古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第44話

 20回目のビッグボア狩りを終えて一息つく。ゴーレムナイトに変えた事と慣れによりオークみたいな複数のボス戦より効率的に倒す事が出来た。

 だが流石は三階層のボスだけあり、猪突猛進かと思えば知恵が回る。

 広い部屋を駆け回って撹乱したり此方から近付く迄その場で威嚇してたりと攻撃パターンが増えてくるのだ。

 油断すると後衛に突撃して来てヒヤリとした事も有った。

 だがゴーレムナイトの制御も大分慣れてきたので来週末に再挑戦すれば目標の肝20個は集まるだろう。

 ゴーレムナイトを魔素に戻す、通路にポップするモンスターならゴーレムポーンで十分だし無闇に手札を広める必要もない。

 僕はバルバドス氏に青銅製のゴーレムで挑んで負けたのに、その日に鋼鉄製のゴーレムを連れ歩いてましたじゃ彼を見縊っていたみたいに取られて大騒ぎだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ボス部屋を出ると他のパーティが待っていた、男女混合の若い連中が僕とイルメラを不思議そうに見ている。

 年齢は僕と変わらないかもしれない、まだ幼さの残る連中だな。戦士職三人に盗賊職二人、平均的なパーティ編成。

 良く手入れをされた装備類だが高価な物ではない、普通の市販品だな。

 リーダーらしきチェインメイルを装備した戦士の少年が話し掛けてきた、敵意の無い様に武器に手は掛けていない。

 

「お疲れ様、ここボス部屋だよね?」

 

 少し不思議そうな顔をしているけど何故だ?

 

「待たせましたか?確かに此処はボス部屋ですよ」

 

「そうだよな、間違いないよな?凄いなビッグボアを一人で倒せるなんて、レベル高いんだろ?」

 

 一人で?ああ、僧侶のイルメラは直接戦闘には参加しないって意味か?

 確かにレベル20以上の戦士でも一人ではキツい敵だな、ビッグボアは……

 

「ん、まぁね。僕等は帰るからボスに挑むなら頑張ってくれ」

 

「ああ、ありがと。僕はキプロスで僕等は『マップス』だ。コイツ等はラギアスにムラン、それとヘラとマーサ」

 

 名前を呼ばれて順に会釈したり手を上げたりと反応してくれたので名前と顔は一致した。レベルは15前後だろうか、彼等ではビッグボアには苦戦しそうだが……

 

「僕は『ブレイクフリー』のリーダー、リーンハルト。彼女はイルメラ、モア教の僧侶です。

ビッグボアの突撃はマトモに受けたら跳ね飛ばされますよ。躱してダメージを与えるしか無いと思う。では、頑張って下さい」

 

 最低限の助言なら嫌味にならないだろう。実際に彼等の装備……ショートスピアやロングソードでも致命傷を与える事は出来る。

 

「軽戦士一人で倒せるんだろ?楽勝だぜ」

 

「そうだな、ビッグボアは一匹らしいし油断しなきゃ大丈夫さ。アンタも一人で倒してるじゃないか」

 

 ラギアスとムランだっけ?確かに戦士職三人なら大丈夫か……

 僕等みたいにゴーレムだからとダメージ無視は出来ないが、その分安全対策はしてるだろうし。

 

「そうだね、悪かったよ。じゃまた会えた時は宜しく!」

 

「おぅ、お互い頑張ろうぜ!」

 

 互いに挨拶をして別れた。普通に他のパーティと交流出来たのって久し振りだな。マップス、地図かな?変わった名前だよね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 冒険者ギルドの出張所に向かい受付でギルドカードの更新をお願いする。

 何故か毎回受付のお姉さんの生暖かい笑顔が気になるんですが、彼女にも僕等の秘密がバレてるのかな?

 

「ギルドカードの更新をお願いします」

 

「はい、預かります。確認しますね……まぁ、レベルアップおめでとうございます。レベル21ですね、凄く早いペースですよ」

 

 レベル21、漸く一人前として認められる根拠となる強さ。暫くはビッグボア狩りをするから、どれだけ経験値を貰えるかだな……

 受付嬢にお礼を言って別れるとヒラヒラと手を振ってくれた、大分態度が砕けてきたのかな?

