古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

464 / 999
第463話

 バーリンゲン王国の第五王女オルフェイス様と、ウルム王国のシュトーム公爵の長男レンジュ様との結婚に出席する。

 どう考えてもウルム王国に潜伏する旧コトプス帝国の残党共の謀略だ、シュトーム公爵は親旧コトプス帝国派でバーリンゲン王国は過去の大戦時に裏で旧コトプス帝国と繋がっていた。

 今回の婚姻が成功すれば、三ヶ月から半年以内に何かしらのアクションが有るとアウレール王は予測している。つまり戦争になると確信しているんだ。

 だから僕にバーリンゲン王国を挑発しろと言ってきた、様子見をされて膠着状態になるよりは立ち位置をはっきりしろって事だ。どうせ戦うなら一度に済ませたいのだろう。

 

 今回結婚式に同行するメンバーは、ベルメル殿を女官達の責任者として残りは五人……

 

 お世話係にスプルース殿、衣装係にミナリエル殿、食事係にシレーヌ殿、警備担当がチェナーゼ殿。

 最後に空間創造のスキル持ちのユーフィン殿が運搬を担当する、だが彼女は若く経験不足の感じがして不安が拭えない。

 今回の同行者の中でも重要な役割を担っているのだが、どうにも選抜メンバーの中では見劣りして心配なんだ。

 彼女が誘拐されたらロンメール様達の衣装や装飾品は無くなり、結婚式の出席に支障をきたす大問題に発展する。エムデン王国の国章を頂いた品々が盗まれたとなれば、国威の低下も否めない。

 エムデン王国の威信に傷をつけるには有効な手段だ、バーリンゲン王国の警備体制に文句を言う事も出来るが責任逃れと言われて終わりだな。

 双方が戦争を覚悟しているんだ、お互いに挑発行為は過激になるだろう。要は開戦の理由と正統性を持ちたいだけなんだ、周辺諸国に対して正当な戦争だから介入するなと言う為に……

 

 だから打合せの後に、レジスラル女官長に同席して貰いユーフィン殿と話す機会を設けたんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト卿、何か心配事でしょうか?確かにユーフィンは未熟ですが、ローラン公爵の姪であり信用度は高いのです」

 

 立ち話も出来ず、しかしテーブルは広過ぎるので僕の向かい側にレジスラル女官長とユーフィン殿が並んで座る。

 そして予想の通りにレベルよりローラン公爵の姪という、信用度に重きを置いた選別を行った。それは当然だ、能力に大きな差が無ければ優先するのは爵位と序列と影響力だ。

 有能なレジスラル女官長の態度からすれば、今回同行させても問題無く守れるって事だよな。

 

「それは強制的な参加でしょうか?」

 

 出来ればチェンジで!とか言い出せるかな?

 

「そうです、ローラン公爵からの強い願いが有りました。そして彼女は、バーリンゲン王国のレオニード公爵家の次男であるサルカフィー殿から婚姻を申し込まれています」

 

 おお、チェンジは無理だ。しかも依頼とかの強制力の無い願いと来た、レジスラル女官長には断る選択肢も有ったが受けたのか。

 だけど政略結婚としてはデメリットしかない、レアスキル所持者をわざわざ敵対(予定)の他国に輿入れさせる意味は無い。

 それなのに危険を伴う結婚式に随伴(ずいはん)させる意味は何だろう?相手は必ず営利目的で接触してくるし、万が一の事も有る。

 

 個人的な事だから断るにしても警備担当責任者として僕が介入するのは……

 

 あれ?もしかしてローラン公爵は、僕に彼女の個人的な警護を任せるつもりなんじゃないか?

