも含めて丁度良い。

 

「エレさん、扉を開けて外を確認してくれるかな?クロスボゥの装填が終わったら閉めて二回目を始めよう」

 

 既にゴーレムナイトはロングボゥを構えている。向かい合わせて構えているが、同士討ちにはならない。僕のゴーレムナイトは同じゴーレムナイトが放った弓矢では貫通しない、弾くだけだ。

 曲面を多用してるし、基本的にはグレートデーモンを狙っているから流れ弾はそんなに行かない。

 

「大丈夫、準備出来た」

 

「了解、では二回目のボス狩りを始めよう」

 

 ゆっくりと閉まる扉の音を聞きながら、ゴーレムナイトに指示を送る。久し振りのボス狩りは心踊るものだな!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 連続十回のボス狩りが完了、合計六十体のグレートデーモンを倒した訳だが、『治癒の指輪』の集まり具合は悪い。三個しか手に入らないのは確率的には5%、通常なら0.5%位だ。これは集まらない訳だよ。

 グレートデーモン二百体で一個手に入れられるかじゃ余程の幸運が無いと無理だ。だが午前中の二時間半で三個なら、今日一杯頑張れば六個のノルマは達成出来るだろう。

 大体一戦で十分、クロスボゥの二丁の装填時間を合わせて十五分。エレさんの射撃の腕は相当上がっていて、グレートデーモンの目や喉を的確に射抜いている。

 二丁のクロスボゥを器用に扱い短時間で照準を合わせて狙い撃つ、一撃必殺(ワンショットキル)だな……

 レアは集まりが悪くてもノーマルは大量だ。デモンソードが十二本にデモンリングが十四個、売ると幾らになるんだろう?

 

 そして今回ドロップしたお楽しみのボーナスアイテムだが……

 

「これは、ネックレスかな?未だ鑑定してないけど凄い内包する魔力を感じるよ」

 

 イルメラから手渡されたボーナスアイテムは、細い金のチェーンの先端にブラックオパールが取り付けられている。楕円形のブラックオパールの表面には緻密な模様が彫られているが、本来は宝石の表面に傷など付けない。

 良く見れば古代ルーン文字みたいだが解読には時間が掛かりそうだ。だが読めない訳じゃないな。

 

「鑑定してみるよ」

 

 両手で抱き込む様に持って鑑定するが、中々結果が出ない。三分位頑張って漸く結果が分かった。

 

『身代りのネックレス:致死量のダメージを一度だけ無効にする(代償:レベル20down)』

 

「これは凄いがリスクも高いマジックアイテムだよ。一回だけ致死量の攻撃を無効化するが、レベルが20も下がる。低レベルなら恩恵は有るが、高レベルの状態でレベルが20も下がるのはキツい、キツいが……」

 

 効果の代償が安過ぎる、命の対価がレベル20だけなんて本当なのか?使う前に調べないと危なくて使えないぞ。

 

「命には代えられないですね。これはリーンハルト様に必要なマジックアイテムです。これからも国から危ない仕事を頼まれると思いますが、生きて私達の元に戻って来て下さい」

 

 思考に耽っていたらイルメラが『身代りのネックレス』を持つ僕の両手を包み込む様に握ってくれた。僕の身を案じる言葉と共に。

 

「有り難う、イルメラ」

 

「リーンハルト様」

 

 彼女の潤んだ瞳に吸い込まれる様だ。普段は聖母みたいな彼女だが今は……

 

「熱い!熱いよね、エレちゃん?」

 

「本当に、此処限定で嫌になるくらい熱い!」

 

 しまった、桃色な気分を出してしまったか。反省しないと婚前交渉を突撃体験しそうになるな、転生して性欲が増えたのか?

 

 咳払いをして誤魔化す。取り敢えず『身代りのネックレス』は装備せずに空間創造に収納し、調べてから使うか判断する事にしよう。

 

「さ、さてと……この『治癒の指輪』が三個集まったから全員に渡すね」

 

「「「はい、お願いします!」」」

 

 全員が左手を差し出して来た。声も動作も寸分の狂いも無いけど、もしかして示し合わせてたの?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 実り有る魔法迷宮バンクの探索だった。ボス狩りは連続二十回で終了し、地上まで戻って来た。見上げる太陽は未だ高いので午後の三時前後だろうか?

 地上に出たのを見付けたのだろう、聖騎士団員が慌てて整列して出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト卿。此方の専用控え室の方で休んで下さい、冒険者ギルド本部の職員も待機させております」

 

 真面目な顔で凄い事を聞かされた、この新しい建物って思った通りに僕専用だったのか!

 それにギルド職員が待機って、VIP待遇を少し舐めていた。偉そうで嫌だけど、周囲の期待と準備には応えなければ駄目なんだよな。

 

「有り難う、助かる」

 

 建物の中は中々の仕上がりで、調度品まで置かれている。中央にソファーセットが有り、奥にも扉が見えるのは他にも部屋が有るのだろう。

 壁際に並んで立っているのはクラークさんと冒険者ギルド出張所のパウエルさん、それに受付嬢のミリンダさんだっけ?

 てか本部勤務のクラークさんは別として、冒険者ギルド出張所の二人が来ちゃ駄目でしょ?

