古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

603 / 999
第597話

 エムデン王国盗賊ギルド本部、オバル殿との交渉は僕の有利な内容で決まった。詳細は別に資料を纏めていたので間違いは無い、これは冒険者ギルド本部の指名依頼の書式を参考にした。

 お互いが内容を確認しサインする、これで依頼漏れも無く後から揉める事も無い。依頼料の一割はオバル殿というか、エムデン王国盗賊ギルド本部の収入となる。

 殿下一人の居場所を特定し実際に居た場合は金貨一万枚、実際に情報提供者が案内し所在を確認出来れば支払う。確実な情報が欲しいので、有力な情報とかは要らない。

 細かい情報提供者にまで対応する時間が惜しい、何処の街に居ました・見ましたじゃ困る。今は何処の街の屋敷に居ます、直ぐに案内出来ますって情報が欲しい。

 意外に居場所を公表している場合も有る、その時は勿体無いが構わず情報提供者に金は支払う。案内されたら直ぐに攻める、この方法だと二人目からは警戒されるかな?

 だが裏切り者の存在を教えられたならば一ヶ月で殿下達三人を打ち取るか、配下の兵士を殲滅させて反抗の根を断ち切るしかない。悪いがバーリンゲン王国の事情には付き合えない。

◇◇◇◇◇◇

 オバル殿達と別れて先に魔術師ギルド本部に向かう、フルフの街の秘密要塞の調査絡みで盗賊ギルド本部と連携する必要が有るから。

 連絡は入れていたので、レニコーン殿とリネージュさんが見目の良い女性職員達と総出でお出迎えだよ。毎回だよ、男だからって喜ぶとは思わないで欲しい。

 こう言うサービスは控えて欲しいのだが、中々止めてはくれない。歓迎的な意味と対外的に僕を粗略に扱えないって事だろう、まぁ気にしない。

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様。魔術師ギルド本部一同、歓迎致します」

 一斉に一糸乱れぬ動作で頭を下げられた、もしかしなくても練習してるの?

「急な訪問に対応して頂き感謝します」

 お決まりの挨拶を交わす。情報が漏れているのか偶然かは分からないが、魔術師ギルド本部の周辺に大勢の民衆が集まっている。

 英雄様とか騒がれたら待ち構えていたんだって分かる、どの段階で情報が漏れた?誰が流した?僕の行動を把握している連中はそれなりに多いからな……

 一応人気取りの為に軽く手を振る位のサービスはする、その度に盛大な歓声がね、英雄様万歳は止めて欲しいんだ。

 何時もの応接室に通される。直ぐに紅茶と珍しい果物が出されるが、今回は南国の果実だな。確かパパイヤだっけ?

 鮮度が命で収穫して直ぐに空間創造のギフト持ちに収納させて移動しないと食べれない高級果実だ。輸送や保管に貴重なレアギフト持ちを使うとか、贅沢な果実だよな。

 毎回気を遣わせているので心苦しくも有る、だが気遣いに見合った対価も用意している。一方的な気遣いはお互いの感情にシコリを残す、そう僕は考えている。

「会われる度に何かしらの成果を出されていますね。王都での、リーンハルト様の人気は凄いですわ」

「稀代の英雄様が蝙蝠(こうもり)外交を繰り返す、バーリンゲン王国を一撃で屈伏させた事に、エムデン王国の国民達は拍手喝采でした」

 褒め殺しだな、毎回僕を持ち上げなくても良いんですよ。バーリンゲン王国に対して溜めた不満を解消させた事による歓迎だろう。

 王命を達成出来て安心しているが、報酬と評価が偉い事になっていて胃が痛いんだ。領地三倍に新たな問題が有る有能な家臣、リゼルと妖狼族。

 領地持ちの子爵と男爵が新たな仲間になった、『人物鑑定』のギフト持ちと強靭な肉体を持つ妖狼族。戦力増加により警戒を抱いた貴族達が多い、対策が必要だろうな……

「さて、時間も無いので本題です。僕は来週にも再度バーリンゲン王国の平定に向かいます、逃げ出した三人の元殿下達の捕獲か殲滅する事。パゥルム女王の政権基盤を固める手伝いをします、与えられた時間は短く一ヶ月以内です」

 この言葉に二人が強く頷いたが予想していたのか?彼女達の情報網と解析力は高い、色々と調べているのだろう。エムデン王国でも屈指の巨大ギルドだし、伝手も多い。

 そう言えば、レズンの街の魔術師ギルド支部のロボロ爺から本部の代表に情報は伝えると聞いている。早いが、もう来ていて情報収集に力を入れたのかもしれない。

「バーリンゲン王国魔術師ギルド本部、トランセン代表より親書が来ました。レズン支部のロボロ殿と、ハイディア支部のメッス殿からもです。彼等は反逆者には協力しない、リーンハルト様に協力は惜しまないと言ってきています」

 順当だな、誰も泥船になど乗りたくない。城塞都市を二つも落とされた連中が勝てるとか思わないだろう、実際はバーリンゲン王国は何もしていないで僕が攻略したんだけどね。

 残りのアブドルの街だけど、ロンメール様はパゥルム女王に任せたが……攻略してるかな?それとも現状維持で僕を待っているのか?

