古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第43話

 バルバドス塾絡みの件は僕が負けた事によりバルバドス氏の体面を一応守る事が出来た。

 これで手打ちとなりバルバドス塾の連中が僕等『ブレイクフリー』に絡んでくる事は少なくなった、流石に全く無いとは言えないが大分マシになるだろう。

 TOPが手打ちにしたのだ、文句をつける事は上に逆らう事だから余程の馬鹿でない限りは大丈夫と思いたい。 

 ギルド側からも働きかけが有るので一安心かな?

 だが新たな火種になりそうなエルフ族の女性が現れた。あの様子だと僕に接触してくる、間違いなく……

 同席していた貴族令嬢が誰なのか分かれば派閥とかの対策も考えられるのだが、僕の記憶には無い。

 高位貴族の令嬢は余り人前に出ないから下級貴族の子弟の僕が顔を知らなくて当たり前なんだけど、あの興奮したエルフ族の女性を止められるのだ。

 普通の深窓の令嬢じゃない、当然塾生だから魔術師だろうし厄介だな。

 安っぽい挑発に乗った事は後悔していないが反省はしている。だがあそこで引き下がっては他の冒険者連中に舐められて他の問題を抱えた筈だから難しい。

 早くギルドランクをCに上げないと駄目だ、計画を早めよう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 貴族街を一人で歩いていると周りから見られている気がする?自分の服装を確かめるが汚れや傷等は無い、身なりも悪くない筈だが……

 ああ、そうか!供も連れずに子供が一人だから貴族街では珍しいか?

 悪目立ちしない様に早々に貴族街から新貴族街まで移動して一息ついた、やはり堅苦しいのは苦手だな。

 元王族と言えども人生の殆どを他国への人質と魔術師として戦争に強制参加だった、宮廷内の駆け引きとか陰謀とかは敢えて目を逸らしてしまったからな。

 この政治感覚の未熟さ故に冤罪で処刑されたのだから自業自得だ、あの時に自分の立ち位置をもっと考えていれば……

 沈んだ気持ちを切り替える為に空を見上げれば未だ太陽は頭上に来ていない、時間も11時前だろうか?風が吹いていて少し肌寒い。

 帰ったら暖かい昼食を食べてからバンクに行こうかな、ギルドの依頼も有るしストレスの発散もしたい。

 手は抜いてないが青銅製のゴーレムポーンだけって縛りで負けた事が、実は相当悔しいんだ!

 などと考えながら我が家が見える場所まで来たら、門の前に立っている人影を見付けた。

 近付いて確認すれば不安そうな顔をしたイルメラだ、彼女は下を向いて両手を胸の前で握り締めている……

 

「ただいま、イルメラ。まさかずっと門の前で待っていたのかい?」

 

 声を掛けると顔を上げて僕を見てパッと明るい表情になった、凄く心配かけたんだろうな……

 

「はい、その……イルメラは……イルメラは……」

 

 上級貴族の屋敷に僕一人で呼び出されたのだから心配したんだろうな、家には一人しか居なくて心細かったのかもしれない……

 

「バルバドス様とは和解出来たと思う。三羽烏とか言うバルバドス塾生とのトラブルは解決だよ、もう安心だ。さぁ家に入ろうね」

 

 なるべく優しく明るく言って握った彼女の手は冷たくて小さく震えていた、僕はまた彼女に心配させてしまったのか……

 何だろう?胸の辺りが締め付けられる様に苦しい。

 

「少し疲れたかな……一緒に温かいお茶を飲もう。イルメラの手も冷たいよ」

 

 両手を包む様にして握れば少しだけ温かくなってきた、いやイルメラさん真っ赤になって涙が……

 

「……心配しました、心配したんです。

イェニー様の時みたいに、リーンハルト様が……居なくなりそうで……イルメラは……」

 

 彼女の瞳から大粒の涙が溢れて、今にも決壊しそうだ!

 急いでポケットを漁りハンカチを取り出して溢れる涙を拭う。

 

「母上の?イルメラ、君は……」

 

 貴族の権力争いの為に母上が暗殺された事を知っているのかい?

 だから僕もバルバドス氏と揉めた事で不安になったのかい?

