古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第373話

 中々の連携だろう、上位三人を囮にして風属性魔術師の『マジックミスト』で視界と魔力探査の妨害。

 本命の土属性魔術師のゴーレム達が真後ろに回り込んでの奇襲、更に攻撃魔法による一斉攻撃。

 距離を20mまで近付けての模擬戦だから可能な突撃だが、未だ足りなかったな……

 

「魔法障壁全開!」

 

 守りを固めてからレベル40のゴーレムポーンを円形陣にて錬成配置、スピードの関係で最初に突撃してきたグレイトホーンを両手持ちアックスにて潰す。

 レベル差は約二倍、この圧倒的な能力差では例え突進してきても抑え込める。

 

「ハッ!」

 

 魔法障壁を外側に向けて軽く放出し、魔力の霧を吹き飛ばす。視界が晴れれば突撃してくるアルティメットデスキャンサーや邪気赤子、それに後方からスピード重視の人型ゴーレム達が見える。

 総数約三十体か、数を減らして魔法攻撃に人員を割いた為に少ないな。後はゴーレムポーンで迎撃すれば良い。

 単発で撃ち込んで来る魔法攻撃はゴーレムポーンに防がれて僕には届かない。ストーンランス程度ではゴーレムポーンのラウンドシールドに傷すら付けられないぞ。

 

「良く考えたと思う、連携も悪くはないよ」

 

 感想の後に彼等のゴーレムを殲滅した。観客席に居る方々から拍手を貰ったので手を振って応える。

 気が付けば練兵場に殆どの宮廷魔術師団員が集まっているし、ラミュール殿とフレイナル殿も配下の水属性魔術師と火属性魔術師を連れてきている。

 宮廷魔術師団員を鍛える事が宮廷魔術師の仕事っぽくなっているから、ラミュール殿達も練兵場に顔を出す様になった。錬度向上で良い事だと思う。

 

「セイン殿、今回の模擬戦は及第点ですが、後方の奇襲部隊を人型ゴーレムにした訳は?」

 

 肩を落として鬱ぎ込むセイン殿をカーム殿が叱咤激励している、言葉はキツいが彼には嬉しい御褒美らしい。

 彼を中心に半円に土属性魔術師達が並ぶ、微妙な距離が離れているのが悲しい。

 

「歩行速度が速いからですね、それと奇襲要員が人型ゴーレムに慣れていたからです」

 

「全く手加減無視の大人気ない模擬戦でしたわ!この情けない殿方が余計に落ち込んで鬱陶しいったら有りませんわ」

 

 普通にセイン殿の前に立って両手を腰に当てて胸を反らすな、目の毒なんだよ。然り気無く視線を反らす、だが集まった連中はチラチラとカーム殿を見ている。

 見た目は気の強そうな美人なのは認める、だが貴族の令嬢として慎みは覚えて欲しい。

 

「何だと?カーム殿もこれなら勝利間違い無しと太鼓判を押した筈だぞ!」

 

「まぁ?私のせいにするの?何て責任感の無い情けない殿方でしょう!」

 

 また夫婦喧嘩が始まった、もう結婚しても良いよね?周囲のチラチラとカーム殿を見る目が、二人を見る白い目に変わった。多分だが何時もの事と呆れているのか何なのか……

 

「今回のゴーレムポーンはレベル40、ゴーレムナイトも使ってないし最大制御レベルでもない。だが発想自体に努力は感じたよ、十分に合格点だ」

 

「おお!リーンハルト殿、それは感激です」

 

 力を認めた事により本人達や周囲の連中も理解したのだろう、夫婦喧嘩で評価は落ちたが少しは回復したかな?

 

「随分甘いし回復も速い事で……セイン殿を甘やかすのはダメですわ」

 

 配下の育成に文句を言われた、だが僅かながらにセイン殿への気遣いを感じる。カーム殿なりに彼に対して思う所が有るんだな、意外と異性に気を使うタイプか?

 

「僕は褒めて伸ばすタイプなんですよ。さて次の課題はズバリ人型ゴーレムを学んで貰います」

 

 微妙な顔のセイン殿に構わず簡略化したゴーレムポーンを二体錬成し、一体はバラしてパーツにして床に並べる。見本として現物の効果は絶大だ。言葉や文章では伝わらない事も、実物を見て調べれば自力で解決出来るから。

 

「各々好みは有るかもしれないが、次の課題は均一化された人型ゴーレムです。見本と同じゴーレムを、実用レベルで確実に五体を同時運用出来る様にして下さい。レベル20以上を合格点とします」

 

 この言葉に、集まった土属性魔術師の半分が難色を示した。元々はバルバドス師にキメラ(合成魔獣)のゴーレムを学んだ連中だ。

 デスキャンサー殿も口には出さないが不満そうにしている、反論は出来ないが納得も出来ないのだろう。

 数少ない人型ゴーレムを操る連中は頷いている、僕と同じく汎用性を重視するのだろうか?

