古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第632話

 所属不明の待ち伏せ部隊を殲滅した。僕のリトルキングダム(視界の中の王国)の制御が、転生前の水準に戻った事が確認出来た。

 これで後はレベルアップして魔力総量を増やせば、過去の自分の最盛期に届く筈だ。五年後には、レティシアとファティ殿と再戦するので成長の見通しが立った事は良かった。

 バーリンゲン王国を抑え、ウルム王国と旧コトプス帝国との戦争が終われば一段落して楽になる。落ち着いて時間が取れれば、レベルアップの方法を色々と試せる。

 だが先ずは目先の事から片付けなければならない。所属不明の待ち伏せ部隊だが、最後まで抵抗した強者の四人を拘束している。

 僕のレベル50相当のゴーレムナイトと互角に戦える相手が居た事に少し驚いた、有視界制御と違い自律行動での性能は低いとは言っても……

 少なくとも隊長格、強い者が指揮官とは限らないが戦闘の要となる重要な役職を担う連中なのは間違い無い。直接会って話してみるか……

◇◇◇◇◇◇

 念の為に、ザスキア公爵は馬車で待機。拘束した四人は、僕とクリス、フェルリルとサーフィルの四人で尋問する事にする。獣人族を見ての反応で、人間至上主義者か分かるし。

 ゴーレムルーク五体に大きな穴を掘らせ、倒した連中は身包み剥いだ後に百人ずつ埋める。死体の放置は、死肉を求める野生のモンスターを呼ぶので埋めるのが一番だ。

 後は腐ると虫が湧くし病気も広まる。人道的にも埋葬せず放置は非難の対象なのだが、纏めて埋めるのは対応としてはギリギリ大丈夫だ。

 手足を押さえ付けていたゴーレムナイトを退かせるが、抵抗する素振りは見えない。厳つい五十代の男が最上位者らしく、他の三人に目配せした。

 身に付けていた短剣やハンドアックス等の武器を抜き床に置く。一瞬、投げて来るかと警戒したが杞憂みたいだ。そのまま片膝を付いて頭を下げた。

 もしかしなくても降伏、仕草や身なりから間違い無く貴族。他の連中が革鎧なのに彼等はフルプレートメイルをマントを羽織り隠していた。胸には金細工の三つ葉のクローバーに鉤爪の家紋……上級貴族だな。

「エムデン王国宮廷魔術師第二席、ゴーレムマスターのリーンハルト卿とお見受け致す。我は、バーリンゲン王国の辺境を預かる伯爵家当主、リヨネル・フォン・ネギス・サマナル」

 リヨネル伯爵?ザボンに組した中でも上位の貴族だったか?違ったか?記憶が曖昧だが名前は覚えている。しかし当主自ら待ち伏せ部隊を率いていたのか。

 つまり抜け駆けしたのは功を焦った下っ端じゃない?同じく後ろで頭を下げる三人も身なりは豪華だな。配下の爵位持ちか、それに準ずる連中か。

 この待ち伏せ、予想に反して僕等を疲弊させる為に計画的に仕組まれた罠の可能性が高い。ザボンめ、嫌らしい手を次々と打ってくる。

「確かに僕は、エムデン王国宮廷魔術師第二席、ゴーレムマスターのリーンハルトです。リヨネル伯爵、今回の待ち伏せは逆賊ザボンの指示でしょうか?」

 仕えし主を逆賊扱いしてみたが、特に憤(いきどお)るとか怒りの表情になるとかしない。バーリンゲン王国の貴族特有の裏切りか?

 後ろに控える三人は、僅かながらに不快感を感じた。己の不利な状況を理解し降伏はしたが、忠義の心は隠せない?

 リヨネル伯爵の思惑だが、降伏して傘下に入りたい?裏切るので受け入れて欲しい?それとも潔く処罰して欲しい?大体の予想は出来るが、何と言って来る?

「推測の通り、我等はリーンハルト卿の真の力を教えられずに捨て駒として送り込まれた部隊。それなりの強さは自負していましたが、十五分と掛からずに全滅させられるとは未だに信じられませんな」

 妙にサバサバしているな。自分の配下と私兵と思われる連中を殲滅させられたのだが……配下の兵士は借り物か?

「捨て駒……他にも同じ様な部隊は派遣されているのか?いるなら貴殿は場所を知っているか?」

 捨て駒と言ったのは、自分はザボンから信用されてないか重用されてない。どちらかと言えば、反ザボン派の立場と言いたいのか?

