古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第390話

 無事に共闘という形でバーナム伯爵はザスキア公爵の派閥に組み込まれた、本人達も十分なメリットに納得はしている。

 元々は公爵家の誰かの下に身を寄せるつもりは有った、一番自分達を押さえ付けている連中でも有ったのを知っていたから。

 

 ニーレンス公爵とバセット公爵は財務系の為に反りが合わず、ローラン公爵とバニシード公爵は同じ武闘派だが下に付くのは嫌、諜報・謀略のザスキア公爵とは考えもしなかった。

 それが一番無いと思っていたザスキア公爵と共闘するとは不思議な縁だよな……

 

「お互いの戦力の確認をしておくか。俺達の派閥は一週間で動かせる兵が千人、半月で二千人、最大動員数で三千人が限界だ。最初の千人が常時訓練をしている、残り二千人は領民や警備兵からの動員だな。補給部隊は抜いている」

 

 バーナム伯爵がザスキア公爵に視線を送る、次に教えろって事だな。

 

「私は直ぐに動かせるのは騎兵三百に歩兵千人、半月なら更に騎兵二百に歩兵二千人、領民から動員すれば追加で二千人かしら」

 

 バーナム伯爵は最大動員数が三千人、ザスキア公爵は騎兵五百に歩兵が五千人か。流石は公爵家だけあり金の掛かる騎兵部隊も擁している。

 だが領民からの動員は後が無い時の最後の手段、そう考えればバーナム伯爵は千人、ザスキア公爵は騎兵五百に歩兵三千人か……

 

 あれ、全員が見詰めるけど僕も話すの?

 

「僕の場合は自分さえ行けばゴーレムを錬成出来ます、最大制御数は……」

 

 正直に言おうか迷ったが、此処で嘘を言うのは信頼を失うだろう。

 

「最大制御数はレベル30相当で五百体、騎兵なら同レベルで二百五十組。剣や槍、弓兵への対応も可能、配下の宮廷魔術師団員は十二人ですが全員がニーレンス公爵の息が掛かってます。

私兵なら歩兵百人ですね、ローゼンクロス領に警備兵が三百人居ますが戦力にはカウント出来ないかな」

 

 王立錬金術研究所の所員は未だ動員出来ない、これから育てる連中だから。私兵は二百人位迄なら増やせると思うが養うのが大変なんだよ。

 あと下級魔力石による使い捨てゴーレムポーンの数は順調に増えている、これは軍団戦の切り札になる。数の暴力は馬鹿にならないからな、使い道を間違えなければ戦局すら引っくり返すだろう。

 

「増えてますわね」

 

「そうだ、増えている。我々を謀(たばか)るとは許されざる裏切り行為、よって団体模擬戦を行う」

 

「いや、一寸待って下さい。レベルアップしたので魔力総量が上がり、それに伴い制御数が増えただけですから!」

 

 団体模擬戦ってなんですか?

 

「制御数が三百体から五百体に増えるのに幾つレベルアップしたの?本当にレベル41なのかしら?」

 

「ギルドカードを更新した時に確認したから間違いではないが、少しばかり異常だな。六割増しとか普通は有り得ない、よって俺達三人対ゴーレム五百体との模擬戦を練兵場にて執り行う」

 

「異議無し」

 

「序でに聖騎士団との集団模擬戦もだな、前の模擬戦が人気過ぎて要望が凄いんだ」

 

「私も観戦するわよ、独り占めは駄目だからね。男って楽しい事は自分達だけで勝手に始めるんだから、仲間に加えなさい」

 

 何だろう、この四人が仲良く見えるのは間違いじゃないよな?拙い連携じゃないんだけど、集団模擬戦って決定事項なの?

 

「いや、あのですね」

 

「練兵場の申請はしておく、月末辺りにヤルか?」

 

「それが良いな、残り二回の武闘会では物足りなかったんだ。新しい遊びを始めるのは楽しいものだな」

 

「歩兵で五百、騎兵で二百五十か。条件を変えて何度も出来るな」

 

「何か御褒美を持ち寄りましょう、総当たり戦で勝ち星を競うの。賭け事も組み込めば励みにもなるし利益も出るわよ、最下位は罰を与えれば緊張感も増すわ」

 

「妙案だな、流石と言っておこうか」

 

 仲良さそうに笑い合ってるけど、ザスキア公爵とは警戒し半分敵対してませんでした?何を仲良く悪巧みしてるのだろう、だが僕には拒否権が無いんだ。

 

「私達も戦いたいです、新人枠を要求しますわ」

 

「各家から選抜メンバーを競わせましょう、参加人数を統一しないと競技としては不完全だわ」

 

