古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第48話

 ビックビー、昆虫型モンスターで一匹の女王を頂点にコロニーを作る数が多くて厄介なモンスター。

 だが個の力は弱くDランクの冒険者数人でなら倒せる、苦労なりに得る物も多いモンスターだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 右手を握り水平にして人差し指と中指を揃えて突き出す。

 

「ストーンブリット!」

 

 直径20㎝程の岩が力有る言葉と共に発射される、土属性の魔術師の初級呪文だが込める魔力を増やせば大きさを変化させられる。

 体長50㎝程のビックビーは自分の体の半分位の岩が当たれば致命的なダメージだ、陥没し時には体の一部が吹き飛び倒れていく……

 

「さて、巣の周りの連中は全部倒したかな?」

 

「ん、巣の外は全部倒した、100迄は数えたけど……」

 

 最初こそエレさんに指示を出して貰ったが白煙が風で流されて視界が広がってからは一人で倒せた。

 ストーンブリットの制御も大分良くなり撃ち出す岩も球から三角錐に変えてみたら貫通力が上がった。

 固い相手には有効だがコントロールに難が有る、ストーンランスみたく長くすれば安定するけど……

 

「じゃ女王を倒すぞ。ゴーレムポーンよ、巣を崩せ」

 

 武器をツルハシに変えて土で出来た小山の様な巣を崩していく。

 

「……なんか地味」

 

「こんな大きな土の山を吹き飛ばすのは無理だよ。女王は身体が大きいから自力で巣から出れない、掘って引っ張り出すしか無い」

 

 ビックビーの巣は女王を中心に土と唾液を練った材料で作っていく、つまり女王は自力で外に出れない。

 餌から排便、産卵から子育て等は世話役が全て行う。女王は卵を産むだけの存在だ。

 因みに蜜は世話役が分泌して幼虫に与えるし保存もするらしい、未だに全ての生態は解明されてないモンスターだ。

 暫くはザクザクと言う巣にツルハシを突き刺す音しか聞こえない……半分程巣を崩した時に卵と幼虫が見付かり、その中心に女王が鎮座していた。

 

 デカい、上半身は普通のビックビーの倍位だが下半身は3m位ある、生涯子供を産み続ける為だ……

 

「キシャー!」

 

 自分の子供達を守る為に牙を剥き出して僕等を威嚇する、そこには体が肥大化して動けないなりに僕等に向かって来る強い意志を感じた。

 

「偉大な女王と母の愛に敬意を表して……」

 

 15m程の距離が有るがストーンブリットを外す事は無い、だけど一撃で倒せはしないだろう。

 無駄に苦しませない為に魔力を練り込み長さ2m太さ30㎝の鋼鉄製のランスを錬金する。

 

「アイアンランス!」

 

 せめて苦痛を与えない様に女王の心臓にアイアンランスを突き刺す、石と違い固い外殻も紙の様に突き抜ける。

 

「ガフッ……」

 

 胴体に大穴を空けられた女王は一声呻いて崩れ落ちた……即死だった筈だ。

 同情でも憐れみでもない純粋な敬意、どんな狂暴なモンスターでも生物を殺すという事は大変なんだと感じた。

 自分が生きる為に強くなる為に生物を殺す。中には心に刻むとか踏み台には何の感情も持たないとか、人により感じ方は千差万別だろう。

 善悪だって狂暴なモンスターから皆を守る為にとか、どんな理由が有ろうと殺しは駄目とか……

 つまり生物を殺すという行為を自分の中で折り合いをつける術(すべ)を学ぶのが今回の実地訓練の目的だろう。

 

 自分の子供達を守る様に僕等に挑んだ女王を即死させ少しだけ黙祷する……

 

 これは転生前にも行っていた死者への手向けで有り自分の弱い心を騙す行為でもあるんだ。

 

「何故祈るの?モンスターは倒す、当たり前」

 

「生物を殺すって事を軽く考えたくない事、自分の行為に正当化したい偽善的行為、両方かな?」

 

 エレさんは首を傾げて少しだけ考えたが僕に倣って黙祷を捧げた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「レベル上がった、6から10になった」

 

「それは良かったね、少しは基礎体力も上がったかい?」

 

 レベルアップの恩恵は単純に体力や魔力の上昇の他に敏捷性や筋力の上昇も伴う。

 短期間で倍近くレベルアップしたんだ、少しは体力も増えただろうか?

