二次小説中心のサイトで一番読まれている作品になれるとは思いもしませんでした。
沢山の評価と感想も励みとなります、日刊ランキングも6位でした、嬉しいです。
今後とも宜しくお願いします。
感謝を込めて4/27(木)から5/7(日)の11日間連続投稿をします。次は8月に一ヶ月連続投稿の準備を進めます。
バーリンゲン王国に行く前の最後の王宮への出仕日、この後は三日間休みで四日目に出発する。
事前の準備は全て終わらせた、関係各所との調整も問題無い。クリスとの件でのお詫びなのか、レジスラル女官長が色々と助けてくれたんだ。
貸し借りは極力無くす主義なのだろう、僕的にはクリスが実家であるマディルイズと縁が切れるだけで良かったんだけどね。
結局だが、ゼクス達五姉妹は誰かに預けるとか貸し出すとかは無かった。一部の貴族からゴーレムクィーンを王家に献上しろとの話が有ったみたいだが……
アウレール王が直々に不要だとキツく明言、その貴族達は国王の不評をかったと周囲から距離を置かれているそうだ。
内々に『召喚兵のブレスレット』と『魔法障壁のブレスレット』を渡しているので、これ以上のモノは要らない。建前的には従来の護衛を信頼しているからと話したそうだ。
因みに騒ぎ出した貴族達は、バニシード公爵の息が掛かっている連中だった。色々と仕掛けてくるが僕の大切な人の護衛を取り上げるのは、策にしても最低だ。
これでは自分が旧コトプス帝国の残党に利する行為をしていると思われるし、遠回しに側近の護衛達が無能だと言っている。奴等は側近の護衛達からも恨まれた、馬鹿者達は自分から敵を増やした訳だ。
自国での自分の立場を落としても馬鹿な提言をする事の不自然さをアウレール王は調べている。国内に巧妙に隠れる本当の旧コトプス帝国に取り込まれた売国奴の連中の事をだ!
◇◇◇◇◇◇
暫く出仕はしないからなのか、今日は王宮内の通路で擦れ違う侍女や女官が多いぞ。自惚れではないが、流石に脇に寄って頭を下げる淑女達が10m間隔で居れば怪しむぞ。
ユーフィン殿やラナリアータ、セラス王女付きのウーノまで居れば男女間の事に疎い僕でも察するさ。
人気者は辛いぜ、とか安易に喜べれば良いのだが……アウレール王の忠臣は男爵令嬢の側室が一人だけ、有力な親族も少ない絶好の政略結婚の相手だ。
最近だと王位継承権第二位のロンメール様との交流も多い、側室に自分の娘を押し込めればメリットは大きい。
更に増えた原因はマジックアーマーの存在だ、僕謹製の高性能マジックアーマーが貰える可能性が高い。
デオドラ男爵達に渡した鎧兜の性能は一般に入手可能なモノの中では図抜けているからな、欲しくて堪らない武闘派連中も多い。
「自分で仕組んだ事だから自業自得か、効果は覿面だ!ってか?」
自分の執務室に到着し、愚痴りながら中に入る。専属侍女五人が横並びで頭を下げてくれる、華やかな仕事環境だ。
セシリアとイーリンは僕の世話係として同行が決まっているからか、朝からドヤ顔だな。他の三人は少し不機嫌そうだぞ。
戦場になるかもしれないので本音としては女性の同行者は減らしたかったが、諜報を司る彼女達に現地を生で見ておきたいと懇願されて僕は同行を許した。
「「「「「おはようございます、リーンハルト様」」」」」
「ああ、おはよう」
無愛想にならない程度に声を掛けて軽く手を上げる、朝から気持ちが萎えたのは執務机の上の手紙の山に気付いたからだ。
昨日より増えてる、あれだけ頑張って書いて減らしたのに更に増えてる。もう今日だけじゃ終わらないぞ、屋敷に持ち帰るしかないか?
返事は遅れても内容は確認して緊急のモノを優先して……あれ、コレって?
