古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第464話

 バーリンゲン王国の参戦工作について、色々と周囲を巻き込む必要が出て来た。

 同じ空間創造というレアスキルを持つユーフィン殿に婚姻を迫るサルカフィー殿に対して、アウレール王が挑発工作のネタにしろと言って来た。

 今回は王命とは言え素直に聞くには少々問題も多い、下準備が必要になる。先ずはローラン公爵に詳細を聞きに行かねばならない、セシリアに面会の申し込みを頼むか。

 僕の立場でさえ公爵家には配慮が必要なんだ、その公爵家同士の婚姻問題をネタに絡めとかは流石に頭が痛い。

 

 相当の根回しと準備が必要だよな……幾ら戦争する相手とはいえ、ローラン公爵家とレオニード公爵家の関係が悪化する。

 戦後に属国化するとはいえ、生き残ればバーリンゲン王国の中でレオニード公爵家は強い立場を維持するだろう。

 戦後の支配体制に悪影響が出ると思うんだ、本来ならそこまで考える必要は無いのだろうけど僕の所為で問題になったとかは勘弁して欲しい。

 

 そうなると、単純に挑発するだけでなく勢力も弱めなければ駄目か。つまり戦争を仕掛けた時に、レオニード公爵家の関係者を重点的に潰す。

 または敗戦の理由をレオニード公爵家関連にする必要が有るな、少しアウレール王とも相談しておくか。

 本来ならこう言う根回しは僕の役目じゃないのだが、アウレール王から補佐と相談役の件も言われているので手は抜けない。

 

 多分だが役職外の事を普通にこなしていくから信頼を得て仕事が増えるんだ、転生前の最前線指揮官としての経験が地味に生きているな……

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 青水晶の間から出る、扉の外にはユーフィン殿が悲壮感満載で立ち尽くしていたが時間としては結構待っていた筈だぞ。

 部屋は広く防音設備も万全だから会話の内容は聞かれていない、尤も聞こえていても内容的に問題は全く無い。

 レジスラル女官長も僕も彼女の身の安全を重視しているしメンバー変更の話も駄目だと確認しているから不安なのは聞こえて無かったか?

 

「ユーフィン殿、どうかしましたか?」

 

 扉の前で立哨警備をする近衛騎士団員の視線が辛い、淑女を不安そうに立たせて待たせるんじゃない!早く何とかしろ的な期待感が半端無いんですが。

 

「あの、私……私は、一生懸命頑張りますから!リーンハルト様の足手纏いにはなりませんから、その……」

 

 両手を胸の前で祈る様に組んで僕を見上げる仕草は、本来は好奇心旺盛な彼女が不安で一杯な雰囲気と相まって保護欲を掻き立てるんだろうな。

 あと台詞の内容が不味い、僕だけが彼女の同行を問題視してる事になってるぞ。本当は全体的な話の筈だったぞ。

 やはりレジスラル女官長との話し合いは聞こえてなかったな、警備兵が扉の前に立っているから盗み聞きは無理か……

 

 戦士系の連中なら、俺が守ってやるから安心しろとか言えるのだろう。悪いが僕は性格と立場上、迂闊な話は出来ないんだよ。

 

「僕もレジスラル女官長も、ユーフィン殿の能力を問題にはしていませんよ。問題と言うか懸念事項として、レオニード公爵家とサルカフィー殿の動きを気にしています」

 

 そこの近衛騎士団員、チッとか小さく舌打ちするな!

 

 もっとソフトにスムーズに彼女を慰めろとか視線で訴えるな、僕にだって立場が有るんだぞ。

 

「叔父様も私も断っているのにでしょうか?」

 

 その経緯(いきさつ)を知りたいから、ローラン公爵に面会を申し込もうとしているんだ。

 国は違えど準王家の公爵家の婚姻絡みの話だ、簡単に気に入ったから嫁に欲しいじゃない筈なんだぞ。

 レオニード公爵家とローラン公爵家の関係が気になる、何かしらの繋がりが無ければ婚姻関係を結ぼうなど思わないし言い出さない。

 

 敵対予定のバーリンゲン王国の有力貴族と懇意にしてるとなれば、ローラン公爵家でも謀反の疑い有りとか問題にされるだろう。

 または内通疑惑とかね、事実が無くても疑わしいだけでも政敵達は仕掛けて来るから気が抜けない。

 ローラン公爵とは友好的な関係を結んでいるので、足を引っ張る事など出来ないし配慮する必要が有る。

 当然だが僕にも打算も下心も有る、恩を売るのは必要な行為だ、それが嫌になるが王宮内での貴族の動きだ。

 

「僕達の立場は特殊だよ、特にユーフィン殿は現役公爵の縁者としての立場が有るからね」

 

