古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

620 / 1000
じゃもの様 赤マティー様 KAIN様 ぬおー様 うたたね猫様 活字大好き様 bigbig様 vari様 hena様 ぶるぱん様 なや様 唯一王様 mais20様 PONPONPON様 XION1016様 アルシラート様 オロゴン様 トマス二世様 ポポイ様  malibog様 nyurupon様 八俣様 oouo様 黒帽子様 kN_tyata様 satuki616様 イルイル様 福來様 緑のたぬき様 pizza-kozo様 和三本様 takaken様 春眠暁様 杏鈴様 ポポイ様 mini8様 御剣 政樹様 ゆくい様 みけーネン様 かとにゃん様 Deartagnan様 neck_opfn様 malibog様 daTeyaMa様 シン様 Xi_GR648様 八雲叢雲様 

誤字脱字報告有難う御座います、本当に助かります。


第614話

 フルフの街に到着した。新しい代官である、イマルタ殿よりも各ギルドの支部長の方が力関係が上な感じがした。つまり新生バーリンゲン王国は、既存の各ギルドとの調整に手間取っている。

 国家権力に幅を利かせられる程、各ギルドの力が上回ったか、バーリンゲン王国の力が落ちてしまったのか?現状の力関係は理解しておく必要が有る。

 一休みした後に、エムデン王国の各ギルド本部経由で依頼した三人の元殿下の所在確認の報告がしたいと申し込みが有ったので許可した。

 当初の想像の通りに、僕とザスキア公爵は砦内部の貴賓室に案内をされた。ザスキア公爵の配下の兵達は城下町の宿屋に分散して泊まる事になる。

 まぁ問題は無いし想定通りだ。世話役のメイドや精鋭の護衛達は砦内部の部屋を与えられたし、そもそも僕やアイン達の守りを抜ける者など居ない。

 一時間後に来客用の広間に各ギルドの支部長達が訪ねて来る。部屋は、イマルタ殿が指定したらしい。密室は嫌なのだろう、情報収集も兼ねた大部屋だが此方への配慮は無しか?

「国内勢力の掌握に手こずっているみたいね。幾ら各国に跨がって活動する、各ギルドだからと言っても出しゃばり過ぎだわ」

 ザスキア公爵に宛がわれた部屋に来て今後の対応を相談する。内装は前回と変わっていない、花瓶に活けられた生花は真っ赤な薔薇だよ。高級だが花言葉は情熱だぞ、何を僕等に求めた?

 フカフカなソファーは最高級品だし、用意された紅茶や焼き菓子も茶器も同じく最高級品。開け放たれた窓からは心地良い風が吹いている、普通に最上級な持て成しだな。

 基本的に僕等は、パゥルム女王政権を支持し搾取する。だから簡単に政権が奪われては困る、だが現状は厳しい。期待してはいなかったが、アブドルの街も落とせていない。つまり僕が引き上げた時と状況に変わりは無い。

 それどころか劣勢だよ、元殿下達は時間を与えれば戦力を整えてくる。辺境の少数部族を懐柔し取り込まれたら、泥沼の内戦に突入だな。

 部族間抗争など他国の僕では調停など不可能、倒すしかない。つまり全部敵だ。諍いを繰り返し起こす少数部族など殲滅した方が統治はし易いが、反面根強い反発も生む。

 非情で力で押さえ込む統治は、大抵長続きしない。敵対している少数部族達が、危機感から手を組む可能性も有る。だから殲滅は悪手だし、僕だって残酷な事は嫌だ。

 甘い甘くないじゃなくて、極端な方法に走る前に他にも手段は有るだろうし探す努力はする。自国民を守る為には、それしか手段が無ければ実行する。それが軍属に身を置く者の責務だから……

「元々小国だった、バーリンゲン王国は国力が弱い。同じく各ギルドも、エムデン王国に比べたら規模は弱小です。とても国家に逆らえるとは思えない」

「そうよ。ギルドの支部長でも、貴族であるイマルタ殿には配慮が必要な筈なのに、大した配慮はしていなかったわ。仮に本人が無能でも、背後にはバーリンゲン王国が控えているのによ」

