古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

366 / 999
通算UA500万突破及び、お気に入り数も1万人を突破しました。
本当に有難う御座います、評価も年明けからジワジワと上がってきました。
評価を下さった方々に本当に感謝します、執筆の励みになりました。




第366話

 バルバドス師の本妻、フィーネ殿の実家であるフレネクス男爵と息子達と会った。ナルサさんに執着するペタルタス殿が僕に噛み付いて来た、格下に言い掛かりに近い事を言われた訳だ。

 色に狂って狙った女を後から奪われたとか思っているのだろう、バルバドス師もフレネクス男爵も予想外の馬鹿さ加減に驚いている。

 だがこの状況を利用してバルバドス師の負担を減らそう、そう考えて優しく微笑んだ。同性に贈る貴族の男の微笑みは威嚇の意味も有る、厳ついデオドラ男爵なら恫喝の笑みだ。

 残念ながら僕はデオドラ男爵とは違い優男風だから威嚇にはならないが、暴言を吐かれて怒るより笑われた方が怖いだろう。

 

 僕に対して『師であるバルバドス殿の資産を狙っていると噂が有る。実際に使用人の引き抜きをしたそうではないか!使用人も貴族の財産、余り良くない事ですぞ』と言った勇気は認めて敵として認定しよう。

 

「フレネクス男爵?」

 

「な、何かな?リーンハルト卿、その息子が言った言葉はあくまでも噂話であってだな。本心ではないのだ、誤解の無い様に頼む」

 

 いやいや、吐いた言葉は戻せないぞ、簡単に納得出来る訳が無いだろう。

 

「僕は我が師からは魔術師絡みの遺産以外は相続しません、誓約書を書いても良いし公式に発表しても良い。貴族院が相続を認めたのも、その部分だけです」

 

 実際に金銭的な相続は要らないがメルサさんは僕の屋敷に来て貰う、働くかは別としてナルサさんの祖母だから孫娘と一緒に暮らして貰いたい。メルサさんも喜ぶだろう、僕から見ても仲の良い二人だから……

 

「そうか!そうでしたか、いやはや誤解と言うのは困ったモノですな」

 

 心底嬉しそうだな、一番の心配事が無くなったからか?だが甘いぞ、僕はバルバドス師の心配事を無くす必要が有るんだ。

 

「僕は敵と味方の線引きには拘る方です。バニシード公爵にマグネグロ殿とビアレス殿、明確に敵対した相手には厳しく接しました」

 

 この言葉にフレネクス男爵は真っ青になった、バルバドス師の遺産を横取りしないと公式に認めた後に、お前は敵対するなら潰すと言ったんだ。

 

「いや、息子の言葉は噂であり自分の意見じゃないのですぞ」

 

「随分と後ろに控えるナルサに熱い視線を送ってますね、聞けば自分の妾にしたいと強引なアプローチを続けていたとか……

彼女は僕が貴族街に屋敷を構えるにあたり人手不足だろうと我が師から託されたメイド、それを財産を奪うとか引き抜くとか師の労りの気持ちを踏みにじる言葉を真正面から吐かれた訳です」

 

 笑顔から真顔に変える、本気さを知らしめる為にだ。未だ未成年な僕は幾ら実績を上げても見くびられる事が多い、伯爵本人に男爵の五男が暴言を吐くのは認めてないからだろう。

 我が儘一杯に育てられたのか本人の資質かは分からないが、貴族の劣化が激し過ぎる。三百年前の連中は未だマシだったぞ。エムデン王国の未来が不安になるが大丈夫なのか?

 

 足を組み直しながら相手を見る。フレネクス男爵と次男殿は蒼白、五男殿は真っ赤になって下を向いている。握る拳に力が入っているのは我慢しているからだが、何を我慢している?

 馬鹿な事をした自分に対してか、僕への憎しみか……

 

「フレネクス男爵?」

 

「何ですかな、リーンハルト卿?我が息子に代わり俺が……」

 

 その先は言わせない、謝罪を受ける訳にはいかない。嫌な奴と思われても、一旦相続絡みの養子縁組は白紙に戻すべきだ。十年後に改めて話せば良い。

 

「バルバドス師の遺産を相続する者は当然僕ではありませんが、フレネクス男爵家の縁者である必要は無いと考えています」

 

「いや、それは他家に干渉し過ぎですぞ!我が姉はバルバドス殿の正妻、実子が居なければ我が家の縁者が相続人の候補になるのが常識ではないか!」

 

 やはり五男殿は僕に対する怒りを我慢していたんだな、この状況でも更に文句が言えるとは驚きだ。確かに常識では有るが……

 