「ユリエル殿の、ウェラー嬢への愛が重い」
束ねられた三通の親書は、ユリエル殿から僕宛だが内容はウェラー嬢に関する事だけだ。
しかも一通が分厚い、5㎜以上も有る親書って中々無いぞ。普通は多くても便箋で三枚程度、だが分厚くズッシリと重い。父の愛が物理的にも重い、どうせ碌な事は書いて無いんだ。
「やっぱりだ、周囲からの噂話が途中で変わったか意図的に変えて伝えたか?節々に殺意が垣間見える、ユリエル殿もエムデン王国の重鎮なんだから噂話の裏は取って下さい」
親書を読めば僕とウェラー嬢のラヴなストーリーが現在進行中になっているが何故なんだ、お互いの屋敷を行き来しているとか嘘だぞ!
ザスキア公爵に助言を貰い王宮に呼んでいるんだ、自分の屋敷に招くとか誤解されない様に気を付けているのに嘘に騙されないでくれ!
しかも三通の手紙は一日おきに出されている、下手をすると本人が乗り込んで来る可能性が高い。任務放棄は不味い、大人しくハイゼルン砦に居て欲しい。
「全く愛娘を思う父親の愛情って際限が無いんだな、重い愛って怖い」
「リーンハルト様の、アーシャ様やジゼル様に向ける愛も相当重いですわ」
「国王に結婚を公認させる程の愛情など、聞いた事も有りませんわ」
便箋から視線を上げればハンナとロッテの呆れ顔が並んでいた……失礼だな、僕は彼女達の負担となる重い愛情など無い!
だがユリエル殿を放置しておくと何をするか分からない恐怖が有る、前回もハイゼルン砦の防衛任務を放棄して王都に戻ろうとしたんだ。
またフレイナル殿が定期報告で来る時に、伝言とか親書とか持ち込むだろうな。彼も結果を聞くまで帰って来るな位は言われてそうだ、哀れなり……
「無実の罪だ、悪意有る噂話に踊らされない様に手紙に書いておくか。今日はウェラー嬢も来るから、父親への手紙に誤解を生む表現は控えてくれって頼むか……」
引き出しからレターセットを取り出す、羽根ペンにインクを付けながら何を書くか内容を考える。
先ずは……様式に則った挨拶と時事ネタを含めた近状報告、バーリンゲン王国に向かう為に王都を離れる事を書いて頼まれたウェラー嬢の監視が厳しい事を伝える。
今回もアンドレアル殿に監視任務を引き継ぐ事を伝えてから、漸く本題のウェラー嬢との関係は、師弟関係に近いモノで恋愛感情はお互いに全く無いと重(かさ)ね重(がさ)ね伝える。
稀にだが愛娘とは恋愛感情が無い健全な関係だと伝えると、自分の娘には魅力が無いのかと逆ギレされる事が有る。
もう僕にどうしろって聞きたいのだが、嫁にはやりたくないから惚れるなと言いながら全く興味が有りませんと言えば怒る。
父親の愛娘に向ける愛情の深さ、不条理さ、理不尽さを思い知らされるんだ。未だ幼いから良いが、度が過ぎると婚期を逃す可能性が高いと思う。
「リーンハルト兄様!遊びに来ました」
元気良く扉を開け放って問題の少女が執務室に入って来た、警備兵が扉をノックしようとしたのだろう。
右手で扉を叩こうとした形で固まっている、不慮の出来事には対処し辛いよな。気持ちは分かるし不敬とか言わないから安心して下さい。
凄く嬉しそうに渡した『黒縄(こくじょう)』の魔導書を胸に抱いている、大切にしてくれるのは嬉しい。だが僕が新規に魔導書を書ける事は公(おおやけ)に広まったな……
「おはよう、ウェラー嬢。だがノックも無しに部屋に入るのは駄目だぞ、マナーを疎かにすると突け込んでくる奴等も居る。
僕も君の父上も敵は多い、だから気を付けるんだ。本当に足を引っ張る味方が居るんだぞ、王宮は魑魅魍魎(ちみもうりょう)が潜む魔窟だよ」
今だって僕とユリエル殿との不仲を誘う悪意有る噂話の罠を仕掛けられている、困った事にね。
ウェラー嬢は隙が多い、ユリエル殿が王都に居た時は問題無かったが、ハイゼルン砦に常駐している為に物理的に距離が離れた。
良からぬ事を考える連中にとっては大きなチャンスだ、その事を教えて警戒させる必要が有るのだが……サリアリス様が僕と同様に孫娘扱いだから大丈夫か?
