古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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早いもので連載開始から丸四年、皆様のお陰で此処まできました。
沢山の感想や評価、有難う御座います。
完結までもう少しお付き合い下さい、宜しくお願いします。


第585話

 リーンハルト卿とロンメール殿下が凱旋帰国する。蝙蝠外交をしつつ、ウルム王国と婚姻外交をしてエムデン王国に害をなそうとしていた、バーリンゲン王国の野望を潰し属国化させた。

 しかも国家の力の象徴たる宮廷魔術師達を五対一で破り、その隔絶した力の差に絶望したパゥルム王女が簒奪してエムデン王国に頭を垂れた。

 二心を抱けば滅ぼされると考えたバーリンゲン王国は、婚姻外交までして協力を仰いだウルム王国に最悪の行いをする。花婿のレンジュ殿の処刑、もう後には引けない。

 バーリンゲン王国は完全にエムデン王国に属国化し宗主国に対して頭を垂れた、挟撃の心配は無くなり後顧の憂いも無くなった。たった一人で小国とは言え一国に勝利した、元々高かったリーンハルト卿の人気は更に爆発した。

 しかもパゥルム新女王の政権基盤を固める為に、少数で逆賊クリッペンが治める城塞都市を二つも短期間で攻略。この戦果は周辺諸国への外交圧力の手助けにもなった。侵攻特化魔術師、しかも少数による電撃作戦。

 エムデン王国は正当な理由を以てウルム王国に宣戦布告をした、前大戦の仇敵たる旧コトプス帝国の残党共と一緒に滅ぼす。国家が一丸となり、ウルム王国と戦う事が出来る。

 アウレール王も正式にリーンハルト卿の戦果を称え、王都をあげて凱旋帰国を待ち望んでいる。民衆の支持を集めた稀代の英雄の凱旋、その歴史的瞬間を見ようと国内から続々と王都に人々が集まっている。

 前回のハイゼルン砦攻略の時よりも何倍も多い民衆達が、行儀良く待ち望む英雄が漸く王都から見える位置に到着。その栄光を称えようと民衆達の歓声が響き渡る。

『最強の魔術師、稀代の英雄』

 だが一部の連中からは激しい畏敬と嫉妬、敵意と拒絶が広まる。人間至上主義者にとって、モア教の教義による博愛。

 他種族を同列に認める事は許されざる暴挙、精霊族や獣人族と懇意にしている事を公にした事で明確に敵対した。特に妖狼族を配下にした事は、獣風情を同列に見做したと拒絶反応が酷い。

 亜人、人と獣が不自然に混ざった出来損ない。獣化するなど信じられない、そんな連中を配下にして戦果を上げるとか何を考えているのか?奴等を活躍させる意味が分からない。

 人間至上主義者達は奴等は人間に支配される事が当然の劣等種族、それを優遇するなど意味不明だと憤る。大陸全体では一割にも満たない人間至上主義者達だが、その構成員は裕福層に多い。

 その人間至上主義者達が今回の件により暗躍し始める、この大陸から精霊族と獣人族を駆逐し支配し大陸の覇者になる事を夢見て……

◇◇◇◇◇◇

 二回目の凱旋、一回目はアウレール王と一緒に、二回目はロンメール殿下と一緒だ。前回よりも凄い事になっている、城壁の大正門が開かれて左右に民衆達が溢れている。

 前回は王都内部だけだったのに、今回は大正門の外にまで民衆達が溢れ出して歓声を上げている。事前に凄い事になっていると聞いて準備していたが、此処まで凄い事になっているとは想像出来なかった。

 大正門の外に居る民衆達だけでも一万人以上はいるだろう、両手を振り上げ声を張って僕とロンメール様の凱旋を祝ってくれる。若干だが僕に向ける歓声が多いかな?

 凱旋帰国として事前に隊列を変更した。先頭が僕で後ろに護衛兵、チェナーゼ殿と武装女官達、ロンメール様とキュラリス様の乗る馬車。そして後方に武装女官達と護衛兵。ザスキア公爵や他の女官や上級侍女達は別行動、少し後に他の門から入る。

 この歓迎ムード満点な民衆達の中を先頭切って突入するしかない、ロンメール様からも民衆達が望むのは自分じゃなく僕だと言われてしまった。王族よりも優先されるとは……

 顔見せは必須、故にハーフプレートメイルに魔術師のローブを羽織り兜は装備しない。騎乗する軍馬にも同様の装飾を施した鎧を着せる。この子は誇らしげに嘶(いなな)き悠然と歩いている、僕より度胸が据わってないか?