「バルバドス師は未だ現役です。実子を授かる可能性が無い訳じゃない。故に養子縁組を急ぐ必要も強制する事も無い訳です。相続人とは実子が常識、居ないなら出来るまで待つ。違いますか?」

 

 今年六十五歳のバルバドス師だが、現役の男だ。それをもう子供は無理と決め付けるのは失礼だろう。早く財産を寄越せって言っているのと同じ事だからな。

 

「確かにそうですな、俺も少し急ぎ過ぎたみたいだ。バルバドス殿、申し訳なかった。今回の件は全て白紙に戻してくれ。元気になったらフィーネを戻すので、可愛がってくれると嬉しい」

 

 これで暫くはバルバドス師に養子縁組は迫らないだろう。少なくともフィーネ殿に望みを託すしかない。何れは遺産相続の為に養子縁組に応じると決めているんだ、現役な内は大人しくしているべきだ。

 

「それが良いでしょう、本妻殿と子供が出来るのを見守るのが常識です。血の繋がりのない親族を養子縁組など控える行為ですよ。そうですよね、ペタルタス殿?」

 

 貴族の常識だと僕を批難した五男殿に質問する。どう答える?

 

「そうですね、その通りですな。全くその通りだ……」

 

 悔しそうだが、隣に座るフレネクス男爵が彼の膝に手を置いて強く握っている。馬鹿な反抗や反発はするなって意思を感じたのだろう。

 だが僕にはもう一つの心配事を片付けなければならない。そしてフレネクス男爵家に念を押す意味でもだ。

 

「これで問題の一つは解決しましたね。僕はバルバドス師の遺産相続はしない。フレネクス男爵はバルバドス師が現役の間は無理な養子縁組を押し付けない、フィーネ殿との仲を見守る。

それと二人の妾殿も安心して戻れる様に配慮して下さい。寵愛を受ける女性が多ければ子供を授かる可能性も高まるでしょう。バルバドス様も宜しいでしょうか?」

 

 ニコリと笑って話を纏める。バルバドス師は実子を授かる事を諦めているが、妾殿二人の安否も関係する。これで彼女達を害したら僕と敵対すると慎重になれば良い。

 

「宜しいも何もないだろ?お前がそれで良いなら俺は構わない。だが妾達まで戻す必要が有ったのか?」

 

 ナルサさん情報だが、本妻殿の行動に恐怖した妾達は命の危険を感じて逃げ出した。だがバルバドス師との関係は悪くはなかったし、未だ若くて美しい女性達とも聞いている。

 背後関係は調べてないが同じ派閥の貴族の娘らしいし、怖い思いをさせてるなら解消するべきだ。

 

「はい、男の一人暮らしより華やかな方が良いですよね?妾殿二人は若くて美人と聞いていますので、問題は無いと思います。何より安心させて下さい」

 

「お前はそう言う気遣いをするな!自分は側室一人を大切にしてるのに、俺には三人と頑張れって言うんだな?」

 

 拗ねたよ。この人は子供っぽいし直ぐに拗ねるし拳骨を脳天に落とすし一度拗ねると回復させるのが大変なんだよ。

 

「はい、僕もバルバドス様の子供を抱いてみたいです。もし土属性魔術師の素養が有れば育ててみたいのです。我が師から頂いた魔術関連の物を噛み砕いて教えます。それが僕のバルバドス様に対する恩返しになるのでしょう」

 

「ははは、その時お前は宮廷魔術師筆頭だろ?俺の子供は英才教育を受けられる訳だな」

 

 少し機嫌が良くなったみたいだな、これでバルバドス師の問題は解決だ。後は呑気に子作りに励んで貰えば良い、第二の人生って奴だ。

 

「リーンハルト卿、妾殿二人の安全については俺が確約する。絶対に危ない事にはしない。ペタルタスは廃嫡し、領地に戻して二度と王都には来させない。それで手打ちにして欲しい」

 

 深々と頭を下げて詫びて来た、申し入れの内容は妥当だろう。僕と敵対するメリットとデメリットを考えて妥協案を提示して来た。

 僕としては廃嫡はやり過ぎだと思うが、王都に来ないならば問題は無いだろう。妾殿二人の安全は、フィーネ殿さえ説得して抑えれば問題無い。

 

「親父、廃嫡って何だよ!それは無いだろう。嫌だぞ、田舎に引き籠るなんて嫌だ!」

 

「黙れ、馬鹿者が!自分が見初めたメイドを取られた位で妄言を吐く馬鹿は要らぬ。お前は領地で大人しく仕事をしてもらうからな!」

 