 買い取りカウンターへ向かうと買い取り待ちが三組居たので暫く待つ。

 漸く僕等の番になったが何時ものダンディーがニヒルな笑みで迎えてくれた。今日の戦利品である肝をカウンターに並べる。

 

「ほぅ、最初から6個とは頑張りましたね」

 

 肝をカウンターに並べだした時に妙に嬉しそうに言われたが、そんなに品不足なのか?

 

「今日は午前中野暮用が有って迷宮探索には午後からだったんですよ。来週末で集中的に集めますから、他には……」

 

 その後に獣皮と途中で遭遇したゴブリンやコボルドのドロップアイテムを並べていくが数は少ない。

 

「いや、一日頑張っても一個集められるかが普通なんですけどね。まぁ良いです、他には……今日は三階層を中心に探索したんですか、有り難う御座います」

 

 やはりドロップアイテムだけでパーティの行動をある程度予測出来るんだな。

 流石は冒険者ギルドから七つしかない魔法迷宮を任されているだけの事はあるね。

 

「今日は三階層のボス部屋で『マップス』ってパーティと知り合いましたよ。僕と同い年位の連中が頑張っているのは嬉しいですね」

 

 十代半ば、全体的に駆け出し感溢れた連中だったけどお互い魔法迷宮の初心者だから頑張って欲しい。

 

「ふむ、『マップス』ですか……最近バンクに来始めた連中ですね。ボスには挑戦してなかった筈ですが、ビッグボアにですか……」

 

 彼等は最近バンクを攻略し始めたのか、三階層で初めてボスに挑む。確かに二階層のオークよりは戦い易いとは思うが大丈夫だろうか?

 因みにビッグボアの肝は金貨5枚で獣皮は金貨1枚銀貨5枚で売れた、それだけで金貨37枚銀貨5枚になる。

 やはりボス狩りは資金的にも経験値的にも効率が良くて助かる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 待ち時間のせいで遅くなり外は薄暗くなってしまった、見上げれば星が輝いている。

 星の役目は重要だ、方位や季節を知らせてくれるし占いのスキルが有れば大まかな吉兆も分かるらしい……

 

「春の星座か……綺麗だね……」

 

「ふふふ、リーンハルト様は吟遊詩人みたいな事を言いますね。でも確かに綺麗です」

 

 暫し二人で夜空を見上げる、そう言えばマリエッタは星読みのスキルを持っていたな……

 

「熱々だな君達。後で思い出したんだけどさ、『ブレイクフリー』のリーンハルトって少年魔術師だろ?何故に軽戦士の装備なんだよ?」

 

 む、振り向けばボロボロな『マップス』の連中が居た。

 一応全員無事みたいだがリーダーのキプロスはショートスピアを杖代わりに何とか立っている感じだ、チェインメイルも肩口が解れているが大きな怪我は無いみたいだ。

 

「む、無事でなにより。この格好は勧誘よけと単純な防御力アップだよ。後衛でも弓矢は飛んでくるんだぜ、ローブじゃ防げないだろ?」

 

 そう言ってラウンドシールドを持ち上げる。

 

「魔術師が盾とか珍しいんだけど、普通は両手持ちの杖だろ?まぁ確かに騙されたけどさ、当然勧誘もするよ。どうだい、マップスに入らないか?」

 

 直球で来たけど悪い気がしないのが不思議だな、他の連中からの勧誘は面倒臭いので嫌な気持ちになったんだけど……

 

「悪いけど効率が悪くなるから断るよ、僕等は後は盗賊職を一人迎えて終わりにする予定だ」

 

 盗賊職の下りでマップスの女性陣から熱い視線を感じたが引き抜きは駄目だと思う。

 

「そうだよな、ビッグボアの経験値を半分こはメリットがデカいよな。俺等だと五分の一だし効率は悪いよな。でも死にそうになったんだぞ!」

 

 いきなりキレたぞ……

 

「何だよアレは?最初の突撃で三人吹き飛ばされたぞ!しかもショートスピアの先端折れるし、ロングソードも歯こぼれしたし……

ドロップアイテム無いし踏んだり蹴ったりだったぞ」

 

 八つ当たりだろうか?愚痴だろうか?判断に困るが『マップス』の他の連中も頷いている、つまり愚痴だな……

 

「それは御愁傷様だったけどさ、ギルドのマップに注意事項が書いて有った筈だよね?」

 