 幾ら涙を拭いても泣き止まないイルメラを軽く抱き寄せて背中をポンポンと叩く、悔しいが身長が殆ど同じなんだよな。

 だから顔を胸に抱き寄せられずに肩に顎を乗せる感じになってしまう……

 

「さぁ家に入ろう、此処は少し寒いよ」

 

「はい、すみません、取り乱してしまって……」

 

 大切な人を守るって難しい、世間的に子供の僕は権力も力も無いから余計に難しい。

 元宮廷魔術師筆頭だとか言って調子に乗った結果がコレか、結局大切な人を守るにも自由に生きるのにも力が要るんだ……

 今度は、今度こそは悔いの無い人生にしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 薄暗いバンクの通路を淡い魔法の灯りを頼りに先へと急ぐ、途中でポップするモンスターをゴーレムポーン四体が蹴散らして行く。

 ゴブリンやコボルド程度ではゴーレムポーンは止められない。

 

「イルメラ、そんなに急がなくてもバンクは逃げないから……」

 

「すみません、でもでも……」

 

 あの後、昼食を食べて食後のお茶の時にバルバドス氏との模擬戦の事を説明した。

 あのエルフ族の女性の事も暈しながら、招待客の中から挑戦者が現われたが非常識なので断って貰ったと説明する。

 流石に当事者同士で対戦した後に部外者が挑戦とかは無いだろう、敗者に塩を塗り込む行為だし許可したらバルバドス氏が非難を受ける事になるからね。

 それで僕がもっと強くならないと駄目だと宣言したら、午後からバンク攻略の流れになった。

 確かにギルドからボスモンスターのドロップアイテムを集めて欲しいと依頼紛いのお願いが有ったから嬉しいのだが……

 因みにイルメラは僧侶で修道服を着ているが、僕は革の鎧にラウンドシールドとロングソードで軽戦士の格好だ。

 魔術師と戦士の複合職には魔法戦士が居るが、僕の職業(クラス)は魔術師のままだ。

 この辺の職業の線引きが良く分からない、誰が何と認めれば上級職や複合職になるんだろうか?

 今度冒険者ギルドで聞いてみようか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 三階層のボスはビッグボア、巨大な猪みたいなモンスターだ。

 これは魔法迷宮以外でも生息していて薩摩芋みたいなずんぐりした身体に短く太い足、堅い鼻と鋭い牙を持ち突撃が主な攻撃だ。

 野生の種は繁殖期になると頭から肩に掛けての脂肪が鎧の様に固くなり独特の臭みが出て食用にならないらしいが、魔法迷宮にポップする奴は年がら年中繁殖期らしい。

 つまり凶暴で鎧を纏って突撃してくる厄介なモンスターだ。

 だが僕のゴーレムならば装備を替えれば対応出来る、突撃を抑える両手に盾を装備した二体と攻撃役に両手持ちアックス装備の四体を召喚した。

 

「駆け足で三階層のボス部屋の前まで来たけどさ。地図で確認すると、このボス部屋は広いね」

 

「確かに……今迄のボス部屋の四倍以上有りますね。ビッグボアの攻撃は突撃ですから」

 

「自由に走り回れる広さが有る。ポップ数は一匹だが前の様にはいかないか……」

 

 青銅製のゴーレムポーンでは厳しいか?だが三階層はレベル15前後でも攻略可能な筈だ。

 

「よし、ボス部屋に入るよ!」

 

「はい!」

 

 扉を開けてゴーレムポーンを先行させる、部屋の中は魔力光で仄かに明るい。部屋の中央辺りで急激な魔素の集まりを感じる……

 

「距離が有りすぎる、出現直後の攻撃は厳しいか……迎撃するぞ!」

 

 最後尾にイルメラ、その前に僕、ゴーレムポーンは防御役の盾持ちを中心に左右に両手持ちアックス装備を配した。

 作戦は盾持ちでビッグボアの突撃を止めてから攻撃、作戦の肝は盾持ちが突撃を止められるかだ……

 待つ事数秒、ビッグボアが実体化して雄叫びを上げた!

 後ろ足で床を何回か蹴った後、一気に突撃してくる。

 

「ゴーレムポーンよ、受け止めろ!」

 

 右側の盾持ちに突撃してくるので、その場で腰を屈めて衝撃に備えさせる。

 

「なっ?堪えろ!ストーンブリット」

 

 ゴーレムポーン一体では押さえ切れず跳ね飛ばされたぞ?