 まさかレズンの街とハイディアの街が奪還されてないよな?元々居る警備兵と合わせれば八百人以上は居る、籠城戦なら負ける事はないが誘き出されると怪しくなる。

「逆賊達に協力しないだけでも助かります。他国とは言え同じ魔術師ギルドに所属する者達とは戦いたくはない、だが敵対すれば容赦は出来無いので……

レニコーン殿に頼みたい事ですが、エムデン王国魔術師ギルド本部経由で、バーリンゲン王国の魔術師ギルド本部に依頼を通して欲しいのです。内容は元殿下達の正確な潜伏先です」

 盗賊ギルド本部と同じ詳細な条件を説明する。見付けて潜伏先に案内し、居たら報酬を払う。有力な情報です、とかは不要。大量の情報に踊らされるのは御免だ。

 逆に誘い出される危険性は有るが、敵兵を減らせるから僕的には有りだ。見付けてさえしまえば、後はどうにでもなる。待ち伏せ大歓迎だ、罠に掛けたと元殿下が現れてくれたら嬉しい。

 クリッペンとか大切な王族の護衛、影の護り手を足止めに使ってまで逃げ出したからな。彼女達の独断専行みたいに言っていたが、指示がなければ最後まで側に居て護衛する連中だから嘘だろう。

「報酬の金貨の他に僕がフルフの街に滞在している時に見付けた、多分ですが古代の遺跡の調査も依頼します。最初は僕以外が担当すると思いますが、どうにもならずに僕にお鉢が回ってくるでしょう。解析は可能ですから、側で解除方法を教えますよ」

 この言葉に凄く食い付いた、二人共に身を乗り出して迫ってくるんだ。古代の秘匿された秘密要塞だ、魔術師なら色々と知りたい事も多いだろう。

 僕は王都でも有名な曰く付きの屋敷の秘密を暴いた実績が有り、その手並みを間近で見られて教えて貰えるとなれば……他の連中を押し退けて、この二人が来る。間違い無くね。

 その後の話し合いは特に問題無く進んだ、条件的な物も無い。先方も宗主国のギルド本部には強く言えないのだろう、細かい調整はレニコーン殿任せで大丈夫かな……

◇◇◇◇◇◇

 昨日の内に訪問の使者を送っていたので、王立錬金術研究所の所員達が全員集まっている。バーリンゲン王国に向かう前に決めた表彰式の為だ、既に能力upのマジックリング『戦士の腕輪』は量産体制に入れる。

 後は僕がデザインを決めれば直ぐに増産する事になる、今回は全員が所定の数値である20%以上を達成し何人かは上限である30%を錬金出来た。

 予想通りに、リプリーとシルギ嬢とマーリカ嬢…予想外だったのは、アイシャ嬢が能力up30%を錬金した事だ。彼女は班長に任命したが30%upを錬金出来るとは予想外だった。

 筋力・敏捷・耐久と単発で重複は不可だが、長所を生かすか短所を補うか、色々と組合せは有るだろう。筋力は戦闘力、敏捷は回避率、耐久は文字通り耐久性だな。

 前回と同様に全員が集まっている、室内に入ると全員の視線が僕に集中する。その視線に嫌悪感は無いが、挑む様な気概も無い。ざっと見回して身に纏う魔力を調べれば、全員が大なり小なりレベルアップしている。

 流石に今回のマジックアイテムの錬金は複雑で魔力も大量に使うから、良い鍛錬になったのだろう。何も敵を倒すだけが経験値稼ぎじゃない、緻密な魔力操作も良い経験値稼ぎになるんだ。

「久し振りに会えたが、全員レベルアップしているみたいで嬉しく思う。僕は直ぐにバーリンゲン王国に向かう事になるが、出した課題を全員がクリアした事に驚いている。もう少し時間が掛かるかと思っていたよ」

 猶予は二ヶ月に設定したが期限前に全員が20%以上のup率のマジックアイテムを錬金出来るとは驚いた。これは予定より早く魔導師団を立ち上げられるかな?

