古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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予定通り本日から5/6(日)まで連続投稿を行いますので宜しくお願いします。


第625話

 アブドルの街の攻略に成功。クリスと二人で深夜に襲撃し、クリッペンと彼に付いた正規兵及び縁戚関係の守備兵も倒した。

 クリッペンは再起を図ってはいなかった。逃げ込んだ街で配下の連中と共に好き勝手していただけだ。財貨の略奪に女性達への狼藉、最悪の流れだ。

 幸いと言って良いかは微妙だが、当初は守備兵は全員がクリッペン派だと思っていたが、実は少数で残りはマトモだった。

 これは攫われた女性達の証言だから信憑性が有る、被害者が加害者を庇う事は無い。状況的に仕方無く、クリッペンに従ったのだろう。権力と武力を併せ持つ相手に拒絶は難しい、簡単に処刑されてしまうだろう。

 生き残りは四百人程度は居るので、ダッケルク伯爵の攻略部隊の残存兵力と合わせれば一応の戦力となり、アブドルの街を守るには十分な戦力だろう。

 問題は負け続けている、ダッケルク伯爵の面子だな。彼の部隊に被害を与えた、ストライスと軽騎兵隊は全員が早々と逃げ出している。見事な状況把握と判断力だ。

 故に名誉の回復も汚名の返上も出来ない。その辻褄合わせを残された守備兵に向けられては困る、居なければ自分が困るのだが面子の関係で処罰とか平気でやりそうだ。

 それが面子を重んじる貴族なのだが、この国の貴族連中は短絡的過ぎる。他の方法を探すとかはしない、その場を取り繕うだけの悪手を平気で打つ。

 本来なら討伐隊を組んで自ら指揮し、ストライスと軽騎兵隊を討つのだが……彼は絶対にやらないな、そんな苦労はしない。逆にヤルと言い出したら止める、街の維持と管理が本来の任務だから疎かにするな!

◇◇◇◇◇◇

 三十分程で、守備兵の副隊長の二人が領主の館にやって来た。鎧は着込んでいるが武器は持っていない、既に状況は把握しているのだろう。

 大広間を臨時の打合せ室として解放し壁際にゴーレムナイトを並べてそれらしく体裁を整えた。流石に二人じゃ寂しいし締まらない。僕の側に、クリスとアインが護衛として立っている。

 武人としての技量は中々なのだろう、クリスを異様に警戒したのは彼女の戦闘力を肌で感じ取ったのか?付いた血こそ拭ったが、身体に染み付いた濃い血の匂いは取れていないのだから……

「アブドルの街の守備隊、副隊長のミグニズです。アブドルの街を解放して頂き、誠に感謝しています」

「同じく副隊長のブングルです。街を守り切れず、クリッペンの横暴に屈した事は全て我等二人の責任。我等が命にて償いますので、配下の兵達には温情を頂きたい」

 そう言うと、深々と頭を下げた。潔(いさぎよ)い、自分達二人の命を持って部下の罪を軽くして欲しいか。無罪放免じゃなく減刑、その控え目な主張も気に入った。

 この二人、当たりだな。ダッケルク伯爵の面子の為に処分するのは惜しい。非武装も罰を受ける覚悟の現れか、漸くこの国で武人らしい武人を見たぞ。

 改めて見れば、ミグニズ殿は五十歳前後。恰幅の有る落ち着いた感じだが、筋肉が凄いパワータイプ。右眉から耳に掛けての裂傷が凄い、歴戦の古強者だな。

 逆にブングル殿は二十代半ばと若い、中肉中背のバランスタイプか?結構な色男だが髪は短くボサボサで身嗜みに気を使わないタイプかな?あと攫われた女性の兄は年齢的に、ブングル殿だな。

「主犯たる逆賊クリッペン及び親族共は全て倒した。だが未だ彼等に協力し私腹を肥やした連中は野放しだ。君達の贖罪は、その連中の捕縛だ。

奴等に朝日を拝ませる前に僕の前に連れて来る事、それで処罰は無しだ。君達はアブドルの街の維持と管理に必要、失う事は無駄でしかない。今後も任務に励んでくれ」

 現地の守備兵の扱いと人事権は、パゥルム女王から貰っている。彼女も少ない兵力を補いたいので、片っ端から全滅は困るんだ。

 だが前回みたいに条件は付けられない。だからお願いと言う形を取り、更に僕に現地での人事権を与えた。つまり再雇用の権利が僕には有る、だから交渉も条件を決められる。

 勿論だが極端な好条件の提示や、裏切りが濃厚な連中。程度が低く、自軍に引き入れるメリットが無い連中は除外だ。

 勿論だが短期間で人となりを確認し信用が置けるのかの判断は難しい、今回は略奪に参加せず領民からの嘆願も有ったから採用したんだ。

「しかし、それでは納得が出来ない連中も居ます」

「誰かが責任を取らねば収まりません!」

 結構な迫力で怒鳴られたと言うか叫ばれたと言うか……正義感は強いが頭が固く応用は苦手なタイプ、愚直なのだが好感は持てる。命を賭けれるだけの信念も有る、信用しても大丈夫だな。