 

「不満は分かる。僕もバルバドス師のキメラと戦って負けたから、異形のゴーレムの有効性は理解している。

だが此処は軍隊で、敵も軍隊だ。効率良く戦うには汎用性の高い人型ゴーレムの大量運用に限る。それはハイゼルン砦やウルム王国のジウ大将軍と戦っても有効だった」

 

 極論だが実績が有るから否定は出来ないのだろう、実際に軍隊とは規律と効率を求める戦闘集団だ。個人の武勇より部隊の成果を求める。僕は単体だがゴーレム軍団が有るから同じ扱いだよ。

 

「アウレール王はウルム王国と事を構える気が満々なのね。でも私達は宮廷魔術師団員よ、軍隊とは違うわ」

 

 腕を組んで胸を強調してきた、カーム殿は自分の装備や姿も交渉事に組み込んでないか?話し相手から目を反らすのは、普通は負けに近い行動だよな?

 

「僕はそうは思わない、宮廷魔術師とはエムデン王国を害するモノに向かう単体最強戦力。だが宮廷魔術師団員は違う、個人では無理だから集団で連携する。国家に忠誠を誓う戦闘集団が軍隊ではないと?」

 

 変な特権意識は捨てさせないと役に立たない。彼等は一般兵や騎士団員よりは強いが、宮廷魔術師よりは格段に弱い。中途半端に強い連中を好き勝手させては駄目なんだ。

 

「それは……でも軍隊なんて安っぽい存在じゃないのよ、私達は誇り有る宮廷魔術師団員なのよ!」

 

「国家に忠誠を誓った聖騎士団副団長の令嬢の言葉ではないですね。では宮廷魔術師団員とはエムデン王国にとって何なのですか?」

 

 黙り込んでしまったか。自分達は特権階級だから軍隊と同一視などしないでくれ、聖騎士団や常備軍からの命令も受け付けないとか言いたいのだろう。

 今迄も近い扱いで持て余されていた。マグネグロ殿が好き勝手に行動して聖騎士団や常備軍と不仲になった理由がソレだよ。それを真似た団員達をサリアリス様は見捨てた、同じ過ちは繰り返すな!

 

「マグネグロ殿と同じ過ちは犯さないでくれよ。宮廷魔術師団員は聖騎士団や常備軍より上の存在だ、故に命令も聞かなければ協力もしない。

そんな国益を害する事は許さない。嫌なら宮廷魔術師団員を辞めるか僕に勝つ事だ、返事は?」

 

 転生し二度目の人生も宮廷魔術師となった、だが今回は悔いの無い失敗しない人生を送りたい。前回は実の父親に危険視されて、濡れ衣を着せられ処刑された……

 僕も甘かった、肉親だから殺す事は無いと甘く考えて油断したんだ。

 

 だが今回は違う、アウレール王もリズリット王妃も仕えるには理想に近い方々だ。成果に対する報酬も多い位だし、ジゼル嬢の為に配慮もしてくれた。

 ならば国家の為に宮廷魔術師としての責務を完璧に務める事が、僕が彼等に応える事だ。だから宮廷魔術師団員の考え方は矯正させる。

 

「「「分かりました!」」」

 

 ふむ、元気良く返事をしたな。セイン殿達だけじゃなく風属性魔術師達もか。

 唯一、カーム殿は不満そうだな。彼女は聖騎士団員達をジゼル嬢絡みで、僕との勝負に利用した前科持ちだ。

 まさか彼女にとっては父親が副団長を務める聖騎士団は格下とか思っているのか?ジロリと睨み付ける、反抗的な態度は許さない。

 

「分かった、分かりました。確かに私達は全員で挑んで負けた敗者の集まり、勝者の意見には従うわよ。

今のリーンハルト様に逆らう事は許されざる暴挙、公爵家に正面から喧嘩を売って打ち負かす程の殿方ですからね」

 

 む、仕方無く従います的に言われたが、確かに力で押さえ付ける様な説得、いや命令に近かったな。反省が必要だ、強引に押さえ付ける事には反発が生まれ……

 

「おい、カーム!今の態度は失礼極まりないぞ、自分を安く見せる言動はするな!」

 

 セイン殿がカーム殿の頭を押さえて下げさせたぞ!

