古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第437話

 パミュラス様と御子様との謁見を終えた、互いに満足とはいかなかっただろう。

 僕の方は裏の事情まで教えて、尚且つアウレール王が援助について無理な負担は掛けるなと釘を刺した。

 パミュラス様の方は後見人として祝い金で金貨五万枚、月々金貨五千枚を援助して貰うが僕への周囲の不満の解消の為だけに選ばれたんだ。

 自分や御子の為でなく誰でも良かったとか言われたら傷付くだろう、しかもアウレール王は自分達より僕を優先した。

 しかも連絡係が自分の側近でなくレジスラル女官長なのが嫌なんだな、後宮の女官達はアウレール王に仕えていて彼女達には仕えていない。

 あくまでも仕えし国王の側室だから世話をするんだ、自分が連れて来た側近達とは違う存在だ。

 

「疚(やま)しい気持ちが無い事を証明したかったのですが、パミュラス様を悲しませてしまいましたね」

 

 隣を歩くレジスラル女官長に聞いてみる、女官長的に何点の対応だったのか気になる。

 チラリと横目で見たのだが表情は変わらない、だが身に纏う雰囲気は悪くはない。怒ってるとか呆れてるとかじゃない、近いのは満足感かな?

 

「悪くは有りません、寧ろ正解です。国王の側室なのですから、本来なら親族以外の異性からの接触は厳禁なのです。

それに側室達の側近など信用するに値(あたい)しません、彼女達は自分の仕える女主の為なら周囲の側室達に色々な妨害もする困った存在です」

 

 表面的な美しさに騙されてはいけません、一皮剥けばドロドロなのですよって、夢の無い事を教えられた。

 ハーレムは男の浪漫とか究極の夢とか兄弟戦士に言われたけど、それは叶えた事が無いから言えるんだ。実際は愛憎渦巻く修羅の世界だ、僕も五人も娶るんだし気を付けよう。

 

「そうなんですか?僕としてもパミュラス様と直接会うのは今回が最後だと考えていますので良かったです、これから宜しくお願いします」

 

 あの三人の侍女は信用出来ないのか、側室達に仕える侍女達全てが信用出来ないのか分からない。

 確かに寵愛を競う女主の手助けをするなら綺麗事だけじゃ無理か、後宮内の順位も上がるし陰湿で熾烈な争いが日常茶飯事なのか……

 

 分かった事は、後宮を仕切るレジスラル女官長は侍女達を信用していないんだな。

 確かに資金援助はするけど、アウレール王の寵愛を得る為に着飾りたいから追加資金援助とか言い出しそうだ。

 我が子や親族がアウレール王の御子を妊娠するとなれば、王族の外戚となれるんだ。数多(あまた)居るライバルよりも目立ちたい、綺麗になりたい気持ちは理解出来る。

 

 僕は全くの無関係だし追加資金援助は遠慮したい、それも有ってアウレール王とレジスラル女官長がパミュラス様と侍女達を牽制してくれた?

 

「私達は此処までです、マナー教育については後で連絡を入れます」

 

「有り難う御座います、助かりました。マナー教育の件は宜しくお願いします」

 

 面会場所である応接室は王族の生活区画だったので、外に出るまで誘導してくれたんだ。この区画を一人で移動するのは駄目だった、色々と気を使わせてしまったみたいだ。

 深く一礼してから自分の執務室に向かう、レジスラル女官長だがアウレール王に忠誠を誓うならば協力してくれそうだな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 慣れ親しんだ廊下を一人で歩く、此方の区画も侍女達が慌ただしく動いている。レジスラル女官長いわく、アウレール王の御子誕生という慶事を迎える為に王宮内を清めているそうだ。

 

「要は一斉清掃か、彼女達も大変だよな」

 

 庭師も庭園の清掃に忙しく動いている、花見の時は落ち葉一つ無かったし徹底しているのだろう。

 この様子なら明日には発表が有りそうだ、御子誕生だし謁見の間に文武百官位集合かな?

