古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第478話

 アーシャ襲撃が一段落した、昨日の夕方にアウレール王が王都中の貴族と国民に対して通達を出した。

 旧コトプス帝国の残党が自分達の謀略を悉く潰す僕に対して、反感を持つ連中を買収して襲撃した。

 ザルツ地方のオークの異常繁殖にハイゼルン砦の攻略、奴等の配下の将軍二人と兵士二千人の殲滅。

 旧クリストハルト侯爵領の反乱による荒廃した領地の復興と、僕が奴等の障害で有ると認めて仕掛けて来た内容になっている。

 

 これにより計画に荷担したクリストハルト侯爵と後継者は幽閉、アルノルト子爵とフレデリックも幽閉され領地は没収。

 アーシャを時間稼ぎの為に引き留めていたバルゲン子爵は実行犯扱いとなり幽閉、爵位と領地も没収し一族は王都から追放と一段重い刑が科せられた。

 爵位継承を拒まれたウィドゥ家、マグネグロ殿とビアレス殿の関係者も同じく王都追放だ。

 

 実行犯として殺害された火属性の宮廷魔術師団員二人および逃げ出したと思われる三人の親族達も、既に王都から逃げ出していた。

 目撃者からの逃走経路から考えればウルム王国に亡命したと思われる、魔術師が多い一族だから利用価値が高いし抱え込むのだろう。

 殺されずに捕縛された賊共は尋問の後で全員が処刑される、彼等の親族達はお咎めは無しとする。

 殆どが家庭など持ってないし、スラム街の連中を追い詰めるのも悪手だと判断したのだろう。

 僕に模擬戦を挑んだ五十人近い火属性の宮廷魔術師団員達は厳しい取り調べを受けたが、無関係か誘われたが断ったらしい。

 

 公式の発表の他に、またザスキア公爵が噂を広めた。

 曰わく『旧コトプス帝国の残党共の報復は想定済みで警備は万全の体制だった、奴等の憎悪が他に向かわない為に自分が恨まれる役を演じていたのだ。だが同じくアウレール王に仕えし仲間から売国奴が出た事を悲しんでいる……』そんな噂を広めたから大変な事になっている。

 僕は『王国の守護者』として国家と国民を守る為に自分とアーシャを囮にしたんだ、警備は万全とはいえ自分や大切な側室まで危険に晒す事に感動したらしい……

 

 そんな僕に協力させて欲しいと募集していない警備兵になりたい連中が屋敷に押し掛けて来た、しかも現役の王都を守る警備兵までがだ!

 既に百人も抱えているのに、それ以上も雇うだけの財力が無い。だが追い払う事は彼等の善意を無下にする行為だ、仕方無く追加で五十人を雇い入れる事にした。

 表の審査はメルカッツ殿に任せて、裏ではジゼル嬢とナナルが思考と能力を確認すれば敵意ある者や間者を省く事が出来る。

 

 次の休みには魔法迷宮バンクに籠もり金を稼がないと駄目だ、屋敷の使用人も大幅に増えるし出費ばかりが嵩むんだよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王宮に出仕し警備計画の見直しと配下の副隊長二名の選任と顔合わせ、必要な資機材と予算の申請。連れて行く兵士達の選抜や装備一式は副隊長に丸投げすれば良い、久し振りに親書の返事書き以外の仕事をしている。

 カリカリと申請書を書いていると、退屈そうなザスキア公爵が欠伸をしていた。扇で口元は抑えているが、随分とリラックスしてますね?

 

「暇なの。リーンハルト様、構って下さる?」

 

「僕は仕事中で、割と忙しいのですが……」

 

「じゃアインで良いわ、何か芸をして下さいな」

 

 無茶振りが来たアインだが、優雅に一礼するとロングソードを抜いて剣舞を始めた。いや、僕は貴女にそんな臨機応変さとエンターテイメントな事を求めていたかな?

 更に昨夜錬金したゴーレムクィーンの二体目、ツヴァイも剣舞に参加した。因みに彼女はアインと全く同じ性能と外観にしている。

 違いは髪飾りの羽根の枚数だけだ、アインは一枚だがツヴァイは二枚にして増やしている。

 マスクのモデルもイルメラだ、三番目はドライ、四番目はフィア、五番目のフンフと名付けるが全員同じ予定。

 彼女達五姉妹は僕とイルメラにウィンディア、ジゼル嬢とアーシャに一体ずつ配備する。今は全員が僕に従っているが、何れはイルメラ達に命令権を委譲したい。

 

「見応えが有るわね、一体増えてるのはツヴァイちゃんで良いのかしら?」

 

「はい、五人姉妹の次女になりますね」

 

 剣舞を終えて一礼するアインとツヴァイに盛大な拍手を贈ってくれた、確かに見応えは有ったが警備の要なのに微妙だよな。

 