 保身に走っているのか、本当に重用されてなく捨て駒として送り込まれたのか。僕には判断が付かないが、媚びる様子も感じられない。

 辺境でそれなりの領地を持つ伯爵家がバーリンゲン王国側に寝返ろうとしている。敵の勢力を減らす意味ならば、リヨネル伯爵と一族郎党を引き込むメリットは大きい。

 パゥルム女王としてはだが、短期攻略が目的の僕には微妙だな。討伐後の維持と管理は、バーリンゲン王国任せだ。配慮はするが、細かい口出しは控えたい。

 要は他でも口出しする事が有るから、なるべく減らしたい。リヨネル伯爵を引き込む事は、彼の処遇とこれからについて一定の責任が生じる。

 守備兵や領主、下級貴族と違い領地持ちの伯爵と、その一族郎党まで含むだろう。嗚呼、リヨネル伯爵の希望は家の存続か。自分は罰せられても、家族や親族は寝返らせるので受け入れろか?

「いえ、待ち伏せ部隊は我等だけです。背後に移動用の騎馬と馬車も用意していて、一撃離脱の奇襲と夜襲を繰り返す予定でした。まさか、リーンハルト卿のゴーレムの制御範囲が予想の倍以上有るとは!上級者の五倍と見積もったのに、十倍とは負ける訳です」

 十倍ね。実は今回の戦いで、制御範囲は1㎞は可能と理解した。運用数は八百体だが、レベルアップすれば魔力総量が上がり千体も可能となる。

 リヨネル伯爵は僕の制御範囲を150m前後と仮定し、待ち伏せで一撃したら逃げ出して奇襲と夜襲を繰り返す予定だったのか。それは地味に有効で、僕等は疲労困憊となっただろう。

 つまり五百人の移動手段と資機材・食料等が手に入った訳だから、妖狼族の連中に渡して運用させるか。彼等の負担が減るし、そのまま与えれば復興費用の足しになる。

「予想は外れましたが、作戦としては嫌らしく有効ですね。リヨネル伯爵と配下の三人は捕虜として扱いますが、爵位に見合った待遇は約束します。後続のバーリンゲン王国軍に引き渡しますので、抵抗は控えて貰えると助かります」

「厚遇、感謝致します。敗軍の将には過分な配慮ですが、出来れば協力させて頂きたい。我等に偽の情報を与え捨て駒にした、ザボンに一矢報いたいのです。我が一族も全て協力致します」

 そう言って深々と頭を下げた。敗軍とは言え伯爵本人が頭を下げて、一族郎党の未来を僕に託すか。まぁ負けたから処罰はされるが、彼と彼の一族の影響を考えたら処刑は悪手だな。

 勝ち馬に乗り換える意味では裏切る可能性は低い。信用を得る為にも協力は惜しまない、辺境の平定にも必要。敗軍の将でも受け入れる実績は、今後の引き抜きや逆賊に協力する連中の牽制にもなる。

