古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第466話

 明日から三日間は休みだ、王宮に出仕する必要は無いが、最終日はローラン公爵から夕食に招待されている。

 ユーフィン殿の件で話し合う為に招待されたので僕だけだから、一人で行く事になる。

 

 そして休日前のイベントは添い寝、そう添い寝なんだ!大切だから二回言った、今夜は週に二回の添い寝日なんだ。

 

「うにゅ、リーンハルトさまぁ」

 

「うーん、リーンハルトくん」

 

「すぅすぅ、旦那さまぁ」

 

 あの、君達は本当に寝てる?可愛い寝言が聞こえてますし、抱き付く腕や足に力が籠もってませんか?

 夜着という胸部装甲値が限り無くゼロに近い装備を纏ってる自覚は有るのでしょうか?もう少し慎みを持って……

 

「これも精神修養?いや違う、嬉し恥ずかし拷問?それも違う、じゃ何だ?」

 

 僕を真ん中に左右からアーシャとイルメラ、それにウィンディアが抱き付いている。柔らかい二つの母性の象徴が、僕の腕や足に押し付けられてだな。

 

「ヤバい、良い匂いを嗅ぐと徐々に多幸感と全知全能感が心の底から湧き上がって来る。これが魔香の力か……」

 

 気を逸らす為に唯一自由な首を左右に動かす、余計に駄目だ。アーシャとイルメラの顔が近い、ウィンディアは僕の脇腹に顔を押し付けているが位置が少し危険だ。

 これは僕が望んだ精神修養か?全く違うメンタル面が鍛えられている、主に自制心とか忍耐力とかだ!

 

 マズい、全知全能感の溢れ具合が違う方向に向かいそうだ。ユーフィン殿くらい守れるだろう、逆にサルカフィー殿に喧嘩を売りたくなってしまうぞ。

 

『他国の、しかも他人の女(仮初めの婚約者)に手を出すほど結婚相手が居ないのか節操無しなのか?それともバーリンゲン王国には、貴殿の気に入るレベルの美しい淑女は居ないのか?』

 

 とか言っちゃいそうでマズい、それは遠回しにバーリンゲン王国の淑女達を侮辱している。

 挑発としては二流以下だ、自分の品位も同時に貶める暴言だぞ。他に何か……

 

『嫌がる淑女に執拗に婚姻を迫る、一方的に情欲だけ向ける行為は気に入らない』

 

 うん、悪くはなさそうだが感情論と一方的な正義感だな。家の存続が一番の貴族からすれば微妙だ、利害関係を重視する政略結婚が普通だし……

 

『一方的な利害関係と爵位を盾に弱き淑女に言い寄る事は最低な行為ですよ、家と家との関係を重視する貴族の常識を理解してますか?』

 

 貴族的には正解だが、僕も貴族的利害関係を半分無視してる。これを言うと自分にも跳ね返って来る、そして自分の言った事は拒否出来ない。

 難しいな、国の規模はエムデン王国が上位。爵位や立場もサルカフィー殿より僕の方が上だ。

 だからアウレール王は簡単な方法を用意したのか、自分の(仮初めの)婚約者に格下が言い寄る。

 全力で潰しに掛かっても貴族的常識なら問題無い、非常識なのはサルカフィー殿になる。

 自分の婚約者に格下が迫るなど、面子の問題からしても内々に穏やかに収める事もしない。

 

 リズリット王妃と違う所は、アウレール王なら完全に仮初めの婚約者として扱うからだ。ローラン公爵にも話を通すだろう、上位貴族の淑女に複数の婚約者が居るのは普通だ。

 その中から一番実家に利益を齎す優秀な男が選ばれる、当然逆も有るが今回は僕とサルカフィー殿を天秤に掛ければ僕に傾く。

 周囲も当然と思うから、サルカフィー殿の態度を非常識と認識するだろう。

 

「僕の女に馴れ馴れしく迫るな!」

 

 とか言えれば良いのだろうが、イルメラ達に迫る奴以外には言わないな。そこまで言ったら仮初めの婚約者だと言っても信用されない、婚約から側室入り確定だと認識される。

 

「良からぬ虫を追い払うのは難しいな……」

 

 恋愛レベル一桁の僕に男女の駆け引きを利用して目的を達成するなど、無茶を通り越して無謀だぞ。

 

「そうでしょうか?私達はリーンハルト様以外に迫られても断固拒否しますわ」

 

「その時の相手に対しての恫喝の言葉を考えていたのでしょうか?」

 

「今のリーンハルト君から私達を奪える相手なんて王族の方々くらいだよ?」

 

 あれ?心の中で呟いていた筈だったけど、ダダ漏れだったのかな?でも自分達の事だと勘違いしてくれたのか?

