古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第447話

「ふぅ、戦った後の風呂は最高だな」

 

「そうですな、流石に戦場では無理だが模擬戦とは言え実戦さながらの内容に満足出来たぞ」

 

 バーナム伯爵の屋敷の大浴場は広い、湯船に二十人は入れる広さが有る。華美な装飾は無いが落ち着いた黒御影石を使っている、武人らしく質実剛健だ。

 予想していたが風呂付きのメイドが居て有無を言わさず身体を洗われた、最近は恥ずかしいって感覚が擦り切れてきたな……

 自分の屋敷では一人で入るけど、同じ貴族の友人なりが泊まりに来た時用に風呂付きメイドも雇っておかないと駄目なのだろうか?

 アーシャには風呂付きメイドが居るが、彼女達が他の客の面倒まで見てくれるかは分からない。

 世話無しで一人で入れとか失礼に当たるんだろうな、少し使用人の増員についてジゼル嬢と相談するか……

 

 湯船から両手で湯を掬い顔をバシャバシャと洗う、今は関係無い余計な事は考えるな!

 

「あれだけの戦いの後なのに、お二方共に無傷ですね?明らかに可笑しくないでしょうか?」

 

 殆ど全力だった、お互い何発も攻撃が当たっていた筈なのに無傷。僕も魔法障壁で防いだが、後半は多重障壁に切り替えても何枚かは抜かれたんだ。

 

 しかし二人共凄い筋肉の塊だ、太い綱を縒り合わせた様な腕。分厚い胸板にゴツゴツと八つに割れた腹筋、そして様々な古傷。

 まさに歴戦の戦士だが男の裸を凝視しても意味は無い、下を見下ろせばそれなりに鍛えてはいるが見劣りする自分の肉体……貧弱ではないが、もう少し鍛えようかな。

 

「そういうリーンハルト殿も無傷だな、あの魔法障壁を抜くのは本気の俺でも難しいぞ」

 

「全くだな、久々に全力全開の遠慮無しで攻撃したのにピンピンしてやがる。まぁ義理の息子としては合格だ、弱い奴と親族になどなりたくないしな」

 

 ちょ、その話題を今ここで出すか?もう少し場所を考えて欲しい、イルメラ達の将来に関する重要な話なんだから湯船の中で裸では……

 

「お前が女関係に消極的な理由は、駆け出し冒険者時代から苦楽を共にした大事な女が居る為だったんだな」

 

「惚れた女の為に色々と頑張る努力は認めるぜ、それに今日の模擬戦で前々からの懸念も消えた」

 

 前々からの懸念?何かバーナム伯爵達が心配する様な事が有ったのか?魔術師は武闘派の派閥では厳しいし認められ難いとかか?

 

「何だか分からないって顔だな、俺はお前の冷静沈着な所が気になっていたんだ。スカした感じが気に入らなかった、常に一線を引いた冷めた感じが拭えなかったんだ」

 

「俺達は超武闘派集団で脳筋の集まりだ、小難しい事は苦手って言うか嫌いだ。今日のお前は本性全開で戦いを楽しんでいた、それを見て安心したぞ」

 

「「お前も俺達と同類なんだってな!笑いながら殺し合えれば合格だ」」

 

 良い笑顔で親指を突き出されたが、戦闘狂に同類だって認められた事に激しく抵抗感が有る。

 特に今日はイルメラ達のミックスした匂いを嗅いだ事により理性と自制心が弾け飛んだだけだ、普段は何時も通りに冷静沈着な戦いになるだろう。

 

「有り難う御座います、まさか湯船に浸かりながら話す事になるとは思いませんでしたが……イルメラとウィンディアの養子縁組の件、よろしくお願いします」

 

 締まらないが深々と頭を下げる、顔が湯に付いてしまった。

 

「任せな、俺の養女としてお前に嫁がせる。後見人の件も大丈夫だぞ」

 

「そうだな、派閥の結束的にも良い事だ。本当ならエロールを嫁がせたかったが、惚れた女が他に居るなら優先しないとな」

 

 湯に浸かり全裸で頭を下げる事になるとは思わなかった、しかも少し湯に顔が浸かってしまったし……

 

 だが匂いによる精神的高揚のお陰で上手く行ったので、結果的に良かったと割り切ろう。

 例えそれが戦闘狂の戦い大好き、笑って攻撃出来るアレ(変人)な狂人と周囲に思われてもだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 風呂から上がりサッパリとした後、昼食会となった。前から思ったがコース無視で最初から肉料理ってどうなの?

