古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第435話

 リズリット王妃とセラス王女、ミュレージュ殿下とのお茶会だが予想外の慶事により予定が狂いそうだ。

 

 パミュラス様がアウレール王の御子を無事に出産した事により、王宮と後宮が慌ただしい事になっている。女官達が忙しかった意味が分かった、順位変動による引っ越しとかだな。 

 後日正式に発表が有るが、この慶事に模擬戦とか血生臭い事は控えるべきだよな。

 明日発表となり半月後辺りか場合によってはもっと早く御子誕生の祝いを行うだろう、他国からも準国賓級の連中が大挙する。

 僕も宮廷魔術師として王宮内の警備に当たる事になるな、本来王宮内の警備は宮廷魔術師の仕事の範疇だ。最近は自分が主賓で参加する側だったが、今回は違う。

 多分だが担当は宮廷魔術師で女性であるラミュール殿になるだろう、アウレール王の後宮に男子は入れないしサリアリス様は濡れ衣だが前王暗殺の疑惑が有る。

 公式行事の会場では僕が警備を担当するかもしれない、ゴーレム特化魔術師の僕なら警備や防衛は適任だから……

 

 メルメスク公国出身のパミュラス様がアウレール王の八女を産んだ事により、後宮人事も変わるだろうし大変だよな。

 確か割り当てられた部屋って順位が有るし、待遇も変わる筈だ。男子禁制だから女官達が引っ越しをする筈だが、重たい家具とか運べるのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 表面上は長閑な時間が流れる、王族とのお茶会は腹芸が出来なければ苦労する。和やかな雰囲気を保ちつつ、相手の話の裏を読む必要が有る。直球で要求は言ってこない余裕が彼等には……

 

「リーンハルト殿、新しいマジックアイテム作成の件ですが……」

 

「姉上、狡いです。先ずは私の模擬戦の日程をですね!」

 

 無かったか……

 

 王族は臣下に対して直接的な要求はせずに含みを持たせる事により、要求以上の事を相手に考えさせて実行する。

 基本的に僕等はアウレール王の臣下であり他の王族の方々は直接的な命令が出来ないのが建前だ、勿論だが王族と臣下の貴族には超えられない壁が有る。

 リズリット王妃みたいに依頼という形で報酬を用意されて命令されれば断れない、それが身分の差だ。

 彼等の言葉は重いので言質を取られない話術が大切だと思うのに、この姉弟は自分の欲望に忠実だよな。

 リズリット王妃も苦笑いを浮かべている、気心が知れていて安心している相手だと思っているか思わせたいか……

 

 まぁ自慢ではないが前者だな、リズリット王妃は僕の事を信用してくれている。その分、求められる要求も難易度も高いけどね。

 

「二人共、落ち着きなさい。先ずは私の話からですよ」

 

 諫めた言葉の内容が気になる、リズリット王妃からの依頼は魔力砲だけだが実験場の準備が出来たのか?

 優雅に紅茶を飲むリズリット王妃の方に身体を向ける、お茶を飲んで一拍空けて注意を集めた。僕も紅茶を一口飲んで気持ちを切り替える、非公式な場所でも王妃が用が有ると公言したんだ。

 

「アウレール王とも下話は済んでいますが、リーンハルト卿にはパミュラスと産まれた御子の後見人をお願いしたいのです」

 

「後見人ですか?」

 

 予想外のお願い(依頼)だった、アウレール王にも下話がついてるならば王命なので断れない。他国出身の側室と御子の後見人をエムデン王国の宮廷魔術師第二席の僕に頼む意味は何だ?

