古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第55話

 拠点を造り食事を終えてビックビーを誘き寄せる為のゴブリン狩りを行う。

 因みに拠点は錬金で梯子を消した、上り下りは出来ないだろう。

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 ロングソードとラウンドシールドを装備させた青銅製ゴーレムを六体錬成する。

 今回は索敵役が居ないから歩き回って探すしかないので効率が悪い、エレさんのスキル鷹の目って凄い便利だな。

 

「リーンハルト君、前方80mに何か居るわ。風が不自然に動いてる」

 

「そうか、風属性の魔法には大気の流れや揺らぎを感知する魔法が有ったね」

 

 80m先、つまり感知範囲は半径80m位かな。大体エレさんの半分か……

 

「うん、微弱な風を起こして動いてる物を感知するんだけど、数や大きさとかは分からないのよ」

 

「問題無い、警戒しながら進んでみよう」

 

 ゴーレムポーンを四体先行させ後方警戒に二体を配置する、ウィンディアの感知魔法は相手が動いてないと分からないから待ち伏せ対応は厳しい。

 30m程進むとゴブリンの集団が居た、その数八匹か……小汚い革鎧を着て錆びて欠けたショートソードやダガーを装備した一団だ。

 

「ゴーレムポーン、行け!」

 

 四体のゴーレムポーンが走り出す!此方に気付いたゴブリン達が威嚇しながら武器を構えた。

 だが初撃でゴブリン四体は切り伏せられ、残りが僕等に向かって来る前に倒せた、大分ゴーレムの制御にも慣れた。

 デオドラ男爵戦では最大十八体を制御したが、もう少し増やしても大丈夫だな。

 

「相変わらず強いわね、リーンハルト君のゴーレムは……」

 

「うん、有り難う。討伐部位を採取したら次を探そう。嫌な言い方だが血の匂いを捲き散らかさないとビックビーは寄ってこない」

 

 足元に転がるゴブリン達は深い斬り傷によって血だらけだ、周囲にむせる様な血の匂いが漂う……

 

「分かったわ……次は……近いわ。向こうの50m先に何か居るわよ」

 

 50m先か……僕では木々に邪魔されて見えないが近いぞ。

 

「よし、討伐部位は採取したし行こう」

 

 ゴブリン達の右耳を切り取り空間創造にしまう。ゴーレムポーンを再配置して彼女の指示に従い進み始める、意外と順調じゃないか!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「大分倒したわね」

 

 ウィンディアが周りを見渡して呟いた、周囲にはゴーレムポーンにより斬り殺されたゴブリンが倒れている。

 その討伐部位である右耳を切り取って空間創造に収納する。

 

「そうだな、合計62匹だから二人分のポイントは稼いだね。そろそろビックビーが現れても良いだろう」

 

 エレさんよりは効率は下がったがウィンディアの索敵も中々だ、後は血の匂いに釣られたビックビーを待つばかりかな。

 動いて汗をかいた所為か少し肌寒くなってきた。タオルで汗を拭き水筒から水を飲んで喉を潤す……

 ウィンディアが手を差し出してきたので黙って水筒を渡すが、これって一応間接キスか?気にはしないが。

 

 一息ついて落ち着いてから又感知魔法に集中する彼女を見て思う、真面目にしていれば美少女なのに喋るとイメージが変わるんだよな……

 

「リーンハルト君、コッチから反応有りだけど……今迄で一番反応が大きいわ」

 

 彼女は数の特定は無理だと言ったが大まかな反応の大きさは分かる。

 反応が大きい……これまでで一番多く遭遇したゴブリンは八匹、それよりも多いとなると十匹以上か?

 

「行ってみよう。念の為にゴーレムポーンは増やして八体にするよ」

 

 飛び道具を装備していたり広範囲に布陣していてバックアタックとかされたら対応出来ない。

 魔術師であるウィンディアが接近戦に持ち込まれて対応出来るか分からないから安全策で行こう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近付いていくと金属を打ち合う音や怒声が聞こえる、どうやら他のパーティがゴブリン達と戦っているのか……

 横槍はマナー違反なので立ち去ろうとしたが、怒声の内容が良くない。

 

「おい、大丈夫か?」「駄目、抑えきれない!」「もう少し援護を……」

 

 マズいな、劣勢か?男女混成のパーティだが初心者クラスか……戦士職四人に盗賊職一人、どうやらゴブリン討伐と素材採取に来た連中だろう。

 

「リーンハルト君、加勢しましょう」

 

「分かった、一応声を掛けて確認するぞ。ウィンディアは彼等の守りに、僕がゴーレムポーンでゴブリンを倒す」

 

 円を描く様に包囲陣を敷いている、この十二匹からなるゴブリン達は連携も取れていて厄介だ。

 ゴーレムポーン六体を突撃させて包囲陣の一角を崩し彼等に接近する。ゴブリン四体を倒す事が出来た、残り八匹!

