古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第62話

 ラコック村の救世主、ゴーレム使いの魔術師の少年。

 『名有り』であろう種の限界を突破したオーク率いる群れを一人で壊滅させた凄腕の魔術師が私の膝を枕にして寝ている。

 ああ、リーンハルト君って睫毛が細くて長いのね、母親似なのかしら?

 私が彼の膝を枕にして寝ていた筈なのに何時の間にか相手がゴーレムに変わっていた。

 朝日が昇ってから色々と村の復興を手伝っていたみたい。

 瓦礫の撤去とかゴーレムって便利よね、力強いし黙々と働くし……ああ、元々ゴーレムは喋れないわね。

 

「だから無言兵団ね……リーンハルト君は伝説の魔術師であるツアイツ卿に憧れているのかしら?」

 

 彼が率いていたゴーレム兵団と同じ名前、彼が多用していた包囲陣を使い熟す。

 同じゴーレム使いとして過去の偉人に憧れているなんて大人びている割には年相応の可愛い所が有るのね。

 

「何かしら?」

 

 妙に気合いの入った服を着た少女を睨みつける。

 

「いえ、何でも有りません……」

 

 全く疲れて寝ているリーンハルト君とお近付きになりたい年頃の少女達が多くて困る。気持ちは分かるけどね……

 この若さで強い魔術師、見た目も悪くないし優しいしお金持ちだし。目の前の広場には彼が倒したオーク達が集められている。

 これだけの戦果なら結構なお金になるだろう。

 しかも『名有り』まで倒しているし、アレって何て名前を付けられているのかしら?

 村の英雄って事も足されて彼は村の女の子から熱い視線を送られているわ。

 こんな辺鄙な村の貧しい生活から一気に抜け出すには彼の寵愛を受ければ良いから。

 彼女達にとってはビッグチャンスよね。だから何とかして彼との接点が作りたくて手を尽くすのだけど……

 

 全部私が叩き落としてるけどね!

 

「冒険者ギルド本部の職員が来るまで待たないと駄目なんて……早く帰ってお風呂に入りたいわ」

 

 アレ?私って臭くないかな?リーンハルト君を膝枕してるけど、私臭い女とか思われてないわよね?

 クンクンと嗅いでみたけど大丈夫みたい、良かったわ。

 目の前で炊き出しが行われているけど、アレも彼が空間創造から取り出した簡易食を村の奥様方が調理して粥に作り直している。

 ポンッと二百食も出せるなんて何食分ストックしてるのかしら?

 

「ん、んぁ……あふ……あれ?ウィンディア?」

 

 どうやら起きたかな、目を擦って欠伸を噛み殺して子供みたい。

 

「おはよう、リーンハルト君。そろそろお昼ご飯が出来上がるみたいだよ」

 

 未だ眠いのか頭がふらふら動いてるわよ。

 

「何で僕はウィンディアに膝枕されてたの?」

 

「リーンハルト君が地面で寝てたからよ。村の救世主が地面で寝てたら駄目じゃない、だから膝枕したの!特別待遇なんだから感謝してよね」

 

 呆れたわ、あのままだったら誰かにお持ち帰りされてたわよ。嘘とはいえ男女の関係になったら醜聞をネタに集られる心配も有るんだから……

 辺境に生きる人達は強かだから命の恩人だろうが利用しようって奴は多いの。全く用心深いかと思えば甘いんだから!

 

「む、そうなのか?すまない、有り難う。良い匂いだな、お腹が空いたよ」

 

 全く何故謝ってからお礼なんだか……でも良い匂いね、私もお腹が空いたわね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 午後一番に王都の冒険者ギルド本部から職員が到着したので村長の家で話し合いになった。

 村長とタリアさん、マークさんにゴーンと僕達で六人がテーブルを挟んで向かい合っている。

 因みにギルド本部から来たのはクラークさんと言って幹部職員らしく他にも何人か引き連れて来た。

 あと護衛として如何にも強そうな連中が二十人。その人達は村人への聞き込みや周辺の残党狩り、倒したオーク達の査定とかするそうだ。

 タリアさんの用意してくれたお茶を飲んで軽く自己紹介をする。僕等はキッチリとギルドカードの提示も求められたが……

 

「では先ず状況の説明をお願い出来ますか?」

 

 クラークさんが仕切りの元に事情聴取が始まった……

 

 村長の説明に何ヶ所かタリアさんとマークさんから修正が入ったけど概ねその通りだ。ゴーンも証言したが正直に全てを説明している。

 応援要請を拒んだり最後に村人を見捨てて傍観してた事もだ……

 彼は心が折れてしまったのかもしれない。次にウィンディア、最後に僕の順番で全てを話し終えるのに一時間近く掛かったかな?