 

 急いで相手の目的とメリット、デメリットを考える……

 

 既にアウレール王にまで根回しして納得しているならば断れない、リズリット王妃の表情からは真意は伝わってこない。どうせ断れないし、返事は直ぐにしなければならない。

 

「分かりました、アウレール王も納得されているのならば問題有りません。具体的に何をすれば良いのでしょうか?」

 

 王の側室の後見人は送り込んだ者が行うのが常識、複数人の後見人が居る場合も同じ派閥か親族だ。

 既にパミュラス様には祖国であるメルメスク公国が後見人だと思う、貿易相手国だが行き来は少ない。

 だからエムデン王国の宮廷魔術師たる僕を巻き込んだ、理由の一つは援助だな。流石に荒稼ぎし過ぎて他の貴族から睨まれている、だから後見人として散財させるとか?

 僕には後見人になっても負担だけで利益は全く無い、だが他にも理由が有る筈だぞ。

 

「理由を聞かないのですか?」

 

 困った表情で首を傾げた、この王妃は常に凛とした表情をしているが時々あどけない顔をする。このギャップがアウレール王の寵愛を最も受けている理由かな?

 セラス王女は憮然としてミュレージュ殿下は頷いている、前者は単純にお気に入りの臣下が他の事に労力を取られるのが嫌だから。後者は僕にも負担を強いるという、同じ理由に至ったからか?

 

「出過ぎた杭には負担を強いねば、他からの不満が湧き出しかねない……でしょうか?」

 

 下級官吏の対処の見通しは立った、親族の引き締めは準備中。公爵五家の内、三家との仲は良好、残りは中立と敵対。

 侯爵七家はモリエスティ侯爵との仲は夫人絡みで良好、クリストハルト侯爵と他の二家とは敵対、残りの三家は不明。後は何処から不満が出たかな?

 

「打てば響くとはリーンハルト卿を表す言葉ですわね、確かに一つはアウレール王からの信頼を受け過ぎた事による周囲への不満解消。

もう一つはパミュラスは後宮内で私の派閥であり一番信用している子なのですが、遠方の国から来ているのでエムデン王国内で味方が少ないのです。それと……」

 

 リズリット王妃の話を纏めると、確かに僕は短期間でアウレール王の信頼を勝ち取って重用されている。

 臣下としても最上位に近い役職、僅か一ヶ月程度で金貨百万枚以上を稼ぐ財力。後見人に現役宮廷魔術師筆頭のサリアリス様、武闘派集団バーナム伯爵の派閥№4として武力も有る。

 更に他にも公爵三家とも関係は良好となれば嫉妬も警戒もするか。

 

 今は未だ不満がくすぶる程度だし下級官吏の嫌がらせ程度で済んでいる、だが中級クラスが結束すると少々拙い事になる。

 エムデン王国に貢献し続けていても、直接的に利害関係が発生すれば排除したがるのが人間だ。

 この大事な時期に僕を排してエムデン王国の軍事力が低下して国を危険に晒す事など考えない、先の見えない自分中心な馬鹿も多い。

 どうせ負担を強いるなら効果的な物が良い、つまり周囲から見ても見返りが全く無く面倒な事が良い。

 だがアウレール王やリズリット王妃に無関係でも困る、それで他国の側室の後見人を選んだ。

 

 確かに定期的に財力を消耗させられる、アウレール王の御子なのでエムデン王国からも予算が配分されるが王位継承権第二十一位では大して貰えない。

 年間金貨二万枚程度だと思う、御子が産まれたからプラス金貨三万枚で合計五万枚貰えれば良い方だな。

 これから御子が育つ事により色々と物入りになるだろう、その不足する費用負担も受け持つ事になる。

 だがアウレール王の直系とはいえ女性だから大した権力も無い、援助してもパミュラス様と祖国であるメルメスク公国が得をするだけで僕に利益は殆ど無い。

 有るとすれば領地が港町なので貿易相手として優遇される程度か?メルメスク公国の特産品てなんだろうか、確か南国だったから香辛料とかかな?

