古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第596話

 エレさんを伴い盗賊ギルド本部を訪ねた、バーリンゲン王国を平定する為に逃げ出したクリッペン・コーマ・ザボンの三人の元殿下達の潜伏先を調べる為にだ。

 バーリンゲン王国の領内の探索ならば、向こうの盗賊ギルド本部に依頼をするべきだが、僕はエムデン王国の人間だ。

 国家間を跨ぐ活動をする各ギルドには色々な決め事や柵(しがらみ)が有る。国を跨いでの依頼は複雑な問題が発生する、要は他国の権力者の干渉は抑えたい。

 

 だがバーリンゲン王国はエムデン王国に属国化した、そうすると国の関係も対等から上下関係に変わる。各国のギルド本部も該当する、つまりエムデン王国のギルド本部の方が上位となる。

 自国内での活動が主になる各ギルド所属者にも当て嵌まる、だからエムデン王国の各ギルド本部を通してバーリンゲン王国の各ギルド本部に依頼する。

 彼等も宗主国の重鎮と縁が結べるから悪い事じゃない、出来れば僕に色々な便宜や口添えをして欲しいだろう。直接的な縁とは、そういう裏側の目的も有る。

 

 僕としては他国のギルドとは縁を強くしたくない、色々な柵(しがらみ)もそうだし付き合いが広く浅くなる事はデメリットも多い。

 だから自国内の各ギルド本部を優遇するから、他国のギルド本部とは代わりに交渉し依頼を頼んで貰う事にした。

 そして潜伏する元殿下達の捜索に一番適しているのが盗賊ギルド本部、エムデン王国にある盗賊ギルド本部との付き合いは殆ど無かった。

 

 だからエレさんを伴い話し合いに来たのだが、まさか盗賊ギルド本部の代表が食堂のシェフを兼任していたとは驚いた。

 確かに妙齢の美女がオバちゃんと呼ばれているのは変だと思っていたが、まさか本名を略した愛称だったとは驚いた。

 オバル・チャンドラーだから略してオバチャンか……果たして彼女は僕に協力的かどうか?これからの話し合いで決まる訳だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 出入口の扉こそ両開きで広かったが案内された通路は狭くて低い、二人並んで歩くのがギリギリ。しかも曲がりくねっている、扉も多数あるがダミーも多い。

 探索魔法で探っているが扉の奥に空間が無いんだ、中には小部屋もあり数人を隠せるスペースも有る。あと狭いからダミーの扉を開けて90度で固定すれば障害にもなる。

 トラップハウスだな、天井内にも隠し部屋が有るんだ。足止めした後に上から奇襲されたら大抵の連中は倒される。王宮でも取り入れた方が良いか?

 

 暫く歩かされて漸く応接室に通された、オバル殿と向かい合って座る。エレさんは座らずに僕の後ろに控えた、これも身分差だ。仕えし主と同席は出来無い。

 同じ様に向こうも、オバル殿だけが座り残りの三人は後ろに並んで控えている。知り合いでも身分社会では気楽に話し掛けられない、ギルテックさんとベルベットさんは僕に視線を送ってくる。

 早く話し掛けろかな?ティルさんは無表情だが、彼女は出会った頃から感情と存在感が希薄だったよな。本名はティルノーツだっけ?彼女達の盗賊ギルド本部での立ち位置って何だろう?

 

 最初は若くて素質が有る者達って事で僕の冒険者パーティに参加する為に集められたんだ、エレさんも同じで僕は彼女を選んだ。

 正確には、ウィンディアの提案により三人でジャンケン勝負になったんだ。見事勝ち抜いた彼女がブレイクフリーに加入したんだ。

 僅か半月で冒険者ランクDとなり冒険者養成学校は自主的に卒業したから、ティルさんとは未だ出会えてなかった。

 

「急な訪問に対応して頂き、有り難う御座いました」

 

「御礼など、此方が恐縮してしまいます」

 

 む、食堂で会った時は豪快な女性だと思ったが、ギルドの代表の時は違うんだな。見た目は妙齢な美女だし、男なら彼女に丁寧に対応されると舞い上がるだろう。

 落ち着いて観察すれば褐色の肌に豊満な肉体、衣装も身体のラインが分かる様な扇情的であり動き易いモノだ。未成年の僕に色仕掛けは有り得ないと思うけど……

 逆にベルベットさんやギルさん、ティルさんは革鎧に革のスカートに革のブーツと武器こそ携帯していないが完全装備だな。因みにだが、エレさんは貴族子女のお出掛けドレスを着ている。

 

「盗賊ギルド本部を訪ねるのは二度目ですが、凄い警戒設備ですね」

 

「魔法迷宮や古代の遺構などからもアイデアを取り入れています。リーンハルト様の御屋敷の秘密は暴けませんでしたが……」

 

「アレは土属性魔術師でなければ解除不可能な仕掛けが主でした。機械式な仕掛けと併用してあったりと随分悩まされましたよ」

 

「私達盗賊ギルド本部も過去に何回か依頼を受けて挑みましたが、一階ホールすら解除は不可能でした。流石は古代の偉大なる魔術師、ツアイツ卿の再来と言われる、リーンハルト様ですわ」