 廃嫡しても仕事と生活の面倒は見るのか。ならば問題は無いが、鞭だけで飴が無いと敵対するな。または敵対勢力に取り込まれ易いだろう。

 

「フレネクス男爵の一族には土属性魔術師は居ないのですか?」

 

 魔術師の大家の養子候補に魔力が無い一般人とは問題だろう。だから魔術師絡みの相続が僕になったんだ。

 

「養子縁組は男子に拘ったからだ。我が子ではないが、親戚に一人居る。嫁ぎ先の旦那が亡くなって出戻りした女がな。確か今年三十二歳になる」

 

 妙に詳しいが最初は候補に上がったのかもしれない。だが男尊女卑が普通の貴族社会では、女性が後継者として養子縁組は無理だから外れたのかな。

 

「彼女のレベルは?」

 

「マーリカのか?確か25か26だと思ったが、悪いが詳しくはない」

 

 本当に知らないのだろう、何故そんな質問をされるのか困惑気味だ。だがレベル25前後なら合格ラインに近いだろう、ならば伝手として優遇するか。

 

「僕はセラス王女が魔術師ギルド本部に出資して作った『王立錬金術研究所』の所長をしています。今はレジストストーンの量産化の為に所員を集めています。回避率35%のレジストストーンの製作に成功しましたが、量産品は回避率20%前後を目指しています。

マーリカさんですが、此処で働いてみませんか?」

 

 バルバドス師の本妻の実家だし、ニーレンス公爵の派閥の一員だ。突き放すだけは悪手だから取り込みを誘ってみる。魔術師とはいえ、一族の出戻り女性だから最悪失ってもダメージは少ない。僕との伝手が出来るなら尚更だ。

 

「セラス王女、魔術師ギルド本部、回避率35%のレジストストーン?」

 

 条件は良い筈なのに凄い考えているな、敵対一歩手前の僕からの提案に不安を感じたか?

 

「僕が直接指導します。今後もセラス王女の依頼品の量産に携わる事になるでしょう。ノルマは課しますが、全て買い取りなので稼げるでしょう」

 

「リーンハルト卿が直接指導してセラス王女の依頼品を量産する、それは買い取り……」

 

 また考え込んだ、余程警戒されたんだな。利益のピンハネはしない、努力し成果を出せば下手な貴族より稼げる筈だぞ。もう一息だと思う、余り時間を掛けたくないしダメ押しするかな……

 

「王立錬金術研究所の所員の土属性魔術師達は、僕の派閥として優遇します。何れは自分の派閥として魔導師団を立ち上げる、その中核を成す魔術師の育成を含めています」

 

「おお、そうですか!リーンハルト卿の派閥の一員としてマーリカをですか、それは嬉しい事ですな」

 

 漸く警戒を解いたか。強欲だが用心深いと考えるべきなのだろうか?張り付けた笑みのまま頷く。これでフレネクス男爵は僕に伝手が出来て、上手くすれば今後も付き合いが続くと考えたな。

 

「募集は魔術師ギルド本部が行ってますが、僕の推薦としておきます。ですがその前に一度会ってみたいですね」

 

「分かりました、我が屋敷に御招待させて下され。妻も娘達も噂の英雄殿に憧れていますので、喜ぶでしょう」

 

 にこやかに握手を交わして終了、これでバルバドス師の問題は解決だな。

 息子一人を処罰しても一族の女性が僕の配下になればお釣りが来る。僕も数の少ない土属性魔術師を求めてるので、性格に難がなければOKしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「これでバルバドス様の問題の一つは解決しましたね。出過ぎた真似でしたが、お許し下さい」

 

 五男殿は不満タラタラだったが当主の決定には逆らえまい。僕は今後の付き合いもメリットも提示した。拒絶するなら敵対したと認定して対処すれば良い、問題は無いな。

 

「最初は不安だったんだぞ、フレネクス男爵はフィーネの実家だし付き合いは深かったんだ。

終わってみればナルサに言い寄った馬鹿は排除され、お前の派閥に親族を押し込めた。現役宮廷魔術師第二席の配下なら御の字だな」

 

 その通りだが不機嫌そうだな、何か問題でも有ったかな?

 

「僕としても配下の土属性魔術師が確保出来るなら嬉しいです」

 

 まさにギブアンドテイクな関係だと……何故笑いながら近付いてくるのでですか?笑ってるけど怖いのです。

 

「痛い、痛いです!何故に拳骨なんですか?」

 

「良く分からないが悔しいからだ!お前はやっぱり変だ」

 

 そんな事で拗ねて拳骨を落とさないで下さい。僕はスパルタ教育はお断りなんです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。