『いらしたぞ、先頭だ!』

『リーンハルト卿の凱旋だ、声をあげろ!』

『流石は英雄様だ、更なる戦果を上げての凱旋帰国だ!』

 おぃおぃ、ハイゼルン砦攻略の凱旋の時よりも凄いな……そんなに持ち上げられても困る、キラキラした目で見詰められると背中がムズ痒くなる。

 やはり転生前とのギャップに驚かされる、こんなに歓迎されるなんて。前は罵倒こそされないが、畏怖の象徴みたいな扱いだった。

 軽く手を上げただけで、うねる様な歓声が響く。本当に嬉しそうに手を振り声を上げてくれる、フラフラ蝙蝠外交を繰り返すバーリンゲン王国の事が本当に嫌いだったんだな……

『『『『『リーンハルト卿、万歳!リーンハルト卿、万歳!リーンハルト卿、万歳!』』』』』

 万歳コールも飲み会で慣れたつもりだったが、数が桁違いだと全然違う。何とか赤面するのを我慢しているが、嬉しさで口元が緩むのが抑えられない。

 駄目だ、僕は本心から嬉しいみたいだ。大量殺戮を平然と行える異常者の僕が、民衆に受け入れられているのが嬉しいんだ。敵国だけでなく母国の民衆からも恐れられた転生前。

 だが転生後は民衆に受け入れられて更に歓迎までされている、信じられない待遇の差だな。こんなにも違うモノなのか?何が前とは違ったんだ?

 大正門を潜り抜け商業区に入る、此処からは大通りの左右の観客席には仕切りが有り有料席らしい。裕福層の親子が多い、着飾った淑女達が大量の媚びを含んだ笑顔を向けて来る。正直、高揚した気持ちが萎えた。

 歓迎してくれるのは分かるのだが、獲物を狙う熱い視線や親の命令で仕方無く的な微妙な笑みとかさ……贅沢を言っているのは分かるけど、未だ五歳位の幼女とかは無理だぞ。

 適度に手を振り視線を合わせたりしながら商業区を抜ける。途中でライラック商会や冒険者ギルド本部、魔術師ギルド本部の前を通る時はサービスで多目に愛想を振り撒く。

 商業区を抜ければ新貴族街と従来貴族街に繋がる、流石に貴族達は道端に出て声援など送らないから静かだ。彼等は王家主催の舞踏会で接触してくる、今回も三夜連続で行われるだろう。

 流石に中央広場で凱旋演説は無い、前回はアウレール王が同行したから可能だったんだ。僕やロンメール様では不可能、アレは国王の特権。臣下は相当の根回しをしないと無理、バニシード公爵の出陣式の段取りは大変だった筈だ。

 僕はサリアリス様が段取りしてくれたらしい、公爵四家の合同出陣式だったから可能だった。駆け出し宮廷魔術師では無理だった、僕には感謝する人が沢山居る、幸せだ。

 警戒の為か巡回する警備兵だけが大量に居た貴族街を抜けて王宮に入る、此方は女官と侍女達が左右に綺麗に整列して待っていた。王宮内は騎乗したまま入れないから徒歩になる、故に相手と近い。

 大勢の女性陣を取り巻く様に警備兵達が囲んでいる、彼等では女性陣の団体には近付けないのだろう。妙な熱気を孕んでいるし、正直僕も少し怖い。

 ザスキア公爵が広めている変な新しい世界的なモノの影響か、御姉様世代も居る。殆どが顔見知りだが知らない淑女も居るな……

「「「「お帰りなさいませ、リーンハルト様」」」」

 ハンナとロッテ、少し後ろにオリビアとウーノが並び、更に左右に五十人近い女官や侍女達が並んで華やかに出迎えてくれた。だが僕の少し後ろには、ロンメール様とキュラリス様も居る。

 僕ばかりが厚遇されるのは駄目だ、駄目だが彼女達の事だから抜かりは無いのだろう。僕の後に直ぐ、ロンメール様達を出迎える筈だ。

「有り難う。王命を達成出来て嬉しく思う、君達も変わりはなさそうだね?」

 社交辞令を含む挨拶と余所行きの笑みを貼り付ける、だが侍女達から進み出た見覚えの有る四人の侍女を見て身体が強張る。

 身体が覚えている、彼女達にされた事を……分かってはいたさ、遠征から帰って来て汚れた格好でアウレール王に会えない事はさ。

「先ずは身を清めて頂きます。アウレール王への謁見は一時間後の予定です、謁見室に呼ばれております」

「謁見の間じゃなくて謁見室の方で?細かい話になるのかな、それとも事前に打合せが必要なのか……」

 デスバレーでのドラゴン討伐の時とは違うな、謁見室となれば少数だ。アウレール王にサリアリス様、もしかしてリズリット王妃も同席して、コッペリス殿の件か?