 

「ふぅ……全く危ない状況でしたね。リーンハルト君達が居なければラコック村は全滅してましたよ。

あのオークリーダーは『錆肌(さびはだ)』と呼ばれている『名有り』ですが、既に三つの村が奴に襲われています。

近々討伐の依頼を冒険者ギルド本部が出す予定だったのですが、その前に倒されるとは……」

 

 やはり『名有り』だったか、だが昔とった杵柄!強い個体を包囲して戦う円殺陣は有効だな。

 

「確かに『ファング』さん達に言われなかったらリーンハルト君達を村に引き止めなかったわ。

見た目は子供だし危ない状況だったから普通は村から早く出て行く様に言うわよね」

 

 一番のお手柄は彼女だろう、僕等は頼まれなければ素通りするつもりだったのに、彼女が強引に僕等を巻き込んだんだ。

 

「全滅したパーティですね……さて、『ブレイクフリー』は指名依頼を請けていた筈ですが、其方の方は?」

 

 む、通りすがりで村人の緊急要請に応じた事で話を進めた筈なのに、僕等の事も調べていたのか?

 無表情に僕等を見つめるクラークさんに対して警戒を強くする、今聞く質問じゃないし……

 

「達成済です、タクラマカン平原でのビックビー討伐依頼は二つの巣を討伐しました」

 

 クラークさんは芝居掛かったみたいに驚いてくれたが胡散臭い。

 

「ほぅ?依頼から二日ですが二つも?女王の結晶を見せて貰っても宜しいですか?」

 

 拒否する必要も無いので素直に空間創造から結晶を二つ取り出しテーブルに乗せる。

 タリアさんが「凄く綺麗な石ね……」とかため息をついていたが譲れませんよ、依頼品なので。

 

「確かに、小ぶりですが質は良さそうですね。それで女王以外のビックビー達は?」

 

「粗方倒しました、討伐証明部位も有ります」

 

 毒針の山をテーブルに乗せる、全部で258本大量だ。

 

「ふむ、二百本以上有りそうですね。確かに指名依頼を請けて達成後にラコック村に偶然立ち寄った。

君達と『ファング』達が行きに接触していたのを何人かが見てましたので確認です、気を悪くしないで下さい。

さて……」

 

 僅かな時間でソコまで調べてから来たのか?いや、クラークさんは僕に関わる事を重点的に調べて来たな。

 確かに行きに『ファング』さん達に絡まれたが、そこに事件性を感じた?クラークさんは咳払いをして間を置いた、これからが本題だな……

 

「此処からは大人の提案です。

今回の件は冒険者ギルドとラコック村の両方に問題が有ります。我々は適正な人材を派遣出来ずゴーンさんの不手際。

村長は領主と代官への対応の悪さ、どちらも一歩間違えれば村は壊滅と言う最悪な事態でした。

そこで提案ですが……

最初から『ブレイクフリー』は村長とゴーンさんからの依頼を請けた事にして欲しいのです。

言い方は悪いのですが、タリアさんからの私的な依頼では弱いのですよ」

 

 あー、うん。確かにそうだ、ゴーンが戦力不足を助言し村長が僕等に依頼を出した……

 そして翌日には王都ギルド本部から増援が来ているなら悪くない筋書だ。でもそれだと……

 

「すみませんが僕はあまり目立ちたくは……」

 

 僕の言葉をクラークさんは手で遮る。

 

「いえ、駄目です。『ブレイクフリー』のリーンハルト君は今回の件について大々的に広めます」

 

「何故ですか?今回の件はフーガ伯爵の領地の出来事で、僕等はバーレイ男爵とデオドラ男爵の関係者ですよ。

フーガ伯爵が自分の領地の不祥事を派閥違いの僕等が解決したと知ったら……」

 

 父上やデオドラ男爵に迷惑が掛かってしまうのではないのか?それを口実に何かをする連中は必ず居る筈だ。

 貴族にとって他人の失敗は格好のネタだ、勢力争いに積極的に利用してくるだろう。

 

「リーンハルト君、君なりに色々と考えているんだね。

私はオールドマン代表から直接、君をバックアップする様に言われているんだよ。

Fランクの新人がビックビーを巣ごと討伐し『錆肌』の群を一人で壊滅させた。

凄い事だが冒険者ギルドのCランク以上なら同じ事が出来る連中が沢山いる。

そんな連中を差し置いて君を優遇するには、第三者にも分かり易い成果が必要なんだ!

