古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第38話

 久し振りのイルメラとのバンクの攻略は楽しい。

 難易度が全然低い冒険者養成学校の実地訓練の方が万倍疲れる、これは信頼感の差かな。

 イルメラ謹製のローストビーフサンドイッチを食べて少し横になる、食べて直ぐに寝ると体に悪いと言うが食後は体を休めるのも大切だと思う。

 

「リーンハルト様、横になるのでしたら私の膝を枕にして下さい」

 

「む、いやそれじゃイルメラが休めないだろ?大丈夫だ、枕も敷布も用意している」

 

 凹凸の有る石の床のバンク迷宮は直接横になると体か痛いので厚手の敷布と掛け布団を丸めた枕も用意してある、だから昼寝は万全だ。迷宮攻略中に万全の寝具準備もアレだが……

 空間創造の有り難みとは殆ど無尽蔵に品物を入れられる事だから、必要性の低い物も何でも入れてある。

 

「私は大丈夫ですから……はい、どうぞ」

 

 編み上げブーツを脱いで敷布に上がりスカートを広げて座る。優しい笑顔を浮かべて膝をポンと叩く、此処に頭を乗せろって事だ。

 膝枕、確かに憧れた事が有った、男の夢だ。だが、だがしかし……

 

「む、す……少しだけ頼む」

 

 誘惑に負けた、だが後悔はしていない。

 

「はい、どうぞ」

 

 眩しい笑顔だ……彼女の太股に負担をかけない様に頭を乗せる、柔らかくて何となく甘い匂いがする。優しく頭を撫でてくれるのだが、完全に弟扱いだろう。

 

「リーンハルト様……」

 

「な、なんだ?」

 

 見下ろされるのって初めてじゃないか、見上げるのも初めてか……見慣れた筈の彼女の顔も新鮮に見えるから不思議だ。

 

「少し眠られても大丈夫ですよ、30分位したら起こしますから……」

 

 何故、そんなに幸せそうな顔が出来るんだ?

 

「そうか、頼む……」

 

 実の母親にも、された事の無い膝枕はとても安心して……良く眠れる……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 約束の30分は、あっという間に過ぎてしまった。程よく緊張も取れてリラックスする事が出来た。

 編み上げのブーツを履いているイルメラを見て思う、少し装備が貧弱だな。

 母上の装備一式を彼女の為にと父上から貰ったのだが、バンク程度では勿体なくて装備しないと僕に預けたままだ。

 確かに装備品は使えば傷むから分かるのだが……

 今のイルメラはモア教の正規の修道服に編み上げブーツ、それに権杖だ。デモンリングを左手に嵌めて上から黒のレース手袋をしている、勿論デモンリングを隠すのが目的で防御力は殆ど無い。

 

「イルメラさん、スカート捲り過ぎてますよ」

 

「リーンハルト様?見ないで下さい、恥ずかしいです」

 

 む、黒い修道服、黒いストッキングに焦げ茶色の編み上げブーツか……修道服の下のインナーに固定化をかけても効果は薄いな、いっそ修道服に固定化をかけるか?

 駄目だ、素材に防御力が殆ど無いのに固定化を掛けても無意味だな。逆に毒や麻痺等の状態異常をレジストする付加を……

 

「あの、リーンハルト様?

真剣な顔で凝視されると恥ずかしいのですが……もし私の着替えが見たいのでしたら、帰ってからゆっくりと」

 

 何を真面目な顔で口走ってるんだ!

 

「違う、全く違うぞ!イルメラの装備の防御力が低いから何とか出来ないか考えていたんだ。断じて着替えが見たいとか思ってない!」

 

 そうですか?とか残念そうに言われたが、布地にも固定化が出来るか状態異常をレジスト出来るか研究してみるか……

 僧侶系は両極端で神の戦士として重装甲・重武装の連中も居る。フルプレートメイルにモーニングスター装備で神の言葉を肉体言語で説く巌つい連中とか。

 逆にイルメラの様に治癒に特化した連中は総じて装備は貧弱だ。高位の僧侶になれば神の奇跡と言う常時魔法障壁を張れる、僕ももう少しレベルが上がれば張れそうだし……

 

「そろそろオーク狩りを再開しよう」

 

「分かりました、準備は済んでいます」

 

 もう二時間ほどボス狩りをして三時の休憩をしたら三階層に下りて宝箱の検証をするか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後きっちり二時間ボス狩りを行った後、三時のお茶を楽しんだ。気分一新、三階層に降りる事にする。

