古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第40話

 『ハンマーガイズ』のリーダー、カイゼリンさんからの質問。

 パーティに最も必要な物は何だ?この問の答えこそ、僕が求めている物だ。だが何て答えれば良いんだ?

 冷静な判断?編成メンバーのバランス?下調べ?駄目だ、どれも陳腐な回答だ……もっと根本的な問題だろうか?

 純粋な強さ?馬鹿な……過去に宮廷魔術師筆頭まで上り詰めた力を持った僕でさえ、あっさり謀略に負けて処刑されたんだ。

 個の強さなど群の数の暴力に何時か負ける。ならば……

 

「すみません、分かりません。幾つかは思い付くのですが最も必要となると……」

 

 中途半端な回答は意味をなさないだろう、素直に分からないと言った。カイゼリンさんは一瞬目を見開いた後、豪快に笑った。

 意外と歯並びが綺麗で真っ白な歯だな……

 

「正直だな坊主!ならば教えてやろう」

 

 巌つい顔にニヤリとした笑顔を張り付ける、意外だが少し若く見える。だが周りの筋肉はヤレヤレ的な顔をしている?

 特にカイゼリンさんの右隣に座る人……黒いスラックスで上半身は裸なのに何故か首に蝶ネクタイを付けている、お洒落さん?

 

「良く聞けよ、パーティに最も必要で坊主に足りない物はな……」

 

「足りない物は?」

 

 周りもカイゼリンさんの言葉に注目している、だがパーティメンバーは顔をしかめた。つまり大切な事を他人に教えるなよって感じてるのか?

 カイゼリンさんの次の言葉に神経を集中する……

 

「坊主に足りない物、それは筋肉だ!」

 

「はい!ってアレ?筋肉ですか?」

 

 きんにく?キンニク?筋肉?

 

「そうだ、筋肉だ!坊主には筋肉が足りない。全ては筋肉量で決まるのだぞ、もっと筋肉を付けるんだ!」

 

「あの、冷静な判断とか……」

 

「漢なら突撃有るのみ!」

 

「入念な下準備とか……」

 

「小細工無用!」

 

「バランスの良いパーティ編成とか……」

 

「筋肉戦士だけで大丈夫だ!」

 

「でも宝箱とかの鍵や罠の解除は?」

 

「力ずくで行け!」

 

 駄目だ、次の言葉が見付からない……何だろう、初めて相手にするタイプだ。

 カイゼリンさんは本気で言っている、全てを筋肉で解決してるんだカイゼリンさんのパーティは……今も力瘤を見せ付けているが、確かに腕の太さはイルメラの胴回り位あるな。

 

「少年よ、リーダーの言葉の表面を捉えるな!

リーダーが言いたいのはな、自分の行動を裏付ける為の根拠となる物を自分の中に持てって事だ。

ウチのパーティはな、それが鍛えぬかれた己の肉体なのだよ」

 

 自信の根拠、拠り所って事かな?蝶ネクタイの人の捕捉説明でカイゼリンさんの言いたい事が何となく分かった気がする。

 

「有り難う御座います。何となくですが言いたい事が分かった気がします。僕は僕の得意分野を伸ばして自信にするつもりです」

 

「うむ、体を鍛えるのだぞ!これをやる」

 

 そう言って何かを僕に放って来たが……

 

「これは毒?いや何かのポーション?」

 

 試験管に入った真っ黒な液体だが何だろう?

 

「ピンチの時に飲め!さすれば筋肉が三割増しになるぞ」

 

「ブースト薬ですか?」

 

 鑑定すると『筋力増強のポーション:短時間筋力30%UP』って出たが本当に筋力が上がるのか……でも飲むには抵抗の有る色だよね、試験管を傾けてもサラサラじゃない粘りが有るな。

 

「坊主、いざという時に飲んで仲間を守れ」

 

 男臭い笑みを浮かべて僕を見るカイゼリンさんにお礼を言ってポーションを収納袋にしまう。

 間違っても空間創造にしまう様な事はしない、カイゼリンさんは僕をヒヨッ子戦士と思ってるから親切にしてくれたんだ。

 空気を読んで黙っていよう、お礼は何か有ったら出来る事をすれば良い。大人の思いやりに少し照れ臭くなった、一応僕も転生前を入れれば同い年くらいなんだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 乗合馬車が王都に着いた時は既に日が落ちてしまった。完全に街灯が頼りだ、酒場以外の店が閉まり始めている。

 

「遅くなり過ぎたね、買い物は無理かな?」

 

「んー、そうですね。これでは鮮度の良い品を選ぶ時間も無いですね。家に有る食材で何か作ります」

 