 僕的には有りだが、ザスキア公爵に相談せずに決める事はしない。僕の考えを伝えた後で、判断を仰ごう。それが同行してくれた、ザスキア公爵への配慮だ。

「即答は出来無い、だが検討はしよう」

「今はそれで十分、宜しくお願い致す」

 短い尋問は終わったが、リヨネル伯爵の言葉を全て信じた訳じゃない。別働隊が居る可能性も高い、失敗したのがバレれば別働隊を寄越す可能性も有る。

 ザボンとの連絡体制や手段、ザボンに組した連中の情報の聞き取りは、ザスキア公爵の手の者が行う事になる。多分だが四人別々に尋問するだろうが、拷問紛いな事はしない。

 向こうも寝返る気満々だから、抵抗せずに知っている事は全て話すだろう。辺境に領地を持つ苦労人の強かさと言うか、清々しい位の掌返しだな。

 まぁ本当に冷遇されて捨て駒にされたかも知れないが、結果的に寝返らせて協力させられればメリットは多い。悪い判断では無い筈だが、ザスキア公爵の考え方を尊重する。

 む?満面の笑みで、フェルリルとサーフィルが近付いて来るのは剥ぎ取りの報告だな。実入りが良かったのだろう、彼等も山里暮らしで生活が厳しかったらしいからな。

 領主として配下の待遇改善は義務だが、妖狼族ばかりを厚遇すると他から不満や文句が湧き出る。バランスを取るのが大変だ。まぁ直属の配下は少ないから、未だマシな方かな。

「リーンハルト様、敵兵の処理と仕分けが完了致しました」

 集団埋葬を処理ときたか。基本的に、妖狼族は僕に臣従したが人間には隔意が有りそうだし緩和には時間が掛かると思う。

 まぁ僕も敵兵の死体を埋める時は、ゴーレムルークに大穴掘らせて纏めて埋めるから、それを間近で見ていれば仕方無いか……

 だが敵対している連中だし、倒した後は敵味方も関係無く丁重に葬れとかは無理だ。将軍や上級貴族なら国家間の取り決めが有るが、一般兵は倒した相手の判断に委ねられている。

 僕は集団埋葬とは言えちゃんと埋めるが、人手不足で仕方無い場合と敵兵憎しで、酷い場合だと野晒しとか放置とかも有るんだ。

「壊れた武器や防具は一緒に埋葬、残りは後続のバーリンゲン王国軍に引き渡す。個人の所有物と騎馬に馬車は妖狼族に与えるが、資機材と食料は持って行く」

 家紋が入った武器や防具は使えないし何より性能が悪い、僕の家臣団には不要の物だから恩着せがましく押し付ける。

 実際にバーリンゲン王国軍には必要な物だから、文句を言わず貰うだろう。戦争では武器や防具は消耗品として必須だ、幾ら有っても困らない。

 彼等の軍事行動に必要な資機材や食料等は、そのまま使わせて貰う。用意はしているが、現地調達は難しいので有り難い。食料の質も伯爵率いる部隊だけあり悪くない。

「魔力が付加されたロングソードが四本にショートソード、盾が二枚有りましたので納めて下さい」

「分かった。有り難う」

 魔力の付加された武器や防具は貰って、盗賊ギルド本部のオークションに出す。エレさんの功績にもなるし、持っていても使わないから。

 僅かでも資金の足しになるし、必要ならば自分で錬金した方が早いし使える。逆に自分が錬金した物は市場には流さない。国に納めるか個人売買か贈答品だな。

 渡された剣類は全て中級の属性付加、盾は硬化のシリーズと全部合わせれば売値はオークションに掛けても金貨二千五百枚前後か?捕虜にした四人の持ち物だが、流石に鎧兜は没収しなかった……

◇◇◇◇◇◇

 思いがけず物資や食料、移動手段の馬車も大量に手に入れた。敵側の重鎮も捕虜に出来たし、順調な滑り出しかな?

 日が暮れる前に小さな池の畔(ほとり)を野営地に決めた。池は藻が生えているので人間の飲み水としては使わないが、布で漉せば馬は問題無く飲める。

 幸い飲料水は大量に空間創造にストックしているし、ザスキア公爵の配下にも空間創造のギフト所持者が数人居て、飲料水や食料品を分けて収納している。

 贅沢とは思うが、ザスキア公爵は毎日入浴する。湯は魔法で沸かすし風呂は僕が錬金するが、風呂専用の馬車も有る。

 上級貴族や金持ちは専用の寝台馬車や食堂馬車、風呂馬車と贅を尽くした移動をする者も居る。ロンメール様も僕が同行するから、王族用の多目的馬車を使わなかった。

 理由は狭いから。幾ら豪華でも馬車は大きさも限られる、ならば天幕を利用した方が広くてゆったり出来る。淑女は狭くても馬車を好む、完全な個室だから安心するのだろう。

 大型の豪華な天幕に、僕とザスキア公爵だけが相談の為に向かい合わせで座っている。紅茶とカットフルーツを用意したら、侍女達は退室した。

 大型の四つ脚の野生のモンスターの毛皮を敷いたソファーに横座りで寛ぐ、ザスキア公爵にリヨネル伯爵との会話を報告する。

 満足気に頷いているので、会話の内容は判断については及第点みたいで安心した。やはり彼を引き込み、今後の統治を行う方針か……

「見えないのに敵の指揮官や取り巻きを捕獲出来るとか不思議だわ。敵を倒せとか簡単な命令を自動で行わさせると思っていたけれど、これが戦う前に意気込んでいた事かしら?」

「遠隔操作の複雑化の試験運用でしたが、敵の指揮官達を捕まえろじゃなくて、手強い相手を捕獲しろだったのです。強ければ部隊でも、それなりの地位に居る。指揮官は爵位とかの関係で、強くない場合も有ります。今回は運が良かったですね」