今回の件は申し分無い成果だよ、Dランクのパーティを複数壊滅させた『錆肌』率いるオーク二十六匹を一人で倒しラコック村を救った。

デオドラ男爵からの指名依頼のビックビーの巣を二つも討伐し、隠しているのだろうが『口裂け』も君が倒したんだろ?

『ザルツの銀狐』から聞いている、悪いが彼等の実力では幾つもの幸運が重なっても無理だ。

パーティの女性が白状したよ、罰則にはしなかったが他人の成果を奪うのは良くない事だよ」

 

 クラークさんは僕の目を見詰めながら噛んで含める様に説明してくれた。

 便宜を図るにしても実力を示さないと理由が立たないって事か……

 理由無き優遇は依怙贔屓と思われてしまう、冒険者ギルドは基本的に実力主義だから力も無いのに優遇する訳にはいかない。

 シルバーさん達には悪い事をしてしまった、きっと『口裂け』は自分達が倒したと自慢し捲ったと思うんだ。

 

「分かったね?

リーンハルト君は一回の探索で『口裂け』と『錆肌』と奴等が率いていたゴブリンとオークの群を討伐したんだ。

もうFランクの扱いは出来ない、君は今回の件で直ぐにDランクになる。

これは優遇じゃない、指名依頼と緊急依頼を達成し『名有り』を二匹倒した。

他の討伐証明部位を合わせて考えても優に30ポイントは越えているからね。

ウィンディアさんはEランクだよ、悪いがオークの討伐証明部位のポイントは君には加算されない」

 

 冒険者養成学校に通いDランクになったら卒業する予定が半月で達成とはな……

 だがDランクになってまで学校に通うのは不自然だ、自主的に卒業するしかないだろう。

 

「凄いじゃない、リーンハルト君!Dランクだよ、冒険者として一人前と認められたんだよ!」

 

「ああ、僕だけ先にDランクになって悪いな。でも、これで冒険者養成学校に通う理由が無くなった。来週にでも自主的に卒業だ」

 

 まだ盗賊ギルドから派遣された最後の子に会ってもいないのに早々と卒業か……何だか寂しいな。

 

「それに目立つと言っても前例は有りますから大丈夫でしょう。

近年で駆け出し冒険者が活躍した例ですと、ワイバーン三頭を一人で倒した『豪槍のカディナ』カフラン砦攻防戦でトロール十三匹を倒した『炎熱のルナル』オーガーの群を倒した『疾風のナーガス』が居ますから、リーンハルト君は四番目ですね。

まだ二つ名は無いですが、名乗るなら早めにしないと勝手に付けられますよ。あくまでも通り名ですから周りが認知した方が適用されます。私なら……」

 

 天井を向いて考え始めたが、冒険者ギルドの幹部が名付け親になったら、それが通り名になるだろ!だから何も言わないでくれ。

 

「いえ、結構です!要りません、二つ名なんて不要ですよ、恥ずかしい」

 

「そうですか……でも早く決めないと手遅れになりますよ。

『オーク殺し』とか『ビーハンター』とか初期の手柄を名に冠すると後々で恥ずかしい思いをしますよ。

過去にゴブリンのみを倒してDランクまで上がった人は『ゴブリンハンター』って言われて嘆いてました。

今じゃオークやトロールも倒せるのに通り名が最弱モンスター専門ハンターですよ」

 

 それは嫌だな……でも絶対嫌がらせの類だろ!

 

「リーンハルト君はゴーレム使いだから『悪魔の人形使い』とか!」

 

「いえ、それなら『殺戮絡繰師』とかよ!」

 

 ウィンディア、タリアさん?君達の抱く僕のイメージってそれ?


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