 ルーシュとソレッタまで参戦しやがった、盛り上がる連中を置いてトイレに行こう。悩みは全て水と一緒に流せれば、どんなに楽になるのやら……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バーナム伯爵の派閥の舞踏会(武闘会)は波乱と問題が発生したが何とか終わった、三連続武闘会とか誰得なイベントなんだよ。

 しかもライル団長主宰の舞踏会(武闘会)には特別ゲストとして、近衛騎士団副団長のゲルバルド・カッペル・フォン・フェンダー様と息子達、スカルフィー殿とボームレム殿も来ていた。

 彼等とも懇親という模擬戦を行った、エムデン王国でも最上位な武人達と連日模擬戦を行う。精神的にも肉体的にも疲労した、もう勘弁して欲しい。

 

 ハンナとロッテの実家に呼ばれた夕食会も終わった、下級官吏の取り込みと懐柔には時間が掛かる。ハンナの実家に集まった連中はバセット公爵派だから、ある程度の距離を置いての付き合いにする。

 

 残りはオリビアの実家の夕食会だが、調整に少し時間が掛かるそうだ。オリビアの父親は財務系官吏だが、特定の派閥に属してない無所属派の中心人物の一人。

 その彼が僕を自分の屋敷に招くとなれば、色々な思惑が絡むし邪推する連中も多い。僕は正直に無所属派と仲良くしたいと申し込んでいる、なので参加者の選別に時間が掛かるんだ。

 オリビアには悪い事をした、何かで償う事にしよう……

 

「ゆっくり出来るのも久し振りだな」

 

 自分の執務室で落ち着いて紅茶を楽しむなんて何時以来だろう?今日はザスキア公爵も居ないし来客予定も無い、急ぎの仕事も無い。

 背もたれに身体を預けて大きく伸びをする、最近の忙しさは異常だ。あんな化け物連中と模擬戦三昧とか嬉しくは無いが、困った事に鍛練という意味では凄く効果が高かった。

 なんたってレベルが一つ上がり42になったんだ、どれだけ濃い内容だったかが分かる。

 

「はい、どうしました?」

 

 ソファーでだらけていると扉がノックされた、呼ぶ迄は来ないでと言ってあるから何か有ったんだ。

 

「失礼致します。リーンハルト様にお届け物だと見習い侍女のラナリアータが訪ねて参りました」

 

「ラナリアータ?」

 

 訝しげな顔のセシリアだが、僕もラナリアータと言う見習い侍女は知らない。

 

「届け物って何かな?」

 

「プラムのジャムだそうです、リーンハルト様から完成したら届ける様に言われたと申しております」

 

 プラム?ジャム?

 

「ああ、あの時の侍女達か!うん、頼んだよ。部屋に呼んでくれ、礼を言わないと駄目だな」

 

 あのプラム山盛りの籠をぶちまけた侍女達は見習いだったのか、良いアイデアのヒントをくれた娘だ。相応の礼をしないとな。

 あの散弾のアイデアは色々と応用出来る、リズリット王妃からの依頼にも組み込める内容だ。

 

 ああ、早く魔力砲の実験と検証がしたい。だが実験場が用意される迄は迂闊な事は出来ない、軍事機密に絡むし情報が漏れたら一大事だ。

 

「失礼致します、リーンハルト様。ご要望のジャムをお持ちしました」

 

 大きなガラス瓶を胸の前で抱えた若い侍女が入ってくる、悪いとは思ったが顔を覚えていなかったんだ。一応忘れないだけは見詰めて覚えた。

 

「有り難う、頂くよ」

 

 大きなガラス瓶に入れられたプラムのジャムを受け取る、重さ2kgは有りそうだな。砂糖代わりに紅茶に入れるか、ストレートにパンに塗るか……

 食べ物関係はオリビアに任せるか、彼女なら最適な食べ方を考えてくれるだろう。

 

「その、色々と有り難う御座いました」

 

 深々と頭を下げるのはプラムをぶちまけた件を内緒にしてるからだ、不可抗力を罰しても意味が無い。注意を促すだけで良い、だが故意になら罰が必要だ。

 

「ふむ、ジャムの御礼に頂き物だが紅茶の茶葉をあげよう。あの時の二人にも飲ませてあげると良いよ」

 

「そんな、困ります。私達の失敗を……」

 

 両手を突き出して掌を左右に振って遠慮しますアピールをするが、失敗の件は内緒だろ?