 閉店間際の店に押し掛けるのも悪いし、明日は三階層のボス狩りをするので外で飲むのも気が引けるな……

 

「真っ直ぐ家に帰ろう……」

 

「はい、リーンハルト様」

 

 月を見上げながらイルメラと二人で石畳の歩道を歩く、コツコツと小さな音が鳴り響く。バンクの迷宮内とは違う響き方だ……

 彼女は横には居るが一歩下がって付いて来る、控え目だ。

 今夜は少しイルメラの装備について考えよう、防御力の向上と毒や麻痺の状態異常に対するレジスト。

 鎧兜みたいに誰が見ても分かる強化は不味いのは学んだ。

 だからインナーか装飾品に魔法を付加するか……

 

「イルメラ、帰ったら君のインナー(修道服の下に着るシャツ)を何着か貸してくれ」

 

 修道服の下にシャツを着ていたからな、先ずはソレから強化を試してみよう。

 

「い、インナー(下着)をですか?」

 

 ふむ、呼び名はインナーで良いのだな。柔らかい布地に硬化の魔法を掛けても無意味だから、耐毒と耐麻痺の効果を付加するか……

 

「そうだ、色々調べて研究したい」

 

「リーンハルト様が、私のインナー(下着)を色々調べるのですか?」

 

 イルメラの声が段々と大きくなるのだが、何か不味いのだろうか?

 修道服はモア教の教会から与えられた物なので下手な魔法付加は不味いとおもったが、もしかしてシャツもなのか?

 

「そうしたいのだが、駄目なのか?」

 

「いえ、駄目ではありませんが……手順が……その……中身(私)よりインナー(下着)に興味を覚えるのは……」

 

 む、やはりモア教の教会に話を通す必要があるみたいだな……ならばアクセサリー類で何か考えるか。

 デモンリングは必須だから指輪は無理、ならばイヤリング・首飾り・腕輪くらいしか思い浮かばない。

 

「駄目なら他を考えるから大丈夫だよ。すまない、変な事を言ってしまって……」

 

「他(の女)を考えるのですか?」

 

「ああ、そうだな……他を考えるよ、何が良いだろうか?」

 

 イヤリングは見付かりやすいから却下、首飾りなら服の下に隠れるし腕輪も同じく手袋で隠せる。体の中心にブラ下がる首飾りなら大き目の魔力石に付加すれば……

 

「リーンハルト様にも思春期が……分かりました、リーンハルト様の気持ちはイルメラが全て受け止めます!」

 

「ん?何を?」

 

 良く分からないがモア教の教会に話を通してくれるのかな?ドロップアイテムを探すより自分で作った方が良い物を装備出来るだろう。

 バレない様にするしイルメラ専用になるが、それで良い。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 自宅に帰りイルメラが作ってくれた料理を食べて風呂にも入った。早めに自室に籠もって防具作成だ。

 本来魔道具の作成には核となる物が必要だが、それは上級魔力石を使用し魔道具への魔力供給も行う。次に素材だが、空間創造で取り出せる様にはなったが使えない売れないの武器類を再利用する。

 特に僕の試作した武器・防具は山盛りだから気兼ね無く潰して再利用出来るだろう。日々寝る前に上級魔力石に魔力を籠めていたので、魔力満タンな物は15個有る。

 

「試しに魔力石自体に耐毒と耐麻痺を組み込んでみるか……」

 

 外観が上級魔力石と同じなら身に付けていても不思議に思われない。魔力石を両手で包み込む様に持ち、魔素を集めてレジスト付加を行う……

 常時発動タイプは一定の微弱な魔力を石から引き出さねばならず調整が難しいな。

 

「出来た……うむ、見た目は変わらないな」

 

 鑑定の結果は『レジストストーン:毒回避27%麻痺回避8%』と出た、何ともバランスが悪い。

 

「む、もう一回だ。麻痺回避の確率が低過ぎる」

 

 魔力石を両手でしっかりと掴み、周りに魔素を集めて魔力石に干渉し効果を組み込んで行く……

 

「出来た……今度はどうかな?」

 

 鑑定の結果は『レジストストーン:毒回避11%麻痺回避35%』と出た、効果が逆転しただけだ。

 意外と難しい、魔力石から魔力を引き出す部分が均等でないと確率にバラつきが出るのか……

 

「もう一回だな、もっと神経を集中しないと駄目だ!」

 

 三個目の魔力石を掴み、神経を集中して魔力を注ぎ込んで行く。

 

 鑑定の結果は『レジストストーン:毒回避13%麻痺回避15%』と出た、今度はバランスが良いが効果が低い。

 

