古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第60話

 ラコックの村へのオークの夜襲、普段なら問題無い相手だが条件付きだと厳しい相手になる。

 東西からの同時侵攻、僕等の勝利条件は教会に集めた女性と子供を守る事。可能な限り自分の家に籠もっている村人達を守る事だ。

 冷たい様だが教会に集まってくれた村人以外は最悪見捨てる事になるだろう、オークが同時侵攻してきたって事は本隊と囮部隊が居るって事だ。

 奴等は既に十五匹が倒され三匹が負傷している。群は最大五十匹位だから残りは三十五匹、二手に別れたから東門は本隊か囮部隊かどっちだ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ひぃ、たたた、助けてくれ!」

 

「嫌だ!コッチに来るな」

 

 東門に辿り着いた、門と言っても木柵だからオークの怪力なら簡単に壊れてしまう。悲鳴が聞こえる、既に近くの民家の中を物色中かよ!

 人間は頭では分かっていても恐怖で体が竦み動けなくなる、何とか這って家の外に逃げようとする村人に容赦無く棍棒を振り上げるオーク……

 

「ストーンランス!」

 

 ストーンブリットの上級版、石槍をオークの心臓に向けて撃ち出す!

 最大直径30㎝の石槍なら流石の筋肉と脂肪の鎧も簡単に撃ち抜く。棍棒を振り上げたままオークが後ろに倒れ込む……

 

「次は何処だ?」

 

 篝火は倒され一部民家に燃え移っている為に周辺は明るい。

 

「居た、ストーンランス!」

 

 民家の入口から屈む様に出て来たオークの頭をストーンランスで撃ち抜く。

 両脇に村人を抱えていたので胴体には撃てなかった、因みにオークの討伐証明部位は独特の形の大きな鼻だ。

 

「二匹だけか?後は……」

 

 少し離れた民家から叫び声が聞こえる、奴等は民家を虱潰しに漁って村人を襲うつもりか?

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムポーンよ、民家に突撃して敵を倒せ」

 

 障害物の多い民家の中に入るのは危険だ、僕だって棍棒の一撃を食らえば即死してしまう。

 ゴーレムポーンを六体錬成し四体を民家に突撃させ二体に護衛させる。

 この段階で後続の青年部の連中が追い付いて来たので村人の避難を頼む。

 

「怪我人を教会へ、急いで!」

 

 民家に突撃させたゴーレムポーンがオーク二匹の首を切り取って持ってくる。

 合計四匹か……周りの気配を探るが村人の呻き声と青年部の励ましの声しか聞こえない。

 

「東門は囮部隊だ、僕は教会に寄って西門に行きますので後はお願いします」

 

 ゴーレムポーンを魔素に還し馬に乗って教会へと戻る、新しい情報が無ければ西門へと向かう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「早い、五分と経たずにオーク四匹を殺すなんて、なんて怖い坊主だ……」

 

「顔色一つ変えずに淡々と殺してたな、あれが魔法なのか」

 

 僅か五分で昨夜あれだけの冒険者達が苦労して倒したオークを瞬殺した少年に恐怖を覚えた。

 あの力が我々に向いた時に防ぐ手段が有るのか?村長は少年に逆らっていたが大問題なんじゃないか?

 

「先ずは怪我人を教会に運ぶぞ。周りの連中も叩き起こして手伝わせろ。また来るかもしれない、早く教会に逃げよう」

 

「ああ、教会にはもう一人の魔術師の少女が居る。化け物は任せれば良いんだよ!」

 

 訳の分からない化け物には訳の分からない強さを持つ連中に任せれば良い。普通の農民の俺達には関係無いんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 教会は騒然としていた、騒ぎを聞き付けて村人達が避難してきたからだ。

 既に百人近い村人が居たのに今は数える事も難しい、建物内には入り切らず中庭も人が溢れている。

 この分だと後から避難してくる連中は敷地外に居るしかないか……

 

「リーンハルト君、東門のオークは?」

 

 何とか人混みを掻き分けて、ウィンディアが近付いてくる。

 馬に乗っていないと気付けないな、僕は未だ身長が160㎝と少しだから大人に囲まれると埋まってしまう。

 

「囮部隊だ、オーク四匹だけだが倒して来た。西門に行くけど他に襲撃の情報は?」

 

「襲撃の報告は無いけど、混乱しちゃって見張りとの連絡が……あと村長が来たよ。

タリアさん達と言い合いになっちゃって、マークさんが殴って気絶させて縛ってあるわ。あとゴーンさん達が西門に向かったそうよ」

 

 おぃおぃ、殴って気絶させたって大丈夫なのか?東門が囮部隊なら西門には本隊が攻めて来てる筈だ、ゴーン達じゃ厳しいかな?

