古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第413話

「母上、交渉は失敗でしたな。思う様な結果にはならなかった、してやられた感じですな」

 

「おぃおぃ、アウレール王に嘆願までした老いた母を悲しませないでおくれ。リーンハルト殿の協力は得られなかったのかい?」

 

 ふむ、予想と違うな。あの魔術師殿ならば領民の危機を見逃すとは思えなんだが、報酬も破格にしたのに駄目だったとはな。

 面倒事を嫌った?いや、アウレール王絡みでもある。あの忠誠心を考えても、アウレール王からの頼みは断らないだろう。

 

「いや、リーンハルト殿は協力してくれる。灌漑事業の二割を一ヶ月以内で終わらせるそうだ、魔術師ギルド本部にも自分の報酬分から応援を要請。

同じく御用商人のライラック商会にも、作業に従事する連中の衣食住を任せるそうだ」

 

 一ヶ月で二割だと?つまりウルム王国とバーリンゲン王国の結婚式に呼ばれる前に済ますのか?二割をか?

 もっと長期に協力してくれると考えていたが、能力の見積りを甘く見過ぎたか?

 予算金貨八十万枚、二割なら十六万枚を払うと言った筈だし魔術師ギルド本部やライラック商会の支払いを負担するのは当然か。

 あの男は金に対する執着は薄い、だが良い条件だが何が失敗したのだ?

 

「悪くはないな、良心的ですらある。何が問題なのだ?」

 

 苦虫を纏めて噛み潰した感じだが悪い条件じゃないぞ、二割の農地が短期間で開拓されるなら我等の負担は軽くなる。どうせ我等の財を消費させるのが目的の灌漑事業だ、たかが金貨八十万枚など捨てても構わぬ。

 リーンハルト殿に貸しが作れるなら安いモノだぞ。

 

「リーンハルト殿は実費を抜いた報酬は全て国庫に納めると言った、宮廷魔術師として年金を貰っているのだから二重で報酬は貰えぬそうだ。

先のドラゴン討伐も倒したドラゴンの売却益しか貰ってない、金銭欲を忠誠心で抑えられるのだ」

 

 それは……まさに忠臣だな。アウレール王が重用するのも分かる、我々の面子を潰さず貸しは作れず借りが出来た。

 我等はリーンハルト殿にタダ働きをさせるのだ、報酬の金貨は一枚たりとも自分の懐には入れないだろう。

 

「甘く見ていたな、礼儀を尽くし報酬を用意すれば確かに願いは聞いてくれた。だが二重報酬など考えも及ばなんだ、それを理由に国庫に納めるなど予想の斜め上だぞ」

 

 長年王宮の魑魅魍魎共と戦ってきたからか、潔い対応には困惑しか浮かばない。腹の底から溜め息を吐き出す、ここまで予想を外したのは初めてだ。

 

「アウレール王も副業は禁止してないと言った位だ、我等の常識は通用せぬ男だぞ。しかも代わりに領民に恩赦を与えてくれと嘆願した、自分の報酬と引き換えに我等の領民達の罪を許せとアウレール王に頼んだのだ」

 

「罪を問わずも破格だが所詮は罪人、責められても文句は言えない。だがアウレール王自らが罪を許すとなれば領民達も安心する、反乱はあくまでも旧コトプス帝国の残党共の仕業だ。

もう次に煽動しようと暗躍しても領民達は心を動かされないだろう」

 

 参ったな、完敗だぞ。

 

 息子の罪を問わずも思い切った措置だと感心したのだが、更に上が居るとはな。

 我等の領民の件も灌漑事業も貸しを作ろうとした件も全て丸く収まってしまった、文句は言えぬし大きな借りを作った。

 だがリーンハルト殿は平民に優しいと聞いたが一線は引いてる、対応が可哀想だからとか励ますとかじゃない。

 灌漑事業は農民千人分の食糧自給率しか得られない、残された連中は四千人近くいるのだ。彼等の今後の生活面のフォローは無し、罪を許すだけで終わり。

 

 だがアウレール王が求めた我等の負担は増えた、残り八割を一年以内に終わらせろと言われた。

 元々五年計画だ、四倍の速さで行う為には多くの土属性魔術師が必要。だが人件費など百人を一年間拘束しても金貨十二万枚程度で足りる、大した問題じゃない。

 

「残り八割だが、リーンハルト殿は手伝ってくれそうか?」

 

