古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第601話

 魔術師が接近戦?着込むゴーレムとか理解不能な予想の斜め上をカッ飛ぶ魔法馬鹿に呆れを通り越して一周して感心した。ライル団長や俺達が本気で殺しに掛かっても、リーンハルトなら生き延びるだろう。

 アイツ、本当は古代の伝説級魔術師である、ツアイツ卿の生まれ変わりなんじゃないか?魔術師じゃない俺でも分かる、現代ではどう考えてもあんな馬鹿な魔術師は育たない。

 エルフ族のレティシア殿やファティ殿から、ツアイツ卿本人が使っていた古代魔法を教わったんじゃないか?サリアリス殿やユリエル殿も別格だと思ったが、リーンハルトが使う魔法は次元が違う。

 

「おぃおぃ、一国を単独で落とした義理の息子は凄いな。アレなら俺等二人が乱入しても大丈夫じゃないか?いや、大丈夫だろ。俺も今直ぐ戦いたい」

 

「いや、ライル団長が激怒するから控えた方が良い。目が爛々と輝いている、ライル団長も手加減無しの全力全開だな」

 

 あのゴーレムクィーン達だが、戦士の腕輪をしてない素の俺達と良い勝負が出来るだろう。今は三体だが全部で五体、他にもゼクス達護衛用の奴等も五体。

 護衛用と言っても、アイン達に引けを取らない性能らしい。つまり奴は俺達クラスのゴーレムを十体、他にも一線級の戦士達と変わらぬ強さのゴーレムを五百体以上運用出来る。

 今ライル団長を囲っているゴーレムビショップだが、多分だが戦士職のレベル60相当の強さだ。死なないし壊れても直ぐ直る、疲れないし文句も言わない、飯も食わない従順で屈強な兵士達か……

 

 本人の空間創造のレアギフトが軍事物資の補給を不要とする、単独で侵攻しても病まない強固な精神力。少数精鋭としてなら妖狼族を運用出来る、人間の戦士の十倍の能力を持つ奴等がマジックアイテムで強化される。

 今後の戦争は従来とは全く変わるかもな、集団戦でなく俺達みたいな個が強い連中の戦いになりそうだ。だが後継者問題が微妙だな、将軍クラスの人材不足か……

 

「俺達の見せた技を習得し模倣しやがる。悪くはない、本来の奥義とは懇切丁寧に教えて貰う事などない。見て自分で考えて会得するモノだからな」

 

「刺突三連撃は別にしても、剣撃突破に斬撃波疾走、単体で飛ばす斬撃。数回見せればゴーレムに使われるとか、若手が知ったら発狂モノだな」

 

 本人は魔術師で肉体を鍛える事は並み程度だが、体裁きは様になっている。戦いながら思考し行動する事は、流石は魔術師だと感心する。

 奴は数回の濃密な戦場で過ごした事を余す事無く吸収し自分のモノにしている。既に歴戦の勇者だな、いや英雄殿か?本人の資質だが驚くべき事だぞ。

 侵攻特化魔術師、たった一人で一軍を操り一国の戦力を擦り潰す事が可能だと国内外に知らしめた。外交での鬼札、何の準備も無く直ぐに敵国に単独侵攻出来る。脅しのネタとしては最強だな、交渉が詰まらなくなりそうだ。

 

「動きは素人よりマシな程度だが、伸縮自在の魔力刃とは面白いな。間合いを瞬時に変えてくるか、しかも爪先に魔力刃を生やした蹴りだと」

 

「良く分からないが、着込むゴーレムは魔力で操っているんだよな?自分の身体で動かしていないから、あんなアクロバティックな動きになる。しかも息切れがしない、言い方は悪いが馬に乗ってるみたいなモノか?」

 

 連続した素早い動き、普通なら身体能力と持久力を鍛えないと不可能だろう。それを可能にしたのが着込むゴーレム、魔力で操る事は奴の得意中の得意。

 究極のゴーレム、だからゴーレムキングなんだな。奴のリトルキングダム(視界の中の王国)の絶対君主、この戦場(フィールド)はリーンハルトの支配下……

 ライル団長の動きが僅かに鈍ってきた、疲れが溜まってきたんだ。殆ど息を付く暇も無い連続運動に、流石のライル団長も疲れが溜まってきたみたいだな。

 