 

「了解、応援に行って来る。ウィンディアも気を付けてくれ、護衛を増やすよ」

 

 そう言って教会の護衛用の十体の他にウィンディア専属のゴーレムポーンを二体錬成する。

 教会の護衛用は近付いてくる敵を迎撃するが、この二体はウィンディアと共に移動し彼女だけを守る。

 

「こんなにゴーレムは要らないって、リーンハルト君の守りが薄くなるよ!」

 

「まだ余力は有るから大丈夫だ、君に何か有った方が大変だ。それに教会の護衛のゴーレムポーンは避難民の中に埋もれてしまったな……」

 

 ゴーレムポーンとのラインを繋ぎウィンディアの周りに集める。人混みを掻き分けてゴーレムポーンが集まってくると周りが騒ぎだした。

 

「ゴーレムポーンよ、ウィンディアと行動を共にして近付いてくる敵を倒せ。二体は彼女から離れるな、ガードを固めるんだ。

じゃ西門に行ってくる!」

 

 ウィンディアの両脇に二体、周辺に十体のゴーレムポーンを配置する。

 最悪の場合、教会にオークが襲って来たら彼女が戦うのだから周りに集めた方が良いだろう。

 ウィンディアに、万が一の事が有ったら……

 

「デオドラ男爵とルーテシア嬢に会わす顔が無い」

 

 そう彼女に聞こえない様に呟いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ウィンディアちゃん、恋人に大切にされてるのね。羨ましいわ」

 

「いえ、その……」

 

 タリアさん、この状況で態度が変わらないなんて凄いわね。他の村人なんて嘆くか祈るかなのに……

 

「ゴーレムさんを十二体も残してリーンハルト君大丈夫なのかしら?」

 

「確か十八体は召喚して制御してましたから……まだ余力も有りそうですから大丈夫だと思います」

 

 ああ、指先が震えてる。やはりタリアさんも怖いのね。

 私だって本当は少し怖い、オークは何度も戦った相手だけど前衛としてルーテシアが居たから心強かったわ。

 でも今は……恐怖心は有るけど落ち着いている、それはリーンハルト君のゴーレムに囲まれているから?信頼してるから?それとも……

 

「本当に貴方達が村に立ち寄ってくれて良かったわ。一日ずれてたら私達どうなっていたか……」

 

 前日に十人以上の死傷者を出したオーク達の恐怖は想像を絶するだろう。だから安心して貰おう、リーンハルト君が居れば大丈夫だから……

 

「リーンハルト君が居れば絶対に大丈夫、安心です。私……信じてますから」

 

 根拠の無い励ましだった所為か、タリアさんのタレ目が丸くなる。クスッて笑われてしまったわ。

 

「あらあら、ウィンディアちゃんが信じてるなら私も信じるわ。リーンハルト君も果報者ね、可愛い恋人からとても信頼をされていて……」

 

 私も旦那様が欲しいわって呟いた時に影の薄いマークさんが少し離れた場所で自分を指差しているけど……

 タリアさんって天然系だからグイグイ押さないと駄目だと思う。変な所で頑固で押しが強いのに自分の事に関しては無頓着な感じね。

 まるでジゼル様みたいな人だわ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 西門に向かう途中で逃げ惑う村人と擦れ違った、やはり西門から本隊が攻めて来たのか?

 西門まで30m手前の所で一旦止まる、何故かゴーン達が道の真ん中で立ち尽くしているから……

 

「ゴーンさん、何してるんですか?」

 

 ロングソードこそ鞘から抜いているが右手に持ってダラリと下げている、とても戦意が有るとは思えない。他の連中も同じだ、脅かせば逃げ出す位に……

 

 だが全員ボロボロの傷だらけ、内二人は……致命傷を負って死んでいる。

 民家の壁に倒れこむ様に此方も傷だらけのオークが二匹死んでいるのを見れば戦いの熾烈さが分かる。

 

「何って……なんだ、昼間の餓鬼か。しかも使えない男の方かよ。四匹のオークが現れたんだが無傷の奴等なんだ、昨日の奴等じゃない」

 

 手負いの三匹なら自分達で十分勝てる自信が有ったのだろう、だが実際は無傷のオークが四匹。六対四で二匹を倒せた事は十分に凄い事だろう。

 

「四匹現れたって、あと二匹は?おい、村人が攫われてるじゃないか!」

 

 今まさに民家から出て来たオークが、中年女性の右足を掴んで引き摺っている。惚けている場合じゃないぞ!