 ギルドで買ったマップには注意事項やお勧め装備とか書いてある。ビッグボアは突撃を逆手に取るスピア系かダメージ大のアックスやメイス、ダガーやレイピアなどの武器強度の弱い物は駄目だと……

 

「俺達は『マップス』だから自分で迷宮の地図を作りたいんだ!」

 

 嗚呼、マッピングを商売にするパーティの事か!確か迷宮で未到地の部分の詳細を調べてギルドに売る連中が居るらしいが……

 

「そうですか、頑張って前人未到な場所の詳細を調べて地図を完成させて下さい。では、またね」

 

 未だ低レベルなのにパーティの将来について明確なビジョンを持ってるなんて素晴らしいな。

 僕は早くランクCになる事しか考えてないやとか考えていたら盗賊の女の子達が近付いて来た……売り込みか?

 

「エレと仲良くしてますか?」

 

「あの子って無口で無愛想だけど悪い子じゃないです、腕も良いんですよ」

 

 エレ?無口で無愛想?思い当たる人物が居ない。無愛想な奴なら一人居るが……ゼクスとか。

 

「ごめん、人違いじゃないかな。エレって人を知らないんだけど誰?」

 

 えっと、凄く微妙な顔をされたけど本当に知らないぞ。

 

「リーンハルトさん、冒険者養成学校に通ってますよね?」

 

 黙って頷く。

 

「もう始まって一週間過ぎましたよね?」

 

 黙って頷く。

 

「「エレも新入生です、同級生です!」」

 

 あー、うん。そっか、僕って同級生の連中から遠巻きに見られてるんだよな。ハブられては無いと思うけど積極的なのは女性三人しか居ないや……

 

「えっと、ごめん。僕は学校じゃ浮いてる存在だから同級生とかと交流が殆ど無いや」

 

 主にベルベットさんとギルさんとウィンディアの所為でね。

 

「その、すみません。仲間外れ……」

 

「違う!アクの強い連中が周りに居るから……だと思うんだ、多分……」

 

 何故かイルメラが優しく肩を叩いてくれた。何故かな、悲しくなってきたぞ。

 

「その……エレって存在感が希薄だから知らなくても大丈夫です!」

 

「そうですよ。小さくて可愛いんですけど、前髪を下ろしていて顔が見にくいんですよ。恥ずかしがり屋だから自分からはアピールしないと思うので宜しくお願いします」

 

 二人揃って深々と頭を下げて頼まれてしまった。つまり彼女達も盗賊ギルドの方針を知っていて、エレさんは四人の候補者の一人なんだな。

 でも人見知りの恥ずかしがり屋だから自分からは僕にアピール出来ない、でも盗賊ギルドの推薦枠には入るだけの技量と素質が有る子か……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 強制参加の実地訓練、二回目を迎えた。既にパーティ編成表は黒板に貼られている。

 学校の方針なのだろう、毎回メンバーを変えるので恒例の自己紹介タイムだ。

 

「さぁ二回目の実地訓練だ!サクサク自己紹介を済ませて出発するよ」

 

 先生の簡単な説明の後に今回のパーティメンバーを見回す、僕以外は男三人女一人だが全員話した事が無いや。

 僕って実はコミュニケーション能力が低いんだな……

 

「じゃサッサと始めてようぜ。俺はカシー、レベル12の戦士。得意な得物はコレだ」

 

 掲げる武器はランスだが突撃槍とは珍しいな、今回は徒歩だけど……

 

「僕はバックス、レベル9戦士です」

 

 革鎧にロングソードとオーソドックスなタイプで大人しそうだが筋肉質だ。

 

「ジャミ、レベル11の戦士」

 

 背が高いな180㎝以上は有るんじゃないか?得物はエストックとは珍しい。レイピアよりも丈夫で達人ならば鎧も貫通させるらしい。

 時計回りに紹介が続いたので次は自分の番だ。今回は名前とレベル、それにクラスだけとシンプルな流れだな。

 

「リーンハルトです。魔術師でレベルは21です」

 

 嗚呼、皆さん何とも言えない顔をしたな。その一人前と認められるレベルで学校に来るなよって感じか……

 

「強い奴が仲間で助かるけど学校必要か?」

 

「世間知らずな貴族の子供が無事に生きていける世界じゃないだろ、冒険者家業ってさ」

 

 何も言わないが納得はしてない顔だな。まぁ最速でランクCを目指すんだけどさ。そう言えば最後の女の子って……


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