古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第520話

 バーリンゲン王国の第五王女オルフェイス様と、ウルム王国のシュトーム公爵の長男レンジュ様との結婚式に招かれた。

 結婚式の会場の有るバーリンゲン王国の王都に向かう途中で立ち寄る予定のモレロフの街の前で面白い歓待を受けた、宮廷魔術師クラスの魔力の完全解放による敵対的プレッシャー……

 殺気こそ込めてないが他国の王族相手にする事ではない、完全なる敵対行動ではないが誉められた事でもない。

 

 予測する目的としては牽制か、自己顕示欲による悪戯の線が濃厚だ。目の前には笑顔の固まったフローラ殿、気絶寸前の汗だくな太った中年男性。

 そしてスタッフを支えに何とか立って此方を睨む三十代の美男子、彼が魔力を放出していた問題の魔術師だ。そして中々の強さなのだろう、フローラ殿よりも魔力総量は多いが今は身に纏う魔力が乱れている。

 だが僕もロンメール様一行の警備責任者、簡単に引く訳にもいかずに全力で殺気を放ち彼の魔力放出を止めさせた。後は理由を聞くだけだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「久し振りですね、フローラ殿。中々楽しい出迎えですが、趣向を凝らしてくれたのは其方の方でしょうか?」

 

 知り合い程度だが面識の有るフローラ殿に原因を聞いてみる、此処での回答の内容によってはエムデン王国に引き返して宣戦布告だ。

 バーリンゲン王国が此方を煽れと命令したならば完全な敵対行動だ、周辺諸国にも親書を回し正々堂々とした理由で開戦を告げる。

 だが相手も、そこまで馬鹿じゃないだろう。この美男子の独断専行とかで謝罪し、御茶を濁して終わりかな?

 

「いえ、その……アレですわ。敵対行動とかではなくて、ですね」

 

 両手をバタバタと動かし慌てているのを見れば、やはりコイツの独断専行か。同僚だと思うが、予想外な馬鹿な行動に慌てて頭が回らないんだな。

 

「俺が勝手に、リーンハルト殿の力量を知りたくてやった。魔力の隠蔽など、褒められた行動じゃない」

 

 この言葉に半分感心した。責任は全て自分に有る、だが周囲への影響を考えられずに行動する思慮が足りないと認めた。

 個人的に仕出かした事だから、バーリンゲン王国に責任は追求出来ない。いや、出来る事は出来るが開戦理由としては未だ弱いかな。

 しかも僕にも責任が有る様な言い方をしてきた、魔力の完全隠蔽が褒められた行動じゃない?今回の悪戯の理由としては弱い。しどろもどろなフローラ殿も様子見な感じなのは、未だ考えが纏まらないのか僕の出方次第なのか?

 

「馬鹿ですか、貴方は?無駄に自分の力を誇示して悦に浸る稚拙な行動を国から宮廷魔術師の任務を与えられた僕がするとでも?そう思ったのなら最大級の侮辱と受け取りますよ、宮廷魔術師ならば駄犬みたいに無駄吠えはせずに結果で示せば良い事です」

 

「駄犬だと!き、貴様は俺を愚弄するのか?」

 

 意図的に煽ったのに簡単に釣られるなよな。友好国としての関係を維持したいならば、此処は非を認めて謝罪して終わりが正解だろうに……周囲を囲む兵士達も微妙な顔で貴方を見てますよ、一応の友好国を煽る事が不思議で不安だってね。

 自分から仕掛けて来て、煽られたら簡単に釣られて反発する。正当性は此方に有り、僕等は戦争になっても構わないんだぞ。玉虫色の外交を繰り返していたのに急に態度を硬化させたのは何故ってね。

 いや、それはバーリンゲン王国側の一部も同じ考えか?暗殺まで考えて用意している連中だ、多少の事は問題にならないと考えたならば……憎しみも有るし挑発も反発もする。

 

「愚弄?ならば腕比べでもしましょうか?生死を問わず、魔術師としての本懐を周囲に示す事が貴方には出来ますか?」

 

 敵国の宮廷魔術師を間引くか……敵意も煽れるし一石二鳥だな。僕だって前情報で暗殺されるって聞いてるんだ、優しい対応なんてしないぞ。

 当初の計画より大分変わるが修正は可能だ、早々に開戦した方が敵の対処も間に合わず有効だろうか?ならば……

 

「ペチェット殿の代わりに私が謝罪します!私達はエムデン王国の使節団の歓迎と護衛、案内役の為に来たのです」

 

 フローラ殿が割り込んで来た、案内役と護衛とか言ってるが監視役だろうな。勝手に動き回るな調べるなって事だろう、最悪の場合は王都までの最短進軍ルートが細かく知られる訳だし。