 

「うん、まぁ心配性って呆れてくれて良いよ。そんな場面は無いと思うけどさ、一応気になって考えていたんだ」

 

 何とか誤魔化す、まさか添い寝の最中に他の女性と仮初めとはいえ婚約者となり他国の貴族に喧嘩を売る策を練っていたとは言えない。

 だが感激した三人が更に身体を密着させてスリスリして来たから、魔香の効果が倍増してだな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 休日初日、久し振りに魔法迷宮バンクを攻略する事にして事前に冒険者ギルド本部に連絡を入れてある。

 もう気楽にフラッと立ち寄れる身分では無くなってしまった、『ブレイクフリー』は僕がAランク、イルメラとウィンディアはBランク、エレさんがCランクとエムデン王国に所属する冒険者の中では最上級の一角となった。

 しかも侯爵待遇の現役宮廷魔術師第二席のお偉い様だ、趣味や実益で冒険者をする貴族は多い。

 だが僕の場合は冒険者ギルド本部からも望まれて魔法迷宮バンクを攻略している、故に待遇は破格なんだよ……

 

「久し振りの一緒の外出が、魔法迷宮バンクの攻略だと少し残念だよね」

 

「ウィンディア、贅沢を言わないで下さい。今のリーンハルト様は私達の貸切なのです」

 

「私だけ側室に迎えて貰えない、妾でも構わないのに悲しい」

 

 自家用の馬車で向かう途中で、エレさんのエラい本音話を聞いた。因みに側室が確定しているイルメラとウィンディアは、左右から僕の腕に抱き付いている。

 エレさんは向かい側に一人で座って寂しそうだが、彼女には恋愛感情は全く無くて娘か妹感覚だ。

 それに今日の昼食は彼女達の手料理なんだ、これは数少ない貴重なチャンスなんだよ!

 

「確かに久し振りだね、前に攻略したのは……何時だっけ?」

 

 王命は殆ど単独任務だから、僕はイルメラ達には自主鍛錬を頼んだ。『野に咲く薔薇』のアグリッサさん達三人を前衛として、後衛の補充としてコレットに任せたんだ。

 前衛の戦士職三人に補助としてコレットのゴーレム三体、後衛は盗賊・僧侶・魔術師とバランスの有る構成だ。

 結構効果的に役職分担が出来たみたいで、七階層まで攻略済みらしい。

 

「何だか外が物々しいよ、バンクの入口に警備兵が整列してる」

 

「冒険者ギルド本部の職員達も並んでますね、凄い待遇だと喜べば良いのでしょうか?」

 

 左右の窓から外を窺うイルメラとウィンディアの困った言葉を聞いて、僕も外を見て固まる。

 前回よりも物々しいお出迎え、そして人集りが出来ている。彼等は冒険者の装備じゃないな、一般の市民か?

 

「本当だ、しかも野次馬も多いね。冒険者以外の人達や、どう見ても下級貴族の連中まで居る」

 

 良く見れば見覚えが有るのは下級官吏の連中だ、接触を全て断っているから痺れを切らして直談判に来たか?

 だが警備兵が近付けさせまいと頑張っている、一度は敵対し僕の妨害をした相手だから温情は掛けない。

 

 馬車が僕専用らしい休憩小屋、いや拡張されて立派な家の玄関先に停まる。御者が扉を開けてくれたので、最初に降りる。

 人目が有るからイルメラ達に手を差し伸べる事は出来ない、今の彼女達は平民のパーティメンバーだから側室に迎える迄は我慢だ。

 

『リーンハルト様、私は貴方様の妨害工作には参加してません!』

 

『上司の、上司の所為なんです。私達は嫌々だったんです、慈悲を下さい』

 

『お願いします、これ以上の嫌がらせには耐えられません。私には妻も子供も居ます、許して下さい!』

 

『御慈悲を下さい!国民に優しいリーンハルト様なんですよね?』

 