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様。頼まれていた報告書が届いてます」

 

 今回の出迎えはセシリアだけか、報告書の事も有るから読む時に一緒に居て質問に答えてくれるんだな。

 

「ただいま、セシリア。早速確認させて貰うよ」

 

 諜報が得意なセシリアにマーリカ嬢とお祖父様、それにアルノルト子爵家の事を調べて貰ったんだ。

 彼女はローラン公爵の縁者であり、ローラン公爵家が抱える諜報員は有能だ。依頼するには見返りが必要だが、僕には諜報が得意な知り合いなど居ない。

 いや、確か娼婦ギルドが得意らしいとバレンシアさんに教えて貰ったけど、彼女達に頼むのは嫌だ。

 

 執務机の上に三冊の報告書が置かれている、一番上はマーリカ嬢のか……

 

 十八歳でクラウニー子爵に本妻として嫁ぐ、年齢が一回りも違うし完全な政略結婚だ。

 十年間の結婚生活で子供は出来ず、彼女が二十八歳の時にクラウニー子爵が死亡した。

 貴族院の記録によれば不審な点が有り他殺の疑いが濃く、容疑者として調べられたのが二人。

 

 実弟のボルグ殿と四人居た側室で唯一子供を産んだ、ノーラス嬢だが証拠が無かった。

 貴族院も疑わしきは罰せずでノーラス嬢の子供に相続を認めた、但し正式には成人後とし後見人をボルグ殿にした。

 何とも玉虫色の判定だが、直ぐにノーラス嬢の子供が事故死した事により事態は一変する。

 

 マーリカ嬢とノーラス嬢は僅かな金銭を受け取り実家に返され、クラウニー子爵家はボルグ殿が継いだ。

 この後継者の連続死を疑問視した貴族院も調査したが、結局他殺の証拠は見つからなかった。

 マーリカ嬢とノーラス嬢にも話を聞いたが、我が子を亡くしたノーラス嬢は悲しみで精神が病み王都を離れ静養先で死亡。

 

 この件について、マーリカ嬢は特に何も言わなかったそうだ……

 

「典型的な御家騒動だね、ボルグ子爵が怪しいが証拠を残す事はしないか。会った事が無いから、どんな人物が分からないんだよな」

 

 狡猾で強欲な人物だろう、兄の後を継ぐ為に殺人までするんだ。まぁ貴族連中には普通に居るんだよな、珍しくもないか。

 

「領地に引き籠もり王都に来るのは年に数回です、領主としては及第点で領地経営は普通ですが領民からは慕われています」

 

 む、第一印象が変わったぞ。狡猾で強欲な人物が領民を虐げずに領地経営が出来るのかな?

 淡々と話すセシリアからは特に険悪な雰囲気は無い、つまりボルグ殿の事を悪くは思っていない。悪辣な人物だったら話題にする時は何かしらの反応が有ると思うんだけど……

 

「私利私欲が原因の御家騒動だと思ったけど違うのかな?」

 

「これは私見ですが、私達が調べた結果から推測すると……」

 

 セシリアが私達と言った、つまりローラン公爵家の諜報部隊がって事だ。

 

 前クラウニー子爵だが典型的な破滅型の貴族で有能だが強欲、領地から絞り取れるだけ税金を取っていた。女癖も悪く本妻なのに子供を宿せないマーリカ嬢に辛く当たっていた。

 側室のノーラス嬢は元は貴族相手の高級娼婦らしく、クラウニー子爵の子供かも不明らしい。同時期に他の客とも肉体関係が有るからな、実子の断定は難しいだろう。

 彼女自身も浪費家で派手好き、クラウニー子爵家の衰退の原因の一つだった訳だ……

 そしてボルグ殿だが無能ではないが要領が悪く真面目で人との付き合いが苦手、兄からは愚弟と蔑まれていた。

 

 そんな彼が運だけでクラウニー子爵家を相続出来たと考えるのは甘い、甘過ぎるよ。

 

「マーリカ嬢が影で動いた、クラウニー子爵家と領民を守る為に邪魔な二人を排除したのか……だが目的の為に幼い子供まで殺すとは手段を選ばない狡猾さを持っている」

 

 人当たりの良さは擬態か、あの笑顔の仮面の下にどんな本性を隠しているのか分からない。自分の派閥に引き込んだのは失敗だったかな?