 離れた馬車の中に居た筈なのに、僕等の会話やその時の表情や仕草も事細かく報告を受けているのだろう。流石だと思う、何時の間に知ったのか近くに居たのに分からないんだ。

 これが情報を扱う事に長けた、ザスキア公爵の真骨頂なのだろう。直接的な武力よりも、時には情報の方が有効な事は多々ある。そんな彼女が味方で良かった、本当に良かった。

「殺戮王女の耳にでも入れば、それなりの問題になる。ですが、イマルタ殿が軽く扱われても我慢していた理由は何でしょうか?」

 仮にも代官に任命される程の貴族が、ギルドの支部長とは言え平民に軽く扱われても睨むだけで済ます。理由がなければ、イマルタ殿の貴族としての矜持を疑う。

「懐柔されたか、賄賂を受け取ったのか?本人じゃなくても、その上司が買収されて配下の代官に配慮しろと厳命した。本人は恩恵が無いから、我慢はしても表情に出てしまった……とかかしらね」

 なる程、単純な力関係よりは納得出来る。上司の命令で嫌々配慮するが、感情は隠せなくて睨んでしまう。有り得る、板挟みの感情なら納得出来る。

 だが仮にも代官となれば、領主か所属する派閥の上位貴族か。相手の選定は絞れるだろう、買収に応じる貴族など普通に警戒が必要な相手だよ。

 それが暫定的に僕等側に付いた各ギルドに靡いた貴族とは言え、簒奪直後の不安定政権でフラフラする相手は特に信用出来ない。でも今は、その人物が分かれば良いかな。

「どちらにしても信用度が低い相手が分かれば良いですね。買収に応じ易いなら使い方は色々有ります、亡国に忠誠を誓う輩よりは万倍もマシでしょう」

「蝙蝠外交を繰り返していた国の貴族ですから、同じ様な考えに染まった愚か者達よね。まぁ確かに使い道は有るから、私達の為に利用しましょう」

 良い笑顔でお互い笑っているが、クリスは無関心だから誰もドン引きしないので少し寂しい。イーリンやセシリアの、あの引き攣った顔は見ていて楽しかったのだが……いや、僕も大分真っ黒になったものだな。

◇◇◇◇◇◇

「お時間を頂き有り難う御座います。リーンハルト様」

「早速報告させて頂いても宜しいでしょうか?」

 来客用の広間には、既に四人が待機していた。ヤールデイル殿にリリーデイル殿、メッス殿の他に一人。多分だが彼が盗賊ギルドの誰かだな、調査の主体は盗賊ギルドだから報告も直接したいだろう。

 ダンスホールとしても使える大広間の真ん中に不自然に配置された応接セット、少し離れた場所には三人のメイドが控えている。彼女達の誰かが、イマルタ殿が忍ばせた諜報員だろう。

 この中に敵側の間者が居れば情報が筒抜けなのだが、機密の報告を此処でさせるとか困ったものだな。普通に考えても分かるだろ、高い金を払って調べさせた情報をバーリンゲン王国側に漏洩させる気か?敵の内通者や間者だって居るかもしれないんだぞ。

「一応機密情報扱いにして欲しい情報なのだが、此処で口頭説明ですか?質疑には直ぐに答えて欲しいのですが、報告まで口頭では……些か不用心だと思いませんか?」

 そうは思わないですか?と更に念を押して聞いた時に、この場に居る全員が愛想笑いのまま固まった。僕の危惧と彼等の危惧は微妙に違うかも知れないが、さり気なく見ていたメイド達の内の右側の一人が僅かに動揺した。

 つまりイマルタ殿が差し向けた諜報員は彼女で、僕はイマルタ殿をひいてはバーリンゲン王国を信用していないと感じたのだろう。国家ではなく民間のギルドに情報収集を依頼した位だし……

 そしてヤールデイル殿達も不用心さに思い至ったのだろう。幾らイマルタ殿が手配したといっても、この状況なら書簡で報告とか他の手段は有った。だが其処まで考えが至らなくて、僕の不興を買ったと感じたな。