 

「これはこれはリーンハルト様、御無沙汰しております。本日は魔法迷宮バンクを攻略して頂き有り難う御座います」

 

 クラークさんの口上の後にパウエルさんとミリンダさんも揃って頭を下げる。思えば四ヶ月で随分と立場が変わったよな。

 

 取り敢えず先にソファーに座ってから正面のソファーに座る様に勧めるが、本部職員のクラークさんだけ座りパウエルさん達は後ろに立って控えている。正直やり辛い。

 イルメラ達も同じ様に僕の後ろに立って控えている。聖騎士団員の目も有るし、平民の彼女達は公式な場所では僕と同じ席には着けない。

 

「今日は九階層のボス狩りをしてました。グレートデーモン百二十体を倒してドロップアイテムはデモンソードとデモンリングです。先に冒険者カードの更新をお願いします」

 

「承りました。ミリンダ、急いで下さい」

 

「失礼致します、カードを預からせて頂きます」

 

 用意していたトレイを差し出して来たので冒険者カードを乗せる。デスバレーから帰って来た時に更新して以来だな。

 早足で部屋を出て行くミリンダさん、そんなに急がなくても良いのだが……

 

「流石はリーンハルト様ですね。デモンソードとデモンリングは品薄の為に買い取らせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

「構わないが少しストックしたいのでデモンソードは十本、デモンリングも十個で良いかな?」

 

 大量に市場に出回ると問題になりそうだが、デモンソードは九階層を攻略する冒険者には必須で、デモンリングは魔術師と僧侶の垂涎の的だ。

 パウエルさんが驚いているが素早く計算したのだろう、買い取り価格を教えてくれた。

 

「デモンソードは一本金貨三千枚、十本で金貨三万枚。デモンリングは一個金貨三千五百枚、十個で金貨三万五千枚、合計金貨六万五千枚になります」

 

 もう金銭感覚が麻痺する提示金額だな。だが高額ドロップアイテムも大量に売れば値崩れするから調整が必要だ。前にクラークさんは、エムデン王国内で売れなくても他国の冒険者ギルドに流せば大丈夫、常に品薄だから需要が有るって言ってたよな。

 

「それで構いません。ですが引き渡しは冒険者ギルド本部で?」

 

「いえ、私達の方でお屋敷まで伺わせて頂きます。それでレアドロップアイテムの『治癒の指輪』はどうでしょうか?」

 

 恐る恐ると言った感じで聞いてきた。後ろに控えるイルメラ達の左手をチラ見してるのは知っている。手に入れた事はバレているな、だが利用価値が高いので渡せない。

 

「うん、他のと比べてもドロップ率が格段に悪いので今日手に入れたのは三個だけだった。だが渡したい人達が多いし上級貴族との交渉にも使うから冒険者ギルド本部には売れないかな」

 

 この指輪は争いの種になる。だから売らずに賄賂用に確保するつもりだ。明日も頑張れば三個は手に入るが未だ足りない、セラス王女用の賄賂には最適だろう。

 他にも自分の愛する妻や恋人、または娘が若く美しくいられるとなれば欲しがる貴族は多い、まさに交渉材料に最適だ。

 

「そうですか、まさか一日で三個も手に入るとは驚きです。余裕が出来ましたら是非ともお願い致します」

 

 深々と頭を下げられた、余程欲しいんだな。だが明日以降だと来週にしか自由な時間が無い、暫くは無理だ。ミリンダさんが小走りで戻って来た、早いな……

 更新された冒険者カードを受け取る。ランクCのレベル42が僕の最新のデータだ。グレートデーモンは経験値稼ぎとしては美味しいので、暫くは九階層のボス狩りを続ける事にしよう。

 

 いや、ランクがBになってるぞ?

 

「クラークさん、冒険者ギルドランクがBになってますよ?」

 

「はい、恐れながら冒険者ギルド本部の方で、リーンハルト様はランクB相当と判断させて頂きました。他のパーティメンバーの方々もランクCとさせて頂きました」

 

 ランクBともなれば国家規模の依頼も発生するから頼めるって政治的配慮か?だがイルメラ達がランクCになれば、冒険者ギルド本部も本腰を上げて助力してくれる。

ここは好意に甘んじるとしよう、彼女達の安全が最優先だから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あの後ろに並んでいた美少女達がリーンハルト様のハーレム要員ですね!全員が指に『治癒の指輪』と『デモンリング』を嵌めてましたよ。羨(うらや)ましいな、私も駆け出し冒険者の時に迫っておけば良かったわ」

 

「おい、ミリンダ!口止めもされたんだから他で喋るなよ。どちらも迷宮探索には必要なアイテムだ、巻き添え食って厳罰とかお断りだからな」

 

「しかしドラゴン種狩りも驚きましたが、グレートデーモンが経験値稼ぎのモンスターにしかなってないなんて……

一日で百二十体なら、デモンソードやデモンリングを三十個前後は手に入れている筈ですよ。大量に市場に流す危険性と利用価値が有ると考えてストックした、でも明日もバンクを攻略してくれるそうなので助かりますね」

 

 ハイゼルン砦を落としウルム王国のジウ大将軍を負かして大出世をしたエムデン王国の英雄、伯爵となり領地まで賜ったのに私達平民を見下さない稀有な上級貴族。

 宮廷魔術師第二席だが筆頭であるサリアリス様が公式に後継者と言った、未来の宮廷魔術師筆頭殿は珍しい御方だ。

 

「出世しても傲らない稀有な御方です、私達も誠心誠意尽くすに値します。当然ですが恩恵も凄いですね、デモンソードにデモンリングが一日に十個ずつ。普通はランクC以上のパーティが攻略しても一個か二個ですよ」

 

 冒険者ギルド本部は各国に有る巨大なギルドだが、所属冒険者の強さの他にも希少なドロップアイテムの獲得数も重要な判断材料になる。

 僅か四ヶ月で大量のドロップアイテムにドラゴン種の素材を提供して頂けるリーンハルト様は上得意様でもある。だが依存ばかりでは問題だ。我々も何かお役に立たなければ……

 

 


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