 このままだと何を言い出すか分からないので、紅茶の茶葉が入っている陶器の瓶を強引に手に持たせる。

 そのまま両肩を掴んで後ろを向かせて前に押し出す、ボロを出す前に帰った方が良い。

 

「また何か美味しい物を作ったらお裾分けしてくれると嬉しい」

 

「はっ、はい!有り難う御座いました!」

 

 元気良く何度も頭を下げてから漸く帰ってくれた、王宮で採ったプラムのジャムだと言って何時の間にかセシリアと共に居たオリビアに渡す。

 

「新鮮なヨーグルトが手に入りましたので食後のデザートに出しますわ」

 

 ヨーグルトのプラムジャムかけか、確かに美味しそうだな。

 

「任せた、オリビアは食べ物関係に強いから助かるよ」

 

 セシリアも料理が得意と言ったが、一番は情報収集。イーリンは裁縫が得意だが、一番は情報操作。

 ハンナとロッテも家事全般得意と言ったが、やはりオリビアが食べ物関係は一番強い。

 

「ラナリアータと面識が有るとは知りませんでした、私は一時期ですが彼女の教育係をしていましたので……」

 

「結構ドジで心配事が絶えなかった?」

 

 困った様な懐かしむ笑顔を浮かべたから、同じ様な失敗を何度かしていたのかも知れないな。

 身の破滅に繋がる失敗をしなければ良いのだが、確かに心配になって来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 週末に新しい屋敷に引っ越しとなった、手配や段取りはタイラントがメインで行っている。先ずは曰く付きじゃない屋敷を整備する、その後で僕が監視しながら曰く付きの屋敷の掃除と手入れだ。

 幾ら固定化の魔法を重ね掛けしていても劣化する物も有るし、使わない事で不具合を起こしている物も有る。

 暫定的に曰く付きの屋敷を別館、後から建てた屋敷を本館と呼ぶ事にする。お客様を招待する方を本館と呼ぶべきだし、別館は刺激が強過ぎるので特別な客しか招けない。

 現代では失われている三百年前の魔法技術の結晶、多くの貴重な魔導書も保管されている。魔術師からすれば垂涎の屋敷だ、だから招く相手は考えないと駄目だな。

 

 引っ越しと言っても屋敷の主には仕事は無い、全て使用人が行うしタイラントとメイド長のサラが仕切っている。ライラック商会から荷物の搬入と設置の人員が来ているし、メルカッツ殿達も力仕事の手伝いに来てくれた。

 

「暇だな、だが明日以降は引っ越し祝いが殺到するそうだ」

 

 一番最初に整備された応接室で、イルメラとウィンディアと紅茶を飲んでいる。要は邪魔だから大人しくしてくれって意味だよな?

 

「でもリーンハルト様とゆっくりお茶を楽しむのは久し振りで嬉しいです、働いている皆さんには悪いのですが……」

 

「最近働き過ぎだよ、少しは休みを取らないと身体を壊すよ」

 

 ソファーに並んで座る、密着度が高いのは気のせいじゃない。最近触れ合う機会が少なかったからか、妙に積極的で嬉しい。

 

「広い御屋敷ですね、何部屋有るのでしょうか?」

 

 引き渡しの時に聞いたけど客室・寝室・応接室・書斎・書庫・サロンや音楽室迄有るんだよな、他にも隠し部屋とか密談室みたいな防諜設備の整った部屋も有る。

 使用人用の別棟が有り個室・二人部屋・四人部屋それと八人部屋の大部屋と役職と階級に分かれた部屋が用意されている、客用とは別に共同だが使用人用のトイレや浴室も有る。

 警備兵は使用人用とは別に数ヶ所有り待機場所も兼ねている、実際に凄い屋敷だと思う。

 

「確か部屋数は全て合わせて四十五室、食堂は三つ、使用人と警備兵用の別棟や倉庫も有るよ。上級貴族としては平均的らしい、因みにニーレンス公爵本宅の半分かな」

 

 財務系のトップのニーレンス公爵の財力は半端無い、これで規模は半分だが立地条件は向こうが数段上。価値は桁が違う位離れている、素直に凄いよな。

 

「この御屋敷も凄いよ、デオドラ男爵様の御屋敷よりも広いし立派だよ!」

 

「有り難う、引っ越し前に固定化の魔法は厳重に重ね掛けしたからね。強度だけなら要塞並みだよ、後はゴーレムポーンを配置したり防衛機能を充実させれば完璧かな」

 

 警備兵による巡回警備にゴーレムポーンを配置して死角を無くす、僕には敵が増えたし防衛・防諜には気を配らないと駄目だ。何より守りたい人達が居るから。

 

手を回して二人を抱き締める、この幸せな時間が何時迄も続く様に頑張らねば!


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