古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第368話

 

 

 魔法迷宮バンクの九階層を攻略した後、一旦屋敷に寄ってから自分だけ魔術師ギルド本部に向かう。今回は事前に申し込みを行っている。前回は急に押し掛けて迷惑を掛けてしまった。

 家紋を付けてない黒塗りの馬車を使用しているが、如何にも貴族のお忍び感が満載だ。だが正直に家紋を掲げれば大抵は悪い方に事が運ぶ。王宮に行くなら身元証明の為に家紋有りが基本だけど、私用の場合はお忍び用で良い。

 後は名誉の問題だな、王宮勤めでも自分の馬車で出仕出来る連中は少ない。逆に僕が徒歩で出仕したら問題だ、身分社会は大変なんだ。

 

 魔術師ギルド本部の裏側に回り要人用の馬車停めに向かうと、既に何人かの職員が待機していた。今回は正式な訪問で僕の肩書きも前より増えた。宮廷魔術師第二席・伯爵・王立錬金術研究所の所長と豪華になったものだ。

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様」

 

 レニコーン殿とリネージュさんが二人揃って笑顔で出迎えてくれるとか、何か有ったかな?何かやらかしたかな?

 

 その後ろに並ぶ八人の職員も作り笑いを浮かべているが固い、そもそも魔術師とは愛想の良い者って少なくないかな?

 自分の能力に強い自信を持っているから周りに合わせる必要が少ない、だから対人関係が不得意な連中も多い。

 後は強気で傲慢で我が儘とか色々言われる。マグネグロ殿やリッパー殿はその典型だ、僕も可愛げが無いとか生意気とか言われてるから……

 

「急な訪問で申し訳ないですね、わざわざ二人揃って出迎えて頂き、有り難う御座います」

 

 礼には礼を返す、笑顔もオマケに添えておく。クラークさん曰く『人間関係を良くする笑顔は何時でも何処でも無料です』だそうだ。威嚇の意味もある笑顔とは使い勝手が難しい。

 

「セラス王女より連絡を頂いております。早々にノルマを達成した事へのお褒めの言葉も頂きました」

 

 リネージュさんの言葉、つまり面子は保たれたので今後も宜しく頼むって事だ。魔術師ギルド本部の利益はレジストストーンの量産化と販売に掛かっている。ノルマ達成は僕と王立錬金術研究所の成果であり、魔術師ギルド本部は関係が薄い。

 

「回避率35%、人間の魔術師では錬金不可能と言われたレジストストーンを作り出せるとは驚きです」

 

「これ以上は時間が掛かるので次は睡眠と混乱のレジストストーンを作ります。初回は回避率30%、次が回避率35%ですね。大体二ヶ月から三ヶ月を目安にしています」

 

 既に完成させてバルバドス師には渡しているが、時間の余裕が欲しいんだ。先ずは20%前後の量産化に取り組む。

 

「それは驚きですね、立ち話もないので応接室の方にご案内します」

 

「ささ、リーンハルト様。此方へどうぞ」

 

 両脇を固められて連行されるみたいに応接室に向かう、やはり何か有りそうだぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 応接室に通された。調度品から考えても上級の部類に入るだろう。直ぐに紅茶が用意され、カットされたフルーツ盛り合わせが出された。紅茶には柑橘類が合うと僕は思う。

 そして前回は男性魔術師が運んで来たが、今回は妙齢の女性魔術師だ。こんなサービスは不要だぞ。

 レニコーン殿もリネージュさんも機嫌が良さそうだ、だが何か企んでいると言うか隠していると言うか……

 

「先ずはハイゼルン砦の奪還およびジウ大将軍との戦いの勝利、おめでとうございます。流石はリーンハルト卿ですね、王都では連日リーンハルト卿の噂ばかりでした」

 

「アウレール王も大変な喜び様でしたわ、ハイゼルン砦の奪還はエムデン王国の悲願でも有りました」

 

「有り難う御座います、王命を達成出来て嬉しく思います」

 

 何度目だろう?祝いの言葉に同じ返事を返す。王命絡みの場合、余り自分の功績をひけらかすのはマイナスだ。

 

 臣下にとって王命とは達成出来て当たり前、これに苦労したと大袈裟に言うのはアウレール王が出来そうもない相手に命令を下した事になる。

 上官や上司とは、配下の能力に見合った仕事を出すのが普通、無理な命令は配下の能力を把握してないのと同じ扱いなんだ。

 これが敵が攻めて来たのを撃退とかなら別問題だ。敵は勝てると思った戦力を投入してくるので、跳ね返せれば自慢して良い。

 

