古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第479話

 近衛騎士団副団長、ゲルバルド・カッペル・フォン・フェンダー殿からの要望書は、ロンメール様の護衛として同行する五人の近衛騎士団員の選定についてだった。

 インキッド・ロベダル・ハッカーニ・ニープス・ホッサムと名乗った五人、未だ二十代前半の見目の良い若者ばかりだ。

 近衛騎士団員は王族の警護を担い、各種式典にも同行するエリート集団。全員が間違い無く上級貴族であり、国家と王族への忠誠の厚い騎士達で構成される。

 

 基本的に強い、ゲルバルド・カッペル・フォン・フェンダー副団長や、その息子にして近衛騎士団員のスカルフィー殿とボームレム殿。

 王族と近衛騎士団員の二足の草鞋を履く、ミュレージュ様など実際に模擬戦を行ったから強さは理解している。

 

 だが、この五人だが間違い無く弱い。レベルも30を超えていないだろう、魔力も感じない。なにより強者のオーラを全く感じない、普通に一人前の戦士だとは思うが……

 何か意味が有るとは思うが、同行させるには弱過ぎて問題だ。エリート集団だけに見殺しは出来ないから、守る対象が増えるのは地味に負担増で辛い。

 本来は守る側なのに、守られる側になりそうだから嫌なんだ。

 

 まぁ良いか、模擬戦で実力を計ってから後は要相談だな。出来ればゲルバルド副団長の息子殿の片方をメンバーに組み込みたい、彼等なら戦力的には安心だから。

 実際の役割分担でも近衛騎士団員がロンメール様達を直接警護し、僕が外敵を倒す事になる。だから能力的にも信頼できるメンバーをお願いしたい。

 彼等では無理だ、足手纏いとは言わないが最終防衛要員としては弱過ぎる。こんな所にまで貴族の柵(しがらみ)を適用しないで欲しいんだ。

 

「さぁ、模擬戦を開始しましょうか?」

 

 此方を睨む四人を挑発する、ゲルバルド副団長のニヤニヤした顔から察するに予定通りの流れなんだろうな。

 武人って本当に武力を尊ぶ性質が有る。確かに必要な事だけど、もう少し周囲に気を使っても罰は当たらないと思います。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 練兵場の中心近くまで歩く、特製の鎧兜を歩きながら錬金し身に纏う。今回は浮遊盾も四枚装備した、だが彼等が僕の魔法障壁を抜ける攻撃が出来るとは思えない。

 勇ましく挑発し返してきた割には、その足取りは重そうだ。何が彼等に実力以上の態度を取らせる理由なのだろう?見栄かプライドか?

 おそい歩みで僕の20m程前に四人が一列に横並び、ロングソードを抜いて構えた。マジックウェポンでもない普通のロングソードだな、つまり切り札的な武具も無い。

 今思ったが、彼等に怪我を負わせると僕の責任になるのか?手加減して無傷で勝てば良いか、なんで上から目線的な配慮までしなくちゃ駄目なんだ?

 

「どうした?インキッド殿にロベダル殿、ニープス殿にホッサム殿と名乗ったな。攻めてこないなら此方から行くぞ」

 

 ハッカーニ殿は塀際まで下がったが、他の四人はロングソードを抜いたが一向に攻撃して来ない。

 そのまま三十数えるまで睨み合うが全く動かない、迷いすら感じてしまうのは気のせいか?

 観客席の方が賑やかになって来たのは、僕等の模擬戦の事が広まったのかな。

 チラリと視線を送ると珍しく侍女達以外に女官達も大勢観戦している、ユーフィン殿が居るので同僚に声を掛けたのだろうか?

 ラナリアータも居るが今日は壺は持っていないので安心だ。彼女は興奮すると持ち物を振り回す癖が有る、王宮の備品を壊せば罰せられるから。

 

 嗚呼、この辺の女性人気も彼等が反発する理由かも知れない。黄色い歓声こそ無いが、女性陣の殆どが僕を応援しているのが分かる。

 男なら嫉妬で狂う状況とか言いそうだ、それで望んで無いとか言えば更に彼等を煽るのだろう。兄弟戦士曰く男の敵らしいな……

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 カッカラを一振りしてレベル50のゴーレムポーンを四体、ロングソードとラウンドシールド装備で錬金する。

 このまま睨み合っても埒があかない、早目に此方から仕掛ける事にするか。

 

「五種類有る僕のゴーレムの中でも最下級がポーンです、このポーンに勝てない様ではロンメール様の警護は任せられません」

 

 キングの僕を頂点に、クィーン・ルーク・ビショップ・ナイト・ポーンの順番で強いんだ。レベル50だが一対一で、ポーン位は倒せないと護衛に同行させるのは普通に無理だ。

 

「くっ、舐めるなよ!ロベダル、ニープス、ホッサム、一斉に掛かるぞ」

 

「了解だ、インキッド!」

 

「男の敵め、俺達の力を見せてやるぜ!」

 

「異議無し!」

 

 いや、異議有りだ!