「我慢出来無い。乱入しよう!」

 

「ああ、そうだな。既に十分は過ぎた、ルール違反にはペナルティーが必要だ」

 

 ニヤリと笑い合い、得物(ロングソード)を抜いてタイミングを見計らう。乱入のタイミングは二人が離れて息を付いた瞬間、そこに乱入して戦う。

 ライル団長には悪いが血が騒ぐ、模擬戦としてなら最高の相手であり状況だろう。あの冷静沈着なリーンハルトが、目を吊り上げ口を三角にして嗤っていやがる。

 今のヤツは本性剥き出し、闘争本能のままに動いている。こんな状態のリーンハルトと戦える機会は少ない、この絶好のチャンスを逃す事など出来無い。

 

「今だ!いくぞ」

 

「おぅ!楽しい楽しい模擬戦だ、俺達も混ぜてくれ!」

 

 魂の叫びを聞いたリーンハルトが、俺とバーナム伯爵を『奈落』で穴に落として上から巨石を大量に投げ込みやがった。しかも足元は御丁寧に『蟻地獄』って言うか流砂だ。

 コイツ、躊躇無く最悪な方法で迎え撃ちやがったな!奈落に落ちる瞬間に見た、リーンハルトの暗い笑みは忘れないぞ。何が清廉潔白で慈悲深く優しいだ、絶対に本性は性悪だぞ。間違い無く真っ黒だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 練兵場が文字通り崩壊した、大地が捲れ上がり所々が陥没している。大惨事だな、台風の後でもこうはならないだろう。人外の化け物三人と僕が、闘争本能の赴くままに破壊活動をすれば仕方無しか?

 取り敢えず大地は平滑に直す、これで八割は元通りだな。広範囲に飛び散った瓦礫や埃の始末は無理だ、諦めて整備をする連中に任せよう。しかし暴れたな、ストレスは発散出来たみたいだが……

 バーナム伯爵とデオドラ男爵が乱入した辺りからの記憶が曖昧なんだ。ゼクス五姉妹まで投入したのに引き分け、保有魔力は残り三割を切っている。後十分も戦いが長引けば負けていた、ギリギリの引き分け。

 

「大満足だ!これで勢いが付いた、直ぐにでもウルム王国に出陣したい」

 

「俺達は遊撃部隊、つまり明日出陣しても大丈夫だな。この戦士の腕輪による底上げならば、バーナム伯爵と二人でもウルム王国正規軍に勝てる」

 

「お前等だけ抜け駆けすんな!此処は聖騎士団と連携するべきだ、つまり準備を急ぐから少し待て」

 

「三人並んで突っ込んだら負ける方が不自然ですね。切り札中の切り札、僕のゴーレムキングが半壊とか中の僕も死にかけました!」

 

 この人外の化け物共め!アインにツヴァイ、ドライは無傷だがゼクス達五姉妹は傷だらけだ。護衛特化の特別製の彼女達が五人掛かりで僕を守り切れなかった。なんたる不条理、なんたる理不尽。

 ゴーレムビショップ三百体は全滅、レベル60以上の戦闘力なのに腕の一振りでバラバラに分解されるとか自信が無くなる酷さだ。

 途中から聖騎士団員達も乱入したが、彼等は僕以外のバーナム伯爵達にも襲い掛かり連携して戦い善戦しつつも全滅した。だが全員が良い笑顔をして気絶している、肉体言語を駆使した会話の結果だな。

 

 しかしバーナム伯爵達に渡した鎧兜や武器も壊れたから新しく錬金し直すしかない、レベルアップする程の激戦だった。もう座り込みたいのを何とか我慢する、この後は……

 追加の『戦士の腕輪』や魔力を付加した武器や防具を渡して今後の話し合いをする予定だけど小細工は不要かな?色々と言いたい事は有るが、予想以上に狂化……いや強化出来た。彼等は負けない、どんな相手でもだ。

 戦いの痕跡を消した後で漸く待機していた救護班が来た、真っ先に僕に群がって来たけど疲労だけで怪我は無い。魔力不足による目眩はするが、上級魔力石を使い補充すれば大丈夫だ。

 

「僕は大丈夫です。其処の人外の戦士達も無傷なので、聖騎士団員達の手当てをお願いします」

 

「お前が無傷なのが一番おかしいんだぞ!」

 

 え?なにそれ酷い。必死で防御に徹したのに、一番おかしいとか言われた。流石に傷付くぞ、少しは義理の息子を労れよ!