 

 やり難いな、盗賊ギルド本部は僕の屋敷に何回か挑んだのか。多分だがホールに仕掛けられた雷撃が防げなかったのだろう、アレは高位魔術師の魔法障壁じゃないと防げない。

 当たれば感電し黒焦げになって死ぬ、急所に当たらなくても全身が感電するから避けるのも厳しい。人除けの陣の効果で精神も不安定だったから余計に回避は不可能だよな。

 今は僕が全て解除しているけど、あの屋敷の秘密を他人に教える事は出来無い。教えても僕以外は再現不可能だ、魔力球による制御なんて現代には廃れて伝わってないから。そして、そんなモノが知られたら大騒ぎで最悪没収だろう。

 

「ベルベットさんとギルさん、ティルさんも久し振りですね。変わりは有りませんか?」

 

 取り敢えず屋敷の秘密は公開出来無いので、別の話題を振る為に後ろに控える女性陣に話し掛ける。話し掛けてくれオーラが凄いんだよ、ティルさんの僕に向ける眼力も凄いし……

 話題を振った途端に盗賊姉妹が笑顔になって、視線でティルさんに何かしらの合図を送った。もしかして話す順番とか決めてたのか?

 懐かしい人懐っこい子犬みたいな笑顔を浮かべてくれた、あの時は冒険者として自由に生きていけると思っていたんだ。懐かしくて輝いていた日々……

 

「「はいはい!リーンハルト様、私達はですね!」」

 

 元気良くハモりながら近状報告をしてくれた、纏めると……基本的には信頼の置けるパーティに参加してのレベルアップに専念していた、つまり大切に育てられている。

 若く素質も高いのは僅かに行動を共にしていた僕でも分かる、現にエレさんは才能が開花し既に盗賊職として一流の域にいる。

 僕に引き合わせる予定の娘達は、盗賊ギルド本部でも虎の子というか金の卵達だった訳だ。だが、ティルさんだけは既に一流の盗賊職だったな。

 

「ティルさんも久し振りですね。アレから宝物を見付けましたか?」

 

 盗賊姉妹の次はティルさんだ、彼女の『失物捜索』だっけ?は凄いギフトだった。術者の欲しい物をピンポイントで探せるって凄い有効なギフトだ。

 

「魔術師ギルド本部の依頼で、滅亡したリトアルシア王国の遺産を見付けだしたのは私よ」

 

「リトアルシア王国?ああ、あの魔力の付加されたロッドを見付けたのか。隠し部屋一面にマジックウェポンが掛けられていたらしいね?僕も五本もらったよ、研究対象としては上物かな」

 

 そうか、あの『リ・ツアイツ』の銘が刻んで有ったマジックウェポンは、ティルさんが見付け出したのか。古代都市の廃墟から見付けたって言ってたな。

 五本の内、何本かは復元して魔術師ギルド本部に渡す予定だったけど忘れてた。魔力刃のロッドは僕の切り札だから駄目だ、他のを復元するか……

 彼女はベルベットさん達と違い、レベルアップよりも難しい依頼を指名で受けている。つまり盗賊ギルド本部に所属する者達の上位者だ。多分だが一番有能でお勧めだから、全員を引き合わせる為に最後に廻されたんだな。

 

 時間も限られているし懐かしい人達との会話も弾んだ、そろそろ本題に移るかな。笑顔から真面目な表情に切り替えた事により、オバル殿も本題に入ると分かったみたいだ。

 

「昔馴染みとの会話も楽しいのですが、僕が王都に滞在出来る時間は短いのです。そろそろ本題に入らさせて頂きますが宜しいか?」

 

「ええ、構いません。平民の昔の知り合いに対する態度で、リーンハルト様の事は解りましたから」

 

 解りました、理解しましたって事だ。つまり身分差や権力でゴリ押ししない優しく思いやりが有り公明正大だって思ってますと?

 此方の思考に制限を掛けてきた。身分差や権力に固執する連中には全く無意味だが、周囲を気にしている僕には結構効くんだよ。

 しかもモア教の総本山に目を付けられている、平民に無理強いは出来無いと踏んで念を押してきたなら最悪だ。考え過ぎかもしれない、だが油断は出来無い。

 

「オバル殿は優しいのですね?僅かな会話で人を信用するのは中々難しい、僕には無理です。権謀術数が大好きな魑魅魍魎の蠢く王宮で生きるのは大変なんですよ……では、今回の依頼について説明させて頂きます」

 

 優しいのですね?の時に少しだけ表情が崩れた、お互いに持ち上げたから不利益を押し付けられたらお互いが落胆するだろう。

 まぁ気休めだが、後ろに並ぶ女性陣の動揺が酷い。ベルベットさんとギルさんは驚いて、ティルさんは笑った。

 だがギルド職員や構成員に優しいのは事実だろう。食堂でシェフをしている時の周囲の対応で分かる、つまり盗賊ギルド本部に不利益な事なら断固として断るだろう。

 