「申し訳有りませんでした。確かに、リーンハルト様を心配させる程の不用心さでした」

「少なくとも場所を指定されても、人払いや見張りを配置する位はして下さい。全員がパゥルム女王側に付いた訳ではないのですから、警戒は必要なのですよ」

 直接付いて行く行動力は無くとも、心情的には向こうに味方する連中は必ず居る。パゥルム女王は簒奪は成功したが、貴族や民衆の完全なる支持を受けてはいない。

 向こうは正規兵三千人と宮廷魔術師団員の半数以上を連れて行った男性王族だ、女王よりも優先する奴等は残念ながら多い。男尊女卑は思った以上に根深い。

 それは人間至上主義も同じだ。その意識を取り除くのは容易ではない、数は減らせるだろうが全く無くす事は不可能だ。何処かで妥協し折り合いを付けないと、無駄な労力ばかりが増える。

 暫く待つと人払いを終えて出入口や窓の外側のベランダにも、盗賊ギルドと冒険者ギルドの構成員らしき連中が見張り番として配置された。全員がレベル30前後の精鋭だな、本気度が分かる。

 メイドから報告が行ったのだろう、イマルタ殿からの抗議は機密情報ですからと一蹴した。やはり僕の行動や各ギルドの動き等の情報収集をしろって言われてるな。

 本人が直接僕に文句を言って来る事に、彼の焦りを感じた。やはり上から言われているんだな、そして僕より上に配慮し直接文句を言って来た。

 本来ならどちらに配慮するか分かるだろうに、属国化しても宗主国のエムデン王国よりも自国の上司の命令を優先するとはな。

 舐められているのか、罰は与えられないと高を括っているのか、イマルタ殿は信用に値しない下っ端だと判断して良いだろう。腹の中で何を考えていようと、顔や態度には出さないのが有能な者だよ。

 これからも殆ど付き合いなど無い通り道の街の領主だが、彼に命令したのは誰だろう?パゥルム女王かミッテルト王女か?それとも他の誰かなのか?

 自分も魔力探査にて間者が居ない事を確認して漸く安心して報告を聞く事が出来る。さて、バーリンゲン王国の盗賊ギルドの諜報能力はどれ位だろうか?

◇◇◇◇◇◇

 仕切り直しをして防諜対策を施し、漸く報告を聞く事が出来る。これだけ防諜対策をしても、ザスキア公爵には情報が流れそうで怖い。

 多分だが僕の知らないギフトとかスキルとかの所有者が配下に居るのだろう。エムデン王国の冒険者ギルド本部に所属する『無意識』とかも凄かった、存在を感じないんだ。

 多分だが他人の認識に干渉していると思う。だから何をしても無駄だな、居ても当たり前とか思ってしまえば防諜対策や魔力探査など意味が無い。

「では報告を聞きましょう。三人の元殿下達の所在は掴めましたか?」

「はい。私は盗賊ギルド本部より遣わされた、クルシホスです。先ずは長兄のクリッペンですが、アブドルの街の領主の館に居ます。領民に対して定期的に正当な後継者は自分であり、パゥルム女王は親殺しの悪辣な簒奪者だと公言しています。一応ですが、配下の兵には規律を重んじさせて領民に対して無体な事はしていません」

 ん?レズンの街では領民から資産や食料を略奪し逃げ出したのに、アブドルの街では一応領民には配慮しているのか?後が無いと焦っていると思ったが、領民を味方に付ける為の演説までしている。

 矛盾してないか?自分の影の護衛達を捨て駒にして、僕の暗殺を目論んだ奇策を用いる奴だと思ったが、今回は領民を味方に付け様とする有る意味正統派な作戦を進めている。

 行動がブレブレだな。領民を味方に付けるなら、最大規模のレズンの街の方が効果的だったろう。まぁ居残っていたら、僕に倒されたから逃げ出したのは正解だったけど……

「街の様子は?領民達は、クリッペンを支持しているのかな?」

「街の出入りは制限はされていますが可能、今は落ち着いています。守備兵は全て、クリッペンに協力しています。守備兵の隊長である、クロックスはクリッペンの側室の兄でしたし配下も血族で固めています」

 つまり王族の外戚か……その守備兵も元々クリッペンの配下達だったから、信用出来る連中の所に逃げ込んだなら辻褄は合う。ハイディアの街の守備隊長のレガーヌ殿は、クリッペンが逆賊と聞いて反抗した。

 派閥違いだったのか、個人でなく国に忠誠を捧げていたのか、イルマ嬢を奪われた復讐かは分からない。だが反抗されたから、クリッペンは僕に罠を張り逃げ出した。逃げ込んだ先は、自分の外戚で固めていた。

 段々と道筋が繋がって来た、新しい情報も多い。ザスキア公爵に情報を渡せば、更に精度の高い予想が出来るだろう。だが戦時中で逃げ込んだ割には警戒が緩い、街の出入りが自由とか防諜対策はどうした?