「感じからして無理だな、妙に明確に負担範囲を明らかにしたのは早く終わらせる気かもしれぬ。

謁見の後に礼を兼ねて話したかったのだが、アウレール王とリズリット王妃と話が有ると謁見室に残ったのだ」

 

 アウレール王の一番の忠臣、後宮ではリズリット王妃派に属する。王と王妃と懇意にする宮廷魔術師筆頭予定か、もう少し縁が欲しい。

 今はザスキア公爵が一歩リードしている、あの女狐に誘惑された訳でなく諜報能力を見込んだな。

 

「懐柔策は不発、だが我等が領地に一ヶ月は滞在してくれる。精々持て成して引き込む事にしよう」

 

「待て、滞在期間中は派閥の貴族連中との顔合わせを兼ねた舞踏会は行わないぞ。我が家族達だけで持て成しをする、リーンハルト殿は舞踏会は苦手らしい。

マナーもダンスも中々らしいが気苦労をさせるのは下策、ゆっくりと過ごして貰おう」

 

 毎晩舞踏会を開催し我等が派閥の連中が擦り寄っていけば悪感情しか生まれない、少数で最上位の持て成しをする方が喜ぶ。

 ビクトリアル湖畔の別荘でも週末に行われる舞踏会は内心嫌だった筈、疲れて帰って来たら気苦労の多い舞踏会など自分でもお断りだぞ。

 

「一族でメディア以外に同世代の見女麗しい乙女が居たかな?」

 

「女は駄目だ、ジゼル嬢とアーシャ嬢に骨抜きにされている。どんな美女でも逆に困らせるだけだ、婚姻外交用の美女達ですら即断するのだからな。

幸いメディアは友人として良い関係を結んでいる、アレに任せれば良い」

 

 同じ我が子でもバーバラとフェンディは駄目だ、二人共にリーンハルト殿に興味が有りそうだが我が儘一杯に育て過ぎたからな。

 アレを送り込めば不評しか受けられぬ、アレ等は他に使い道が有るのだ。

 

 しかし金にも女にも興味は薄く、権力は既に侯爵待遇。王宮序列は宮廷魔術師第二席として我等公爵家に続く高い地位に居る、後は珍しいマジックアイテム位しか興味は無い。

 それすら自分で錬金してしまう、全く扱い辛い男だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アウレール王の御厚意でエムデン王国の宝物庫を見学している、案内役はセラス王女という豪華さだ。

 彼女はマジックアイテム収集狂いと言われているだけあり、案内役としては最適だ。

 他にも監視か護衛か分からないが王族付きの侍女が二人付いている、彼女達からは相当量の魔力を感知出来るから護衛かな?

 

 本来は薄暗い宝物庫だが僕がライティングの魔法で明るくしている、天井付近に二十個の光球を浮かべ宝物庫全体を柔らかい陽光に近い明るさで照らす。

 

「この棚のマジックアイテムは全て自身の能力向上系です、筋力や敏捷等を30%以上UPします」

 

「マジックストーンですね、装飾も見事です」

 

 見事な装飾が嵩張り過ぎて実用性が低いな、そんな巨大な首飾りや太い腕輪でどうしたいの?

 確かに魔力付加で身体力は上がるが『剛力の腕輪』や『敏捷の腕輪』程ではない。

 30%前後なら今の僕でも作れる、これらは装備品に組み込むから使い勝手が良くなるんだ。殆どが王家への献上品らしく、無駄に装飾が多い。

 

「リーンハルト殿なら複製は可能かしら?」

 

「そうですね、少し調べさせて貰えれば可能だと思います。次は能力UP系のマジックアイテムを依頼しますか?」

 

 麻痺・毒・睡眠・混乱回避のレジストストーンは完了した、次の依頼の品の選定を兼ねた案内役だよな?

 しかし本当に嬉しそうに説明してくれる、マジックアイテム収集狂いも誇張ではないな。知識も豊富で質問にも淀み無く答えてくれる、実際に楽しいぞ。

 

「あれ?この宝玉って……」

 

 ツインドラゴンの胃から取り出した物と似ている、数は十個か。鶏の卵と同じ形の緑色・赤色・黄色の宝玉が小さな宝箱の中に整然と並んでいる、大きさは小振りだな。

 

「最近買い取りました、凄い魔力を秘めていますわね。素晴らしい宝玉です、リーンハルト殿も欲しいのですか?」

 

 いえ、要りません。同じのを二百個以上持ってますから。だから、そんなに自慢気に見られても困ります。

 