 あと多分だが、ブングル殿の妹殿とクリッペンに襲われていた下級貴族の令嬢が部屋の入口から此方を伺っている。扉は解放しているが、顔半分だけ覗かせて……

 ああ、引っ込んだけどバレバレだぞ。この状況での覗きは悪事とか言わないが、軍事行動の最中だから民間人とは距離を置かないと駄目なんだ。主に情報の秘匿関連でね。

「責任を果たしたいのなら、生きて今後もアブドルの街を守る事を優先して下さい。死は逃げ出す事と同じと思われる場合も有る、この街の復興は大変でしょう。

生き恥を晒すと言うなら、それが罰です。それにブングル殿の妹殿が心配しています。僕は彼女達に助けられたので、その功績を持って貴方達の罪を問わない。バーリンゲン王国にも口出しはさせない、以上です」

 パンパンと手を叩いて話は終わりだとアピールする。そして早朝に、ザスキア公爵とエムデン王国軍。そして、ダッケルク伯爵を街に入れると指示を出す。

 ダッケルク伯爵には、クリッペンの協力者達を引き渡して彼の失態の帳尻合わせを行う事にする。勿論だが事実は、パゥルム女王に報告する。

 渋々と退室する男二人と、此方に頭を下げる女性二人。もしかして、あの下級貴族の令嬢は、ミグニズ殿の関係者かな?合流した時の距離感が近い、親子だったのか?偶然って凄い、関係者だらけだよ。

◇◇◇◇◇◇

 ザスキア公爵に途中経過を報告し、アブドルの街に迎え入れる時間を早朝七時と決めた。あの後、守備隊の活躍により逆賊クリッペンに協力した者は全て捕らえた。

 基本的には縁戚関係の者が殆どだったが、商人や職人なども居た。遅ればせながら各ギルド支部の支部長と幹部も合流したので、捕縛の手伝いをさせた。彼等にも手柄が必要だから。

 時刻通りに城塞の正門を解放し、ザスキア公爵と配下の精鋭達を招き入れる。その後に、ダッケルク伯爵と数名の側近の同行を許可した。

 攻略部隊は未だ街には入れない。細かい決め事を司令官である、ダッケルク伯爵と結ばないと危険過ぎる。領民の扱いと街中での振る舞い方、乱暴狼藉を働いた時の処罰。

 これを取り決めておかないと、守備隊は受け入れた攻略部隊の行動を制限出来ずに取り締まれない。結構居るんだよ、攻略した街で好き勝手する馬鹿な連中が……

 だから乱暴狼藉を働いた奴等は極刑、守備隊に攻略部隊の逮捕権も与える。治安維持の為には、これを取り決めて通達しないと駄目だ。揉めるとは思うがゴリ押しする。

 あと一つ、守備隊と各ギルド支部の支部長達に仕込みをしておいた。ギルド支部経由で守備隊の副隊長に繋ぎを取り、城塞都市の内部に侵入する手引きをして貰ったと……

 僕が錬金術により地中にトンネルを掘り侵入した事は未だ秘密にしたい。だから誤情報を与えて裏切り行為の防止に力を注がせる。

 敵には全く無関係な事に労力を使わせたい事と、ミグニズ殿とブングル殿の立場を固める事だ。功労者なら反逆者として扱えない、単純だが効果的だ。

 もっとも、ザスキア公爵は手柄の分配だと怒るかもしれない。だが彼等が復興の鍵だ、ダッケルク伯爵はイマイチ信用出来ないんだよな。此方側に残された人材は能力も性格も微妙なんだよ。

 各城塞都市の奪還、元殿下達の捕縛か処分、敵に寝返った正規兵の処分が主な任務だが、最低限は奪還した城塞都市の治安維持にも配慮したい。

 現政権の人材がアレ過ぎるから余計な苦労を背負い込むのだが、領民の安全と生活の維持に必要不可欠だから無視は出来ない。モア教の制約がキツい、行動が縛られる。

 既に領民達は守備隊から事情説明を受けているので、逆賊クリッペンから街が解放された事を知っている。そして解放した僕やクリス、これから招き入れるザスキア公爵を一目見ようと集まり始めている。

 その誘導と整理に少なくない守備兵が割かれている、歓迎だけなら良いが近付いて暗殺とかの可能性もゼロじゃない。幾ら逆賊の協力者を炙り出しても捕らえても完全じゃない。

 ミグニズ殿とブングル殿は領民達に信用されていたのだろう。彼等の説得と言うか説明で随分とスムーズに事が運んだ。そして僕の両脇に控えている、完全に支配下に収まりました的な?ダッケルク伯爵への牽制か?