 一階層と二階層と同じく天然の洞窟に手を加えた様な通路、特に変化は無い。ギルドの情報によればポップするモンスターもコボルドだけだ。

 

「イルメラ、先ずは通路でポップするコボルドを倒して宝箱を出現させよう」

 

 コボルドは弓や槍を装備してる場合があり後列にも攻撃が届く。

 なので前列をロングソードとラウンドシールド装備のゴーレムポーンを三体、中列に二体、後方警戒用に一体配置して進む。

 朝の内は多かった他のパーティも殆ど居なくなり擦れ違う事もなくなったか……三分程歩いた時、前方で魔素が集まり出した。

 

「よし、戦闘準備だ。ポップ数は四匹、初撃を当てるぞ……今だ!」

 

 実体化した後直ぐにロングソードを振り下ろす。コボルドはオークより防御力が低いからロングソードでも致命傷を与えられる。

 逃れた一匹が僕等に飛び掛かって来るが中列の二体で迎え撃つ。

 

「ふむ、ドロップアイテムは……ダガー三本か。最初から宝箱が出るとは思わなかったけど宝箱出現確率はどれ位なんだろうか?」

 

 イルメラの拾ってくれたダガーを空間創造の中にしまう。

 

「暫くはコボルド狩りですね」

 

「そうだね、スタンダガーがドロップすれば資金稼ぎには十分だね」

 

 だが二階層にポップするコボルドよりも三階層にポップするコボルドの方が若干強い気がするな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「漸く宝箱が出現したな。コボルドとの戦闘八回目、総勢32匹倒してやっと出たか……」

 

「はい、漸く出ましたね」

 

 簡素な木の箱に金属で補強してある外観の宝箱だが、中央部に鍵穴が見える。因みに箱って言うがデカい、しゃがめばイルメラか入っても余裕だろう。

 

「木製の部分を叩けば壊れそうですね?」

 

「うん、アックスなら十分壊せるね。端を壊せば中身も大丈夫そうだな、鍵を解除しなくても中身が取れそうだ……さて検証するよ。

開けるのは一体、その後に両手にラウンドシールドを装備させて三体。

更に後に二体並べてから開けるよ、イルメラは僕の後に居て最悪の場合は治療してね」

 

 ゴーレムの壁に二重に配してから宝箱の蓋を強引に開けさせる、バキンって破壊音が聞こえて宝箱の蓋が開いたが特に被害は無い。

 

「ゴーレムよ、中身を取り出せ」

 

 慎重に宝箱の中身をゴーレムに取り出させる、大丈夫だ壊れてはなさそうだな……

 

「革の鎧か?」

 

 中身を取り出すと宝箱が魔素となり周りに溶け込む様に消えてしまった……

 

「ふむ、ゴーレムの表面に目立つ傷は無いな。毒や麻痺は毒針じゃないのか?ガスも目視では確認出来なかった」

 

 ゴーレムポーンの腕には革の鎧が握られているので宝箱の罠を解除しなくても中身を取り出す事は出来た、だが何の罠だったかが分からない。

 

「リーンハルト様、検証の回数が必要なら警報の罠と武器庫に行きませんか?」

 

 僕の後から覗き込む様に聞いてくるが、人目が無ければ良い考えだ。

 

「警報の罠か……他のパーティが居ないなら良いな……そうだな、警報の罠を利用するか」

 

 ボス部屋から人気の武器庫は遠い、遠いからボス部屋を一日占領しても誰も来なかったんだ。どうせ戦うなら確実に宝箱が出現する方が良いからな。イルメラの手を取り武器庫へと歩き出した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 歩く事10分、目的地に着いた、途中で三回コボルドと遭遇して倒したが宝箱は現れなかった。この行き止まりの通路の先の部屋が武器庫、必ず出現するモンスターを倒せば必ず宝箱が現れる。

 だが辿り着くには手前の警報の罠を解除するか、引っ掛かり呼ばれたモンスターを倒すしかない。見れば警報の罠の部分だけご丁寧に天井や壁が石積みだ、天然洞窟の周りと比べると凄く違和感が有る。

 

「さて、上を通れば罠が発動するのかな?」

 

「はい、床を踏むと警報が鳴り響きます。ですがモンスターの出現方法は通常のポップとは違うそうです」

 

 通常の出現方法と違う、つまりポップせずにいきなり現れる?

