古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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2/5からパソコントラブルでマイページに接続出来ずチェックが遅くなりご迷惑お掛けしました。
予定通り4/1(金)より連続投稿1か月を開始しますので宜しくお願いします。


第395話

 アウレール王からデスバレーでドラゴン狩りの許可を得た、これで短期間でのレベルアップに目処がついた。

 詳細はジゼル嬢と相談する予定だが、デスバレーは王族の直轄地。なので代官を紹介と言うか王宮へ呼び寄せるそうだ、急いでも一週間は掛かるので二ヶ月近く王都を離れる準備をしろと言われた。

 

 謁見の後でリズリット王妃にも言われたが大量にドラゴンが市場に出回る可能性が有るので、利害関係の調整をしないと問題が発生するそうだ。

 要は大金が絡むし希少価値の高いドラゴン関連の市場を荒らす事にもなる、前回初めて大量にドラゴンを狩った事で初めて発生し分かった問題だそうだ。

 

 なら狩っても市場に出さずに空間創造の中で保管して小出しにする提案をしたが、戦費を賄える事になるので倒したドラゴンは全て国家の買い取りとなる。

 もしデスバレーが誰か他の貴族の領地だった場合は課税されたそうだ、課税は領主の特権だし敵対派閥の連中だったら相当吹っ掛けられただろうな。

 

 今回は王族の直轄地なので全て国家の買い取りだが、代わりにワイバーンは好きにして良いそうだ。なので前回同様、ライラック商会と冒険者ギルド本部に半分ずつ売る事にする。

 

 少なくとも半年以内には何かしらの問題(戦争)が発生するので、資金は幾ら有っても足りない位だ。

 もしかしたら戦費調達もアウレール王がドラゴン狩りを許可してくれた理由の一部かもしれない、当然だが大金が入る僕にも良からぬ考えの連中が集まってくるだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 相談の為に王宮を早目に出てデオドラ男爵家に向かう、当然だが使いを出して訪問する旨は伝えてある。

 貴族街に屋敷も構えたのでアーシャは新居に来て貰うが、結婚前のジゼル嬢とニールは駄目だ。結婚前に同居するなど貴族の常識からして避けるべき行為、なので暫くは僕が通う事になる。

 

 王宮を出発し城門を潜り抜け跳ね橋を通過する、丁度王宮周りの堀の中を清掃をしている。空堀だが有事の際は近くの川から水を引き入れる、今は水を抜いて城壁や石垣の点検と整備を行っている。

 噂では秘密の抜け道や、籠城中に兵士を外に出す為の隠し通路も有るらしい。だが王宮が囲まれる事態になれば戦争は負けだろう、援軍の居ない籠城は負けを引き伸ばすだけだ。

 

「アウレール王は開戦の準備を着々と進めている、王宮籠城まで準備を始めたのかな?」

 

 最悪の場合、リズリット王妃の祖国のマゼンダ王国や奪い取った旧コトプス帝国領に隣接する、バルト王国とデンバー帝国からの援軍を期待しているのかもしれない。

 マゼンダ王国と隣接したルクソール帝国は貿易の相手国だが無理っぽい、リズリット王妃が依頼した魔力砲は対ルクソール帝国の海戦用っぽいから何れ敵対しそうだ。

 

 王宮を出ると貴族街だ、広く整備された石畳の道を進むと左右に見えるのは巨大な貴族の屋敷だ。王宮に近い程、爵位が高く権力が有る。これだけの敷地を維持するのは大変だ、今だから分かる苦労。

 暫く進めばデオドラ男爵の屋敷が見えて来た、僕の乗った馬車を視認したのか慌ただしく整列している。

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様」

 

「警備ご苦労様です」

 

 ノーチェックで入れるのは変わらないが、挨拶が『お帰りなさい』から『いらっしゃいませ』に変わった。どんな心境の変化だろうか?

 そのまま屋敷の玄関前に横付けされた、出迎えはデオドラ男爵の本妻殿と側室の方々だな。

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様。ジゼルとアーシャはジュレル子爵家のお茶会に呼ばれてますが、もう直ぐ帰って来ますわ。旦那様はバーナム伯爵に呼ばれました、帰りは遅くなるでしょう」

 

 ジュレル子爵家と言うとオレーヌ嬢絡みだな、デオドラ男爵はバーナム伯爵に呼ばれた、例の合同模擬戦の調整か?本妻殿の言葉に軽く頷いたが、暫く待つ事になるのか……

 

「ニールはジゼル嬢に同行ですか?」

 

「いえ、旦那様が若手との模擬戦の御披露目を兼ねて連れて行きました。立ち話では申し訳有りませんので中へ入って下さい」

 

 これは奥方様達とのお茶会の流れか?年上の淑女達は苦手なんだよ、絶対にお茶会とか音楽会とか誘って来るし。貴女達がバイオリン演奏の話を盛った件で、ロンメール様の音楽会は大変だったんだぞ!