 

「な?貴方は何を……」

 

「黙れ!リーンハルト殿に謝罪するんだ。すみません、カームに悪気は無いのですが口が悪くて……本心ではないので許してやって下さい」

 

「セイン殿……分かりましたわ。申し訳有りませんでした、リーンハルト様」

 

 おおぅ?珍しくセイン殿が怒ったぞ。そして自分も頭を下げた、カーム殿も言葉に従い謝罪した。ならば不問に処すのが最適だと思う。

 

「謝罪を受け入れます。これからもエムデン王国に仕える者として、お互い精進して行きましょう」

 

 男を魅せたセイン殿に熱い視線を向けるカーム殿を見て、実はもう出来ちゃってるんじゃないか?と思い始める。

 最初は本気じゃなかったが、正式にジョシー副団長やセイン殿の実家に話をした方が良いかもしれないな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 宮廷魔術師団員達との模擬戦を終えて執務室に戻る。彼等の努力次第だが、初期のゴーレムポーンに匹敵する五十体のゴーレム軍団が完成するだろう。

 これなら、戦場で火属性魔術師を前線まで護衛する盾代わり、みたいな汚名は返上出来るだろう。盾役も可能だが他の運用方法も見出だせる筈だ。

 

 最近は案内や護衛なく王宮内部を歩く事が可能になった。実績を積んだ事により危険は無いと判断されたのだろうか?

 一人で廊下を歩いていると、一杯のプラムを抱えて運ぶ三人の侍女達を見付けた。確か王宮内部には果樹園が有って、世話と収穫は侍女達の仕事だった筈だ。

 籠城した場合、水は必須で多くの井戸も掘ってあるが、備蓄出来ない新鮮な果物や野菜は収穫出来る様に果樹園や野菜畑が有るんだ。

 籠城の際に全員分は賄えないが、王族や上級貴族達は食べれる。身分社会って奴だが、瓶詰めにしたりして備蓄量はそこそこある。

 王宮で籠城する場合は滅亡一歩手前だから、実際はクーデター対策だな。反乱軍から王宮を守り、時間を稼いで諸侯軍が来るのを待つ、その籠城用の備蓄品だろう。

 

 籠を抱えているので前が見難いのだろう、ぶつからない様に通路の脇に寄って擦れ違い易くする。

 

「あっ!リーンハルト様」

 

「え?リーンハルト様?何処に?」

 

「ラナリアータ!スカートの裾を踏んでるわよ」

 

 気を利かせたつもりが驚かせてしまったみたいだ、先頭を歩く侍女のスカートを後ろの誰かが踏んだらしく、体勢を崩してしまった。

 手に持った籠を放り投げてしまい、僕目掛けてプラムが大量に飛んで来た!

 

「え?魔法障壁が展開した?」

 

 攻撃に対して自動展開する魔法障壁が、たかがプラムが大量に飛んで来た位で展開するのか?

 魔法障壁に弾かれたプラムが僕の前に落ちた、このプラムに強い攻撃力は無いのに何故だ?

 

「も、申し訳有りません、リーンハルト様!」

 

「大丈夫ですか?お怪我は有りませんでしょうか?」

 

 慌てる侍女達に大丈夫だと言って何とか落ち着かせる。宮廷魔術師第二席にプラムを籠一杯ぶちまけたんだ。通常の上級貴族なら、最悪は罰したりするのだろうか?

 幸い他に誰も見ていない、実害も無いし不問にすれば良い。

 

「僕は大丈夫だが君達は平気かい?王宮の収穫物を傷付けたみたいだけど大丈夫?」

 

 魔法障壁で弾いてしまったから傷付いたのも多い筈だが……

 

「平気です、元々見た目が悪いのでジャムに加工する為に選り分けた物ですから。本当に申し訳有りませんでした」

 

 三人一斉に頭を深々と下げたけど連帯責任を負わされるとか考えたのか、小刻みに震えてるのは罰せられると思ってるんだよな。

 それが身分社会だし、上級貴族としては当たり前の行動なのかもしれない。だが慣例に倣う気は無い。

 

「誰かに見られない内に早く拾い集めるんだ、僕は何もされていないし見ていない。君達も何も無かった、しなかった。後で僕の執務室まで完成したプラムのジャムをお裾分けしてくれれば嬉しいな」

 

「「「有り難う御座います、本当に有り難う御座います」」」

 

 深々と頭を下げる彼女達に、気にするなと声を掛けてその場を離れる。それ以上に気になる事が有るんだ。

 籠に入ったプラムをバラ蒔く、広範囲に飛び散るから防げないとして魔法障壁が反応したんだ。それって魔力砲に応用出来ないか?

 籠を筒に見立てて、鉄球一個の代わりに小さい鉄球を複数個詰め込んだら、広範囲に拡散するかもしれない。

 

 これはリズリット王妃に依頼された魔力砲に応用出来る、色々とアイデアが浮かんで来たぞ。早く研究したくなってきた!

 


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