古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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本日から4日連続で連載4周年記念挿話を始めます。
主人公以外の視点でのお話で、実験的な意味合いも含みます。
長いもので、もう4年も連載を続けさせて頂き、読者の方々には感謝しています。
有難う御座います。来年には完結まで突き進めそうです。


連載4周年記念①

 少し前迄は周囲から腫れ物の様に扱われていたわ、私自身も尖っていたから。尊敬出来る魔術師は御父様だけ、他の有象無象は話すだけでも嫌だったわ。

 特に尊敬する御父様を貶したマグネグロは、私が倒す予定だった。噴火?笑わせるわ、精々が花火でしょ?万年二位だけど、今の私では勝てない相手だとは分かっていたわ。

 有利な条件で罠に嵌めれば負けない、でも卑怯な手段は使わずに正々堂々と負かせたかった。負かせて御父様を馬鹿にした事を謝罪させたかったのに……

 

 私と大して違わない年齢の少年魔術師に、良い様に弄ばれて殺されたと聞いた時に、私の中の何かが崩れ落ちる音を聞いたわ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ウェラーよ。お前また、フレイナルを麻痺させて放置したな?」

 

「だって、フレイナル兄様は弱いんだもの。アレで宮廷魔術師とか本当に務まるのかしら?無理じゃないかな?」

 

 新しく宮廷魔術師に任命されたのは三人、御父様とも親しく付き合いのある、アンドレアル様の息子フレイナル兄様も宮廷魔術師の末席に任命されたわ。

 その一つ上がビアレス様、だけど私の獲物を奪った男は第七席からリッパー様とマグネグロを破り短期間で第二席になった。私の知らない内に異例の大出世、大好きな御父様の席次を抜いたのも気に入らない。

 苛つく、なのに御父様は当然の結果みたいに落ち着いているわ。私の知らない内に友好的な関係になっている、娘の気持ちが分からないのかしら?

 

「ウェラーよ。お前も王家主催の舞踏会で社交界デビューだ、エスコートはリーンハルト殿に頼んだ。土属性魔術師の最高峰だ、嬉しいだろ?」

 

 両手を脇の下に入れて持ち上げて顔が同じ高さに来る様に持ち上げてくれる。私は子供っぽいとは思うけど大好き、前にフレイナル兄様が高い高いとかからかって来た時は躊躇無く無味無臭の麻痺毒をお見舞いしたわ。

 私の無味無臭の麻痺毒は、御父様にも通用する。でも少し威力が弱い、秘匿性と即効性に重きを置いたから。もっと改良したいけど難しい、独学ではもう限界かな?

 

「リーンハルト様ですか?でも私は舞踏会には行きたく有りません、断って下さい」

 

「駄目だ、未だ未成年だが王家主催の舞踏会に参加出来る事は誇らしい事なのだ。勿論だが、リーンハルト殿には不埒な真似はしない様に良く言い含めておくから安心しなさい」

 

 違うの、御父様。私は私の獲物を奪ったリーンハルト様が嫌いなの!何故嫌いな相手にエスコートされなきゃ駄目なの?何故御父様は私の気持ちが分からないの?

 リーンハルト様は私の獲物を奪った憎い相手、つまり私の次の獲物はリーンハルト様なのよ。絶対に負かせてやるわ、そして御父様の方が強いと認めさせてあげるのよ。

 そうだわ、舞踏会に行く為に着飾っている筈だから泥だらけにしてあげる。パートナーが不参加なら、私も舞踏会に行かなくても済むナイスアイデアね!

 

「分かりました、御父様。舞踏会に参加致します」

 

「そうか、分かってくれたか!大丈夫、リーンハルト殿ならウェラーに恥を掻かせない、楽しんで来なさい。お前もエスコートの相手として望んでいると言っておくぞ」

 

 はい、御父様って笑顔で返事をすればそのまま抱き締めてくれる。その後に膝の上に乗せて大きな掌で頭を撫でてくれたわ。繊細で優しく髪を梳く様に撫でてくれる。御父様の膝の上が、私は一番好きなの。

 でも私が王家主催の舞踏会のエスコートの相手に、リーンハルト様を望んでいるって言う意味が有るのかしら?親のお仕着せじゃなくて、愛娘が望んでいるぞって様式にしたいのね。