 婚姻の申し込みは家と家との関係だから、他人の僕が絡むべき問題じゃないけど今回は……

 この後に確実にローラン公爵から相談が来るだろう、大事な姪を守ってくれとかなんとか理由をつけてね。

 だが今回の結婚式の遠征に対して成功させる為には彼女は運搬員として必須の人材だ、同行を拒否ればローラン公爵とレジスラル女官長の面子を潰す事になる。

 

 世話にもなってるし義理も有る、だから僕は立場上断れない。

 

 そして多分だが、ユーフィン殿は裏事情を知らされてない。だから彼女は何の疑いも無く僕に助けを求めてくる、同じ魔術師だし同じレアスキル所持者でもあるし。

 不安そうに上目使いで僕を見ないで下さい、凄くあざといし良心も痛むし。

 

「ユーフィン殿は、サルカフィー殿との婚姻に同意してますか?」

 

 不安と心配が一杯です的に僕を見詰めるユーフィン殿に、一応恋愛関係が有るかもしれないので確認をする。もしかしたら相思相愛で本人達が望んでいる可能性も僅かに……

 

「全く有りません、実家にもメリットがなくデメリットしか有りません。彼と婚姻とか有り得ません、最初から叔父様も断ってますし何度も言い寄られるのは不愉快ですわ!」

 

 勢い良く全否定された、だが何度も言い寄るとなれば公式非公式を問わずに会う機会が有ったんだな。

 しかも相手であるサルカフィー殿の事を好色なエロ猿とか酷い評価を下した、実際の彼は素材は良いが長年の不摂生と暴飲暴食が祟り頭髪が薄い肥満体らしい。

 騎士の様に剣技も得意でなく魔術師の様に魔法も使えない、官僚の様に政務が得意でもない。まぁ典型的な上級貴族の駄目な息子だな、どうも二男と三男は有能らしい。

 もしかしたら強引な婚姻の申し込みも開戦の理由付けかもしれない、最悪は侮辱されたとか言い掛かりを付けて謝罪を求めるとか?

 

 どういう付き合いかは気になるが、ローラン公爵本人が断っても諦めないのは流石は他国だが同じ公爵家だからか……

 

 でも実家の利益を考えているのは政略結婚自体は肯定してるんだな。

 これはエムデン王国の為にも貴重なレアスキル所持者は手放せない、バーリンゲン王国との婚姻による結束効果も裏切り前提だから意味をなさない。

 

「レジスラル女官長、彼女の立場は女官としてでしょうか?」

 

 黙って聞いている、レジスラル女官長に彼女の立場を聞いてみる。現役公爵の姪ならば爵位はなくても、王宮でそれなりの地位に居ると思う。

 良く見れば着ている衣裳はラナリアータと同じじゃないか、つまりは侍女見習い?

 

「侍女見習いです、今回の同行を成功させれば正式に王宮付きの侍女となります」

 

 やはり侍女見習いか、成功すれば侍女に昇格ならば頑張るだろう。だけど他国の公爵の親族からとはいえ、何かを迫られたら彼女の立場で拒否出来るか?

 そんなに更に不安そうな顔をしないで下さい、でも侍女見習いなら公式な場には出なくても大丈夫……とか考えるのは愚か者だよな。

 

「ユーフィン殿は裏方に徹して貰い表舞台には参加しない、例えサルカフィー殿から招待を受けても舞踏会等には参加しない。それで大丈夫でしょうか?」

 

 建て前として提案はしたが無理だよな、侍女見習いでも公爵家の縁者だし正式に誘われたら面子の関係で断れないだろう。不用意な欠席はそれだけで相手を侮辱する、だから僕も断りの親書には気を使う。

 

 それだけ両家の公爵家の看板は大きいんだ、困った事になるのは確定かよ!無言か、つまりは駄目なんだな。

 

「彼女の警備は、チェナーゼ殿に任せても宜しいでしょうか?」

 

 これも駄目元で聞いてみる、彼女の配下の王宮警護隊が使えれば少しは楽なんだが無理かな?

 

「問題は有りません。ですが公爵家の縁者の立場で公式な場に出る時は、チェナーゼでは無理でしょう」

 

 公式な場か、レジスラル女官長も彼女にサルカフィー殿が何かしらの行動を起こすと予測している。

 それでもローラン公爵の願いを了承した、この大舞台で王族最優先の彼女がリスクを承知で受けた裏を聞き出す必要が有る。

 仮に舞踏会等に誘われた場合、今回の同行者で男性の上級貴族は僕だけだよな。ロンメール様は王族で、キュラリス様をエスコートしている。

 

 彼女の世話を見れるのは爵位や地位や立場を考えても僕だけだ、アウレール王は僕が同行する臣下の最上位にしてくれたのには意味が有る。

 上品に喧嘩を売るのだから、下手に同格や上位者を同行させると動かし辛いと気を利かせてくれたんだ。

 同行する大臣達より僕の方が上位だから最悪は強権発動で言う事を聞かせられる、それが裏目に出たかな?