 

「俺達三人とガチで戦って無傷とか、お前を倒せる奴なんて居ない!」

 

「殺し切れなかった、いや倒し切れなかったのが残念だが気分は悪くないな。爽快だ、またやろうぜ?」

 

 え?今殺し切れなかったとか言ったよね?僕が最低限の配慮をしていたのに、殺すつもりの全力全開攻撃をしていたの?殺し合い?この人外の化け物戦士達はガチで僕を殺しに来ていたのか?

 バシバシと全力で背中を叩く、バーナム伯爵に愛想笑いを浮かべて返事は保留にする。鍛錬としては最高だが、毎回だと命の危険と隣り合わせだから出来れば遠慮したい。

 既に回復して笑い合っているが、僕は未だ足腰が怪しい。膝がカクカクと痙攣しているし立ってるだけで精一杯だ、情けない鍛え直すか。魔術師とはいえ基礎体力の向上は必要だ、どんな職業でも必須だね。

 

「もう限界です。少し休んでから、今後の件について話し合いをですね……」

 

「俺の屋敷に行くぞ。エロールも、リーンハルト殿に会いたがっていた。今日は聖騎士団との合同演習だから置いて来たんだ」

 

 どうやらバーナム伯爵の屋敷にて今後の話し合いをする流れだな。派閥の当主だし間違いではない、だがエロール殿との話し合いか……

 お土産に単発の魔法障壁のアミュレットでも贈るかな、彼女もバーナム伯爵に同行して戦場に出る筈だから安全確保の為に丁度良いや。

 参加者の九割以上が負傷し治療が必要になる程の模擬戦が終わったが、聖騎士団員達は大丈夫なのだろうか?一ヶ月も経たない内に出陣するのに怪我を負うとか問題行為だよな?

 

 手配されていた医療班が適切な治療を施していたが、打ち身擦り傷の他に骨折を負った者も居た筈だ。僕が固定化の魔法を施した鎧兜も少なからず壊れたので補修が必要、王都の滞在期間が延びるぞ。

 だが彼等の強化は必須だ、ウルム王国に負けるとは思わないが極力被害は減らしたい。保有魔力の関係で、今夜は三人の鎧兜を直して終わり。

 明日以降で破損具合の悪いモノから優先的に直すか、二日間で直るかな?結構厳しいか?溜めていた上級魔力石を使うしかないな、勿体無いが効率性を考えたら仕方無いよな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 練兵場から馬車でバーナム伯爵の屋敷迄は一時間程で移動出来る、大型の馬車に義父三人と一緒に乗り込む。移動中の馬車は密室と変わらない、故に密談に適している。

 常に移動しているので併走しない限りは連続して盗み聞きは出来無い、逆に僕も周囲の魔力探査の精度は低い。エレさんのギフトである『鷹の目』なら警戒は簡単なのだが……

 僕は魔法による探査だが、彼等は気配とか殺気とか別の探査方法が有る。だから防諜対策は完璧だ、凄腕の暗殺者が来ても瞬殺だろうな。このメンバーなら一軍に正面から挑んでも余裕で勝てる。

 

「旧コトプス帝国、リーマ卿の謀略だと思いますが上級貴族の中にも裏切り者が居ます。エムデン王国領内で騒ぎを起こす可能性が高い、ですが怪しい傭兵団は監視下に置いています」

 

 先ずは現状の確認、情報の共有。全員が長期に王都を離れるんだ、対策を講じてないと幾ら優勢でも足元を掬われる。

 

「そうだな。俺は聖騎士団団長として、アウレール王が召集した御前会議で聞いている。グンター侯爵とカルステン侯爵の動きが怪しい、だから先鋒に命じられたのだ」

 

「身の潔白を示す為に、ウルム王国と最前線で戦え。もしも裏切り者ならば、ウルム王国とは戦えぬ。裏切り先の兵士達と戦うなど出来ぬな、もし戦えないなら俺達が後ろから襲い掛かり尻を叩く」

 