 

 

「加勢するが大丈夫か?」

 

 横槍はタブーだからな、一応確認はしなければ……

 

「頼む、もう限界だ……」

 

「ゴーレム?敵じゃないの?助かった……」

 

 遠巻きに威嚇する残りのゴブリン達だが、ハンドアックスを投げてきやがった。

 ウィンディアの守りに付けていたゴーレムポーンを前に動かして防御、他の連中もゴーレムポーンに守らせる。

 

「飛び道具で弱い者から攻めるとは嫌らしい程に戦い慣れしてるぞ!

だが……ストーンブリット。ウィンディア、逃がすと厄介だ!」

 

「分かったわ、ウィンドカッター!」

 

 手加減無しの30㎝の岩の弾丸を撃ち出し残り八匹を倒していく。所詮はゴブリン、油断しなければ負ける事は無い。

 ウィンディアの風の刃がゴブリンの身体を切り刻んでいく、彼女の風の刃は威力はソコソコだが速くて目に見えないから厄介だ。

 ボス格の奴は他のゴブリン達よりも二回り程大きく口の右側に裂傷が有る。

 装備品も他よりも良いし、もしかしたら名の有る個体かも知れない。

 稀に種の限界までレベルを上げた個体が居るらしい、それが『名有り』の連中だ。たしかギルドの掲示板にも何体か居たな……

 

「そんな……ゴーレム八体に魔術師が二人……反則だろ……子供に負けた……助けられたのか」

 

 目の前の十二匹を倒した後、念の為に周囲を警戒するが残りは居ないみたいだ。

 何故か助けたパーティの男がブツブツと言っている台詞に胸が痛む、自分より年下に助けられてはプライドがズタズタか……

 他の連中の様子をそれとなく見る、命が助かって気が抜けた様にしているか特に嫌悪感は無い。

 命を助けたのにこんな事を考えるって嫌だな、相手の嫉妬の感情まで気を遣うなんて……

 

「怪我は無いですか?」

 

 彼等と向き合う様に移動する。隣にはウィンディア、自分の周囲にゴーレムポーンを配置。悪いとは思うが、もしもの逆ギレに備える。

 

「ああ、満身創痍だけど深くはない。皆は大丈夫か?」

 

 リーダーと思われる青年が他のパーティメンバーに声を掛けて怪我の確認をする……大丈夫みたいだな。

 パッと見は致命的な怪我をした人は居ないかな?

 一番酷いのはリーダーみたいだが、パーティの盾として頑張ったんだろう。

 彼は左腕を骨折しているみたいだ、ウッドシールドも破損してるし受け損ねたか?

 ゴブリンは武器は何でも使うからメイスや棍棒とかの鈍器でヤラれたのかも知れない。

 戦士職の女性が鞄からポーションを取り出してリーダーに飲ませている、手を貸しながら飲ませている姿は恋人のソレかな。

 二本飲ませて漸く痛みが引いたみたいだが、完治には至ってないので添え木をして腕を固定している。

 僕も冒険者養成学校で学んだ応急措置だ。

 

「助けて貰ったのに名乗らず待たせてすまない。改めて有り難う、助かったよ。僕等は『ザルツの銀狐』で、僕はリーダーのシルバーだ」

 

 そう言って右腕を差し出してきたので握り返して自己紹介をする。

 

「僕は『ブレイクフリー』のリーダーでリーンハルト。彼女はウィンディアです」

 

「ブレイクフリーって最年少でバンク攻略中のか?なる程、確かにゴーレム使いと聞いてるがメンバーは魔術師と僧侶の二人連れじゃなかったか?」

 

 知名度の広がりが早くないか?未だ活動を開始して一ヶ月も経ってないのに、知ってる冒険者が多いぞ。

 

