古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

383 / 999
Mosch様 いっちゃん様 nyurupon様 浜ノ助様 syiphya様 hena様 退屈荘様 yuli1923様 オロゴン様 ロシェーナ様 誤字脱字報告有難う御座いました。



第383話

 現在ブレイザー・フォン・アベルタイザーの造り上げたトラップハウスに挑戦中だが、思った以上にえげつない。

 既に三回死んでも変じゃない、防御装置としては過剰な殺傷能力、裏を返せばブレイザーは周囲からも命を狙われていた状況に置かれていたのだろう。

 自分の屋敷にこれだけの対人殺傷能力の有る罠を仕掛けるのだ、波瀾万丈の人生だったんだな。

 過去の僕でも研究所や宝物庫には防御装置や罠を仕掛けたが、日常で生活する屋敷は警備兵とゴーレムをメインにしていた。罠は使用人にも被害が出るから、それこそ執務室か主寝室位だったぞ。

 

「探査方法を変える、最初に制御室を押さえないと危険だ」

 

 必ず現場で個別解除じゃなくて全体的に制御し解除する部屋が有る、これだけの広さの屋敷だから管理しないと使用人も危険だ。

 

 防御装置の存在を知るのは少数、多ければ情報が漏れて対処される。そして必ず説明書が有る筈だ、全てを口伝で伝えるのは無理だしブレイザーに何か有れば終わりだ。

 後継者の為にも引き継ぎ資料は必要だし、構造が分からないと維持や管理・修理も不可能。魔術師は不慮の出来事にも対応出来る準備が大好きな人種、だからもしもの時の為にと必ず用意している。

 

 それを押さえないと危なくて誰も屋敷に招けない……

 

 毛足の長い丁寧に編み込まれた豪華な絨毯だ、これだけでも金貨千枚近い価値が有る。両手を絨毯に押し付けて魔力を浸透させる、今度は二階の床全体に探査範囲を伸ばしていく。

 

 床の構造と形状を調べる、幾つか床に開口が有るのが分かる、階段に通気孔、人が通れる大きさの穴を探す。秘密の階段か昇降用の梯子が必ず有る筈だ、それを丹念に探す……

 

「怪しい開口は二つ、幅の狭い階段と垂直の竪穴。これは梯子で昇降する物だな」

 

 階段が本命、竪穴は緊急時の脱出用だと思う。両方共に近い場所に有る、やはり南側の真ん中だな。角地は窓が二面有るので外からの襲撃に弱い、真ん中なら両隣の壁をふかしたりして細工もしやすい。

 この客用寝室は他に見るべき物も無い、だが調度品類は高価そうだな。絵画や壺は美術的な価値が分からない、僕には芸術的なセンスは無い。

 逆に手間隙掛けて作ったドレッサーやサイドテーブル等の家具の良し悪しは分かる、同じ物を作る者として価値は理解出来る。

 

 これは三百年近く前の品物が丸々残っているから、今の価値に換算したらどうなるのか?古い物、歴史有る物が大好きな好事家なら相当の金額でも買うぞ。

 それに歴史有る品物を保有する事は、家の歴史を重んじる貴族にとって重要なファクターだ。

 

 新興貴族であるバーレイ伯爵家には、家宝として王家から賜った『戦旗』が有るがそれだけだ。

 此処に有る品々を隣の屋敷に移せば体面だけは保つ事が出来る、面倒臭いが大切な事なんだよな……

 

「そういう話は後回しだ、先ずは制御室を探す」

 

 槍で貫かれたゴーレムポーンを修復し怪しいと睨んだ部屋に向かわせる、当然施錠されていたので鍵束から合うのを探させて開ける、今回は四本目で開いた。

 慎重に扉を開いて中に入る、特に罠は……え?

 

 激しい音と共に、ゴーレムポーンが部屋の外に弾き飛ばされた!

 

「む、三体のゴーレム反応?防御装置のゴーレムか!だがゴーレムマスターの僕を舐めるなよ」

 

 素早くゴーレムナイトを三体錬成し、部屋の中へと突撃させる、武装はツヴァイヘンダーだけだ。

 

 通路に倒れるゴーレムは邪魔なので魔素に還し、自分も部屋の中に飛び込む。ゴーレム六体が各々の武器で戦っている、相手は僕の錬成するゴーレムに似ている、だが……

 

「今の僕のゴーレムナイトは全盛時の強さと同じ、模倣されたゴーレムなどに負けるものか!」

 

 敵ゴーレムはロングソードにラウンドシールドと汎用性を高めた武装だ、僕のゴーレムナイトは両手持ちの大剣、突きに特化してるので狭い室内でも振り被らずに攻撃出来る。

 