 良く戦い、良く食べて、良く寝る。そんな行動方針じゃない事を祈る、悪くは無いが子供の教育方針みたいだ。

 

「来月バーリンゲン王国に行くんだろ、良く地形や街や村の雰囲気を確かめておけよ」

 

「俺達もザスキア公爵と下打合せはしている、ウルム王国が動けばバーリンゲン王国も動く。前大戦から奴等は裏で繋がっていた、今回は婚姻外交まで結ぶんだ」

 

 なる程、少し考えれば誰でも分かる話だ。旧コトプス帝国の策略と分かってはいても止められない、いや止めずに暴発狙いで一網打尽か……

 

「はい、アウレール王も同じ考えです。今回の戦争は二方面作戦となり、僕は片方を受け持つ予定です」

 

 どちら側と言ったがバーリンゲン王国だろう、ウルム王国と旧コトプス帝国の奴等は因縁深い連中も多い。

 直接戦った事が無い僕が受け持つには国内感情が悪い、因縁の相手には相応の恨みの有る連中が居る。

 恨みを抱えている彼等を差し置いて僕が出しゃばるのは問題が多い、戦いたい相手に譲るべきだろう。

 

 それに攻め滅ぼす必要が有るから大軍で挑まなければならない、ゴーレム軍団を率いる孤独な軍団長には不釣り合いだ。

 バーリンゲン王国の方は連動して侵攻してくるから、最低限追い払えば良い。難易度は低く大軍も要らない、守るに徹しなくても奴等の国内を荒らすだけでも良い。

 暗い考えに思考が傾く、肉料理ばかりで胸焼けしそうだ。口直しはワインしか無い徹底振りだ、戦って肉を食い酒を飲むってか?

 赤ワインを一口飲む、渋く重たい銘柄だな。僕は軽くフルーティーな白ワインの方が好きだ。

 

「らしいな、俺達とリーンハルト殿は別行動をしたいとザスキア公爵に根回しを頼んだ」

 

 分厚いステーキを切り分ける姿が意外に似合う、外見から予想して手掴みで食べそうですとか言ったら殴られるよな。

 自ら脳筋と言っても貴族としてのマナーは出来ている、似合わないだけで……

 

「リーンハルト殿と一緒だと手柄が少なくなる、それにお前の切り札には俺達は不要だろ?だからリーンハルト殿は偵察部隊を多く抱えるザスキア公爵と組んでバーリンゲン王国に対処する、勿論攻め滅ぼしても構わんぞ」

 

 ガッハッハッて大笑いをして赤ワインを一気飲みですか!

 

 愛想笑いを浮かべながら考える、流石はザスキア公爵だ。確かにバーナム伯爵の派閥全軍で挑めばウルム王国と旧コトプス帝国に勝てる、この人外共に僕のゴーレム軍団では過剰戦力だ。

 だが手柄は割れる、派閥順位はNo.4でも爵位と宮廷順位の関係で僕の取り分が多い。僕が辞退しても周囲は認めないだろうな……

 僕が単独でバーリンゲン王国に挑む場合、必要なのは偵察部隊と諜報部隊だ。敵戦力の把握と占領下の人々の管理には二つの部隊は必須だ、人員が少ないからと暴力で従わせるのは無駄だし下策。

 

「参ったな、僕はザスキア公爵の掌の上で踊っているみたいだ」

 

 多分だが結婚式に同行する連中の中には下準備として、ザスキア公爵の配下が多く居るだろう。場合によってはセシリアかイーリンを同行させるか?