 

「ん、今まで重かった鞄が軽く感じる」

 

 その場でピョンピョン跳ねて体力の上昇をアピールするが……その……スカートが捲れてる。

 太股の付け根がギリギリ見えそうな感じです。

 それと跳んだ拍子に前髪が払われて素顔が見えたが……かなり可愛い。

 

「その、エレさんに言わなければならない事が……」

 

「ん?なに?」

 

 相当レベルアップが嬉しかったのだろう、少しだけ微笑んでるし気持ち声も大きい。

 僕を見上げているのだが初めて両方の目を見せてくれている……

 

「言いにくいんだけど……」

 

「う、うん」

 

 頬が薄らと赤みを差した、普段から素顔を見せて笑えれば人気が出るだろうな。

 

「討伐部位を集めるよ、それに巣に居る幼虫と卵も処理しなきゃ。

あと巣蜜も回収する、急ごう、死体を嗅ぎ付けて他のモンスターが来ない内にさ」

 

「え?この雰囲気で?事後処理?」

 

 何かブツブツ零しているエレさんの背中を押してビックビーの死体から針を回収させる。

 僕は残りの卵と幼虫の始末、巣蜜の回収、それと女王の額に埋まる結晶を外す。

 この結晶は討伐証明部位だけど錬金の素材として希少なんだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法で灯りを空中に幾つも浮かべる、ビックビーの討伐証明部位は針。

 暗がりで腹を裂き毒袋に注意しながら針を取り出すのは大変だ。

 幸いと言うかエレさんの手捌きは凄い、胴体の先端の針の出る穴にナイフを突き立て裂いて針を取り出す。

 慣れた手つきに感心する、盗賊としての素質は十分だろう。

 二時間ほど素材集めに費やして漸く全ての討伐証明部位を集めた。

 既に時刻は深夜を過ぎている、月の位置から考えて午前二時過ぎ位かな?

 

「針が172本、巣蜜が7㎏に結晶が一つ……大収穫だね」

 

 針1本が銀貨2枚だから全部で金貨34枚銀貨4枚、巣蜜は1㎏金貨1枚、結晶は幾らだっけ?

 これだけで金貨48枚銀貨4枚だから折半でも大儲けだろう。

 エレさんは……眠そうだ、大分疲れただろうな。

 だけど早めに分配の話をするべきだろう、他の連中の居る所では避けるべきだし。

 

「エレさん、結晶は素材として欲しいから貰って良いかな?その代わり巣蜜は全部あげるよ、針は半分ずつね」

 

 半分意識が無かったのかな?もう一回同じ事を言ったら少し考えてるみたいだが……

 

「駄目、リーンハルト君の取り分が少ない。結晶も巣蜜も要らない、針が半分貰えるなら十分」

 

 む、強欲じゃないのは喜ばしい事だ。大抵揉めるんだよね、金が絡む分配作業って……

 でも彼女のスキル、鷹の目による追跡と狙撃の指示、それに素材採取の手際も十分に評価されるべきだと思うんだけど。

 

「でも、それじゃ……」

 

「レベルも上げて貰った、私じゃビックビー178匹なんて倒せない」

 

 どうしても意見を曲げないつもりなのだろう、何時もは下を向いて話すのに今回は僕の目を見ている、眠気はすっかり醒めたみたいだ。

 

「うん、有り難う。じゃ針は僕が80本でエレさんが92本ね。

これは譲れないよ、20本で昇格ポイントが1貰えるから80本で4。ビックビー討伐で1、実地訓練達成で1、合計6か……

前回の分を合わせて7ポイント、残りは実地訓練三回で丁度10ポイントだ」

 

 本来ビックビー討伐はDランクの昇格ポイントだが冒険者ギルドから正式な依頼を請けてないし欲張っても仕方ない。

 

「強制実地訓練を達成したらEランク?凄い」

 

 周りをゴーレムポーンに警戒させながら皆の所へと帰る、春先でも高原の夜は寒い。

 空間創造から毛布を出してエレさんの肩に掛ける、多少は暖かいだろう。

 

「僕は一年間でCランクまで上げるつもりだ。駆け足でもね。

冒険者養成学校もなるべく早く卒業するよ、此処には最低限の常識だけを学びに来てるから」

 

 300年の時代の差を学ぶ為に入学したのだが、カリキュラムを見るに三か月位が基礎、その先は応用だから実地で学べるだろう。

 残り23ポイントでDランクに、DランクからCランクに上がる為には更に40ポイントが必要だ……先は長いな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 暫らくは無言で歩いていたが漸く森から抜け出し他の連中が夜営している場所に到着した。

 各所に篝火が焚かれ見張り番の姿も見える、僕等のパーティの夜営場所は中央付近だっけ?