 チラリと騒ぐ彼等に視線を送り、直ぐに前を見て玄関から家の中に入る。許すも許さないも関係無い、口で反省したから許せとか有り得ないだろう。

 本当に反省した連中は、オリビアの父親に詫びて協力し円滑に書類が回る手助けをしている。彼等は許して食事会にも招く予定だ、他は取り合うつもりは無い。

 甘い対応をすると軽く見られて、再度同じ事をする可能性も有る。悪い意味で見せしめとして、厳しい態度で接しなければならない。

 本心から反省した連中は別だ。詫びを行動で示す事をしているのは、オリビアの父親から報告を受けているから……

 

 玄関から直ぐに応接室となっているが、内装の豪華さが一段上がっている。誰が誰の予算を使って拡張工事をしているんだ?

 

「お待ちしておりました、リーンハルト様」

 

 パウエルさんと女性ギルド職員、それに聖騎士団員が三人並んで深々と頭を下げてくれたが……

 

「申し訳無い、随分と手間を掛けさせてしまったみたいです。聖騎士団や王都の警備兵まで動員させてしまいましたね」

 

 気楽に魔法迷宮バンクの攻略も出来ない立場になってるぞ、確かに魔法迷宮バンクの管理運営は冒険者ギルド本部と聖騎士団が担当してるけど過度の負担を強いるのは駄目だよな。

 イルメラ達も困惑気味だが口を挟む事は出来ない、僕が対処する問題なんだ。

 

「リーンハルト様が気にする必要は皆無です、我々が望んで魔法迷宮バンクの攻略をお願いしている立場です」

 

「そうです、我等は自ら望んで警備任務を行っています。遠慮はしないで頂きたい」

 

「リーンハルト様は私達冒険者ギルド本部職員の希望と憧れです!」

 

 最後の言葉は疑問だが、冒険者ギルド本部も聖騎士団もデメリットだけでなくメリットも有ると判断して良さそうだ。

 ギブ&テイクな関係なら気が楽だ、魔法迷宮バンクを攻略しレアドロップアイテムを持ち帰る事が彼等に対する貢献なのだろう。

 

 今日魔法迷宮バンクを攻略している冒険者パーティの事を聞き、細かい手続きは全て彼等に任せて早速バンク攻略を始める事にする。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 先ずは第六階層にエレベーターを使って降りる。ひんやりとした黴臭い空気を吸うと、漸く魔法迷宮バンクの攻略を始めたんだと実感する。

 ライティングの魔法で照らし出された通路は、大きな石を隙間無く組み上げた構造をしている。

 この階層のボスは『徘徊する鎧兜』が六体固定でポップする、高レベルの騎士を相手にする訓練として最適だ。

 戦争になれば雑兵だけでなく騎士団レベルの敵と戦う事になり、接近を許す場合も有るだろう。

 だから『黒縄(こくじょう)』の習熟度を高める為に最適な敵を選んだんだ……

 

「ボス部屋に直行するよ、悪いが試したい事が有るんだ」

 

 既に第九階層を攻略中なのに、敢えて第六階層のボスに挑む理由を説明する。

 

「また魔法絡みの実験でしょ?」

 

「私達はリーンハルト様の指示に従います」

 

「リーダーの意見を尊重する」

 

 ウィンディアはヤレヤレ的に、イルメラとエレさんは凄く肯定的だ。久し振りのパーティ行動なのに申し訳無い気持ちが溢れてくる……

 

「その接近戦の対処について少し新しい魔法を練習したくてね、敵の高レベル騎士団に見立てた『徘徊する鎧兜』と1人で戦いたいんだ」

 

 三人の顔を順番に見る、特に心配したり怒ったり呆れたりはしていない。生き残る為の訓練だと分かってくれているのかな?

 

「リーンハルト様の行動に疑う余地など有りません」

 

「私達の所に、無事に帰って来てくれるなら協力は惜しまないよ」

 

「心配だけど信じているから平気」

 

 更に数段上の理解力だった、本当に『ブレイクフリー』は恵まれたメンバーだな。

 

「ありがとう、少し気持ち悪い魔法だけど勘弁してね」

 

 ウネウネとした黒い触手擬きだからな、女性受けはしないと思うんだが大丈夫かな?

 




年内にUA800万達成が出来そうで嬉しく思います。感想や評価、誤字脱字報告と大変助かっていますし励みにもなっています。今後とも宜しくお願いします。

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