古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第52話

 デオドラ男爵家に招かれた。

 ウィンディアを使者として親書を貰い送迎の馬車まで用意してくれたので断れない。

 だが屋敷に着いた途端、ボッカと呼ばれる戦士に襲撃された。本気で殺すつもりの一撃を食らった。

 覚えたての魔法障壁が無ければ腰から真っ二つになっていたぞ!

 文句を言いたいが僕にも秘密と言う負い目が有り、本来味方の筈のウィンディアとルーテシア嬢は期待出来ない状態だ。

 特にルーテシア嬢、僕達は初対面なので宜しく頼みます。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ボッカ、俺の客人に失礼な事はしてないな?」

 

「勿論です、父上」

 

 直立不動で受け答えしてるけど息子とは驚いた。

 貴族の嗜みとしてデオドラ男爵家の後継者の名前は知っているが、ボッカは知らないな……何男だ?

 僕を睨んで来たのは襲撃を内緒にしろって事か、全く我が儘だが言う訳にはいかないか。

 

「嘘をつくな、斬撃を交わす音を聞いたぞ。お前の剣の一撃を杖で凌いだのか?」

 

 デオドラ男爵は僕のカッカラを見て不思議そうな顔をする、戦士の一撃を魔術師が杖で受ける。

 僕のカッカラは金属製だから一応可能だと思うだろうか?

 

「いえ、魔法障壁で防ぎました」

 

 デオドラ男爵本人と次男以降の息子とじゃ、どちらを優先するかなど分かり切っている。

 

「ほぅ、ボッカの踏み込みから払う一撃は中々のスピードだが、それを弾く魔法障壁を展開出来るのか」

 

 流石はエムデン王国きっての武闘派だな、魔法には詠唱が必要な事を知っていて質問してるのだろう。

 とっさに魔法障壁で防いだが、馬鹿正直に教えるのはマズいな。

 普通は魔法障壁などレベル21程度では展開出来ない、多分だがレベル35以上だろう。

 転生により前世の魔力と経験を引き継いでいる僕だからこその技術だ。

 

「庭を歩いている時に前方に殺気を放つボッカ殿を見掛けた時に詠唱を始めてましたから……」

 

 苦しい言い訳だが、それなら対応可能な筈だ。

 ウィンディアが疑問に思っているみたいだが、一睨みで黙らせる。

 彼女には常時展開型の魔法障壁だと分かった筈だ。

 

「ボッカ、リーンハルト殿に詫びろ」

 

「はっ、いや、しかし……分かりました、客人無礼を許してくれ」

 

 胸を反らせて言われた、端から見れば詫びてないと思うかも知れない。でも人前で格下に詫びただけで驚きだ。

 貴族とはプライドが高いから人前で格下に頭を下げる事は無い。

 

「いえ、何とも思っていません」

 

 これで先程殺されそうになった件はチャラだ。

 身内とはいえ人前で謝罪して終わらせた手際の良さ、一族が脳筋ばかりで問題児も多いと聞くがデオドラ男爵の手腕により何とかなっているのだろうな。

 

「何だ、ルーテシア?惚けおって」

 

「はっ、はい。いえ別に……お父様、リーンハルト殿を客間にご案内しましょう」

 

「む、付いてこられよ。案内しよう」

 

 もうこの話はお終いとクルリと背を向けて大股で歩き出すデオドラ男爵を追い掛ける。

 僕を中心に左右に女性陣が歩くって変じゃないか?さり気なく並び順を変えようと位置をズラすのに……

 

「ウィンディア、ボッカ殿って?」

 

「デオドラ男爵様の六男です。側室のカーラ様の長男になります。私はルーテシア様の乳母の娘だった事でルーテシア様付きになってます」

 

 急によそよそしい敬語になったが、僕等の距離を離したいのだから対応は正解だ。

 

「側室って?」

 

「あれは私も断固断っているんだが、ボッカは手元に魔術師を置きたいんだ。他の兄弟達は魔術師を抱え込んでるから」

 

 他の兄弟へのコンプレックスか?見栄とプライドは家族間でもか……

 屋敷内に入る時にローブとカッカラを空間創造に収納し、腰に差していたロングソードを執事に渡す。

 屋敷に招かれた場合、武装解除は基本だ。武器を携帯するのは相手に対して安全面で信用してない事になる。

 

「ほぅ、空間創造とは珍しいギフトだな」

 

「有り難う御座います。冒険者として活動するには便利で助かります」

 