「最近活動を開始したのに御存知なんですね?」

 

 探りを入れてみるが、特に表情に変化は無い。シルバー以外の連中にも変化は無いな……

 

「酒場での話のネタとして最近話題が多いぜ。噂は噂、魔術師二人とは思わなかったよ」

 

「うふふ、私とは別に僧侶のイルメラちゃんが居るのよ。今日は留守番なの」

 

 ちょ、駄目だって。そんな自慢話は駄目だ!只でさえ不足気味な魔術師と僧侶だけのパーティとか笑えないぞ。

 シルバー以外の連中も顔が引き吊っているし……

 

「ウィンディアは『ブレイクフリー』の正式メンバーじゃない。

デオドラ男爵からの指名依頼を請けるのにあたり監視役としての臨時メンバーだ。ウィンディアも誤解を受ける様な言い方は……おい、聞いてるのか?」

 

 余所見をするな!君の不用意な発言でだな……

 

「リーンハルト君、本命が来たみたい。小さくて早いのがコッチに向かってくるわ、これは……」

 

「漸くか、今回は随分時間が掛かったな」

 

 漸くビックビーの縄張りの中でゴブリン達を倒したのか、奴等の感知範囲に入り込んだのかは不明だが探査役が近付いて来る……

 

「シルバーさん」

 

「何だ?何が近付いて来るんだ?」

 

 僕等の会話に不安を募らせている。全滅しかけたんだ、また何かが来るとか言われたら不安にもなるだろう。

 

「この場から少し離れて下さい。ビックビーの探査役が来ます。僕等はビックビー討伐に来たので探査役を追って巣の位置を特定したいんです」

 

 ビックビーの習性からして探査役は餌を見付けると食料調達役を呼びに行く。

 奴等は何かしらの方法で意志の疎通をしている、鳴き声なのか仕草なのかは分からないが……

 

「折角のゴブリンの討伐部位を取らないのか?」

 

 話の流れ的に一緒にゴブリン達から離れた茂みの影に隠れる。暫く待つと二匹のビックビーが血の匂いに誘われてフラフラと飛んで来た。

 

「来たな……二匹、探査役か……」

 

 ゴブリン達の死体の上に乗って……少し噛ってるな、食べ物か確認しているのか?

 

「なぁ、討伐部位も切り取らずに虫の餌って勿体なくないか?」

 

 『名有り』の個体を餌にするのは勿体ないってか?だがゴブリン程度の『名有り』の報酬は……そんなに高くは無かったと思う。

 

「ああ、食料調達役を呼びに飛んで行ってしまう。僕等はビックビーを追うんでゴブリン達の討伐部位は譲ります。

でも死体は残していって下さいね、では!」

 

 奴等は巣まで戻るか途中で合流するか分からないから後を着ける。

 巣まで戻るなら手間も減るが途中で合流されたらゴブリン達を肉団子にして運ぶのを待たないと駄目だ……

 ビックビーに気付かれない様に慎重に追い始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「クソッ、ゴブリン程度は要らないってか?」

 

 ビックビー討伐なんてDランク以上が複数で挑むレベルだ、僕等じゃ全滅だ。

 

「彼等は彼等、私達は私達だよ、シルバー。ゴブリン十二体で全員がEランクになれるだけのポイントが貯まったよ。

それに『口裂け』は名有りだから首を持って行けば報酬が増えるわ」

 

「そうだよ、コイツ等何組ものパーティを倒してるから装備品も良い。回収して手入れをすれば売れるし予備の武器にしても良いじゃんか。今回は『ブレイクフリー』に感謝だな」

 

 マリー、パッチ……確かに一年近く掛かって漸く人数分のランクアップポイントが貯まった。

 

「だけど……悔しくないか?僕等だって頑張って……」

 

「彼等だって頑張っているのよ。確かに魔術師は数が少ないしパーティに居れば便利だけど……

才能だけじゃ生きていけないのが冒険者でしょ?彼等だって努力してると思うわ、私達以上にね。

だから卑屈にならないで、醜い嫉妬はしないで……」

 

「マリー……」

 

「さぁ早く武器と討伐部位を回収して帰りましょう。急いで、ビックビーが戻ってくる前に!」

 

 そうだな、自分と比べて醜い感情に捕われるとは余計に惨めじゃないか!

 

 有り難う。気が楽になったよ、マリー……

 


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