 教壇に立つと、レニコーン殿とリネージュさんが後ろに控えた。既に各班のデザインも確認している、個人表彰は四人で各班の班長とリプリーだ。

 デザイン受賞者は各班に均等に受賞者が居るようにと調整枠扱いだったが、今回は均等なので僕個人の好みで選ぶ事が出来る。気に入ったのはシンプルにカンムリワシをデザインした物だ、量産品だし凝った意匠は生産性を下げる。

「リーンハルト様は予定が押していて時間も無いので、直ぐに表彰式に移らせて貰うぞ」

「先ずはup率30%を錬金した四人、前に出る様に!」

 リネージュさんの呼び掛けに、シルギ嬢達が前に移動してくる。全員が誇らしげだな、あのマーリカ嬢でさえ自然な笑みを浮かべている。何か心情に変化でも有ったのかな?

 いや、今回の錬金を通じてレベルアップとは別に魔力操作や制御が向上した事による自信が付いたとか?あの人見知りで引っ込み思案のリプリーまで、自信満々だな。

 良い事だ、根拠となるモノが有る自信は色々とプラスに働く。勿論だが増長などはさせない、だが今迄に無い技術の向上を感じられたのだろうな。

 30%upを錬金した四人に約束の報酬金貨百枚を贈り、労(ねぎら)いの言葉を掛ける。今回はマーリカ嬢も変な条件は付けずに、素直に嬉しそうに金貨を貰った。

 最後にデザイン受賞者として、マンヌと言う中年男性の名前を呼んだ時の周囲より本人の驚きが凄かった。動揺したのか前に出て来るだけで、緊張で身体がガチガチだぞ。

 他の連中の様子を見ると、羨望は無くて嫉妬と驚きと……一部の若手連中から僅かに蔑みを感じる。つまり彼を蔑んでいる若手連中からすれば、自分よりも能力的に劣っているのに何故?って感じか。

 僕の魔導師団に仲違いを起こす様な連中は不要、馴れ合いしろとは言わないが、良いデザインを考えた彼を不当に扱うのは困る。

 この辺はレニコーン殿とリネージュさんに相談だな、たまにしか会わない僕よりも正当に判断してくれるだろう。不当な扱いをしてるなら、例え有能でも解雇だ。

 緊張が頂点に達したみたいに額に汗を滲ませ、身体はガチガチに固まっている。記憶を辿れば、彼は冒険者の魔術師の両親を持つ、彼自身も冒険者だった筈だ。両親は引退して悠々自適に余生を過ごしているとか……

「おめでとう、マンヌ殿。この戦士の腕輪のデザインは、君のを採用する」

「あああ、有り難う御座います。か、感激で、本当に……う、嬉しいです」

 泣かれた、金貨の入った袋を受け取った時に感極まったのか泣かれた。号泣だよ、下を向き右腕で押さえてはいるが、涙が床に垂れている。

 追加情報を思い出した!素質は高いが両親と共に冒険者をしていたので甘やかされていたらしい。両親が引退した後は一緒にのんびり暮らしていたが、将来を心配した母親が魔術師ギルド本部に相談したんだった。

 素質は高いが気弱で引っ込み思案、人見知りで押しが弱い。自立と嫁を見付ける為に、両親から此処に叩き込まれたんだった。

「その、素直に感情を表す事は良い事ですが……魔術師は常に冷静沈着でなければ駄目ですよ。先ずは顔を拭きなさい」

 僕の言葉に途中から顔を上げたが、涙と鼻水でエラい事になっている。本人もレベル33で既に一流の域に居るエリート魔術師なのに、見た目も優男風で悪くなく実家も金持ちなのに……

 彼を自立させる事は可能だ、此処で働いている時点で半分自立している。両親と同居中らしいから、独立して一人で暮らせれば完全に自立した事になる。

 だが嫁さんは……此処にも女性は数人居るが、リプリーさえも情けない男を見る目だぞ。まぁ冒険者だから、命を賭けて戦う連中だから余計に情けない姿は駄目なのだろう。

 財力と立場を考慮すれば街娘達ならば、良い縁が探せると思う。生活に苦しい人達からすれば、彼は理想の伴侶だろう。だが奥手そうだし、強引に押し進めないと駄目だろう。

 後日、更なる追加情報で彼の母親の溺愛が酷く、何件もの見合いを断り、彼が好意を寄せ始めた相手を徹底的に調査し不釣り合いと判断すれば一方的に断るらしい。

 平民だから自由恋愛も可能だが、交際すらしてない相手を調べて一方的に断るとか酷い対応だ。彼は母親が認めた相手と強制的に結婚するだろう、問題は母親の溺愛レベルがユリエル殿クラスな事だ。

 大事な一人息子の嫁を認める事が出来るか?僕は良縁でも最初は断ると思う、マンヌ殿と相手の女性の努力次第だがハードルは偉く高いだろう。

 頑張れ、マンヌ殿!負けるな、マンヌ殿!諦めるな、マンヌ殿!

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。