 貴族院に相続放棄申請をしたのは周知の事実、誤魔化しても意味が無い。

 ソファーに向かい合わせに座る、正面にデオドラ男爵とルーテシア嬢、隣にウィンディア。

 しかし、このソファーは実家のより高級だな、体が沈み込むぞ……

 だが何故デオドラ男爵はルーテシア嬢を同席させるんだ?その意味を計りかねる。

 

「固い挨拶は無しだ。親書に書いた通りに冒険者ギルドに指名依頼を出した。請けてくれて助かったぞ」

 

「はい、校長からも是非にと頼まれました。ですが親書に書いてあった僕とウィンディア嬢の件ですが……」

 

「すまんな、ウィンディアはリーンハルト殿の才能に嫉妬しておる。

ならば共に試練を乗り切り腕を研鑽し合うのが良いと思ってな。勿論、男女の関係になった場合は責任は取って貰うぞ」

 

 何を言ってるんだ、この人は?ウィンディアが僕の才能に嫉妬?そんな悩みを抱え込んでいたのか?

 思わず隣に座るウィンディアを見るが、何故か萎縮して……嗚呼、向かいに座るルーテシア嬢が睨んでるな。

 

「彼女も優秀な魔術師でしょう、比べる必要も無い位に……ウィンディア、君が悩んでいたなら言ってくれ。

手伝える事ならするが属性違いの僕等では魔法について教える事は出来ないが……」

 

「ほぉ?ウィンディア……リーンハルト殿と随分と仲が良いのね?」

 

 能面の様な顔でボソリと呟いたがマズい、デオドラ男爵が一瞬だが顔を顰めた……

 背中に冷たい汗が伝う、ウィンディアは良い、家来だし血の繋がりも無いから僕に与えても問題無い。

 逆に魔術師一人を抱え込めるなら上等だ。

 だが、ルーテシア嬢は駄目だ。貴族に取って血を分けた娘とは特別な意味を持つ。

 家と家の繋がりや有能(貴族限定)な人材の取り込み等、彼女達の結婚相手は家長が決める事だ。

 今は貴族とはいえ廃嫡予定の男に興味を持って良い訳じゃない。

 

「僕は……ウィンディアとは仲良くしたいと思ってましたから。

詳細は依頼書にも書いてありましたので仕事内容や期間、報酬については了解です。

では準備に掛からせて頂いて宜しいでしょうか?」

 

 隣のウィンディアが小さく呻いた後で真っ赤になり下を向いてしまったが、ルーテシア嬢には興味が無いアピールが出来るなら汚名を受けよう。

 デオドラ男爵のルーテシア嬢への溺愛っぷりは有名だ、下手に彼女に興味を持たれると物理的に僕の首が飛ぶ。

 

「ふむ、野心家では無いのか?それとも我が娘には魅力が無いと?」

 

 女性としては魅力的かも知れないが、リスキー過ぎるだろ!下手に貶すと、此方も物理的に首が飛ぶ……だから沈黙するしかない。

 

「リーンハルト君、準備……急ごう、早く」

 

 頬を赤く染めて袖口をクイクイを引っ張る彼女は可愛いのだが、ルーテシア嬢が怒るのは何故だ?

 僕は君の興味を引く様な事をしたか?他人の振りをする約束だろ?

 引っ張られるままソファーから立ち上がり、デオドラ男爵に挨拶を……

 

「ウィンディアは待ちきれない様だな。まぁ待て、デオドラ一族には困った悪癖が有ってな……腕試しがしたいのだ!」

 

「はい?」

 

「ウィンディア、リーンハルト殿を練武場へ案内してくれ。では俺も支度してくる」

 

 凄く嬉しそうに、少年の様な瞳でワクワクしながらルーテシア嬢を伴い部屋を出て行ったが……

 

「ウィンディア、流れ的にデオドラ男爵と戦うのかな?聞いてないぞ、僕は……」

 

「うん、ごめんなさい。あの顔をしたデオドラ男爵様は誰も止められないわ」

 

 アレと戦うのか?ウィンディアが同情と哀れみの籠もった目で僕を見ているのが辛い。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 案内された練武場は屋敷の中庭に有った、何故に中庭?普通は敷地の隅じゃないの?

 平らに均された剥き出しの地面、だが良く整地されている。

 屋敷の人間が殆ど集まっているんじゃないかな?