 未だ子供の私に言い寄ってくる有象無象の連中への牽制かしら?御父様の権力と財力を引き継ぎたい下心満載の連中の相手は本当に嫌なの。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 舞踏会当日、リーンハルト様が我が家に私を迎えに来る事になったわ。同僚のビアレス様と競って難攻不落のハイゼルン砦を攻略するらしいわ、既に公爵四家を味方に付けたとか。

 御父様は問題無くハイゼルン砦を落とせると考えているらしいけど、良くて善戦しましたじゃないかしら?流石に二千人規模が籠もる要塞の攻略は無理ね。

 失敗すれば降格も有り得る大問題らしいけど、本人は呑気に魔法迷宮バンクの攻略とかもしている。失脚するのは私が貴方を倒してからにして欲しいわ。

 

 そして本人との対面、お互い魔力探査を仕掛けて分かったのだけれど……私と二歳しか離れてない筈なのに見事に制御された魔力を身に纏っているわね。

 私では無理、流石は宿敵マグネグロを倒しただけの事は有るわね。少しだけ見直してあげる、いや評価を上げてあげるかしら?

 でも私が時間を掛けて念入りに魔力を浸透させた地面、その上に乗っている石畳に乗れば沈むわよ。泥だらけになれば舞踏会になど行けない、私の勝ちだわ。

 

「わざわざ悪いな、リーンハルト殿。少し屋敷内で寛いでくれ」

 

 珍しく御父様が楽しそうに歓待している、何時もの余所行きの笑みじゃないわ。息子程の年の離れた上司なのに、何故そんなに親しげなのかしら?

 でもヤル事は変わらないわ、私はリーンハルト様を泥沼に沈める。年下の罠に嵌まったとなれば、宮廷魔術師第二席様はどんな顔をするかしら?

 私の獲物を奪った罰よ、悪いとは思うけど舞踏会の参加は諦めてね。さぁ早く私の仕掛けた罠に入りなさい、念入りに沈めてあげるから……

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様。どうぞ、中へ」

 

 さぁさぁ、早く前に進んでよ。その笑顔がどう変わるのかしら?フレイナル兄様みたいに諦めの顔?それとも怒り狂うの?

 年下の私に対して大人げない事をするのは、紳士としてどうなのかしら?あれ、楽しくなってきちゃった。私って悪い女なのかしら?

 

「お招き頂き有り難う御座います、ユリエル様。初めまして、ウェラー様」

 

 何故か石畳の前で立ち止まる、警戒しているのかしら?罠に引き込む為に笑顔を浮かべて、リーンハルト様に声を掛ける。屋敷で少し休んで貰う流れだから、私も余所行きの声で誘ってみる。

 僅かに考える素振りをした後で笑顔を浮かべて歩きだしたわ、やったわって何故に無事?地面に浸透させた魔力に乱れは無い、二歩目で疑問に思い、三歩目で失敗を悟った。

 石畳に干渉して一本の橋に変えたんだ、私の浸透させた魔力には一切干渉せず気付かれない様に石畳にだけ魔力を浸透させた。この私が全く気付かないなんて嘘よ、何かの間違いよ!

 

「土属性魔術師の僕に仕掛けるなら空でも飛ばないと無理だよ、大地の上で僕に勝てるとは思わない事だ」

 

 一瞬だけ呆けてしまう。不覚にも格好良いと見とれてしまった、なんて自信家なのだろう。大地の上で僕に勝てるとは思わないって、実質的に最強宣言よ。

 飛べる人間なんて居ない、空を飛ぶモンスターは全て強力で危険な連中。ワイバーンに蒼烏、私だって勝てるとは言い切れない。だって相性が悪いんだもん。

 何なの、この人は!何なの、この自信は!ふざけないでよ、私なんて相手にすらならないって事なの?

 

「おい、ウェラー。お前また同じ悪戯をしたな」

 

 頭に凄い衝撃、呆けて警戒がおざなりだったので、御父様の拳骨をモロに受けてしまった。目の前に火花が散る程の衝撃と痛み、悪い事をした自覚は有るけど愛娘に拳骨を落とす父親ってどうなの?

 

「でも御父様、リーンハルト様は私の獲物を横取りしたのよ!」

 

 私の目標を奪ったの!御父様を貶したマグネグロに制裁を加えるのは私だったのよ!