「上級魔力石の十倍以上の魔力を感じますね、これを核として錬金すれば相当な品が出来ます。何方から買い取られたのでしょうか?」

 

 多分だが前回献上したツインドラゴンの胃に入っていた奴だな、誰かが見付けてセラス王女に売り込んだんだ。

 

「これはアーバレスト伯爵からです、先祖伝来の家宝だと見せてくれたのをどうしても欲しくなりまして……全部で金貨十万枚で買い取りましたわ」

 

 凄いドヤ顔で言ったけど、流石は王族だな。趣味の収集に金貨十万枚も出せるのは驚いた、そしてアーバレスト伯爵と言えばニーレンス公爵の派閥だった筈だ。

 あの派閥は財務系だけあり金持ちが多い、そしてアーバレスト伯爵は王宮務めだから献上したツインドラゴンの処理を任されて宝玉を見付けて私物にした。

 

 可能性は高いが、これって国家の財産の横領だろ?しかも先祖伝来とか嘘を言ってるし……

 

「欲しいかと言われれば欲しいです、錬金の核として最適ですが魔力の親和性も有ります。自分の魔力を貯めた上級魔力石なら問題無いのですが、他の魔力も混ざると制御が難しいのです」

 

「そういう物なのですか?奥が深いですね。そうそう、コレはですね!」

 

 隣の棚に置かれた護符を一つ一つ指差しながら性能を教えてくれる、使い捨てタイプだが短時間だけ完全に物理攻撃無効とか凄い性能の物も混じっている。

 矢を逸らす護符も興味深い、風を身に纏い風圧で飛んでくる矢を逸らすとか発想が面白いな。

 

「リーンハルト殿、コレです。コレはですね!」

 

「少し落ち着いて下さい、ちゃんと見てますから」

 

 お供の侍女達も苦笑いしている、この年上の王女は普段は年上の淑女ぶっているが、偶に子供っぽい所が有って憎めない。

 失言も多いし、王族として大丈夫なのか気になるんだよな。

 

 結果的には楽しい時間だった、マジックアイテムも中々興味深い物が多く有ったが解析すれば複製は可能なレベルだ。

 僕の『召喚兵のブレスレット』や『魔法障壁のブレスレット』に通じる物は無かったが、水中でも呼吸が可能な笛や跳躍力が倍加する靴は興味深い。

 後は質の良い眠りを提供するオルゴールと決められた時間に起こす置時計は画期的だな、時計に目覚まし機能を組み込むとか納得の発想だ。

 

 どんな錠前も一回だけ開けられる鍵も有ったが、コレって魔法迷宮バンクでレアドロップしたアイテムと同じ効果だが外観は全くの別物だ。

 同じ事を考える危険な人っているんだな、流石にコレに興味を示す訳にはいかなかったので適当に説明を聞いてスルーした。

 今回は時間の関係で全体の半分も見れなかった、次回が楽しみだな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く解放されて自分の屋敷に帰れる、一ヶ月半も離れていたので懐かしく感じる四番目の我が家。

 実家・父上と母上の思い出の民家・初めて自分が買った家・そして貴族街に買った終の屋敷……

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

「ああ、ただいま。メルカッツ殿、何か変わりはないかな?」

 

 警備兵と配下の者達が整列している、事前に使いを出していたから準備をしていたのだろう。

 正門を潜り抜けて本館の玄関に向かう、使用人達が整列している。何人か知らない人達が居る、ジゼル嬢達が新しく手配していた人達だな。

 僕と一緒にビクトリアル湖畔の別荘に居たのに、何時の間に手配していたんだ?

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

 今の館の女主はアーシャだ、次が婚約者のジゼル嬢。先ずは二人の出迎えで、後ろにイルメラとウィンディアが控えている。彼女達との会話は未だ少し先かな……

 

「うん、ただいま。新たな王命を受けたよ、説明するから応接室の方に行こうか?」

 

 旧クリストハルト侯爵領の灌漑事業の手伝い、ニーレンス公爵がアウレール王に懇願し許可された。

 アウレール王は領民達の恩赦と共に僕が手伝う事を発表するそうだ、連続三回の王命は大分ヤバい待遇だよな。

 他の連中だってアウレール王からの王命を賜りたい、だが前の二つは僕以外は無理だった。だが今回のは資金と時間が有れば何とかなる、何とかなるのだが……

 

「それは楽しみですわ、早く詳細を教えて下さい」

 

 アーシャとジゼル嬢の腰を抱いて屋敷に入る、先ずはこの二人の説得から始めるか。

 


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