 

 何で一斉に掛かるんだ、作戦も何も無いじゃないか。お前達の倍近く強い相手の力量を感じ取れないのか?

 馬鹿みたいに突っ込んでも勝てる訳が無いぞ。騎士団は連携プレーに重点を置いて鍛錬し、行動も小隊単位で連携するだろ!

 

 騎士とは個人の武勇を誇ると思われがちだが、普通の戦いでは連携して戦う。その中で名指しで挑まれた時や、ここぞと言う場面で一騎打ちをしたりして士気を高めるんだ。

 個人で無双出来る武人や機会なんて本当に僅かだぞ、それを単純に突撃するだけだって?

 

 そう宣言されたので同じくゴーレムポーンを横一列に並び各々の距離を3m程離した、ゴーレムポーンと僕の距離は8m位かな。

 ゴーレムポーンを攻撃を避けて通り抜ければ、僕に直接攻撃は一応可能だ。

 

「馬鹿が、連携も無しで闇雲にゴーレムポーンに挑むとは……」

 

 横一列で真っ直ぐ走って来る、気合いを入れて叫びながらロングソードを上段に振り被っている。

 だが完全装備の重装備兵を相手にロングソードを振り下ろす程度じゃ勝てないぞ、攻撃力が弱過ぎるんだよ!

 

 右側からインキッド殿・ロベダル殿・ニープス殿・ホッサム殿と並び、全員同じ動作で仕掛けて来た。だがゴーレムポーンも同じ対応をするのは捻りが無いな……

 

 先ずはインキッド殿に対してだが、振り下ろされたロングソードをラウンドシールドで左側に弾いてロングソードを首に突き付ける。

 

 ロベダル殿は、振り下ろされたロングソードを同じくロングソードを真横に振って弾き飛ばす。それだけで呆然としたので首筋にロングソードを当てて終わり。

 

 ニープス殿は振り下ろしたロングソードを掴み、そのまま引き倒して馬乗りになると戦意を喪失して降参。

 刃を掴むのはゴーレム特有の防御方法だ、人間と違い力強く怪我もしないし鎧の修復も錬金で簡単に出来るゴーレムならではの方法だな。

 

 最後のホッサム殿は振り下ろされたロングソードを避けてラウンドシールドで弾き飛ばす、ゴーレムのパワーで真後ろに弾かれて起き上がる事も出来ずに負けを認めた。

 無傷とはいかないが軽傷程度で抑えたから問題は少ない筈だ、単純に戦うだけでは済まない貴族の柵(しがらみ)がキツく辛い。

 

「おぃおぃ、弱過ぎるだろ?栄光有る近衛騎士団員にしてはお粗末過ぎますよ」

 

 まさか剣を一回合わせただけで全滅とか普通に笑えないぞ、一般兵よりは強いが聖騎士団員なら見習いレベル以下だ。

 声援を貰ったので観戦している女性達に軽く手を振って応える、ユーフィン殿とラナリアータが嬉しそうに大きく手を振ってくれる。

 仮初めでも内緒の婚約者だし、大嫌いなサルカフィー殿から守ってくれるから気を遣ってくれるのだろう。

 ラナリアータはプラムをブチ捲けた事を帳消しにしたお礼かな?

 呻(うめ)いたり睨み付けたりするインキッド殿達を見る、油断はしないが完全に勝負はついた。再戦しても良いが結果は変わらない、近衛騎士団として汚点を残したな。

 

「ゲルバルド副団長?」

 

 審判役というか此処に居る近衛騎士団員の最上位にお伺いをたてるしかない、まぁ戦意喪失してる相手に再戦しろとか無茶は言わないだろう。

 この後で少しフォローが必要になるだろう、僕だけでは厳しいのでサリアリス様にも相談を……いや、怒って近衛騎士団詰所に突撃しそうだから駄目だな。

 こんな雑事で彼女の手を煩わす事は出来ない、何とか僕だけで解決しよう。

 

「この模擬戦は、リーンハルト殿の勝ちだ。ハッカーニ、模擬戦は中止だ。時間の無駄だな」

 

 ゲルバルド副団長の一声で、インキッド殿達も悔しそうな顔はしても反論せずに頭を下げて練兵場から出て行った。

 随分と簡単に引き下がったな、あれだけ噛み付いて来たのに騒いで終わりとは拍子抜けだぞ。

 ハッカーニ殿は何か言いたそうだったが、ゲルバルド副団長が睨んで黙らせた。彼とは戦ってみたかったんだが、ゲルバルド副団長は彼を負けさせる事を良しとはしなかった。

 栄光有る近衛騎士団員が連敗は不味いからかな、例え模擬戦でも負けは負けか……

 

「所詮は推薦枠の式典専門の連中だ、手間を掛けさせたな。あの馬鹿共は、リーンハルト殿の事が気に入らなかったそうだ」

 

 色々と知らない言葉が有った、入団条件が厳しい栄光の近衛騎士団に推薦枠?