 咄嗟にビッグボアの顔にストーンブリットを打ち込み怯んだ所を攻撃役のゴーレムポーンが左右から叩きつける様に後ろ足を潰す。

 動きを完全に止めてから更にダメージを与えて倒す事が出来た……

 

「危なかった、まさかゴーレムポーンが跳ね飛ばされるとは信じられない」

 

 跳ね飛ばされたゴーレムポーンは盾が凹んでいるので完全に力負けだ、アックスでの攻撃は硬質化した脂肪の鎧にも致命的なダメージを与えられる。

 単調な突撃のみの攻撃に低い防御力、でも下層階のボスとしたら強い方だと思う。

 

「リーンハルト様、肝です、レアドロップアイテムですよ」

 

 イルメラから手渡された肝は大豆の様な形の黒い塊だ、大きさは20㎝位から……

 

「うん、有り難う。でもビッグボアに青銅製のゴーレムポーンでは苦戦するな……仕方ない、鋼鉄製のゴーレムナイトに切り替えるか」

 

「ゴーレムナイトですか?」

 

 イルメラさん、首を傾げる仕草が可愛いです。

 まさか三階層でコレを使う事になるとはな、予定ではもう少し下までポーンで頑張るつもりだったんだが……

 

「クリエイトゴーレム、出でよゴーレムナイト!」

 

 青銅製のゴーレムポーンを還してから、ゴーレムナイトを召喚する。身長160㎝の青銅製から200㎝の鋼鉄製に変えた事により威圧感が半端無い。

 ゴーレムナイトは効率良く制御出来るのは四体迄だったので、ボス狩りで訓練を積む事にする。

 

「リーンハルト様……その、凄く大きいです」

 

「前にグレートデーモンを倒した時よりも精度が上がってるだろ?コレが今の全力全開のゴーレムナイトだよ」

 

 ツヴァイヘンダーにタワーシールドを装備した鋼鉄製の巨人、これならビッグボアの突撃も止められるだろう。

 

「イルメラ、扉を開けて外を見て。誰も居なければリベンジだ!今日は20回を目標にしよう」

 

「分かりました……誰も居ませんので閉めますね」

 

 彼女が扉を閉めた瞬間、部屋の真ん中の魔方陣が発光し始めた。よし、二回目は苦戦せずに頑張るぞ!

 

 実体化して雄叫びを上げ身体を左右に振って威嚇するビッグボアに、今度はゴーレムナイトを二体突撃させる。

 200㎝を越える上背から振り下ろすツヴァイヘンダーの一撃は、容易にビッグボアの頭蓋骨を叩き割る事が出来た。

 

「凄いですね、青銅のゴーレムさん達と比べると大人と子供みたいです」

 

「うん、数さえ揃えれば下層階でも通用するかな。でも制御が甘いから訓練を兼ねてビッグボアを狩るよ」

 

 さて、残り三時間位だから一回10分として18回、20回迄頑張るか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ふぅ、お楽しみの10回毎のアイテムは……宝石だね、綺麗だけど換金アイテムかな?鑑定は……やはり宝石か、ルビーだね」

 

 掌の上の3㎝程の深紅の宝石を転がす、カット前の原石みたいだから売っても金貨30枚位かな?

 宝石の価値は難しい、加工前の原石の買い取り価格は安いが、カットが素晴らしければ倍以上になるだろう……

 

「綺麗ですね、でも私は魔法石の方が好きです」

 

「換金するのも微妙だね、今は入手手段を言えないから売る事も出来ない。まぁ錬金の素材として使えるからイルメラ用の装飾品を……」

 

 ルビーは魔力との相性の良い宝石だ、3㎝クラスならそれなりの物を作る事が出来るし集めて損は無いな。

 

「切り良く20回、あと10回戦って終わりにしよう」

 

「分かりました、頑張ります」

 

 11回目の挑戦を始めた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 最初は強敵と思ったビッグボアもゴーレムナイトに掛かれば楽勝とは言わないが負けはしない。

 ポーンよりは難しい制御も問題無くこなせる様になってきた。

 

「疲れたかい?」

 

「いえ、大丈夫です。肝は六個集まりましたね。通常のドロップアイテムは獣皮ですね、素材アイテムです」

 

「うん、革の鎧の中には毛皮バージョンも有るからね、需用は別だけどさ。さぁ帰ろうか……」

 

 山賊じゃあるまいし毛皮のマントや腰巻きとかは嫌だよな。20回達成、収穫はルビー2個に獣皮5枚に肝が6個か、悪くはない収穫だ。

 レベルも21に上がったしビッグボアは経験値が美味しいのかもしれない。


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