 

「つまり僕に期待されている訳ですよね?」

 

 結論を言う、この一言でレジスラル女官長の目が細まった、どうやら正解だな。ベルメル殿でも厳しい他国の公爵家の馬鹿息子の対応は僕に一任するってか?

 

「ユーフィン、もう結構です。話は聞きましたので、先に下がりなさい」

 

 おぅ!詳細を知らさない為に彼女を退室させるのか、それはユーフィン殿の不安を煽るだけで悪手だと思うぞ。

 

「え?レジスラル女官長?」

 

 ほらな、反発した。だけど彼女の疑惑を視線を向けただけで黙らせた、ユーフィン殿は納得出来てない顔をしていたが退室したか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 新しい紅茶が用意され、珍しい南国のフルーツが数種類盛られた皿も出された。

 レジスラル女官長と二人の側近達も集まったな、これからが本番の話か……

 

 砂糖を三杯、ミルクを少し入れてかき混ぜて一口飲む。うん、最高級の茶葉には勿体無い甘さだが頭脳労働に糖分は必要らしい。

 

「ローラン公爵の強い願いとはいえ、少しばかりリスクが高く有りませんか?」

 

 素直な疑問をぶつけて様子を窺う、全く動じてない。王族最優先の彼女達にしては判断が変だと思ったのだが、やはり裏が有るんだな。

 

「一つ目はエムデン王国が抱える空間創造のスキル所持者は六人居ますが、今回同行出来るのは三人。そして彼等の能力は殆ど変わりません」

 

 予想通りに能力面では誰を選んでも同じ、ならば上級貴族の願いを断る理由にはならない。

 

「二つ目は三人の中で一番序列が高いのがユーフィンです、他の二人は下級貴族ですから信用度が低いのです」

 

 やはり爵位がモノを言うんだな、公爵家の縁者だと伯爵令嬢と同等かそれ以上の立場だからな。

 無理強いじゃなくて貴族の常識的に考えても、ユーフィン殿しか選択肢は無い。無いのだが、それだけじゃレジスラル女官長は説得出来ない、未だピースが足りない。

 

「三つ目は何でしょうか?」

 

 二つ目で言葉を止めたレジスラル女官長の目を見る、深い碧眼に吸い込まれそうになるが頑張って耐える。

 

「私も最初に反対しましたが、アウレール王が許可を出しました。どうせ喧嘩を売るならネタが多い方が楽だろう、リーンハルト卿なら場を上手く使うだろうからと……」

 

 男女の恋愛を理由にした政略結婚を喧嘩を売るネタにしろってか?それはそれで有効だな、仮に僕と婚約してますとか言えばサルカフィー殿を突っ跳ねる事が出来る。

 面子の問題で彼は僕に挑んで来る。彼はバーリンゲン王国の重鎮の息子で、僕はエムデン王国の重鎮である宮廷魔術師第二席。

 お互いに彼女を巡り戦う必要が有り、手を加えれば戦意を煽るには最適のネタとなる。だがアウレール王も悪辣だぞ、僕まで巻き込んだけど助かるのも事実。

 

 政略結婚絡みの事を嫌う僕だからこそ、押し付けの結婚式を嫌うユーフィン殿を助けると考えたのかな。

 流れ的に彼女を僕に嫁がせるとかは無い、ローラン公爵は有りだと思っているがアウレール王は違う筈だ。だが国家を挑発するのには最適だろう、婚姻絡みは感情的になりやすい。

 公に婚姻を勧めているなら余計にだな、断られたら面子は丸潰れだ。本来は大筋合意する迄は発表などしない、その辺の詳細はローラン公爵に聞かないと分からない。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。