「それと伝令兵が十七騎、アブドルの街から二人の弟達、コーマとザボンの所に数日おきに向かいましたが戻って来たのは八騎です。それと交渉役と思われる貴族を乗せた馬車も二台街を出ましたが、帰って来たのは一台です」

 戻りが半数とは微妙だな……送った先で捕縛されたか、途中で第三者に捕縛されたか?馬車が二台とは、コーマとザボンの両方に使者を送ったと考えて良いだろう。

 伝令兵は最初に書簡の遣り取りをして、その後に交渉役を送ったと思うが、伝令兵も半数が帰って来ない。何故だ?スピーギ族みたいに辺境の少数部族が略奪に動いているのか?

「アブドルの街に入り込んで来る連中に、コーマとザボンからの伝令兵らしき者は居ましたか?」

「いえ、正規兵の装備を纏った者達は、クリッペンの配下だけです。ですが商人や旅人に変装されては分かりません。領主の館には結構な人数の商人や旅装束の連中が出入りをしています」

 スピーギ族に捕まっていた商人達と同じかな?悪どい連中は双方と商売して物資を売り、戦いを長引かせるとも聞く。

 戦争とは消費の方が圧倒的に多いからな。不足しがちな物資は持ち込むだけ高値で売れるだろう、だから危険でも還元率の高い事をする。

 そしてその利益に群がる一部の軍人が、彼等に協力するから無くならないんだ。軍規が厳しくモラルの高い、エムデン王国でも起こる事だし……

「商人か……儲かるのなら現政権と敵対する相手とも手を組むと言うのだな。何とも商魂逞しいが、止めさせないと戦いが長引く。だが包囲網は敷けないし、敷いても抜け道は幾らでも有るだろう。敵には地の利が有る」

「そのお陰で、我等の諜報員が僅かな物資を持ち込む事で出入りが可能なのです。領民には厭戦気分が蔓延していますが、本来街を守る守備隊がクリッペンに付いたので嫌々ながらも従っています」

 レズンの街やハイディアの街とは条件が違う。二つの街は守備隊は此方側に味方したが、今回は完全な敵。クリッペンを捕縛するか殺害しても素直に降伏するか?

 コーマとザボンを頼って逃げ出す可能性が高い。つまりアブドルの街を守る戦力が必要だが、既に攻略している戦力が有る筈だから任せる。

 つまり敵は千五百人前後が籠もる城塞都市、問題は無いが領民の被害は多少なりとも発生する。現在攻略している、パゥルム女王派の連中との調整は必要。

 だが無理な戦力差じゃない。クリッペンは周囲に自分に従う貴族と精鋭兵を集めて守りを固めている筈だから、城壁を守る連中は下級貴族の隊長クラスと平民の一般兵。

 頭を潰せば逃げるか降伏するか、死兵となり全滅覚悟の敵討ちは無い。最悪は自暴自棄となり、略奪して逃亡。速やかにパゥルム女王派の兵士を街の中に入れる必要が有るな……

 パゥルム女王との交渉に、この事は現場での僕の判断に委ねると念押しをしないと後で問題になり枷となる。自国の兵士も民衆も被害は最小限にとお願いされるだろうが、兵士は無理だぞ。

「そうですか、アブドルの街とクリッペンの事は分かりました。では残りの二人、コーマとザボンの事を教えて下さい」

 アブドルの街は予定通りに、僕とクリスで奇襲しクリッペンと臣従した兵士達を倒す。敵戦力を擦り潰してからの降伏勧告、末端の一般兵は武装を解除させて受け入れる。

 もっともミッテルト王女が無条件で受け入れるとは思えない。それなりの罰を与えるだろうが、その件については関与しない。内政干渉だし、僕が絡めば痼(しこ)りを残す。

 正直に言えば勝手にやってくれ、僕を粛清に巻き込まないで欲しい。だが予想より状況は悪くない、時間を無駄にしない為にも速攻で倒そう。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。