「ごめんなさい、今度から気を付けます」
「謝らなくても良いよ。でも今後は気を付けよう、王宮に出入りをするならね」
シュンと下を向いてしまった彼女に謝らなくても良いと言ってから軽く肩を叩く、警備兵を見れば生暖かい目で見た後に頭を下げてから扉を閉めた。
扉を開けたままだったから話が筒抜けだったが、注意しかしてないから大丈夫だろう。取り敢えずソファーセットに移動する、執務机の上に広げられた父親からの手紙は見せない方が良いな。
ハンナが紅茶と焼き菓子を用意し終わるのを待つ、ウェラー嬢は定期的に自主訓練の成果を報告し次の課題を欲しがる。妹弟子としては非常に優秀だ、既に鋼鉄の錬金も成功している。
「かなり自主訓練に力を注いでいるみたいだね、黒縄の習得状況はどうかな?」
「両手に二本ずつ四本、長さは10mが限界よ。黒縄本体の重さで両手の負担が厳しいの、太さを3㎝まで細くしても10mが限界だわ」
軽く時事ネタを振ってから本題に入る、元気良く両手を振り回しながら報告してくれる。暫くは訓練を見れないから直接的な指導は今日が最後になるな。
しかし既に黒縄を四本操れるとは驚いた、複数制御は思考を分割しないと厳しいんだ。やはりウェラー嬢は才能が有る、そして成長方向が僕と被る。
今でも下位互換みたいな性能なのに更に近くなっている、黒縄が一段落したらゴーレム運用についても仕込むか……
「確かに制御する黒縄の重量を自分で全て持とうと思うのは無理だよ、僕は身体に纏わせたり周囲に展開して重さを分散させているよ」
そう言って立ち上がり実際に黒縄を展開させる、身体に巻き付けるのと周囲の床に這わせて重量を分散させている。
周辺に展開している黒縄はアンカーとして固定したり、緊急時には本体を引っ張って攻撃を避けたりも出来る。
口で説明するよりは実際に見せた方が早いし分かり易い、魔法の構成や魔力の流れ、操作の仕方とか良く分かる筈だからね。
「実際に見ると分かります……こうやって身体に巻き付けて空を飛んだり、急に真横に移動したり出来るんだ。なる程分かり易いです、でも普通の発想じゃないわ」
うねる黒縄を実際に触って確認している、直接触る事で魔力の流れも分かるし、感覚的に魔法を使う彼女は聞くよりも見る方が理解し易いのだろう。
実際に自分の身体にも黒縄を纏わせて試しているが、コレってドレス姿には不向きだな。妙な感じで絞るから身体のラインの一部が強調される、練兵場で試さなくて良かった。
飲み込みは早いみたいで身体を50㎝位浮かせてみせた、だがバランスが悪く不安定で見ていて怖い。
「コツは掴んだみたいだね。だけど未だ人前では見せちゃ駄目だよ、少し危険かな」
「リーンハルト兄様、黒縄をこうして円柱型にすれば防御陣形になりませんか?」
「ほぅ?発想が近いのかな、同じ事を考えたか。僕も黒縄を防御陣形として考えて実用化してみた……これが黒繭(くろまゆ)だよ」
ウェラー嬢は円柱だが、僕の方は球体だ。円柱は上下に隙が出来るが球体は全方位に対応出来る、そして彼女は動きを固定しているが僕は常にうねらせながら動かしている。
黒繭の第二形態は羽化で周囲に無差別攻撃を加える事が出来る事と、全方位を感知する事が出来る切り札的な陣形だ。