 

「俺達は無傷のオーク四匹と戦ったんだ、もう戦えるかよ!逃げたいが依頼を請けているんだ、最低限の見張りは……」

 

 馬から飛び降りてオークに向かって走りだす。距離が有りすぎて狙いが定まらない。

 

「ストーンランス!」

 

 20m手前で立ち止まり、村の外へ歩いて行くオークの心臓を撃ち抜く。

 突然自分の体に穴が開いたのが不思議なのか女性を放して振り向き、僕と傷口を見てから前に倒れこんだ。

 あと一匹は何処だ?周囲を見回しても気配が無い、居ないぞ。

 

「ゴーンさん、残りのオークは何処だ?」

 

 見張りをしていた彼等なら知ってると思い聞いてみる。

 

「知らん、村から出て行ったから……」

 

出て行った……つまり村人が攫われた?追うか?いや駄目だ、待ち伏せされてるかも知れないし本隊が待ち構えているかも知れない。

 だけど、未だ間に合うかも……

 

「ゴーンさん、女性と怪我人を早く教会へ運んで下さい、此処は僕に任せて早く!」

 

 ゴーン達は十分に戦った、これ以上は無理だ心が折れている。

 

「へ?あっ、ああ……分かった。すまない、頼む」

 

 中年女性はオークに強く握られた所為か足首が骨折している、だが痛みと恐怖で気を失っているみたいだ。

 カクカクと変な動きで中年女性を抱き上げるゴーンを見届けてから壊された西門に近付く。

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムポーンよ、警戒しろ」

 

 六体のゴーレムポーンを錬成し自分を中心として円陣を組ませる。魔力で明かりを灯し周辺を見渡すが、既に見える範囲にオークは居ない。

 

「逃げられたか……いや、微かに悲鳴が……コッチか?」

 

 向かいの麦畑の方から悲鳴が聞こえる、オークの上半身も見えた!

 

「ゴーレムポーンよ、行け!」

 

 四体のゴーレムポーンを麦畑に突撃させる。屈んでいたオークが僕等に気付いて体を起こして威嚇するが青銅製の戦士達は怯まない。

 そのままロングソードをオークの腹に突き立てる!

 一体のゴーレムポーンがオークの棍棒による反撃で上半身を潰された、この強烈な一撃が怖い。

 熟達した戦士職なら躱したり防いだり出来るが、普通は無理だ。

 ゴーンの死んだ仲間も肩が砕けたり頭が陥没していた、彼等も必死で恐怖に耐えて戦ったんだろう。

 オークが息絶えた事を確認し周囲を警戒しながら近付く悲鳴が聞こえたからには村人が……居た。

 

「助けに来ました、怪我は有りませんか?」

 

 座り込んで泣きじゃくっているのは未だ若い女性だった、最悪の事態は防いだが抵抗した時に叩かれたのだろう。

 顔の右側が腫れて口から血を流している。未婚の若い女性達は全員教会に避難させたから彼女は既婚者なのだろう。

 

「もう大丈夫ですよ、さぁポーションを飲んで下さい。教会に避難しましょう」

 

 空間創造から戦利品のハイポーションを取り出して飲ませる。

 口の中が切れているので飲む時に辛そうだったが、ハイポーションの効果が出始めたのか腫れが引いていった……

 

「急ぎましょう、此処は安全じゃない」

 

 ゴーレムポーンにお姫様抱っこをさせて村の中へと運び込む。だが変だ、別動隊とはいえ四匹ずつ単発に攻めてくるとは各個撃破してくれって事だろ?

 オークはズル賢い、決して無駄に攻めてはこない筈なのに何故だ?昨日十五匹、今日は既に八匹、群を最大五十匹と考えて残りは二十七匹か。

 一度に攻められたら厳しい数だ、もう少し減らしたいが上手くいくか?

 


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