 

「横取りじゃない、お前ではマグネグロには勝てなかった。自分と相手の技量の差も分からないのか!」

 

 その言葉に反論する事が出来なくなる。私がマグネグロに未だ敵わない事は知ってる、でも時間が足りなかっただけなのよ。後三年、いや二年有れば私はマグネグロを超えられた。

 我が儘で八つ当たりな自覚は有るけど、痛みで転げ回わりながら反撃の仕込みをする。未だ負けてないわ、私は負けない、負ける訳にはいかないの!

 油断を誘う情け無い行動だけど構わないわ、要は最後に勝てれば良いのよ。ゆっくりと、リーンハルト様の周囲の地面に自分の魔力を浸透させる。後少しで……

 

「不意を突いての泥沼化だけど支配力は僕の方が上だね、まだまだ精進が足りないよ!」

 

 一瞬?一瞬で魔力の干渉を書き換えられたわ。馬鹿な、不可能よ。幾らなんでも私の念入りに浸透させた魔力を一瞬で書き換えるなんて、御父様でも不可能だったのよ!

 

「全く紳士としてあるまじき対応ですわ、レディに対して酷すぎます」

 

 少しは手加減しなさいよ!その何て事はないみたいな顔がムカつきますわ、今の私では勝てない。その差が理解出来無い、底が見えない。相手の力量が分からない、何故よ何故なのよ!

 

「淑女は痛みで転げ回らないよ。無色透明か、麻痺毒としては及第点だが秘匿性に重きをおいた故に即効性もなく威力が低いかな」

 

 その言葉は私が懸念していた事、それを正確に指摘された事が恥ずかしくて捨て台詞を吐いて逃げ出してしまった。本当に悔しい、自室のベッドに顔を押し付けて声を殺して泣いてしまったわ。

 それから半月後、リーンハルト様が単独でハイゼルン砦を攻略。敵の将軍二人と二千人の敵兵を一人で倒し、ウルム王国の誇るジウ大将軍と五千人の配下に一歩も引かず更に千人以上を倒したと聞いた。

 

 私は自分が井の中の蛙だったと自覚した。いえ、させられたわ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 暫くはリーンハルト様と会う事はなかった。ハイゼルン砦に向かう御父様を訪ねて王宮に行った時くらい、私と御父様を引き離した遠因にチクリと嫌みを言っただけ。

 御父様は自分が不在の時の後見人をリーンハルト様に頼んでいた。私に群がる有象無象の連中の対処、要はお目付役らしい。でも無駄よ、私は御父様が不在の時は家に引き籠もっているから。

 甘かった、社交界が大好きな御母様の存在を忘れていたわ。御母様は舞踏会や音楽会、お茶会とか華やかな催しが大好きだったわ。御父様が不在だから舞踏会には呼ばれないけど、私的な音楽会やお茶会には良く参加をする。

 

 当然だけど私も三回に一回位は強制参加、御母様曰わく今から同世代の男女と縁を作っておかないと駄目らしい。女の子は友人として、友好関係の広さはそれだけで力になるらしい。

 情報収集と伝達?女性には女性だけのネットワークが有り、それを疎かにすると悪評を広められたり爪弾きにされたりする。でも既に私の悪評は広まっているから無意味じゃないかな?

 男の子は未来の旦那様として今から能力や性格を見極めて唾を付けておくらしいわ。私は将来的には宮廷魔術師を目指しているから、男の子からの唾付けの方が多い。

 実家は権力と財力が有り私自身は御父様の後継者、宮廷魔術師になると思われている稼げる嫁。爵位が無く出仕も望めない連中からしたら、多少のお転婆も許容範囲内らしい。

 

「ウェラー様、僕と季節の花を見に庭園に行きましょう!我が家の庭園は自慢なのです」

 

「いえ、結構です」

 

「ウェラー様、今話題のオペラの原作本を持って来ました。彼方で二人で一緒に読みませんか?」

 

「特に興味有りません」

 

 今も御母様に強制的に、ロペック子爵のお茶会に参加させられた。ロペック子爵の子弟や同じく招待された子供連中から盛んに誘われる、でも精神年齢が幼く話しても退屈。

 同い年から上は十七歳まで、既に成人している連中も多いけど実家に寄生し働いていない。遊ぶ事にだけ詳しい、それに視線が嫌らしい、最低。こんな連中が将来の伴侶候補なの?

 私は魔術師、なのに同じ魔術師が居ないのって変じゃない?私の子供も宮廷魔術師を目指さないと駄目、我が家は魔術師の大家の筈。血を薄めてどうするの?