 

「自分の利益は無視で領民を思いやる、ですが目的の為なら子供も殺す。大の為なら小は切り捨てる非情さを持っているのでしょう、彼女の周囲では他にも原因不明な事故死や病死が起きています」

 

「死んだ連中は全員悪人で、マーリカ嬢とは直接的な接点は無いんだろ?」

 

 幾ら隠そうとしても人が死ねば容疑者や関係者として噂話にはなる、だがマーリカ嬢の場合は聞いた事が無い。

 悪人を裁くが責任が追求されない手段を講じている、自分の中に善悪の明確なルールが有るんだ。そのルールを破った奴は抹殺する、それが当然だと信じていそうだな。

 

「マーリカ嬢については、もう少し調べて欲しい」

 

「分かりました、慎重に調べますので時間を下さい」

 

 自分に嫌疑が掛かってると知れば人知れず反撃するタイプだな、慎重過ぎる方が良い。僕が調べさせているとバレたら大変だしセシリアの判断は助かる。

 

 次はお祖父様の、バーレイ男爵家についてだが……

 

 報告書を読み進めて思う、僕は母上を貶された事で嫌悪感を持っていた。

 だが貴族の当主として父上と母上の結婚に反対した事は間違いではないと今は分かる、救国の英雄でも平民を本妻として娶った事は問題だ。

 側室なら良かった、だが父上は母上と結婚し家を飛び出して二人で暮らし始めた。その後で貴族の柵(しがらみ)に逆らえずエルナ嬢を迎えた、ここで正妻をエルナ嬢とし母上は側室となったんだ。

 結婚には反対したが勘当も廃嫡もしないし妨害もしなかった、結婚後は疎遠になったがお祖父様なりに父上を愛していたのか……

 

「自分の家を興して当主になったから分かる苦悩か、確かに平民と蔑んで距離を置かれたが対応としては普通だったとはね。

貴族の常識も知らずに感情論だけで敵視していたのか、僕は世間知らずの馬鹿な子供だった訳だ」

 

 お祖父様からの接触も今までは世間体を考えて平民との間に生まれた孫に会えなかった、そんな所だな。

 

「リーンハルト様……」

 

 普段は冷静で腹黒いセシリアの慈しむ様な視線に恥ずかしくなる、父上や母上にも落ち度が有った。

 好き合っているからと暴走したが、誰か他の貴族と養子縁組みをするとか側室か妾にするとか他にも方法は有った。

 結局は勢いに任せて家を出て結婚したが、アルノルト子爵家の申し入れ通りにエルナ嬢を娶ったんだ。

 だが父上もエルナ嬢の事を気に入って色々とアプローチしたとも聞いた、我が親の事だが男女間の事は難しい。

 

「領地経営が上手く行ってない件もか、大して調べずに資金援助を強請られると考えたけど……」

 

 確かに領地経営は厳しい状況だ、理由は五年前の天候不順による農作物の不作と追い討ちを掛けた疫病か。

 死亡率が高かった事により多くの領民が亡くなった、お祖父様は私財から医者を呼び寄せ領民を治療させた。

 僧侶の魔法は病気には効かない、体力の回復程度で根本的な治療は無理なので医者に頼るしかない。

 厳しい財政を回復する為に色々な事業に手を出して失敗、借金が嵩んで総額金貨八万四千枚か。

 

「陶工を招いて特産品を作ろうとか、窯を作るだけでも初期投資が掛かる。出来た陶器の品質は普通、利益は出てるが僅かなのか」

 

 他にも色々と手を出しては成果を出せずに止めている、何とか領地経営の収支は黒字に変わったが借金の返済は利子で消えるか……

 

「借金の相手はマテリアル商会か、貴族相手に金を貸せる商人は少ないから予想の範囲だな」

 

 接触したくない相手だが、お祖父様の借金は僕が肩代わりして払う事にする。だが証文の変更が必要だ、借金返済はお祖父様に対する保険だ。

 チャラじゃない、お祖父様は僕に無利子・無担保・無催促で借りた相手がマテリアル商会から僕に代わるだけ。

 派閥もバセット公爵から代わって欲しいし、変な勧誘も断らせる必要が有る。ニルギ嬢の件も有るし、親族だからと全ては信用は出来ない、嫌な考えだが枷は必要だ。

 

 方針を決めて最後のアルノルト子爵家の報告書を読む……

 

「これは酷いだろ!」

 

 読むのを途中で止めて天井を見上げる、エルナ嬢の親族で母上の仇として警戒はしていた。

 だが領地経営とか経済状況までは調べてなかったが、酷過ぎるぞ!

 

 


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