 

「実績じゃなくて血筋の方ですね」

 

 自慢じゃないが、僕の実績は近年では上位に入る。文句を言われる隙は無い、だが血筋で言えば誰でも文句を言える。

 何たって半分平民の血を引いているんだ、貴族の血筋は最下位の新貴族男爵位だ。

 

「まぁな、近衛騎士団も血筋は重要なファクターだ。奴等は全員が公爵家の縁者でな、それなりに強く見栄えが良いから式典専門として近衛騎士団に置いている」

 

「式典専門?ああ、居ましたね。飾りとして並べてるだけなんて無駄じゃないですか?いや、外交的な見栄え要員ですか。大変ですね、宮廷魔術師は実力のみが必要ですから僕でもなれました」

 

 荘厳な式典、アウレール王の背後に控えるのが厳ついバーナム伯爵やデオドラ男爵では威圧感が凄い。ハンサムな貴公子を並べた方が受けが良い、だが護衛としては失格だ。

 

「他国から招かれた結婚式だからな、通常なら奴等も参加させる。だが今回は違う、リーンハルト殿が派手に喧嘩を売りに行くんだ。足手纏いは要らないって言ったら、俺にまで噛み付きやがった!」

 

 だから現実を教えてやったんだって豪快に笑って肩をバンバン叩くけど、貴方が原因ですかっ!

 そんな言い方をすれば反発するし、エムデン王国がバーリンゲン王国に喧嘩を売るのは未だ秘密ですよ。

 

「貴方という人は……国家戦略をベラベラと喋る事は控えて下さい、何処に敵の間者が居るか分からないのですよ」

 

 何時の間にかゲルバルド副団長の背後に完全装備の近衛騎士団員が整列し、一糸乱れず頷いている。四十人は居るな、非番か手の空いた連中が全員集まったみたいだ。

 

「済まぬな、リーンハルト殿。我等も毎回苦言を呈するが、ゲルバルド副団長は馬鹿なのだ」

 

「戦馬鹿(いくさばか)でな、人の言う事を聞かない馬鹿なのだ」

 

「少し違うぞ、話は聞くが理解は出来ない。こんな馬鹿が№2とか有り得んだろ?」

 

「その点では宮廷魔術師は良いな、№2が常識的なのは羨ましい。リーンハルト殿の苦労は我々部隊長も良く分かる」

 

 壮年の三人の近衛騎士団員に同情された、部隊長って事は№3から№5だな。近衛騎士団は三部隊に別れている、その上にエルムント団長とゲルバルド副団長が居る。

 だが上司を馬鹿馬鹿言って大丈夫か?ゲルバルド副団長の苦虫を噛み潰した表情を見れば、常に文句を言われて頭が上がらない感じだ。

 この人は政務とか出来るのだろうか?いや出来るよな、デオドラ男爵だって領地経営が出来るんだ。幾ら脳筋だからって……

 

「お前等なぁ!俺を馬鹿にするな。俺だって色々考えているんだ、だから模擬戦だ!」

 

「いや、全く考えてないですよね?本能で動く獣みたいですよ、難しい事は言わずに肉体言語で分かり合おう的な考えですよね?」

 

 諦めてはいた、近衛騎士団としても一方的な負けは認められない。だから完全装備の連中も同じ考えだ、式典専門でも同僚が負けた事に変わりはない。

 部隊長の三人も良い笑顔で頷いている、結局全員同じだ。この脳筋の戦闘狂共め、戦士職は武力が一番だから単純だけど頑固なんだよな。

 

「僕との模擬戦を御所望でしょうか?言わなくても此処に居る全員とですよね?」

 

 完全装備で整列していて、模擬戦しませんとか有り得ないだろう。ゲルバルド副団長や息子二人とはバーナム伯爵の武闘会で戦ってる、その話が広まったかな?

 

「当然だ!我等だって、リーンハルト殿と全力で戦いたいんだ」

 

「副団長ばかり狡いと思うのだ、我等だってバーナム伯爵の武闘会に参加したい!」

 

「その武闘会で負け無しの、リーンハルト殿と戦ってみたいのだ!」

 

 部隊長の言葉に後ろの近衛騎士団員が頷く、模擬戦は避けらない。だが落とし所が難しい、お互いに明確な負けは不味いんだ。

 僅差の負けか引き分け、出来れば引き分けを狙いたいが相手の方が大人数だ。引き分けの判定も難しい、普通なら多対一で引き分けなら少ない方の勝ちだよな。

 

「全く、ゲルバルド副団長には困ったものですね」

 

 三人の部隊長が頷いてくれた、彼等とは年の差は有れど仲良く出来そうな気がする。同世代の友人は出来ないのに、その親の世代と仲良くなるとは何故だろうか?

 


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