「駄目だ、失敗だ、バランスを重視した為に確率が下がった……コレは使えない」

 

 机の上に転がる三個の魔力石を見て思う、未熟だな……でも未だ三回目だ、諦めるな!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「出来た……今度こそ完璧に集中出来た。もう魔力石が残ってないが最後で完璧だ」

 

 鑑定の結果は『レジストストーン:毒回避22%麻痺回避25%』と出た、今の僕ではこれ以上の物は出来ない。

 後は首飾りとして魔力石を嵌め込む台座とチェーンだが耐魔のアミュレットを流用する。

 錬金で作った場合、維持する為に魔力が必要だが魔力石から供給させた場合、折角のバランスが崩れそうだから止めた。

 台座とチェーンに念入りに固定化の魔法を掛けて強度を増した、これで壊れにくいぞ。

 

 再鑑定の結果は『回避のアミュレット:毒回避22%麻痺回避25%』になった。

 

「ふぅ……後は防御力か……

やはりニケさんに渡したハーフプレートメイルと同じく衝撃を受けた時に発動するインナーがベストか?普段は柔らかくダメージを受けた時だけ固くなる」

 

 だがインナーにも魔力石を取付けなければ駄目だが、回避のアミュレットと被るから駄目だな。動き易さを考えると、左右の脇腹辺りが良いだろうか?

 

「リーンハルト様、起きていらっしゃいますか?」

 

 ノックの後にイルメラから呼び掛けが有った、夜中に訪ねて来るとは何か問題でも?

 

「ああ、起きてるよ。入ってくれ」

 

「失礼します」

 

 キッチリとメイド服を着たイルメラが両手に白い布を持っている。前髪が少し濡れているので既に風呂に入ったのだろうか?

 

「リーンハルト様の欲しがっていた、イルメラのインナー(下着)です。その、使用済みは恥ずかしいので新品を御用意致しました……」

 

 インナー?小さくないか?シャツなら畳んでも、もっと大きい筈だが?イルメラから布を受け取り開いてから直ぐに戻した……

 

「イルメラ、これは違うぞ……」

 

 彼女の手に三角形の布を押し付ける、誰が下着が欲しいと言った?その上に着るシャツが欲しいんだ!

 真っ赤になって下を向くイルメラ、そうだろう恥ずかしい誤解だぞ。

 

「すっ、すみません。リーンハルト様の要求は使用済みの方なのですね?分かりました、今脱ぎますからお待ち下さい」

 

 不思議な台詞の後に両手をスカートの中に突っ込んで……

 

「違う!脱ぐな馬鹿者!シャツだ、インナーが欲しいとはシャツに防御の付加魔法を掛ける為にだ!」

 

 下を向いていたが漸く僕を見てくれた、真っ赤になり目に涙まで浮かべている、凄い罪悪感が芽生える。

 

「シャツ……ですか?」

 

「そうだ、昼間言っただろ、イルメラの防御力を上げるからと。ほら、これを耐魔のアミュレットと交換して装備するんだ。僕が作った回避のアミュレットだよ、装備してみてくれ」

 

 装備してくれと言ったのに目を閉じて軽く上を向く仕草は……僕に回避のアミュレットをかけて欲しいって事だよね?

 そっとイルメラの首に回避のアミュレットをかける……うむ、自画自賛だが良く似合うな。核に魔法石を使っているのでパッと見は大粒のエメラルドグリーンの宝石が嵌まった首飾りに見える。

 

「これは毒回避22%と麻痺回避25%の効果が有るんだ、僕の自作だが誰にも教えちゃ駄目だよ。僕がマジックアイテムを造れる事は秘密にしたいんだ」

 

「分かりました……それと、有難う御座います。イルメラは幸せ者です……本当に……」

 

 微笑みながら泣くという破壊力抜群の表情に思わずクラッと来てしまった。何か、何か大事な壁を乗り越えそうになってしまったが、もう遅いからと何とか彼女を部屋から出す事に成功した。

 

「よし、次は防御力を高める方法だが軽量化の魔法を付加したブレストプレートかチェインメイルか?

動きを損なわず重すぎず負担を少なくか……何が良いだろうか?」

 

 重要なパーティの守りの要の僧侶だが体力的に重装備は無理だし両手持ちの権杖装備だから盾も装備出来ないんだよな。

 うん、物理的防御は僕とゴーレムで受け持ち状態異常の回避率を上げる方向で装備を考えるかな。

 指輪とネックレスは装備済みだからイヤリングや腕輪、髪飾りとかにするか……装備品って言うよりはアクセサリーだからデザインとかにも凝りたいな。


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