 

「最悪の場合、産まれた御子をリーンハルト卿が娶ってもエムデン王国の王位継承権争いには順位が低過ぎて参加は出来ない。ですが王家は得難い臣下を血族に迎えられる、一石二鳥の名案ですわね」

 

 ホホホッて品よく手で口元を抑えて笑っているけどさ、リズリット王妃の後宮での派閥の側室の援助を長期的にしろって事だぞ。

 

 どうせ負担を強いるなら自分の地盤固めに協力しろって事だ、序でに見返りも渡せる関係だぞって暗に示している。

 この暗にが曲者(くせもの)で、仮に見返りが無くても言質を取ってないから文句が言えないんだ。

 この駆け引きがリズリット王妃の二人の子供達は出来ない、自分の欲望に素直なのは良いが王族としての駆け引きが出来ないのは致命的だぞ。

 

 まぁセラス王女は婚姻外交要員だし、ミュレージュ殿下は近衛騎士団員だから平気なのかな?

 僕としても変な相手と関係を持つより、表向きはパミュラス様に援助しても裏にアウレール王とリズリット王妃が居てくれた方が助かる。

 金銭的な負担だけで僕に対する悪感情が減るなら逆に大助かりだよ、色々自分で動いて関係改善するより全然楽だから……

 

「臣下故に尊き血筋の姫を妻に迎える事は遠慮しますが、悪意有る周囲が考えそうな事ですね。

了解しました、一度パミュラス様と側近の方々に面会をお願いしたく思います。それと祝い金として金貨五万枚、毎月金貨五千枚の援助で宜しいでしょうか?」

 

 少し色を付けて提案してみる、今の僕なら大した負担じゃない。だが臨時の援助が必要な時が有る、それが結構キツい負担なんだよな。

 パミュラス様用の装飾品とか急な催しの費用とか、警備費も負担するのかな?女性の警備兵なんて直ぐには育てられないぞ、平民階級は無理だから主に血筋やマナーの件で……

 

「分かりました、私とアウレール王も同席した方が宜しいですわね。調整してきますのでセラス達のお相手をして下さいね」

 

 笑顔で部屋を出て行ったが、王妃自ら調整に出掛けるって事は御子誕生の発表の時に僕が後見人になる事を教えるって……

 

「リーンハルト殿!何故文句を言わないのですか?貴殿の今迄の貢献に対して、余りにも酷い仕打ちですよ」

 

「全くです、余所の国から来た側室(他の女)など放っておけば良いのです」

 

 リズリット王妃が出て行った方を見送っていたら、その子供二人に詰め寄られた。いや、貴方達は王族なのですから落ち着いて下さい!

 

 チラリと壁際に控える侍女に目線を送る、仕切り直す意味でお茶を入れ替えて貰った。

 落ち着きを取り戻した二人を見て思う、僕の事を心配してくれる王女と殿下が居るって凄い事だと思うぞ。

 不機嫌そうな二人に説明だけはしないと駄目だろう、出来れば母親の含みも理解して欲しいのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 全くあの子の頭の中ってどうなっているのかしら?流石に文句の一つ位は……立場上言えないわね、でも嫌な顔位はすると思ったのに表情に変化が無かったわ。

 鉄面皮って訳じゃなく特に嫌な話では無かったのだろう、それは話の本質と裏の両方を理解したのね。

 

「待たせたな、奴の反応はどうだった?」

 

 既に下話をしていたので政務の間に時間を空けて貰えた、明日の発表の前に話を纏めておきたい筈ですから。

 人払いを済ませた密談用の個室に入る、長く時間は取れないから手早く話さなければ駄目ね。

 

「リーンハルト卿ですが特に不満はなさそうでしたわ、パミュラスの後見人の件も了承してくれました」

 

 我が子が産まれたにしては未だ会いに行ってないと聞いたわ、これから一緒に会いに行く訳よね。

 この人は王である為に家族愛や親子の絆は不要、情を全く関与しない判断も下す事も出来る。愛しい我が子も政治の道具でしかないのよね。

 

「簡単に了承したみたいだが、後見人の意味は知ってるよな?」

 

 理解?そうね、理解と言うか援助の適正な金額を知ってたわね。後宮の順位変動にも合わせた金額だったわ、どこで教わったのかしら?