「僕は来週にも再度、バーリンゲン王国に向かいます。理由は属国化した国の平定の為に、逆賊たる三人の元殿下達を倒しにです。小国とは言えバーリンゲン王国領内は広い、一々捜索しながら倒すのは時間が掛かる。

ウルム王国との戦争には多くの戦力を必要とします。手薄となるエムデン王国を守る事も、アウレール王より指示されています。だから捜索に時間も手間も掛けられない、オバル殿を通じてバーリンゲン王国の盗賊ギルド本部に元殿下達の捜索を依頼したいのです」

 

 長い説明を言い切った、自分でも気付かない内に喉がカラカラだった。落ち着いて少し温くなった紅茶を飲み干す、少し落ち着いた。

 落ち着いて彼女を見れば笑顔を浮かべながら無言で考えている。依頼は問題無い筈だ、僕が他国の盗賊ギルド本部に接触する事は嫌だろう。

 だがバーリンゲン王国の盗賊ギルド本部に手柄を立てさせるのも嫌だとかは無しにして欲しい、国家を跨いで活動するギルドに配慮しているんだ。

 まぁ断られたら冒険者ギルド本部に頼むか、『無意識』みたいな凄腕の諜報要員も抱えているし多少の無理は聞いてくれる。

 僕は盗賊ギルド本部とは中立でも疎遠でも構わない。オバル殿の条件次第で対応を決めよう、僕の屋敷を調べたいとかは無しだ。

 

「解りました、私からバーリンゲン王国の盗賊ギルド本部に依頼を通します。それで対価として、リーンハルト様にお願いが御座います」

 

 報酬でなく対価と来たか、何を言い出すか楽しみだ。後ろの三人は我関せずみたいに反応が無い、つまりお願いの内容は知らない。

 

「聞きましょう」

 

「バーリンゲン王国領内に有る、フルフの街の古代都市の調査にリーンハルト様が担当される時に御側で協力させて下さい」

 

 な?未だ対外的には秘密だぞ!ロンメール様が箝口令を敷いたし、アウレール王に送った報告書は厳重な情報漏洩対策をしている。

 つまり届けた報告書の内容が漏れたんだ、盗賊ギルド本部を未だ舐めていた。本職の諜報要員か、ザスキア公爵の配下の諜報要員と互角以上だな。

 王宮内にまで目と耳を送り込んでいる、又は上級官吏か上級貴族の誰かと繋がっている。僕の情報も大量に掴んでいるな、リゼルを同行させたかったが無理だよな。彼女に頼り過ぎになりそうで怖い、自分で考えなきゃ駄目だぞ!

 

「フルフの街の古代都市の調査は僕が担当する可能性は低い、能力的な意味じゃなくて派閥の力関係とか利害関係とかで他の連中を押し込んでくる。そして彼等は盗賊ギルド本部に協力を要請するでしょう」

 

 依頼じゃなくて要請、多分だが王命になるだろう。だから強制力が働く、僕に頼まなくても調査隊に組み込まれる。魔術師ギルド本部も同様だな、両ギルド本部の連携は必須だよ。

 だが無理だ。僕が防衛機能を回復したし、高位魔術師じゃないと僕が錬金し固定化の魔法を重ね掛けした一枚板の岩盤は解除出来無い。

 いや、違うな。最初に僕以外が頼まれて協力を要請されるのは織り込み済み。後から僕にお鉢が回った時にハブられない保険と、御側でって事は近くで罠を解除する所を見たいんだ。

 

 既に全てを掌握済みだから如何様にも細工も誤魔化しも出来る、だが彼女は知らないから保険を掛けた。僕の手際を近くで見れる、上手くすれば技術を盗み取れるってね。

 魔術師ギルド本部も同じ条件で良いな、実際は彼等の方が得る物は多いだろう。魔術的な防衛機能で、機械式な罠なんて無い。

 大抵は両方仕掛ける、僕の屋敷みたいにね。だがフルフは僕だけで仕上げた要塞だ、盗賊の罠の技術は持ってないんだよ。だから役立つ情報は得られない。

 

「ご冗談を言わないで下さい。古代都市の秘密を暴ける方が、リーンハルト様以外になど居ませんわ。リトアルシア王国のマジックウェポンも、地震で偶然崩れた壁の隙間から内部を確認して分かったのです。たまたま隠し部屋を見付けられて幸運にも罠が無かっただけです」

 

「そうですか……では僕にお鉢が回って来たら、協力をお願いします。魔術師ギルド本部も同じ条件になるでしょう、僕の手際を間近で見て下さいね?」

 

 最後は疑問系にしたが差し伸べた手を笑顔でガッチリ掴んで握手をしてくれたので、希望に沿えたのだろう。

 曰く付きの屋敷の秘密を暴いた、僕の手並みを間近で観察し出来れば技術を盗みたい。だけど魔術的な防衛機能しかないから、参考程度にしかならない。

 全てを把握した状態で条件を呑んだ僕は、結構悪辣だな。うん、少し条件に色を付けても良いか。余りにも僕に有利だと、彼等の旨味が無いから反発しそうだな……

 

 


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