「噂通りの謙虚さですね、私達もリーンハルト卿に祝いの品を贈りたいのです。リネージュよ」

 

「はい、レニコーン様。此方になります」

 

 予め用意していたのだろう、直ぐにトレイを運び込んでテーブルの上に置いた。布が被せてあるが中から微弱な魔力を感じる、マジックアイテムだな。

 

「魔術師ギルド本部が総力を上げて探し出しました」

 

 リネージュさんが布を捲るとワンドが五本並んでいる。古いし各々からも微弱ながら魔力を感じる。だが既に実用に耐えるだけの魔力は感じない、研究になら価値は有るが実践では使えないな。

 

「古代のマジックアイテムですね、ワンドばかりですが……」

 

「リーンハルト卿はバーナム伯爵に招かれた派閥構成員への御披露目パーティーの席で、古代のナンバーズワンドを復活させたと聞きます。これらは本物のナンバーズワンドでしょうか?」

 

 本物?僕がジプシーの王に贈った十本が本物だとしたら、これは全部偽物だ。三百年経っても自分が錬金した物は分かる。これは全く違うが、一応マジックアイテムではあるよな。

 手前の一本を手に取り鑑定する、微弱な魔力は感じるが付加魔法の残りカスだな。だが柄の部分は純銀で、先端に付けられた宝玉は大粒のルビーを中心に小粒のルビーが配置されている。

 

「材質は高価ですが、込められた魔力の残滓を考えればナンバーズワンドじゃない。これは魔力の消費を抑えるのと強固な固定化の魔力付加が掛けられていたみたいですね」

 

 前にアウレール王から貰った『月桂樹の杖』と構成が近い、だが一割カットの『月桂樹の杖』よりも効果は高かった筈だ。

 

「ふむ、そうですか。他のワンドはどうですか?」

 

「他のですか?そうですね……」

 

 残りは四本、次のはどう見ても違うだろ!

 

 先端にドクロを模した水晶が取り付けてある。その隣は大理石の馬の彫刻が施された、ロッドじゃなくて杖だな。共に強固な固定化の魔法が重ね掛けされており、比較的柔らかい素材なのに傷一つ付いていない。

 何かしらの付加魔法が掛かっていただろうが、調べないと直ぐには分からない。

 

 残り二本も微妙だ、珍しい動物の骨らしき素材の物を手に取って鑑定してみる。

 

「これはドラゴン種の骨を削り出して作った珍しいロッドですね。先端はシンプルな鉄球ですが、何かの魔力付加を与えるみたいです。他のもそうですが、込められた魔力が枯渇してるので効果は分かりません」

 

 どれも二百年以上昔の物だとは思うが微妙だな、最後の一本を手に取る。

 

「あれ?これは……」

 

 ありふれた金属製で飾り気の無いシンプルなロッド。先端の宝玉は魔力石を加工したのだろう、天然の宝石類ではない。

 だが魔力を通すと柄の表面に薄く文字か記号が浮き出る、握った手から魔力が戻ってくる。自分でロッドに込めた魔力が何かに変換されて戻って来たが、経年劣化の為か効果が分からないほど薄い。

 

「自分の魔力を何かに変換するロッドですね、だが効果が薄くて分からない」

 

 柄に浮き出た文字と記号を良く見ると身体能力強化系だよな、多分だが筋力と敏捷と言う肉弾戦に必要なモノだ。魔術師なら魔力と敏捷とか弱点の防御系だと思う、魔術師に肉弾戦は矛盾している。

 

「いや、この文字配列は……それに先端の魔力石の効果を……」

 

 これは僕が作ったナンバーズワンドの魔力刃の構成に似ている。この魔力石の周囲に魔力刃を構成し、底上げした身体能力で魔術師に肉弾戦を可能にしたロッドだ。

 だが短期決戦用だな、筋力と敏捷だけで防御と体力は素のままだと虚弱な魔術師では長期戦は無理だよ。

 

「面白いロッドですね、これは魔術師に短期間の肉弾戦を可能にする考えで作成したのでしょう。

ロッドに魔力を流す事により先端の魔力石から魔力刃を生成、魔力付加により筋力と敏捷を上げる。だが防御と体力は素のままだから実際に戦うのは厳しい。攻撃を一発貰えば負けるんじゃないかな?」

 

 高位魔術師なら魔法障壁の同時使用で、ある程度は耐えられる。だが魔術師が接近戦とか有り得ないだろう、その前に打つ手が幾つも有ると思う。

 確かに僕が作ったナンバーズワンドもジプシーの王の十人の武闘派の側近達の為に作ったんだ。同じコンセプトだし全く有り得ない訳じゃないのか?