 近付いて行くと見張り番の男に声を掛けられたが見覚えは無い。

 

「こんな遅くに二人で森でお楽しみだったのかよ?」

 

「流石は優等生様ですね、そこに痺れて憧れますよ」

 

 チクリと嫌味を言われた、やはり僕は学校では浮いた存在なんだな。

 

「先生から直接依頼を請けてビックビーの討伐をしてたんだ。もう近くにビックビーは居ないから明日は安全にゴブリン狩りが出来るよ」

 

「全て倒してきた、172匹も居た」

 

 人見知りで表情の乏しい彼女が珍しく自慢気に言い放ったが、相手は凄く微妙な顔をしている。

 冒険者養成学校に通う様な初心者がDランク相当の敵を二人で大量に倒す。

 何を馬鹿なと思いつつ魔術師だから出来るのか?と悩んでいる様な……

 

「じゃ僕等も休むから見張り番宜しく」

 

 労りの声を掛けるが彼等の目は……昔よく見た畏怖と嫉妬の交ざった目だ。

 嗚呼、父上も同じ目を僕に向けていたな、気付いていたのに気付かない振りをしていたんだ。

 だから僕は側近から父上の企みを聞いても信じられなくて対応が遅れた……

 

「リーンハルト君、凄く辛そうな顔……疲れた?」

 

 袖口を掴んでクイクイ引かれた、彼女は心配そうに見上げている。

 

「昔を思い出していた……嫌な記憶……同じ事を繰り返すのか……結局僕は変わらない」

 

「私……私も嫌な記憶有る。父さんは私と母さんを捨てた……でも……」

 

 僕は彼女に励まされているのか……辛いのは僕だけじゃない、何を悲劇の主人公みたいに悩んでるんだ!

 彼女に辛い過去まで思い出させて駄目な男だな、僕って奴は……全く救いようがない馬鹿だ。

 

「有り難う、もう大丈夫。少しでも身体を休めよう、三時間位は寝れるよ」

 

「うん……でも、その……辛い事が有ったら誰かに話すと楽だよ」

 

 話せれば、ね……転生して二回目の人生を慎重に生きるつもりが過去の失敗を繰り返してる。

 全く成長してないから悩んでるんだ。

 

「もう大丈夫、さぁパーティの所に戻ろう」

 

 彼女の背中を軽く押して歩く様に促す。

 冒険者の朝は早い、日の出と共に動き出すだろうから六時には起きないと駄目だな?

 錬金した小屋に入れば先生が起きていた、毛布に包まり座っている。

 

「よう、遅かったな」

 

 先生は全然眠そうじゃなく此方を見詰めている、淡い蝋燭の光の中でも分かる位に……報告しないと寝れないみたいだな。

 先生の向かい側に並んで座る、報告は簡潔で良いだろう。

 

「討伐証明部位集めに時間が掛かりまして……ビックビーは全滅です、もう大丈夫でしょう」

 

「ほぅ、大したモンだな。何匹居たんだ?取り逃がしてないか?」

 

 表情が固いままだ……依頼を達成しても手放しでは褒(ほ)めてくれないのか。

 

「女王の他には172匹、エレさんの鷹の目でも確認しましたが逃亡した奴はいません、全滅です。

ビックビーは女王が倒されたら散々(ちりぢり)に逃げ出します。ですが女王を倒す前に全滅させましたから大丈夫でしょう」

 

 やはりだ、先生は喜んでない。逆に戸惑っている様な困惑してる様な?

 自分で依頼しておいて成功を喜んでないのか?出来ないと思っていたのか?

 

「そいつはお疲れさんだったな。朝まで休め、もうそんなに時間は無いがな」

 

 それで会話はお終いみたいだ、下を向いて毛布を被り直して黙ってしまった。

 エレさんも困惑気味みたいだが無言で頷いた、もう気にせずに休もうって事だろう。

 

「ええ、休ませて頂きます」

 

 空間創造から毛布を取出し蹲る様にして横になる。何故か隣にエレさんも毛布に包まっているが気にしない、今日は色々と疲れた……

 瞼を閉じれば直ぐに睡魔が訪れて来て深い闇へと落ちていった。

 


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