 

「有り難う御座います」

 

 そうは言っても断れないので大人しく案内に従うしかない、長い戦いになりそうだな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結局ジゼル嬢達が帰って来たのは二時間後だった、オレーヌ嬢のお茶会は気楽で楽しいらしい。他で呼ばれるお茶会は基本的に僕への代理アピールだから辛いんだよな、相手は彼女達を見ていない。

 彼女達を通して、その先の僕を見ている失礼な連中だ。だがそれが普通なんだよな、余り無下にするのも悪手だし悩ましい。

 

「お母様方が、お茶会や音楽会の予定が組めない事を残念がってましたわ」

 

「ロンメール様の音楽会にも呼ばれる程の腕前の旦那様の演奏を聞きたいと言われる方々が多くて……」

 

 奥方達と入れ替わりでジゼル嬢とアーシャが応接室に入って来た、笑顔を見ればオレーヌ嬢のお茶会は楽しめたのだろう。

 

「無理、ロンメール様は音楽に関しては本当の天才だよ。僕の拙い演奏なんて恥ずかしかった、でもバイオリンの腕を磨いて再戦はしない。他にやる事が有るから優先度が低いんだ」

 

 疲れた顔をしつつ手を振って無理だとアピールする、今は芸術的感性を楽しむ時じゃない。未来の自分達が幸せになる様に努力する時だ、少なくとも旧コトプス帝国の残党を潰してエムデン王国を安定させる迄は……

 暫くは時事ネタで会話を弾ませる、急に本題に入るのは貴族的マナー違反だ。緊急性も無いし余裕が無いと思われるのは嫌だ。丁度紅茶を淹れ直すタイミングで本題の一つ目を振る。

 

「貴族街に屋敷を構えて引っ越しを終えた。アーシャ、僕の屋敷においで。君の部屋は既に用意しているよ」

 

 何時までもデオドラ男爵の屋敷に居て通う訳にはいかない、本宅を用意したのだから側室は居るべきだ。

 

「はい、旦那様。嬉しいです、精一杯ご奉仕します」

 

 ご奉仕?使用人じゃないのに?その言葉にジゼル嬢が不機嫌になったが、君は来年結婚の後で屋敷に来て貰うんだ。フライングで同居は認められません!

 

 ヒルデガードさん、ヨシッとか小さくガッツポーズをしないで下さい。淑女がして良い仕草じゃないです。

 

「それとジゼル嬢に相談ですが、アウレール王から王命を受けました。僕は準備が整い次第、再度デスバレーでドラゴン狩りを行います。理由は自身のレベルアップと戦費調達の為、期間は最大二ヶ月間です」

 

 本当は僕がアウレール王にお願いしたのだが、周囲の口出しを潰す為に王命にして貰った。これで九割以上の口出しを潰せる、残り一割は僕の大切な人達で説得が必要だ。

 王命の言葉は重い、エムデン王国の貴族ならば絶対尊守だ。逆らう事は許されない……

 

「旦那様、それはとても危険な事では有りませんか?折角一緒に住める様になったのに、またお別れなのでしょうか?」

 

 すがる様な悲しい表情を見ると決意が揺らぐ、だが堪えろ!

 

「安心して下さい、アーシャ姉様。リーンハルト様が私に相談と言う事はドラゴン討伐遠征の準備をしろという事です。前回は男爵でしたが今回は伯爵であり宮廷魔術師第二席、待遇が違います。

つまり近隣のパレモの街の代官の屋敷か高級宿屋を借り上げて世話人を用意します、私やアーシャ姉様も同行出来ますわ」

 

 ポンッて手を叩いて妙案ですって感じで言ったが、今の僕クラスだとそんな破格の特別待遇なの?

 もしかしてリズリット王妃が代官を呼び付けたのって、僕の仮の屋敷の準備をさせる為に?

 

「それは妙案ですね、毎日ドラゴン討伐で疲れたリーンハルト様を癒せるなんて幸せですわ」

 

「そんな大袈裟な話なのかな?確かに一週間後に代官を呼び付けたけど、仮にも王族の直轄領に僕の関係者を大量に送り込んでも大丈夫なのかな?」

 

 上位者に訪れる時に同行者や使用人を大量に連れて行くのはマナー違反だ、相手は王族だし不敬と取られないかな?