 

 ロッドに魔力を流すのを止めて再度観察する、素材は鉄製だが表面に傷が付いている。固定化の魔法の効果は残ってるから、結構な衝撃がないと傷付かない筈だけど……

 

「誰かが実際に使っていた?肉弾戦が得意な魔術師が居たのか?」

 

「既に滅びたリトアルシア王国の遺跡から発見された内の一本です。これ等は隠し部屋に全て置いてあった中でも保存状態の良かった物です」

 

「リトアルシア王国ですか……」

 

 知らない名前だな、僕が処刑された後に建国し滅びた国だな。現代では聞いた事のない国だし……

 もう一度握っていたロッドを良く見る、柄と宝玉の接続部分の金具に制作者の銘が小さく刻まれていた。自己主張の少ない制作者だな、普通は分かり易い場所に刻むものだが……

 

「リ・ツアイツ?この銘は何だ?」

 

「かの有名なルトライン帝国最強の宮廷魔術師、ゴーレムマスターのツアイツ卿の作品だと思われています。同じ銘を刻まれたマジックアイテムも少数ながら存在します。これらも全てそうです」

 

 馬鹿な!僕は自分が錬金した物に銘など刻まない、思い入れの有る物や他人に譲渡したものにしか刻まないんだ。

 これは僕の錬金した物じゃないが構成が似てはいる、僕の死後に作られた物だろう。確かに他の四本も小さく銘が刻まれているが、名前を騙られたのか?

 存命中に贋作など許さなかった筈だ。確かに偽物が出回った事も有ったが、直ぐに問合せが来てバレた。僕は自分の仲間以外に殆ど錬金した作品を渡さなかったから……

 

「リ・ツアイツの銘には疑問を感じますね、現存するルトライン帝国時代の魔導師団の鎧兜とも作り方が違うと思います。ですが本来のナンバーズワンドも魔力刃を生成するので断定は出来ません」

 

 断定出来る、本人が作ってないって言ってるんだ。だが信用されないだろう、だから言葉を濁した。

 だがレニコーン殿とリネージュさんは、折角集めた古代の僕の作品が偽物かもしれないと言われたのに、気を悪くした様子は無い。もしかして想定済みで試されたのか?

 

「現代で一番ツアイツ卿に近いと言われるリーンハルト卿が言われるなら信憑性が有りますね。このリ・ツアイツの銘が刻まれた品は結構多いのですが、同時代に作られた魔導師団の鎧兜よりも劣化が激しい」

 

「初期の作品とか品質のグレードが低いとかも考えられますね、僕も消耗品と割り切る作品はそこまで作り込まないですよ」

 

 今更ながら自分とツアイツが似てないと接点を否定する、だが名前を騙られるのは気に入らない。

 

「この品々に施された付加魔法を再現出来ますでしょうか?」

 

「再現ですか?」

 

 武器の魔力付加の研究、それは可能だ。レベルアップの恩恵で転生前の技術も徐々に使える様になってきた、今なら風属性魔術師達が使う補助魔法程度の身体能力強化は可能だ。

 魔力刃についても問題は無いだろう、不意討ちには最適の方法だが使い勝手は悪い。僕は好んで肉弾戦はしないぞ、最後の備えだろう。

 

「そうです、武器や防具に魔力を付加する魔法技術をリーンハルト卿は持っています。ならばこれ等のマジックアイテムも調べれば、再現は可能なのではないですか?」

 

「レジストストーンの件も合わせれば可能と私達は判断しました、勿論最大限の援助はします。いえ、させて下さい」

 

 漸く理解した、レニコーン殿とリネージュさんの心配事は、僕が『王立錬金術研究所』の他に独自の研究で『雷光』を作った事に不安を感じたんだ。

 全く関係の無い所で成果を上げられては絡む事が出来ない、だがギブアンドテイクの魔術師ギルド本部は何かを与えねばならない。

 その為の古代のマジックアイテム達か、実用性は無くなったが研究材料としてなら最適だ。魔術師達にとっては価値が高い、対価としては悪くない……と考えたか。

 

「可能かな、時間を掛ければ劣化品を作れるでしょう。それから品質の向上を研究すれば何とかなると思います。時間に余裕が出来てからですね」

 

 言葉を濁しておくが、幾つか復元して渡せば良いだろう。魔術師としても研究するネタが増えるのは大歓迎だから。

 


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