 

「祝い金に毎月の援助、金額も相場も適正でしたわ。祝い金に金貨五万枚、毎月金貨五千枚。あの子も楽になるでしょう」

 

 今迄は他国から来た事により味方が少なく苦労させてしまったわ、子供が生まれても女の子では王位継承権も低い。

 だが王女の生母として今後は色々と忙しくなる、その後見人としてリーンハルト卿は最適。地位・権力・財力・そして名声、彼の庇護下に置かれればパミュラスと御子は安全。

 

 最近は他の側室の部屋に渡る事が少なくなったわ、もう今の側室達が御子を授かる事は無いでしょう。何年も寵愛を受けてない側室達は臣下に払い下げか金銭を与えて実家に返す事になる、その払い下げの相手の人気№1がリーンハルト卿。

 ですが、パミュラスの後見人にする事で回避出来る、後見人が他の側室達と縁を結ぶ事は無い。今後宮に居る側室の内、二十人前後は整理する予定。

 バニシード公爵とクリストハルト侯爵絡みは全員叩き出す、新しい側室を迎え易くしなければ駄目なのよね。

 

「年間金貨六万枚、だが追加援助も頼まれるだろうから金貨八万枚前後か……それを簡単に提案して来たか、負担を強いるなら見返りは必要だぞ」

 

 今回の件は、ニーレンス公爵の時とは違う。財力を削ぐ為に負担を強いる訳ではない、だが我が夫はリーンハルト卿に配慮している。

 本当は負担を強いる事に反対なのだ、周囲の不満解消に仕方無く行うのよね。まさか国王に何度も配慮させる臣下が居るとは驚きだわ、ある意味では我が子達よりも大切にしている……

 

「はい、ローゼンクロス領にはローゼンクロアの港街が有ります。メルメスク公国との貿易に助力しますわ、王都周辺の商人に支持されてますから利益は直ぐに出せるでしょう」

 

 私のマゼンダ王国とパミュラスのメルメスク公国とは友好的な関係、その縁も有りパミュラスはアウレール王の側室に迎えられた。

 

「セラスの遊びの王立錬金術研究所の成果品の買い取りにも色を付けろ、奴の高品質なマジックアイテムと配下の安価なマジックアイテムの生産も軌道に乗りつつ有る」

 

 そうね、配下の育成と資金調達も順調だわ。年間金貨八万枚程度では負担にすらならない、あの子って本当に何者かしら?

 

「そうですわね、雷光の他にも四種類のレジストストーンも有ります。そろそろ次の新しいマジックアイテムの作成も依頼しますし楽しみですわ」

 

「来月にはバーリンゲン王国に結婚式に行かせる、余り負担を掛けるなよ。

三ヶ月前後で旧コトプス帝国の糞共の動きが有るだろう、奴にはバーリンゲン王国を抑えて貰う予定だ。折角指名で呼ばれたのだ、奴の事だし良く観察して来るだろう」

 

 正規の街道から王城へと移動出来るから事前に地理を調べる事が出来る、生で見れる情報は貴重だわ。

 我が夫はウルム王国方面は先の大戦の関係者を配置し、リーンハルト卿にバーリンゲン王国の抑えを任せるつもりね。

 バーナム伯爵の派閥と常備軍の一軍団を与えれば、あの子なら一国相手でも何とかしそうだわ。

 

 その後、幾つかの問題点を話し合ってからパミュラスと御子を此方に呼ぶ事にした。

 漸く産まれた我が子に会えるのに嬉しそうじゃないわね、パミュラスが悲しむから最初に労りの言葉を掛ける様に話しておきましょう。

 


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