「り、リーンハルト卿。あの美の女神は……」

「嗚呼、なんと美しい。天上に住まわれる、女神殿が降臨されたみたいだ」

 え?ミグニズ殿とブングル殿の様子が変だ。ザスキア公爵を見た瞬間に、茫然自失って言うか……独り言を呟き始めたと言うか、何なんだ?

 ザスキア公爵にはドレスアーマーを一式贈った。六枚の浮遊盾(フロートベイル)の自動防御に、二つのマジックリングが合わさり完璧な防御が可能だから。

 ザスキア公爵のドレスアーマーは金属部分は金色でドレスは紅色、装飾にも拘った戦場で立ってるだけでも安全をコンセプトに錬金したんだ。

 ああ、素材が極上だし準王家の高貴な血筋で気品が溢れ捲ってる状態で僕が無駄に拘った式典専用防御特化のドレスアーマーを着ているんだ。刺激が強過ぎたんだな……

 本来ならば彼女が民衆の前に姿を表す事など有り得ない。そのカリスマ性も本当の意味の高貴なる血筋も気品も何もかもが、ミグニズ殿達には無縁の存在だ。

 僕は元王族だから耐性が有ったけど、無ければ彼等みたいになっていたのかな?でも確かに畏れ多い存在ではあるな、うん。因みに護衛の精鋭達は全員が美丈夫だ、悔しいが見応えは有る。

「一晩で城塞都市を攻略し、逆賊共を一網打尽にする。お見事でしたわ、流石は私のリーンハルト様です」

「ありがとうございます。ですが未だ一人目、先は長いです。ですが、逆賊クリッペンからアブドルの街は解放された。これは喜ばしい事です」

 解放されたの言葉に、領民達には罪が無いと言う意味を感じ取ったのだろう。歓喜の歓声が湧いた、アブドルの街は救われたんだ。

 そう、救われた。バーリンゲン王国の派遣した攻略部隊ではなく、エムデン王国の僕等が解放したんだ。ダッケルク伯爵と側近達の表情は……不満は隠せよな!

 本当に感情を制御出来ない連中が多い。ある種の精神的な病気じゃないかと思う時も有る、理性の力で表情は歪でも変えられる。素直に喜怒哀楽、それに恨を表すのは良し悪しだぞ。

「領主の館を臨時の指令所にしましたので、今後の話し合いをしましょう。ミグニズ殿とブングル殿、それにダッケルク伯爵と側近の方々も宜しいですね?」

「あら?リーンハルト様は夜襲でお疲れなのですから、話し合いは午後に……昼食の後にしましょう。貴方は少し休むべきよ」

 此処からが交渉の本番だと思ったが、ザスキア公爵が休憩と言う名の、僕等だけの話し合いの時間を作ってくれた。ダッケルク伯爵も不満そうだが反対はしなかった、それ位は気を使うのか?

 でも伝令を使い手紙の遣り取りはしたが、事前に直接話せる時間が取れたのは良かった。打合せしても、三時間位は睡眠時間が取れるかな?

「お部屋の御用意は出来ております」

「では、御案内致します。リーンハルト様、此方へ」

「そうね。行きましょうか」

 え?何時の間にか、下級貴族の令嬢と助けた妹殿がメイド服を着て案内役みたいに振る舞ってるけど?

 しかも、ザスキア公爵迄も一緒に休むみたいな流れになってるけど?会話的に勘違いされそうだけど!

 残された男性陣の複雑な顔が忘れられない。ダッケルク伯爵は驚愕、ミグニズ殿とブングル殿は絶望。しかも膝を付いて打ちひしがれた感が凄い。

「あの、誤解ですからね。一緒に休まないですからね!」

 駄目だ、聞いていない。ザスキア公爵は上品に微笑み、貴族令嬢と妹殿はクスクスと笑っている。こういう勘違いは嫌だったんだが、変な噂はザスキア公爵が鎮火させるから大丈夫なのか?

 


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