 貴族っぽい連中の他に執事さんやメイド、老若男女が集まっています。

 

「期待に満ちた目で無言で見られる事が辛い。これがデオドラ一族の悪癖なのか……」

 

 殆どの装飾を取り去った実用重視のフルプレートメイルを着込んだデオドラ男爵本人が既に練武場の中心に仁王立ちしています。

 僕は自作の固定化を掛け捲った革鎧を着込み腰に父上から頂いたロングソードを差し、右手にカッカラを握るが手に汗が酷い。

 

「ほぅ、割と様になってるな。リーンハルト殿は土属性の魔術師と聞く、全力で魔法を使って構わないぞ」

 

 凄い覇気だ……果たしてゴーレムナイトを召喚して勝てるのか?

 初めて自分との力量差を感じ取る事が出来る、デオドラ男爵は正真正銘の化け物だ!

 

 そして立ち回りが上手い、当主自らが名指しをして相手となれば他の一族連中は手出し出来ない。

 僕も手加減は失礼に当たり全力で挑まざるを得ないし周りも僕の実力を計る事が出来る。

 

「では遠慮は無しで行かせて貰います」

 

 デオドラ男爵との距離は直線で10m、ボッカは5mの距離から仕掛けて来た。

 当然ボッカより攻撃範囲は広いだろう、初手は守りに徹する為に魔力を練り魔法障壁を準備する。

 

「行くぞ!」

 

 10mの距離を一足飛びに詰めて上段からロングソードを振り下ろす!

 

「障壁よ!」

 

 用意していたから良かったが、無警戒だったら一撃で終わってたぞ。

 

「ほぅ、初手で殺れなかったのは久し振りだぞ!」

 

 拮抗していた力が押し負けているぞ。信じられない、生身だろ?

 

「ストーンブリット!」

 

 デオドラ男爵の腹目がけて30㎝大の岩を打ち込む!

 

「甘いわ!」

 

「ストーンブリット!」

 

 距離を稼ぐ為に連射する。三秒に一発、狙いは的の大きい胴体だ。流石のデオドラ男爵も岩を斬ればロングソードが傷むので体捌きで躱す。

 

「岩を撃ち込むだけじゃ俺は倒せないぞ!」

 

 距離が10m以上離れた所でストーンブリットを撃つのを止めた。デオドラ男爵の周りには躱された岩が20個以上転がっている。

 

「僕は土属性の魔術師、ゴーレム使いです。行きます、クリエイトゴーレム!」

 

 カッカラを回転させてからデオドラ男爵の方へ振り下ろす。宝輪がシャラシャラと澄んだ金属音を奏でる……

 

「何と?これがリーンハルト殿のゴーレムか……良く出来ているが青銅製では強度に難ありだな。俺は鋼鉄の鎧を断ち切る事が出来る!」

 

 デオドラ男爵を中心に円を描く様に六体のゴーレムポーンを槍装備で錬成する。

 更に十二体のゴーレムポーンを錬成して二重の円を組む。

 

「何と!だが数を頼んでも端から壊せば問題無し!」

 

 正面のゴーレムポーンを袈裟懸けで切り裂く。なる程、本当に金属を断ち切る事が出来るのか!

 

 内側のゴーレムの空いた穴は外側から補充し常にデオドラ男爵を輪の中心に。壊れたゴーレムは外側に移動して修理し補充する。

 

「何とも地味に隙の無い戦いだな、慣れを感じる」

 

 慣れか……この戦法は大型モンスターと戦って勝って来たんだ。

 内側のゴーレムポーンを右回りに、外側のゴーレムポーンを左回りに動かし撹乱させる。

 

「攻めろ!ゴーレムポーン!」

 

 スピード重視で槍を突き刺す、体捌きで躱すも足元に岩が有って動き辛いだろう。

 

「遠慮無しとは良くやる、だがな!」

 

 突き出された槍を片手で掴みゴーレムポーンごと持ち上げるだって?

 何という馬鹿力!そしてそのまま投げ付ける事で内側のゴーレムポーン三体が破壊された。

 素早く外側の三体が中に入り込み包囲陣を維持、今度は槍を掴まれたら直ぐに離す事で対応する。

 

「ふむ、冷静だな……ならば俺の本気を見せてやろう!」

 

 ロングソードを振り払う様にして一周させ、ゴーレムポーンの包囲網を広げる。

 構えたロングソードの刃に魔力が集まるのが分かる……あれは魔法剣か。

 刃が紅く輝き出した、アレなら青銅製ゴーレムなど紙の様に斬れるぞ。

 

「流石は武闘派の重鎮、デオドラ男爵!ならば一斉に攻め掛かるだけだ!」

 

「行くぞ!リーンハルトよ、受けてみろ」

 

 腕試しは最高潮に盛り上がった……

 


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