 だけど監視役は要らないな、饗応(きょうおう)役として彼等が僕やロンメール様の近くに居るのは不都合だ。しかもフローラ殿以外は敵意が有りそうだし……

 ん?そう言えば自己紹介すらしてないな。これは礼儀を失している、反省が必要だ。敵意に素直な敵意を返すのは普通、外交としては二流以下だぞ。

 

「改めて名乗らせて頂きます。僕はエムデン王国宮廷魔術師第二席、リーンハルト・ローゼンクロス・フォン・バーレイです」

 

 仕切り直しの意味を込めて貴族的礼節に則り一礼する。そして魔力の放出を止めた、先ずは相手の素性を知らねばならない。

 プレッシャーが無くなったので漸く余裕が出来たのだろう、跪いて深呼吸を繰り返していた太った中年男性が立ち上がった。

 待つ間に周囲を確認したが兵士達は戦闘態勢を取っていない、矢倉の上の弓兵も構えを解いている。城門周辺の歩兵達も同様に武器に手を掛けていない、国内ではエムデン王国は友好国扱いが徹底しているな。なのに宮廷魔術師っぽい奴が激昂し絡むから困惑しているのだろう。

 

「俺は、サルカフィー・バロックボーン・フォン・レオニード。バーリンゲン王国の大臣だ」

 

「ペチェット・グリズム・フォン・レーベルド。バーリンゲン王国宮廷魔術師第二席の任に就いている」

 

「フローラ・フォン・テュースです。バーリンゲン王国宮廷魔術師第八席の任に就いています」

 

 ほぅ?噂の仮初めの恋敵である、サルカフィー殿に早期に接触出来るとはな。しかし十代半ばのユーフィン殿に迫るのは、禿げて太った中年男性か……僕は嘘とは言え、コレを恋敵として争うのか?

 ペチェット殿の事は何となく理解した。同じ宮廷魔術師第二席だし、嫉妬や競争心でも生まれたのだろう。分かり易い男だな、多分だが火属性魔術師だろう。

 フローラ殿は疲労の色が濃い、彼女は僕の暗殺計画とは無関係だろう。殺す相手に親身な対応などしない、真面目で正直者っぽいし苦労を押し付けられ易いと思う。

 名乗った順番が力関係で序列かな?バーリンゲン王国は宮廷魔術師より大臣の方が地位が高いのか、それとも公爵の息子に遠慮しているのか?

 

「自己紹介も済んだので、我等をモレロフの街に入れて貰えますか?今日の滞在先のスメタナの街迄は未だ20㎞は有りそうですし時間が惜しい。それと案内や護衛は不要です、あからさまな敵意を向ける相手を信用しろと?」

 

 実際に無理だ、魔力をぶつけて来る相手を信用?馬鹿な、普通は排除するだろう。ロンメール様の近くになど居させられるか!

 此処から歩みの遅い我々が20㎞など移動出来ないし精々が半分くらいか?途中で野営になると考えれば、余計に彼等を受け入れる訳にはいかない。

 離れて監視するか、スッパリ諦めるかして欲しい。遠距離の監視ならば百歩譲って認めても良い、まぁ食い下がって来るだろうけど……

 

「それは出来かねる相談だ!我が国の領内を案内役も無しに通る事など許せる訳がない」

 

「招待状には案内役の事など書かれていないし、案内役が必ず必要などと前例も無い。我が国に来て貰った時は自由に領内を通行させた筈です、これは監視役みたいで我等を信用出来ないと言ってる様なものです。何か言いたい事が有ればどうぞ?」

 

 反論が有るなら言ってくれ、後から騒がれる方が面倒臭いし嫌なんだ。無理なら引き返す、正式に招待された国賓に対して文句を言うんだからな。

 それなりの対応をするつもりだが、彼等は僕を暗殺する為にも王都に誘い込まないと駄目な筈だよな?なのに追い返す勢いで無理難題を言ってくるのは何故だ?

 フローラ殿は慌てて、ペチェット殿は苦虫を纏めて噛み潰したみたいだ。サルカフィー殿は後方を気にしているのは、ユーフィン殿に会いたいとか?まさかな、任務中に色事は無いだろ?