「アイアンランス!」

 

 そして援護攻撃も出来る、負ける要素は何も無い。

 

 敵ゴーレムは数ヶ所を貫かれ、中の魔素が漏れ出して動かなくなった。念の為に錬金を使い手足を結束しておく、再起動は無理だな。

 

「ふむ、立派な執務室だな……」

 

 マホガニー製の巨大な執務机に壁一面の本棚、中には貴重な魔導書が並んでいる。暖炉に巨大オルゴール、それに置時計。

 例の家紋が縫い込まれた戦旗も隅に立て掛けてある、その隣に鎧兜を展示していたスペースが有る。これが外敵排除に動き出したんだな……

 

「三百年近く前の執務室だが、先程まで誰かが仕事をしていたみたいだな。机の上に飲みかけのティーカップまで置いてある」

 

 勿論、カップの中身は何も無い。

 

 此処で怪しいのは執務机の下、そこには竪穴が開いている。階段は……暖炉の周辺だ。

 魔力探査で怪しい部分を探す、机の下は不自然な所は無いが引き出しの脇に三つの押ボタンを見付けた。

 

 あからさまだな、だが試すしかない、警戒しながら一番手前のボタンを押す。

 バチバチと入口扉の前の床が放電した、これは迎撃用の罠の起動ボタンだな。次は真ん中の押ボタンを押す。

 む、何も起きない?いや、魔素が室内に充満し始めたぞ。

 

「不味い、毒ガスだ。透明で無味無臭の神経毒系のガスだ。同じ透明で無味無臭だが、ウェラー嬢の錬金した物より出来は良い」

 

 だが毒特化魔術師の僕には効かない、そもそも僕が考案した毒ガスに酷似している。

 

 部屋に充満する毒ガスを中和する、でもこれは無差別だな。脱出する時に部屋を毒ガスで充満させて追跡者を撃退する用途か?

 又はレジストアイテム併用で自分には効果無しにしたのか、殺傷力の高い神経毒だから扱いに注意が必要なレベルの毒性だ。

 

「最後のボタンを押して見るかって?」

 

 ボタンを押すと同時に執務机と椅子の間の床が消えた、これは脱出用のボタンだったか。迎撃・無差別攻撃・脱出、機能としてはコンパクトだな。それにゴーレムを併用、ゴーレムに毒ガスは効かないから戦いは有利だ。

 

 次は暖炉を調べる、煉瓦を組み合わせた巨大な暖炉だ……中に人が入れる大きさが有り脇に薪と着火用の炭らしき物が積んである。流石に固定化の魔法は掛けてないから風化している。

 暖炉の上には割りと大きい香炉にブロンズの馬の置物が鎮座している、鈍器としても使えるサイズだ。

 脱出用と違い隠し部屋の入口は直ぐに開く必要は無い、だから複雑な手順でも構わない。逆に屋敷の防御の核となる部分だから余計に分かり辛くするだろうな……

 

 暖炉に手を乗せて魔力を流し込む、反応が有るのは……香炉・灰かき棒の吊り下げ金具・右側中段煉瓦の三ヶ所。

 どれかが本物か、決まった手順で三ヶ所共にか、全てダミーか悩む。暖炉周辺の壁や床も調べるが特に傷等の手掛かりも無い、だが暖炉の後ろ側には隠し階段の空間が有る。

 

 暫し考える、反応の有った三ヶ所は全て魔力のラインが繋がっている。つまり三ヶ所は連動している、何れか一ヶ所が正解の線は薄い。

 では順番か?それも高位魔術師なら簡単に分かる場所に、これ見よがしに装置を配するか?今迄の罠はえげつない程に敵の排除を考えていた、僕は全てダミーだと思うな。

 

「どれか一つでも触れば防御装置が発動すると思う……ブレイザーよ、単純明快直情的なお前に何が有ったんだ?」

 

 奴の思考を辿ると複雑怪奇より単純明快、最後の砦の防御装置は自分の好みを反映させる筈だよな。

 

「暖炉を押せば開くとか?まさかな。流石にそんなに単純な仕掛けではないよな?」

 

 有り得ないと思ったが暖炉を壁に添って横に押してみた……

 

「やだな、動いたよ。お前って昔から単純明快を好んだよな、だから大貴族の跡取りなのに楽しそうだからって僕等と行動を共にしたんだっけ」

 

 幅は80cm位、辛うじて大人が通れるがゴーレムキングを身に纏っていては無理だ。

 身に纏うゴーレムキングを魔素に還す、薄暗い階段は真っ直ぐ下に向かって伸びている。魔法の灯りを三つ作り漂わせる、地下室まで一直線だ。

 