「バニシード公爵とバセット公爵も先鋒だな。此方は汚名返上、名誉の回復と……バセット公爵はなんだ?」

 

「バセット公爵とラデンブルグ侯爵は、リーンハルト殿の出世を妬んでいる。まぁ中立まで関係を下げられた相手に力を付けさせたくないのだな。結果的に先鋒では一番の貧乏くじだ、何のメリットも無いだろ?」

 

 アウレール王の前で不用意な発言をしたと聞いている。グンター侯爵とカルステン侯爵は、バセット公爵を嵌めたんだ。敵対覚悟の発言を国王の前でした、しかも同じ先鋒として協力が必要な相手にだ。

 確かに怪しい。直ぐにバレる嘘をついてまで、バセット公爵と敵対する意味は無い。バセット公爵もラデンブルグ侯爵も焦っていた、彼等は単独で戦果をあげるしかない。

 疑いを晴らす為にもね、だから僕に強引に援助を求めた。マジックウェポン二百個、だが派閥の懐柔に使うらしい。侯爵二人とは協力しない、バニシード公爵とは敵対中。だから単独侵攻だな、厳しいだろう。

 

「侯爵二人、敵側と通じていると考えて良いでしょう。不穏な動きをしたら、バーナム伯爵達で討ち取る。それがアウレール王の考え、彼等も気付いているでしょう。問題は侯爵二人本人が出陣するかです」

 

「する、屋敷に籠もって遠隔指示など有り得ない。王命なんだぞ、王都に待機など有り得ない」

 

「バニシード公爵もバセット公爵も本人が参戦する。身の潔白を示せと暗に言われたんだ、参戦しなければ処分すら有り得る」

 

「それに裏切っているなら必ず参戦する。王都に籠もっていたら逃げ出せないし、ウルム王国側とも接触出来無い。戦時下の統制中に不審な情報の遣り取りは危険過ぎる、最悪は手勢ごと寝返るな」

 

 ふむ、王命で身の潔白を示せと言われたなら納得だ。何処かで裏切るなら、王都に籠もるよりウルム王国領内に居た方が便利だな。彼等の勢力なら戦力は最大でも千人前後、二人合わせても最大三千人には届かない。

 バニシード公爵やバセット公爵は二千人から三千人、裏切られて奇襲されたら被害は甚大。寝返りの手土産は先鋒の壊滅、だがエムデン王国の被害は軽微。

 元々裏切るかと考えて先鋒に任命したんだ。彼等が全滅しても本命は第二陣であり遊撃部隊だ、そのまま返り討ちだろう。問題はバーナム伯爵達が追い付く移動時間だけか……

 

「ならば先に出陣は控えて先鋒の直ぐ後に出陣ですね。彼等を見張る必要が有り、同時にプレッシャーもかける。ですが協力は駄目です、あくまでも別行動ですよ」

 

「まぁそうだな。王命を受けた遊撃部隊だ、先鋒と協力などせんよ」

 

「裏切る前は酷使し兵力を擦り減らせる、それが効率的だ。勿論だが煽る、煽る相手に協力など申し込めないだろ?」

 

「本来なら爵位の関係で侯爵からの頼みは無下には出来ぬ、だが王命と言う錦の御旗が有る。我等は独立遊撃部隊、先鋒との共闘は無いな」

 

 それにザスキア公爵が根回しをしているから大丈夫とか言われた。今の話も殆どがザスキア公爵からの受け売り、頼りになる女狐とか笑っている。

 流石はザスキア公爵だ、もうバーナム伯爵達を御している。掌の上で転がされている、本人達は気付いていないのが救いだな。

 政敵であるバニシード公爵は勿論だが、グンター侯爵とカルステン侯爵も潰すつもりだ。灰色の彼等だが真っ黒にする位の工作もしそうだ、その辺は後で聞いておこう。

 

「そうですか、歴史有る侯爵家も下位三家が無くなる可能性も有りか……ウルム王国から有能で歴史有る名家を幾つか婚姻外交で取り込む筈だから」

 

 万が一彼等が裏切ってなくても、消極的だし足を引っ張るだけなら冤罪でも御家断絶に追い込まれるかも知れない。これが恐ろしいドロドロの政争だな、僕も気を付けないと駄目だ。

 

 




日刊ランキング五位、有難う御座います。

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