 

 いや、今は昼食会の最中だ。考えるのは後にしよう、目の前の分厚いステーキが全く減っていない。これを少しでも食べないと次の料理が出て来ない、マナー的にも手付かずは駄目なんだよな。

 頑張ってフォークとナイフを持ってステーキに挑む、小さめに切った肉片を口に押し込み咀嚼して飲み込む。

 美味い肉にニンニクを利かせたバターソースも絶妙だ、満腹になるから午後は動けないぞ。

 

 ポーターハウスと呼ばれるT字型のフィレ部分が多い骨付き肉のステーキ、因みにフィレ肉が三割以下だとTボーンステーキと呼ばれるらしい。

 この後にポークとチキンが控えている、重厚な攻撃陣に対して僕の胃袋は非力だ。流石に胃を空にする魔法なんて知らないし使えない。

 

 イルメラとウィンディアの件は問題無くなったが、変な誤解をされたり次の戦争の準備と悩みの種が増えた。

 食後に少し休んだら御礼として、バーナム伯爵とライル団長の為にフルプレートメイルを錬金して贈ろう。

 

 ああ、ルーシュとソレッタにもドレスアーマーを贈るんだったな。腹ごなしには丁度良いや、デオドラ男爵に贈った物と同等で良いかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 腹ごなしを兼ねてバーナム伯爵達の鎧兜を錬金した、バーナム伯爵は漆黒、ライル団長は聖騎士団の正式鎧兜のデザインと同じにしたが性能は段違いだ。

 軽量化と自己修復機能、各種属性魔法への耐性に固定化の魔法の重ね掛け。今の僕が錬金出来る最高の鎧兜に仕上げた、古代迷宮の最下層のドロップ品レベルだ。

 エムデン王国の宝物庫にも無いだろう、これをバーナム伯爵達に装備して貰う事に意味が有る。

 入手先は簡単に分かる、だが簡単には手に入らない。これで武人達への関係は有利になる、人間欲しい物を与えた人物には優しくなるからな。

 

 次にルーシュとソレッタのドレスアーマーだが、ゴーレムクィーンの練習として中々の作品に仕上がった。

 ドレス自体は現在のデザインを真似たが生地には強固の固定化の魔法を重ね掛けした、刃物程度なら防げる防刃性能ならチェインメイルと同等だ。

 

 鎧としての部分は喉を守るゴルゲットを太めのネックレス状にした、肩当てのポールドロン、胸部を守るキュイラス、腰回りにフォールド。

 ドレスのスカート部分にタセットを縫い付け腰から太股を防御する、腕は肘から下をロウアーカノンとガントレットを組み合わせた。

 足元は膝から下を膝を守るポレイン、脛を守るグリーブ、鉄製ブーツのソールレットで固める。

 鎧のパーツは白銀で統一し藍色のドレスに合わせた、装飾にも拘った逸品だ。

 

 遊び心と実験的な意味で両肩には浮遊盾を装備、半自動で攻撃に反応する。過去にフロートベイルと呼んでいた物だが、ある程度の達人になると半自動防御は邪魔になるらしい。

 反応が遅くて使い勝手が悪いそうだ、自分で避けるか受ける方が良いとか常時展開型魔法障壁に頼る僕には信じられない理由だ。

 

 ルーシュとソレッタは未だ達人の域には達していないので今回装備した、普段は肩当てのポールドロンに固定されている。

 攻撃を受けると自動で展開する、最初は運動神経の良くない魔術師達の為に開発したんだ。魔法障壁を破られた後の最後の守りの要、これで命が救われた連中も多い。

 

 実はこの機能は彼女達には教えていない、四人分の鎧兜を錬金し終わった後で試しに二回目の模擬戦を始めようって流れになり予定が有ると辞退して逃げ出したんだ。

 武器大好きバーナム伯爵の連中が、勢いでとは言え浮遊盾(フロートベイル)なんて見たらどうなるか考えてなかった……反省しよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 取り敢えずバーナム伯爵の屋敷を飛び出した、連続模擬戦など遠慮したいから。

 肉料理でパンパンの腹を撫でながら馬車の座席に座る、時刻は午後二時過ぎで何をするにも中途半端だ。

 魔術師ギルド本部に寄るか、デオドラ男爵家に寄ってジゼル嬢に会うか。他に行き先が思い浮かばない、僕の友好関係は狭いな。

 

「明日はザスキア公爵とオペラを見に行く約束だ、たまには早く帰って家族サービスをするかな。

その前に父上にお祖父様と和解した事を説明しなきゃ駄目だった!」

 

 御者に実家に寄る様に指示を出す、今日は寝坊は出来たが模擬戦もして疲れが溜まってしまった。

 だがゴーレムクィーンの練習は出来た、今晩錬金しよう。これでゴーレムシリーズは完了、個別の能力強化が次の課題だ。

 


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