 ザスキア公爵と雑談しながら仕事をしていると、ハンナが親書を持って来た。困った顔なのは送り主が近衛騎士団副団長であるゲルバルド・カッペル・フォン・フェンダー殿からだからだ。

 近衛騎士団副団長にして同じ団員のスカルフィー殿とボームレム殿二人の実父でもある戦闘狂、気配遮断のスキル持ちだと思う。

 ペーパーナイフを使い丁寧に封を切って便箋と取り出す、見た目と同じく書かれた文字も豪快だ。内容を読み進めれば……

 

「これは親書じゃなくて要望書だよ、近衛騎士団員との模擬戦を希望する。理由はロンメール様に同行する騎士団員の選抜か、断り難い理由を付けてきたな」

 

 質実剛健って言うか真っ白な封筒の中の便箋も真っ白、簡潔に要望しか書いてない。

 何だよこれ、『ロンメール様に同行する騎士団員の選抜として模擬戦を希望する、本日午後二時に練兵場にて待つ』しか書いてない。普通に読めば果たし状じゃないか!

 

 便箋をザスキア公爵に見せれば苦笑いだよ、断りたいが断れない。模擬戦を挑まれて逃げる訳にはいかない、勝ち負けに拘る必要も有る。

 

「あらあら大変ね?」

 

「ロンメール様の護衛を決める大事な模擬戦、警備責任者の僕は負ける事は許されない。弱い奴の指揮下には入らない、そういう挑戦ですよ。

だから負けられない、宮廷魔術師とは一国の騎士団と渡り合える者達なのです、舐められる事は許されない」

 

 模擬戦は嫌だが同行する騎士団員に力を示す必要が有る、善意で考えればゲルバルド副団長なりの気配りかな?

 

「それはリーンハルト様やサリアリス様位よ、ユリエル殿やアンドレアル殿でもキツいわよ」

 

「そうかな?条件次第だと思いますよ、勿論ですが勝ちに行きます」

 

 いや、アインとツヴァイは留守番だぞ。危ないからヤル気をアピールしてハルバードを振り回さないでくれ、僕は君達を戦闘狂には設定してないからな!

 どうにもデオドラ男爵の悪影響を受けている気がするんだ、産まれたての真っ白な子だから灰汁の強い連中の影響を受けやすいのだろうか?

 

 ハンナに了承した旨を伝える指示を出した、模擬戦に備えて昼食は軽めにするか。同行予定の騎士団員は五人だが、どうやって選ぶのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛騎士団員専用の練兵場に向かう、宮廷魔術師用とは違うが広さも設備も同じだ。変な差別はしない方針らしい、マグネグロ殿が第二席だった頃は二大騎士団員と宮廷魔術師団員は不仲だったからな。

 どちらも特権意識を持っていて協調性が無かった困った関係だった、国家に属する戦闘集団が連携しないでどうするんだよ!

 

 アインとツヴァイを従えて練兵場の片側の出入口から場内に入る、自律行動型にした為か独自に判断して行動するゴーレムクィーンだが……

 自ら僕の一歩前に進み出て、ハルバードを構えて仁王立ちした。此方を伺う近衛騎士団員に威嚇しているみたいだ。未だ早いから落ち着け。

 

「何故、君達はヤル気満々なんだ?」

 

 この子達だがツインドラゴンの宝玉の影響か分からないが、当初設定の戦士職レベル70相当より大幅に強い。

 多分だが、デオドラ男爵との戦いを見てもレベル90は超えていそうだ。そして好戦的な感じがヒシヒシとする、そんな設定で錬金してないぞ。

 

「ほぅ?美女を侍らせて来るとは流石だな、ソレがデオドラ男爵にして面白いと言わせたゴーレムか?」

 

 む、もう噂話として広まっているのか。デオドラ男爵が言い触らしているのか、間者が優秀と思うべきか……後者だな。

 楽しそうな顔を浮かべて近付いてくる、その後ろには完全装備の騎士団員が続く。フェイスガードだけ上げているが、警戒されてる?

 

「ゲルバルド副団長、この子達は僕のゴーレム技術の結晶です。自慢の我が子ですね」

 

 僕の言葉にアインとツヴァイが構えを解いて優雅に一礼をする、ドレスを掴み片足を引いて腰を下げる。所謂カテーシーと呼ばれる淑女の挨拶だが、妙に似合うのは何故だろうか?

 

「我が子って、リーンハルト殿は未成年だろ?まぁ良いか、コイツ等が候補の五人だ。挨拶しろ」

 

 漸く後ろに控える五人に話を振ってくれた、全員が僕よりも年上だが若いし派手な淑女好みの連中だ。近衛騎士団員は平均三十代と聞くが、二十五歳以下だぞ。

 それなりに近衛騎士団員と聖騎士団員との仲は良いのだが、彼等は全員が僕を睨んでいる。

 その視線には好意が全く無い、非協力な相手は今回の任務には不要だ。多分だが近衛騎士団員の中でも僕が嫌いな連中を集めたな、従わせたければ勝てってか?