 

「ウェラーさん、良ければ僕と二人で……」

 

「おい、抜け駆けするなよな!最初に話していたのは僕達だぞ」

 

「ふざけるな!僕の御父様はバニシード公爵の縁者、遠慮するのはお前達の方だろ」

 

「遠縁過ぎる関係じゃなかったかな?母方の姉妹の旦那が、バニシード公爵の親戚だろ?」

 

「それにバニシード公爵は没落一直線じゃないか!僕の父上の従兄は、ローラン公爵の親族と結婚したんだぞ」

 

 良く分からない理由で喧嘩を始めたけど口だけ、それも自分の親戚や両親がどうだこうだと下らない。自分の力や魅力で語って欲しいわ、全然楽しくも嬉しくもない。

 モテモテとか大人気とも違う。彼等は私を見ていない、私を通して御父様を見ている失礼な連中。魔術師は総じて早熟、私の興味を引くだけの相手は……

 ち、違うわ!年齢が近くて同じ魔術師で爵位が有って働いている相手なんて一人しか知らないからよ、だから選択肢が変だっただけ!断じて、リーンハルト様の方が良いとか思ってないわ。

 

 でもその条件に私よりも優秀な魔術師を付けると、他の候補者なんていないわね。フレイナル兄様は失格、私より弱いし属性も違う。

 内緒にしているみたいだけど、リーンハルト様に負けてから少しはマシになった。御父様が教えてくれたけど、アンドレアル様と戦っても勝てると教えてくれた。

 悔しい、差が開きすぎて自分との実力差が全く分からない。本人は新しい王命を受けて、来週にでもデスバレーでドラゴン討伐に向かうらしいし……

 

「ウェラー様は、リーンハルト様と親しいのでしょうか?」

 

「ウェラー様の後見人の、保護者の一人と聞きましたわ」

 

「羨ましいですわ!是非とも、リーンハルト様と一緒に我が家のお茶会に参加して下さいませ」

 

 今度は同世代の女の子達に絡まれたわ。集まれば異性の話題しか無い、実家の都合で嫁がされるから少しでも自分の好みの相手の情報を欲しがる猛禽類みたいな連中。

 外面は良いが同性だけの集まりの時には本性全開、欲望塗れで嫌になる。私は御父様が拒んでいるけど、既にお見合いを経験したり婚約者が居る子も……

 私達には複数の婚約者も当たり前、その候補者が頑張って何とか結婚まで持ち込まなければならない。実家の思惑により一回り以上年上の相手もザラだわ、幼女愛好家の変態共め!

 

「保護者と言っても、困った時に対処してくれるだけで頻繁に会っても居ませんわ。御父様の意向に添わない相手に対して、適切な処理をしてくれる約束なのですわ」

 

 笑顔を貼り付けて牽制する。言葉使いも普段と違うから何か変だし、自分でも気持ち悪い。でもこの牽制により、此方を好色な目で見ていた連中が離れていく。

 凄い虫除け効果だわ。付きっ切りで対処する訳じゃないのに、その威光だけで不純な相手が私から逃げる様に居なくなる。普段は優しいのに、敵に対しては一切の慈悲が無い。

 敵対する連中は皆殺し、でも捕らわれた女性達や嫌がる結婚を押し付けられた村娘は無償で救う。敵味方の線引きが厳格過ぎて、敵対する事を躊躇させる効果は高い。

 

「まぁ?それは素晴らしいですわ」

 

「流石は英雄様です。その英雄様の庇護下に居る、ウェラー様が羨ましいですわ」

 

「本当に羨ましいです。今度お友達の私達の事をリーンハルト様にもお伝えして下さい、お願いしますわ」

 

「そうだわ!リーンハルト様と私の屋敷に御招待します。両親も噂の英雄様に会いたがっていますの。お願いしますわ」

 

 異性の不埒者には効果は抜群なのだけど、同性の擦り寄って来る相手には効果が薄いのが困りモノなのよ。直接会わないのに色々と面倒を見てくれる事には感謝しています。

 でも余計な苦労も招かないで欲しい、私はリーンハルト様の実力は悔しいけれど認めたけれど仲直りはしていない。実情は一方的にライバル視してるだけだけど……

 私から手紙を送ったり会いに行くのはお断りなの、プライドが許さないの!どうすれば、この猛禽類から逃げ出せるの?誰か私を助けて下さい。

 

 


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