 

「モンスターの出現方法が分からないなら前後に三体ずつゴーレムポーンを配置するよ。イルメラ、何時でも魔法障壁を張れる準備を……」

 

 僕もストーンブリットを撃てる様に詠唱準備を行う。

 前衛三体のゴーレムポーンを進ませて、石積みの部分に一歩踏み出した時点で鋭い警報音が鳴り響いた……てかジリジリと音がデカいし鳴り止まない?

 

「リーンハルト様、正面からコボルド三匹来ます!」

 

 警報に負けない様に珍しく大声で教えてくれる。

 

「なる程、ポップしないんだな!ゴーレムポーン、迎え撃て」

 

 此方に走ってくるコボルドは三匹共にショートソードを装備している。飛び道具が無ければ取り敢えず一安心、ゴーレムポーン三体を横並びで迎え撃たせる。

 基本スペックの違いが大きいのかコボルドはゴーレムポーンの振り下ろすロングソードに力負けをして切り合う事も無く魔素に変わっていく……

 

「リーンハルト様、後からコボルド六匹来ます」

 

 鳴り止まぬ警報音の中、初めてのバックアタック!

 

「不味い、弓装備が三匹居る。ゴーレムポーン盾を構えて防御姿勢!」

 

 盾を構えたゴーレムポーンを横並びにさせて隙間からストーンブリットを撃ち捲る。30㎝の岩が勢い良くコボルド達に飛んでいき、奴等を弾き飛ばす。

 

「リーンハルト様、前方からコボルド四匹です」

 

「連戦だと?低層階なのにエグい罠だぞ」

 

 耳障りな警報音で神経が苛立つ、聴覚を封じられた様な物だからな。1m以上離れたら大声でも聞こえ辛い。

 

「ゴーレムポーンよ、横並びで迎え撃て!イルメラ、僕の後ろに」

 

 ゴーレムへの命令は口頭と繋がっている魔力回路の両方から出来る。口で命令してるのは趣味とダミーで口頭命令を無視して魔力回路で違う命令も出来る。

 イルメラは聞こえてなかったみたいで権杖を構えていたので腕を掴んで引き寄せる。

 

「イルメラは僕の後ろに居るんだ!」

 

 ゴーレムポーン三体の隙間を縫って走り込んでくるコボルドの頭をストーンブリットで潰す。流石に三連戦は辛い……

 

「何だと……まだ来るのか……」

 

 前方からコボルドの三匹が走り寄ってくるのが見える。全く警報の罠とはハメ技みたいだな、警報音が鳴り響く限り幾らでも敵が来る……ん?

 警報音が鳴り響く限り?

 

「ゴーレムポーン、一旦下がるぞ!イルメラ、後ろだ。警報の罠の範囲から移動するよ」

 

 石積みの部分から後に移動し走り込んで来るコボルドに向かってストーンブリットを撃ち捲る……

 最後のコボルドが魔素となり消えた時、宝箱が現れた。

 

「馬鹿だった、警報の罠の上で敵を待ってれば次々来るよね」

 

「はい、でも周りはドロップアイテムの山ですよ。宝箱も現れました……」

 

 四連戦、16匹を倒して宝箱とスタンダガーとダガーが三本ずつドロップした。

 

「ドロップアイテムを集めたら宝箱の検証をしよう。今回の宝箱は小さいな、中身によって大きさが変わるのかな?」

 

「本当に小さいですね、前の半分も無いですよ」

 

 造りは同じ木と金属の組合せだが大きさが違う。前は革鎧だったが今回は何だ?

 中に入っている物により宝箱も大きさが変わるのならアクセサリーとかだったら小箱か?

 

「今回は宝箱を開けるゴーレムを青銅でなくて木製にするよ。木製なら毒針や毒ガスでも痕跡は残るからね」

 

 前回同様にゴーレムポーンで壁を作り宝箱を開けさせる。鍵を解除しなくても力ずくで宝箱の蓋は開いた、中身はショートソードだった……

 宝箱を開けたゴーレムを入念に調べると指先に針が刺さっている、毒針だな。

 

「む、毒針か……」

 

 長さ5mm位の細い針がゴーレムの人差し指に深々と刺さっている。だが毒針は確認中に魔素となり消えて行った……中身により変わる宝箱の大きさ、中身を残して宝箱や針は消えるのか。


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