 一時間後って言うのも慌ただしい、本当に風呂に入って直ぐだ。時間的余裕が無いのは、他の連中との接触を嫌った?バセット公爵やラデンブルグ侯爵辺りに変な頼み事をされるなとか?

 どうやら王宮内が焦(きな)臭くなっているみたいだな、裏切り者の存在の可能性は思ったより重く捉えなければ……近い、気付かない内に接近された!

「ちょ、囲まなくても風呂に行くから、逃げないから、大丈夫だから」

 無言の笑顔で取り囲まれた、その距離は50㎝も離れていない。彼女達にしても一時間以内に僕を綺麗に磨き上げて謁見室に放り込むのは大変なのだろう。

 一刻も早く風呂に入れたい、そんな気持ちが笑顔の下に見え隠れしている。両手をワキワキさせているが視線を逸らして浴室に向かう、どうせ抵抗しても無駄なんだ。

 諦めが肝心、下手な抵抗は余計に羞恥心を増すだけ。だが多少は抵抗したい、毎回良い様に扱われては男としてのプライドが……いや、もうそんなモノは無い位に全てを見られてたよ。

「良い心掛けです。リーンハルト様には上級浴場の使用許可が下りています、素晴らしい事です」

 いや、職場で入浴するとかさ。少し変だと思うけど、確かに汚れた格好で国王に会わせる事とか駄目なんだろうな。

 特別待遇なのは嬉しいが、出来れば自分の屋敷に立ち寄り身嗜みを整えてから謁見したかったよ。だけど国王に最初に報告の義務が有る、難しい問題だ。

◇◇◇◇◇◇

 王族も使用する上級浴場に素っ裸で叩き込まれ、色々な部分を念入りに洗われ髭もムダ毛も全て剃られて漸く解放された。

 男としての尊厳は無視されて、身体の隅々まで徹底的に洗われた。時間が無いから浴室内では六人掛かりだった、もう密着されて何が何だか分からない内に終わったんだ。

 頭、胴体、左右の手足で六分割されて、最後は全員でムダ毛を剃られて香油を塗られ、マッサージをされた後に軽く汗を流して掛け湯して着替え。

 着替えも着せ替え人形の如く、脱衣室で待機していた他の侍女四人掛かりで身体を拭かれて着替えさせられた。風属性と火属性の混合魔法で髪の毛が直ぐに乾かされた、アレは便利な魔法だな。

 土属性と水属性の僕には使えない魔法だ、流石は王宮に勤める侍女達だけあり魔術師としても一流の域に居る連中が普通に居る。人材の厚さはバーリンゲン王国の比じゃない。

 迎えの近衛騎士団が六人も迎えに来た、厳重なんてモノじゃない。前後左右を守られながら王宮内を進む、大袈裟だと思ったがバセット公爵と鉢合わせした時に理解した。近衛騎士団を見て悔しそうにしていた、やはり接触のタイミングを伺っていた?

 この時間の無さも大袈裟な誘導も、全ては僕を隔離する為の方便だ。アウレール王に会う前には、如何なる貴族とも会わせない。それだけ警戒している、裏切り者説は正しい。

 これはリゼルの活躍は直ぐだな。彼女の立場を固めた後で、容疑者は個別に尋問形式で心を読ませれば裏切り者は炙り出せる。

 良いタイミングで彼女を確保出来て良かった、先ずはグンター侯爵とカルステン侯爵だ。その後は、バセット公爵の思惑も確認したい。

「我々は此処までです」

「有り難う、助かったよ」

 謁見室は人払い済みと思って良いだろう。誘導してくれた近衛騎士団員は入口の前で警戒に当たるらしい、思い過ごしじゃなかった。覚悟を決めるしかない、どんな話になるのか今から胃が痛くなるよ。

 


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