 慎重に階段を降りる、十五段目を踏んだ時に真横から槍が突き出してきたが常時展開型魔法障壁が何とか防ぐ。

 

「ヤバい、通常の魔法障壁は自分から1m前後は離して展開する。僕みたいに身体を覆う膜みたいな型で展開しないと防げないぞ」

 

 薄暗く幅の狭い通路、中程まで発動しなければ油断する筈だ。人の心理と物理的に防ぎ辛い状況を作り込んで追い込む、これはマリエッタの考え方だ。

 僕の配下の若く美しい妹の様に接していた魔術師、だが丁寧な言葉使いの割に多分な毒を含んでいる。今考えれば、僕は色々な嫌味を言われていたんだよな。

 当時の僕は分からなかったんだが、今なら分かる。彼女もこのトラップハウスに関係してるか、ブレイザーが影響を受けた。

 

「ならば思考を手繰れば罠に辿り着けるか……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 拍子抜けしてしまったが階段の罠が最後だった、真っ直ぐ降りた先には鍵の掛かっていない扉が有り、その先には10m四方の小部屋となっていた。

 中央に大きな、直径50cm程の魔力の籠った水晶玉が鎮座している。内包される魔力は残り二割を切っているが八割で三百年近く保ったなら、後七十年は平気だろう。

 部屋の隅には大きな机が有り屋敷の平面図・断面図・展開図・魔力回路図等の屋敷の維持管理に必要な図面が乱雑に置かれている。

 後は貰った日記と同じ革表紙の本が三冊、中を確認すれば屋敷の防御装置の運用方法が事細かく記されている。

 あの水晶玉は制御装置も兼ねている、アレに魔力を送り操作するのか……

 

「嘗ての自分も同じ様な方法で研究所の防衛を担っていた、もしかして未だ残ってるかも知れないな。だが今はこの水晶玉の制御装置を操作する方法を知るのが大事だ、余計な事は後回しだぞ」

 

 2cm程の説明書を熟読する、やはり屋敷の全ての防御装置の解除は無理だ。水晶玉が管理している罠以外の機械式トラップも多い、それはもう一冊の方に書かれている。

 だが水晶玉の制御装置は登録すれば対象者には発動しない、これだけでも十分安心出来る。

 

 最後の一冊は防御装置の設計図だな、放電装置は是非とも量産したい。個人装備まで小型化すれば活用方法は多岐に渡る。

 

「先ずは登録だな」

 

 両手を水晶玉に翳して魔力を送り登録装置を起動させる、魔力回路を繋ぎ自分のパターンを刻み込む。これで一安心だ、後は追々調べて解除すれば大丈夫だな。

 他にも何か有るかもと机の引き出しを開けて見るが何も無い、本当に制御関係の資料しか無かった。

 図面類と三冊の本は全て空間創造に収納する、防御装置は全て正常に作動させて人払いの陣も解除しない。次に来る時迄は防犯上の為にも機能させておこう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「無事でしたか、二時間以上も入っていたので中で何か有ったかと思いましたぞ」

 

 パンデック殿と警備兵二人が屋敷の外で待っていた、どうやら心配してくれたらしい。自分の後釜が売買契約を取り交わした当日に死んでしまっては最悪だからかな?

 

「凄い防御装置の数々ですね、二階途中で探索を取り止めました。ですが時間を掛ければ攻略は可能だと思います、余裕を持って頑張ります」

 

 正面玄関の鍵を掛ける、弓矢と放電の罠は作動中だから安全の為にも施錠は忘れない。購入した後に侵入者が罠に掛かり死んでいたとか勘弁して欲しい。

 

「おお!流石は現役宮廷魔術師第二席殿ですな。誰も一度入ったら生きては出られないと言われた曰く付きの屋敷の探索をして無事に帰って来れたのですから」

 

 本気で心配してくれたみたいだ、安堵の溜め息を深く吐いたぞ。警備兵二人も凄く驚いている、曰く付きの言い伝えを破った事に対してかな?

 

「確かにホールから階段に向かうだけで二回も防御装置が発動しました、とても興味深いのですが時間を掛けて探索したいので時間に余裕が出来てからですね。何か分かればお知らせします」

 

「それは楽しみですな、気長に待っております」

 

 半分以上、社交辞令なのだが先祖の事は子孫として知りたいだろう。だから問題が無さそうな物は教えても良いかな?

 今日は魔術師として凄く興味深い事に出会えた、先ずは手に入れた図面と三冊の本の解読からだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。