 例え役職が侍女見習いでも、貴族的序列で招待されたら受けなければ駄目な場合が有る。

 他国とは言え公爵家から正式な招待状を貰い、ロンメール様に一言でも断れば舞踏会とかお茶会程度なら拒否は無理だぞ。

 

「ローラン公爵家の縁者……でもでも私は、私はログフィールド伯爵家の長女なのです!」

 

 ログフィールド?その家名は……

 

 いや、ユーフィン殿は伯爵令嬢だったのか。ローラン公爵の縁者としか聞いてないから、親は爵位が無い親族だと勘違いしていた。しかも長女とは微妙な立ち位置だな。

 婚姻外交としても長女の位置は重い、次女や三女なら格下に嫁がせる事も出来るが長女の相手は実家に有益な者が普通だ。

 相手も長女を貰うなら、それなりの見返りを示さなければならない。それが敵対予定の国の重鎮?内通でもして情報を売るつもりか、バーリンゲン王国を裏切る予定か?

 

「僕の方からも、ローラン公爵と相談してみます。方向性だけは決めておかないと、万が一の時に判断が狂いますからね。悪い様にはしませんから安心して下さい」

 

 軽く彼女の肩に手を置いて安心させる為に優しい口調で語り掛ける、横目で見た近衛騎士団員が満足そうに頷いているのがムカつく。

 いや僕だって貴族の一員として紳士的な対応には心掛けるけどさ、実情は知って欲しいんだよ。

 

「リーンハルト様、宜しくお願いします。本当に宜しくお願いします!」

 

 僕の手を両手で握り締めて胸の前に持って来て、上下に振り回さないで下さい。

 彼女も他国の上級貴族の嫌いな男に言い寄られて辛かったのだろう、それが話の流れ的に同じ魔術師で同じレアスキル持ちの僕が何とかしてくれそうだから縋ったんだな。

 下心は無いが保身や我が身可愛さは有りそうだ、面倒は見るが距離は保つ相手だな。

 

 ローラン公爵にも釘を刺しておくか、最悪は仮初めの婚約者として介入する事にもなりそうだし。いやそれが最優で次善の策はこれから考えるしかない。

 そのまま既成事実から側室、僕はローラン公爵家と親戚関係になるとか有りそうで怖い。いや、それは僕も我が身可愛い保身優先みたいな考え方だから反省しよう。

 少し前と違い爵位や役職が高くなった為か、縁が薄い相手に対しての考え方が保守的と言うか、損得勘定に重きを置いている感じがする。

 

 後日改めて空間創造について話し合いましょうと約束して別れた、近衛騎士団員にポンポンと肩を叩かれて労られたよ。

 近衛騎士団員ともなればエリートだからな、気安い態度は信頼の証と思えば良いけどね。

 武官達との距離は確実に近付いている、これからの戦争には必要な事だ。宮廷魔術師と騎士団との連携は必須、マグネグロ殿みたいな失敗はしない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 セシリアにローラン公爵との面会を頼んだのだが直ぐに了承された、事前に予測してメラニウス様と共に王宮で待機していたみたいだ。

 そのままセシリアの案内でローラン公爵の執務室に向かう、幾通りかの話の流れを思い浮かべるが纏まらない。

 効果を考えれば、僕がユーフィン殿の仮初めの婚約者となりサルカフィー殿を拒否れば良い。

 敵意が僕に向くから挑発も簡単だし、善悪も分かり易いから尚良い。公爵家の一員が他国の貴族令嬢に横恋慕して振られた、面子も絡むし黙ってはいない。

 

 決闘紛いの行動を起こしてくれたら儲け物、嫌み位は言うだろうが公爵の息子では僕よりも格下。

 直接的な命令は出来ず、実力行使をしたくても宮廷魔術師第二席の僕に勝てる相手は同じ宮廷魔術師の上位陣だけだ。

 バーリンゲン王国の宮廷魔術師筆頭でも引っ張り出してくれたら嬉しいが、向こうも立場も有るし負ければ最悪だ。

 周辺諸国からエムデン王国の宮廷魔術師よりも格下と認定される、公爵家の依頼だからと言って簡単に受けるかな?そこは挑発次第かな?