 

「インキッドだ」

 

「ロベダルだ」

 

「ハッカーニです」

 

「ニープスだ」

 

「ホッサムだ」

 

 む、全員が家名を名乗らず名前だけだ。簡潔だと感心するべきか、僕が嫌いだけど実家は無関係だという意味か悩む。

 

「リーンハルト・ローゼンクロス・フォン・バーレイです、宮廷魔術師第二席の任に就いています」

 

 非礼に非礼で返すのは愚策、礼節に則り優雅に一礼する。ゲルバルド副団長のニヤニヤがムカつく、どうせ模擬戦の流れで力を示して従えろって事だろう。

 序でに近衛騎士団員の引き締めとかも考えていれば大したモノだけど、あのニヤニヤした顔からは考えられない。単純に戦えば理解し合えるだろ?的な思考だな。

 

「さて、ゲルバルド副団長から貴方達がロンメール様の護衛として同行して頂けると聞きましたが……些か能力に不安がありますね。ゲルバルド副団長を疑う訳では有りませんが、本当にロンメール様を守れるか証明して頂きましょう。

僕と全員で模擬戦をして貰います、力不足ならば他の方と交代して貰います。ゲルバルド副団長も宜しいでしょうか?」

 

 どうせ模擬戦になるなら此方から条件を出した方が主導権を握れる、僕を認めてやるじゃなくて僕に認められるかだ。

 実際に弱ければ交代だ、ゲルバルド副団長の思惑はどうあれ弱い連中など足手纏い。そんな弱くて非協力な連中など要らない。

 今回は祝い事に招かれたが、此方は喧嘩を売りに行くのだ。指示に従えない連中など邪魔でしかない、だから篩(ふるい)にかけて駄目なら交代だ。

 

「ふっ、ふざけるな!俺達はエリートたる近衛騎士団員だぞ」

 

「宮廷魔術師だか何だかしらないが、俺達は認めていない!」

 

「何で貴殿に認められねばならないんだ!俺達は貴殿の配下じゃないぞ」

 

「越権行為だ!俺達はゲルバルド副団長に選ばれたんだぞ」

 

 ほぅ?四人は反発したが、ハッカーニと名乗った男だけは冷静だな。特に表情も変えずに、僕の挑発に乗らなかったか。

 

「理由は僕が警備責任者で、弱い者を同行させる事は認めないからです。ゲルバルド副団長の人選は信用しますが、確認を怠る事は出来ません」

 

「何だとっ!」

 

「貴様、まだ我等を愚弄するか!」

 

「ポッと出の新人風情が、俺達近衛騎士団員に意見するだと?笑わせるぜ」

 

「模擬戦だと?ギタギタにしてやるぞ」

 

 良い感じに激昂してくれたな、冷静さを失うだけで戦闘力は激減する。只の戦う駒なら良いが、近衛騎士団員としては普通に失格だぞ。

 近衛騎士団に入団するには厳しい審査が有り、入団後も更に厳しい鍛錬が有ると聞くが彼等を見ると疑わしい。

 

「俺はコイツ等とは別で一対一での勝負を挑む」

 

 む、一人だけ冷静かと思ったが静かに怒っていたのか?まさか僕に一対一で挑むとは驚いたな、それ程強いとは感じないが……

 

「おい、ハッカーニ!何だよ、その言葉は俺達を裏切るのかよ?」

 

「馬鹿か、お前達は!俺達が全員で挑んでも勝てない相手だぞ、つまり最初から認められてないんだ。だから団体じゃなくて一人で戦って意地を見せる、実力じゃ勝てないが気持ちは負けない」

 

 ほぅ?中々の気構えだな、集団でしか文句の言えない連中かと思えば面白い人が混じっていた。

 近衛騎士団員は全員が貴族で厳しい審査をクリアーしなければなれない職業だ、なれても日常的に厳しい鍛錬を行っている心身共にタフな連中だ。

 だが彼等の強さはレベル20からレベル30の間、特に優れているとも感じない。精神的にも直ぐに挑発に乗るし、特権意識が高い。

 ハッカーニ殿を除いたら駄目な部類だぞ、これが栄光の近衛騎士団員?違うな、候補生か入団希望者じゃないかな?

 

「先に四人からお相手しましょう」

 

 アインとツヴァイを待機させて練兵場の中央に歩き出す、その時に歩きながら鎧兜を錬金する。鷹の家紋を胸に付けて、四枚の浮遊盾を装備した。

 空間創造から取り出したカッカラを頭上で一回転させて、相手に向かい振り下ろす。

 

「何時でも掛かって来て構わない。安心して良いよ、手加減はしてやるよ」

 

 この挑発に四人は腰に吊したロングソードを抜いて襲い掛かって来た!

 

 


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