 

「えっと、実は御恥ずかしい話ですが、領内で野盗の被害が出ていまして。大切な国賓である、ロンメール殿下には護衛が必要だと判断した次第です」

 

「それと領内の街で融通を利かせる為に、大臣である俺が同行する」

 

「宮廷魔術師第二席の俺が一緒ならば、賊など関係無いからな。安心して欲しい」

 

 大口を開けて笑い合う男二人を冷めた目で見詰める、フローラ殿に同情する。二人共に問題児だろう、しかしレオニード公爵の息子であるサルカフィー殿がバーリンゲン王国の要職に就いていたとは驚いた。

 前情報では無役で実家の手伝いだったのに、割と重要な役職の大臣とは結構な権限を持ってしまったな。これはユーフィン殿も公爵の息子からの求婚に、大臣からって断る相手のステータスが増えたから大変だ。

 いや、大変なのは僕か?公爵の息子で大臣、侯爵扱いの宮廷魔術師第二席。うん、未だ僕の方が上だから大丈夫かな……

 

「折角の御厚意ですが無用です。野盗や亡国の輩が来ようと、問題は全く有りません。問答無用で殲滅します、それが出来るメンバーで来ていますから大丈夫なのです」

 

 バーリンゲン王国の手を借りずとも大丈夫です、我が国を見くびらないで下さい。そう断りを入れた、男二人は亡国の言葉に反応したのが気になる。

 僕の暗殺を妖狼族に依頼した奴ってだれだろうか?単純に考えれば旧コトプス帝国に繋がる連中だが、第五王女のオルフェイス様を嫁がせるとなれば国王の承認が必要。

 バーリンゲン王国とウルム王国、旧コトプス帝国の残党が完全に組んでるとは思えない。バーリンゲン王国もウルム王国も一枚岩じゃない、旧コトプス帝国の奴等に反対する勢力も有るからな。

 

 新郎であるウルム王国のシュトーム公爵の長男レンジュ様だが、婚姻後はバーリンゲン王国に留まり王族の一翼として働くそうだ。

 つまりウルム王国と旧コトプス帝国の関係者が、バーリンゲン王国の王族となり滞在する。工作し放題だけどさ、周辺諸国の警戒感もMAXだよ。

 だからアウレール王は危険視して戦争に踏み切った。蝙蝠(こうもり)外交を徹底出来無かったから、方針の舵取りを失敗したから滅ぶんだ。文句はバーリンゲン王国に言ってくれ。

 

「なっ?それは外交問題に発展する言葉ですぞ!」

 

「全くだ!善意を悪意で返すなど、言語道断だ!」

 

 善意?押し付けの迷惑行為が善意?

 

 これだから言葉の通じない連中の相手は嫌なんだ、正論で返せば逆ギレする。騒げば要求が通ると思っている、本気で思ってるから呆れを通り越して憐れみすら浮かぶよ。

 だが逆ギレされても挑発されても断る。少し早いが喧嘩を売って早々に引き上げても良いな、原因が大臣と宮廷魔術師なら何とかなる。

 

「悪意か……言い掛かりで僕を愚弄したな!良いだろう、ならば」

 

「ペチェット殿もサルカフィー殿も王都へ戻りなさい!貴方達は不要です、これ以上馬鹿な発言をするなら叩き潰しますよ」

 

 戦争だって言いたかったのだが、フローラ殿に言葉を遮られてしまった。しかも凄い剣幕だ、サルカフィー殿は真っ青になり、ペチェット殿は真っ赤になった。

 何故ならフローラ殿は魔力に殺気を込めて二人を威圧している、これは魔術師同士だと喧嘩を売ってる行為だ。僕と同じくね……

 

「フローラ!お前、席次が下の癖に俺に指図をするのか?」

 

「俺は大臣だぞ!その俺に命令するなど越権行為も甚だしいぞ」

 

 成り行きを見守る、面白い状況になって来たな。フローラ殿だけが、僕等を王都まで招き入れようとしている。歓迎からなのか、敵意を隠して暗殺の罠に引き込むのか?

 性格的には前者だな、一貫して僕等をもてなそうとしているが二人が邪魔をして苦労している。流石に開戦一歩手前の暴挙にキレたかな。

 

「お黙りなさい!ペチェット殿、この距離で私と戦って勝てると?守りの居ない貴方など私の敵ではないわ。

それに私は、ミッテルト王女から特命を受けています。勝手に付いて来た貴方達とは違います。早く立ち去りなさい!」

 

 む、ミッテルト王女だと?確か未婚の三人王女の真ん中だったっけ?名前位しか記憶にないのだが、国王じゃなく王女の特命?

 何も言えずに立ち去る二人の男の背中を見ても分かる、ミッテルト王女の権力は中々大きいのだろう。だが王女が何故、僕等を気にする?

 これは厄介事になりそうだな。バーリンゲン王国も一枚岩じゃないとは思っていたが、王位継承権の低いミッテルト王女からの指示で動く宮廷魔術師第八席殿か……

 

「馬鹿二人は追い返しました。ようこそ、バーリンゲン王国へ。歓迎致しますわ」

 

 見惚れる笑顔を浮かべてから深々と頭を下げた、フローラ殿の評価と警戒を一段上げる。流れ的に彼女の同行は断れないだろう。さて、どうするかな……

 




日刊ランキング十位、有難う御座います。

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