 転生前の制御力の確認だったのだが、遠隔操作の複雑化と言って誤魔化す。別に新しい操作方法の模索じゃなく、既存の操作方法の向上と把握だ。

 ザスキア公爵は信じたらしく、嬉しそうに頷いている。ハイゼルン砦攻略で、ゴーレムの遠距離自律行動が可能だと実績を作った。

 今回は、その精度が向上した訳だからな。要塞や砦、城だって遠距離から内部にゴーレムを送り込み戦わせられる。防ぐ事は、殆ど不可能だろう。

「怖い事を淡々と言うとは、困った子だわ。遠隔操作範囲、500m以上は有るし制御数も敵兵と同数程度の五百体。リーンハルト様は、その気になれば大国の王城すら単独攻略が可能。少し自重なさい、権力者の危機感を煽るわよ」

 アウレール王は喜ぶけれど、近隣諸国の王族達は分からないわよと言われた。確かに僕が単独侵攻して、敵兵の擦り潰しに専念しながら進軍。

 途中の要塞や砦が籠城しても無意味、王城だって攻略は難しくない。平地で大軍で待ち構えても、遠距離から攻撃して逃げれば一方的に数を減らされるだけ。

 密集した軍隊の真ん中にゴーレムルークを錬金し自動で暴れさせて逃げれば、僕を捕まえる事は難しい。一万や二万じゃ包囲網を敷いても、薄い所を食い破って逃げれる。

 最悪は錬金で地中深くに潜り、魔力を隠蔽すれば見つけ出す事は不可能だな。地上からビッグバンやサンアローを撃ち込んでも、地中に被害は無い。

 コレって近隣諸国が徒党を組んで、僕を殺しに来るパターンか?いや、エムデン王国と言う大国の重鎮だから大丈夫か?僕を害する事は、エムデン王国に宣戦布告する事だ。

 勝って直轄なり属国なりにすれば、エムデン王国は更に巨大となり……名君たるアウレール王でも、制御出来無い化け物国家となる。

「珍しく表情に出ているわよ。出来過ぎは、無能な者には無用な危機感を煽るのよ。遠距離操作の制御数と範囲は公にしては駄目、相手に勝手に想像させるのよ」

「リヨネル伯爵には知られてしまいました」

「鞍替えを認める条件に口止めを含めるわ。戦略的国家機密だから、漏らしたら一族郎党処分すると脅して何かしらの飴も用意するわ」

「飴と鞭ですね。ですが、ザボンとの直接対決の方法は少し考えます。リトルキングダム(視界の中の王国)は封印か、制御範囲を限り無く狭めます」

 ゴーレムキングとアイン達だけで単独侵攻するか?接近戦なら脅威度は低い筈だ、デオドラ男爵級の化け物は他国にも居るから同じ脅威だし。

 どの道、口上を述べるので30m前後に近付く。そのまま敵陣に突っ込み戦えば、有る意味では正々堂々だよな。うん、イケる筈だよ大丈夫だよ。

 包囲網を敷いている連中は散り散りに逃げ出すから一網打尽には出来無い、つまり残党狩りを後続のバーリンゲン王国軍に任せる事になるが……嫌だが頼むからには借りになるのか?

「単独で突っ込むつもりでしょ?頭を潰せば手足は逃げ出す、取り逃がすのは面倒臭いから何かしらの方法を考えましょう。最大でも三千人は超えないから、何とかなるわ」

「僕の考えなどお見通しですか?今回は着込むゴーレムである、ゴーレムキングの御披露目になります。魔術師が接近戦で無双する、噂でも嘘臭いとか情報は荒れるでしょうね?」

「それが良いのよ。情報の攪乱はね、真実味が有りそうな嘘に誘導するのよ。人は信じたいモノを信じ様とするの。だから用意してあげる、真実には繋がらない優しい嘘をね」

 怖い、怖いよ。情報操作に長けた、ザスキア公爵の真骨頂だよ。相手の信じたい情報を上手く掴ませて騙す、事実は荒唐無稽な内容だから余計に真実味が増す。

 凄く、凄く楽しそうに、それこそ無垢な童女の様な笑顔を浮かべている。これは何も言わずに任せる事が正解、余計な事は言わないしやらない。

 逃げる連中の対処は、ザスキア公爵の配下の精鋭達と妖狼族に任せれば良いな。機動力の高い、妖狼族なら追撃部隊として最適だし……うん、何とかなりそうだ。


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