 

 ローラン公爵の執務室とは少し離れている、セリシアに先導して貰い王宮内の廊下を歩く。

 パミュラス様の御子発表の時は賑やかだったが少し落ち着いたみたいだな、擦れ違う侍女や警備兵も少ない。

 今日は執務室の前に二人の警備兵が立哨している、セリシアが来訪の旨を伝えると直ぐに扉を開けてくれた。

 

「これは、リーンハルト殿!わざわざ訪ねて貰い悪かったな」

 

「お久し振りですわね、リーンハルト様。今度は私のお茶会にも参加して頂けると嬉しいわ」

 

 わざわざって所が、既に話し合いの内容は理解してるって事だ。王宮内にメラニウス様と一緒に居るから当然だろう。

 だが公爵家当主自らが丁寧な対応をしてくれる事実は重い、ローラン公爵とニーレンス公爵は僕を対等に扱う。

 バセット公爵との違いが其処だ、彼は僕を爵位が下の者として配下に近い感情で接してくる。まぁそれが普通の対応で前者二人が特殊なだけだ。

 

「いえ、此方こそ急な訪問をお許し下さい。お茶会については、是非参加させて頂きます」

 

 メラニウス様から直接頼まれれば拒否は出来ない、双方に利が有るしローラン公爵家と懇意にしているアピールは必要だ。

 ニーレンス公爵家の舞踏会やお茶会にも参加しているし、ザスキア公爵とは一緒にオペラも観ている。差を付ける事は悪手だから。

 

 形式的な挨拶を交わしてからソファーに座る様に勧められる、ローラン公爵の執務室も模様替えされてるけど定期的な模様替えって必要なのかな?

 今回は明るい感じの内装となっている、全体的にグリーンのグラデーションの色使いだ。壁紙は薄く絨毯は濃い、レースのカーテンが風に靡いて過ごし易い室温だ。

 ソファーは珍しい深緑の皮製、これってドラゴンの皮製か?手触りを確かめると滑らかで柔らかくて……

 

「ユーフィンの件だな?」

 

 内装の変化に気を取られていたら既に紅茶が用意されて、ローラン公爵から本題を切り出された。

 目の前にメラニウス様も並んで座っていて、珍しく直球で質問が来た。もう少し他の話題を振ってから本題だと思ったが、性急だな。

 

「ログフィールド伯爵家の令嬢であるユーフィン殿と、バーリンゲン王国のレオニード公爵家とサルカフィー殿。接点が分からないと対応に失敗しそうでして……」

 

 此方も駆け引き無しで正直に聞く、下手に利害関係や義理人情が絡むと面倒臭いんだが大丈夫だろうか?

 

「ふむ、レオニード公爵家とログフィールド伯爵家はな。エムデン王国建国前は同じ王家に仕えていたのだ」

 

「同じ王家、ですか?」

 

 ローラン公爵の話を纏めると、過去にログフィールド伯爵家はレオニード公爵家に仕えていた。

 二家は既に滅びたオランベルド王国に仕えていたが、滅亡時に御家の存続を掛けて別々の周辺国家を頼った。

 レオニード公爵家はバーリンゲン王国に、ログフィールド伯爵家はエムデン王国に仕える事となったそうだ。

 

 この二家の付き合いは長くて、オランベルド王国の前にはルトライン帝国に仕えていたらしい。

 ローラン公爵家に家宝として伝わる、ルトライン帝国魔導師団の鎧兜はローラン公爵家と婚姻関係を結ぶ際にログフィールド伯爵家から贈られた物だ。

 ログフィールド伯爵家がエムデン王国に身を寄せた理由は、共にルトライン帝国に仕えていた時から友好関係が有ったからだ。

 

 この時代は群雄割拠と言うか小国が出来ては滅亡し、また新しい小国が出来るを繰り返して漸く今の国家群が形成されたらしい。

 当時の貴族達は、自分の家の存続の為に仕える国を色々と変えていたのだろう。生き残る事は大変だったはずだが、大元の原因がルトライン帝国の滅亡とか笑えない。

 周辺国家を支配下に置いていた魔法大国だったルトライン帝国は、その象徴的な僕と魔道師団を失った事により滅亡し後釜を狙う国家が戦争を繰り返した。

 

 つまり、あの鎧兜はログフィールド伯爵家が所有していた物で、先祖は僕に仕えていたログフィールドの物なんだ。

 シリアルナンバーNo.448、僕と同じ土属性特化魔術師の『土壌』のログフィールドの子孫がユーフィン殿か……

 奴は陸地の表層を覆う『土壌』を巧みに操る異色の魔術師だった、土壌内に生息する土壌生物やモグラや昆虫等を操り溶解や分解を促進させる事を得意とした。

 大量の敵兵を足元から腐らせるとか、初めて見た時はトラウマ一歩手前だったぞ。

 

 その後の話し合いは感情が乱れ捲って良く分からなかった、メラニウス様が僕の様子が変だと心配して話し合いは中止となり、後日ローラン公爵に夕食に誘われて御開きとなった。

 駄目だ、未だ過去に未練が有るんだ。過去の仲間達の事が断片的に分かる度に精神的に不安になる、守るべき者を見失うなと言ってもだ。

 

「ログフィールドよ、お前は僕が処刑された後に何を思って生きていたんだ?僕は、僕はだな……」

 

 


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