 

「逆です、王命を受けて来たリーンハルト様を粗略に扱う事は出来ません。それにドラゴン討伐を行うとなれば名声や利益に群がる方々が大勢居ます、ですから滞在場所は厳選しなければなりません」

 

「確かに疲れを癒す宿泊場所に欲に目の眩んだ連中が押し掛けるのは嫌だな、警護にメルカッツ殿達を同行させた方が良いかな?」

 

 あの武芸者達だが、物凄い勢いで魔法迷宮バンクを攻略している。自己鍛練が大好きだが武芸者は冒険者とは違うと言って魔法迷宮バンクは未経験者が多かったんだ。

 僕が鍛練に使っていると聞いて真似しだした、いや禁忌感が無くなったのか?今は第四階層か第五階層を探索しレベルアップと資金稼ぎに努めている、そんな連中をデスバレーに連れて行ったら……

 

「駄目です、自分達もドラゴン討伐したいって言い出しますわ。彼等は武芸者、武を追求する者達ですから止められないでしょう」

 

 あー、うん。そうだな、確かに地上最強生物と戦えるチャンスが有るとなれば我慢出来ないだろう。強者揃いだが無傷でとは言えない、問題となりそうな火種は極力排除するしかない。

 

「そうだね、それだとニールを隊長に警備兵を連れて行くか。後はコックやメイド達も同行させるのかな?」

 

 思った以上に大変だな、全てを賄うとなればコックやメイド達は必須だ。特にジゼル嬢やアーシャには専属メイドを連れて行くだろう、着替えや生活用品も運ぶとなると荷馬車部隊も必要。

 僕やジゼル嬢、アーシャの分は空間創造に全部収納出来るが、使用人達の荷物を僕が運ぶのは駄目なんだ。

 貴族たるもの使用人の荷物運びなどするのは言語道断、貴種たる我等は……って非難する連中が多い。選民思想って言うか貴族第一主義って嫌だな。

 

「コックは持て成しの中に含まれるので不要ですが、メイドは何人か連れて行く必要が有ります。警備兵の件は良いと思いますが、先方の警備隊長と事前に責任区分を取り決めましょう」

 

「結構大変だな、前回は身体一つで気楽に行けたんだが……」

 

 自分で着替えと料理を山程持って王都を飛び出した頃が懐かしい、出世すると余計な柵(しがらみ)が増えるのは仕方無いけどさ。

 何処かで息抜きをしないと精神的に参ってしまうな。

 

「もう許されません、リーンハルト様は宮廷魔術師第二席で伯爵なのです。周囲もその様に見ますから、迂闊な行動は出来ません。緩い事は付け込まれます、残念ですが気楽な生活は私達も無理なのです」

 

「ジゼル、旦那様を責めるのはお止めなさい!

最初から私達には自由など無いのです、リーンハルト様に嫁ぐ事で自由と揺るぎない立場を得られたのですよ。

リーンハルト様、気になさらないで下さい。私達は十分報われています、これ以上は贅沢と言うより我が儘ですわ」

 

 アーシャは強くなった、妻として女として精神が逞しく成長している。要所でジゼル嬢に意見するが、イルメラと同じ僕至上主義っぽい。

 ジゼル嬢も本気で不自由になったとは思っていないのだが、彼女は一般論を述べているだけなんだ。他からそう見られるから注意が必要なんだと諭してくれたんだ。

 

「二人共、有り難う。今の話はリズリット王妃との打合せの参考にするよ」

 

 呼び出した代官との打合せには参加するって話だから、もしかしたら王族の直轄領ってアウレール王かリズリット王妃の所有する領地なのかもしれないな。

 

「え?」

 

「え?」

 

「どうしたの?そんな驚いた顔して?」

 

 目を見開いて僕を見詰める二人の顔は凄くキュートだが、何をそんなに驚いているんだ?

 

「旦那様、今さらりとリズリット王妃と今回の件で打合せを行うと言われましたか?」

 

「その様な雑務にリズリット王妃が参加されるのですか?普通は配下の者が全て段取りを行います。リズリット王妃が自ら参加なさるのは凄く変ですわ!」

 

 確かに言われてみればそうだな。誰か配下に任せて結果報告だけで良い筈だ、何故自らも参加すると言ったんだろうか?

 


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