全方位感知魔法と組合せた全方位攻守魔法が黒繭の正体だ、現状では最上位の守りの要となる魔法。実際に暗殺者である、クリスの猛攻を防いだ実績も有るんだ。
「また常識を何処かに忘れた魔法を編み出したのね、オリジナルの魔法って百年単位で生まれてないのよ?」
「そんな事は無いよ、元々有る魔法の組み合せや改良とか色々と方法は有るよ。安易に教えられた魔法だけ使うから魔法文化が衰退したと思う、教えられた事だけ行えば劣化しかしないよ」
こういう考察は楽しい、相手が魔術師にしか成立しないのが残念だ。だが魔法文化の衰退って魔術師の秘匿癖が主な原因だと思うんだ。
弟子や子供に全てを継承しない、継承しようとしても全てを継承出来る人材を確保出来ない。人材を確保出来ないのは広く弟子をとらないから選択肢が狭い、選択肢を広げる事は知識の拡散だから秘匿癖の有る魔術師はしない。
堂々巡りで最初に戻る、故に魔法は衰退する。僕が魔導書を書いて魔術師ギルド本部に管理を委託したのも後継者の選抜だ、あの魔導書を理解し自分なりに改良出来る人材探しだから。
「厳しい意見だわ……私だって最近になって漸く考え始めた事なのに、リーンハルト兄様は……」
「リーンハルト様、ユーフィン殿が訪ねて来ました。お通しして宜しいでしょうか?」
む、ウェラー嬢が何か決意の籠もった顔で話していたのだが中断させられたな。少し不満顔だが仕方無い、また自分から言い出す迄は待つか。
しかし、ユーフィン殿も一日一回は顔を出すよな。仮初めの婚約者らしく既成事実を作る為だとは思うけど、周囲で少し噂になりつつある。
ザスキア公爵には伝えて有るから酷い噂話が広まる事は無いと思いたい、婚約は破棄するから双方ダメージは少ない方が良いんだ。
「ああ、通してくれ。ウェラー嬢、済まないが客人を同席させて良いかな?」
「魔力反応が有りますね、レベルは低そうですし制御も甘そうですが……リーンハルト兄様のお知り合いですか?」
魔力反応を感じたか、ユーフィン殿の魔力隠蔽技術は低いから魔術師ならば感知され易い。隠密行動は不向きだが、そもそも隠密行動などしない非戦闘員だからな。
制御の甘さまで分かるとは、ウェラー嬢の感知能力は中々だ。情報の収集は重要だから、この能力が高い事は何事も有利に働く。
ユリエル殿はウェラー嬢の教育を素晴らしいレベルで行っている、実子が有能な事は魔術師としては嬉しい。
「今回の結婚式に同行するメンバーだよ、彼女は空間創造のギフトを持っている運搬の要となるメンバーだ。でも本来の仕事は侍女だから本業の魔術師じゃない、僕等とは別物さ。
それとログフィールド伯爵の長女で、ローラン公爵の関係者でも有るから……」
「政治的配慮をしなさいって事ね?リーンハルト兄様も大変ね、私には堅苦しい王宮勤めは無理かもしれないわ」
おぃおぃ、ユリエル殿の後継者として宮廷魔術師を目指すんだろ?これ位で諦めたら他の魑魅魍魎(ちみもうりょう)共に太刀打ち出来ないぞ。
ウェラー嬢の課題は魔法よりも貴族としてのあり方や、王宮内での政争の仕方の方かもしれないな。
まぁ未だ未成年だし社交界へのデビューも済ませていない、これから学ぶ分野だよな。僕はすっ飛ばしたけど、本来は親族がしっかりと教え込む事なんだ……