古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第64話

 ウィンディアの報告を聞いた、驚きの内容だ。現段階でも魔術師として一人前以上、アルクレイドが可能なら欲しいと言うのも分かる。

 あの青銅製ゴーレムを二十四体も操れるとなれば、使い道は色々有るだろう。

 

「デオドラ男爵、その少年ですが話をさせて下さい。

能力は認めますが人柄が分かりません、聞けば勧誘に対しては全て断っているとか……

このままでは我々の勧誘には乗らないでしょうな」

 

 ふむ、話をか?

 

 元々同じ派閥のバーレイ男爵の息子、血筋の問題で廃嫡するのだが今の時期では表立った接触は控えるつもりだったが……

 他の勢力に引っ張られるのは少々惜しいな。

 

「良いだろう、明日時間を作る。その時にジゼルを同席させろ、我が娘ながら人を見る目はあるからな。

ウィンディアは女としては全否定されたのだ、信用を得られたとは仲間としては認めると言う事だ。

奴は我々に釘を刺した、ウィンディアを勧誘の道具にするな、とな。ならば場合によってはジゼルを嫁がせても良いと条件に入れておけ」

 

 廃嫡して平民となっても我が血を引くジゼルの婿ならばデオドラ男爵家の一門として対外的にも扱える。

 奴に俺の勧誘に対する本気さが分かるだろう。ウィンディアの様に家臣では無く正式な我が一門の娘ならば良いのだろう?

 ジゼルが気に入ったなら俺も安心だ、アレの人物鑑定は確かだからな。

 

 だが目に留まらなければ……

 

「バーレイ男爵家と冒険者ギルドにも根回しが必要かと。バーレイ男爵は廃嫡させても手放すとは思えず、冒険者ギルドは既に抱え込みに動いてます」

 

「オールドマン代表からは定期的に魔法迷宮を探索させるならば考えると言われたな。

奴は迷宮探索で真価を発揮するそうだ、前衛がダメージ無視のゴーレムに空間創造で荷物は持ち込み放題だ。

高レベルパーティ達への物資補給にも便利だな、複数の魔法迷宮の探査を担う冒険者ギルドとしては欲しい人材だ。

バーレイ男爵については何とも言えぬ、派閥は同じだが接点は少ない。同じ武闘派として人柄は良く知っている。だが彼については少し時間をくれ」

 

 同じ武闘派とはいえ、その他の貴族達との関係も有る。バーレイ男爵は新貴族だが好感が持てる人物だ、親戚付き合いになっても損は無い。

 だが奴の後ろには正妻の実家、アルノルト子爵が居る……アレは悪い意味で貴族らしい一族だ、出来れば関わり合いにはなりたくない。

 

「分かりました。後はボッカ殿ですが、大分頭に血が上ってますね。ウィンディアを側室にと狙ってましたから、横から攫われた程度に思ってますよ」

 

 ボッカか……我が子の中でも武は中々なのだが、如何せん馬鹿なのだ。だがリーンハルト殿の試金石には使えるか?

 奴は婚姻外交には使えない、送り先で必ず問題を起こすからな。

 手元で飼い殺しにして武力のみ利用する予定だったが、噛み付かせるのも面白いか。

 

「ボッカについては様子を見ろ。奴に噛み付かせるのも一興だ、試金石にはなるだろう。

もっとも単独で真正面から挑むならば勝てはせぬ」

 

 リーンハルト率いるゴーレム兵団に勝つには頭を使わないと無理だぞ。どうする、ボッカよ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ウィンディア、久し振りに一緒に寝よう」

 

「ルーテシア、年頃の娘が何を言ってるの?もう子供じゃないでしょ!」

 

 デオドラ男爵様から解放されて漸く眠れるかと思えば、今度はルーテシアに捕まった。

 今は彼女の部屋に連行されている最中よ。長い廊下を引き摺られる様に先へ進んでいく。

 一応私は家臣なんだし、貴女の部屋に出入りするのにも気を使うの!

 

「ルーテシアの聞きたい事はリーンハルト君の事でしょ?駄目よ、約束でしょ!彼に興味を持つのは駄目なの」

 

 暴走するのはデオドラ一族の癖みたいなものだけど、貴女まで暴走しちゃ駄目でしょ!

 

「狡いぞ、ウィンディアは学校も一緒で指名依頼も共に達成したぞ。約束の条件は同じなのに、この差はなんだ?」

 

 身分の差よ、男に軽々しく興味を持てないのが貴族令嬢としての貴女なの!

 強引にルーテシアの部屋に押し込められる、部屋付きのメイドが怪訝な顔をするが何時もの事と無言で一礼して出ていった。

 

「さぁ、詳しく話してもらうぞ。それで?」

 

 一人で寝るには広過ぎる天蓋付きのフカフカなベッドに押し倒される。

 全く疲れているのに今夜は長い夜になりそうだわ、彼女に気付かれない様にため息をつく。

 

「先ずはね……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、朝からウィンディアが自宅に押し掛けて来た。

 送迎の馬車まで用意されているが家紋等の身元が特定される様な物は付いていない黒塗りの豪華な馬車。

 折角なのでウィンディアをイルメラに紹介する。

 既に取り次ぎの時に顔は合わせているが客とメイドの立場だったが、今はお互い冒険者としてだ。

 

「イルメラ、彼女はウィンディア。覚えていると思うがバンクで助けた元『デクスター騎士団』の一員だ。

今は冒険者養成学校の同期であり指名依頼を共に達成した仲間だ、僕は信用している」

 

 イルメラさん、無表情で少し怖い……

 

 ああ、迷宮で別れ際にこれからはお互い不干渉って約束したのに、何を一緒に依頼を請けてるのって事かな?

 

「イルメラです、リーンハルト様の専属メイドであり『ブレイクフリー』のメンバーでも有ります」

 

「ウィンディアよ、風属性の魔術師です。

迷宮での約束は覚えているけど、リーンハルト君が活躍し過ぎた関係でデオドラ男爵様に目を付けられたのよ。

今は協力してアノ件をバレない様に動いてるわ」

 

 お互い無表情だがウィンディアの差し出した右手をイルメラはガッチリと握り返した……握手ってこんな雰囲気になったか?

 

「イルメラさんと呼んで良いかしら?ギルドランクは先輩ですし」

 

「構いません、私もウィンディアさんと呼びますから」

 

 む、何だろう?話し終わってから二人で僕を見詰められると落ち着かないのだが……

 

「そっ、それじゃコレからデオドラ男爵家に行ってくる。イルメラ、留守を頼む」

 

「畏まりました、行ってらっしゃいませ」

 

 綺麗に一礼する彼女に見送られてウィンディアと馬車に乗った。

 因みに貴族の屋敷に呼ばれた為に貴族的正装の上に魔術師としてのマントを羽織っただけの格好をしている。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 暫くは無言で向かい合って座る、特に不機嫌そうでは無いが沈黙が辛い。

 

「あの……」

 

「イルメラさん、リーンハルト君が大好きなのね。私生活も冒険者としても貴方を支えている彼女に少しだけ嫉妬するわ」

 

 む、何か変な方向に話が進みそうなんだが……

 

「彼女には感謝している、幾ら僕付きのメイドとは言え廃嫡する男に付き従うなど、その厚い忠誠心には応えたい」

 

「え?それ本気で言ってたりする?」

 

 身持ちが固いかと思えば鈍感も混じってるのは無いわー、とか呆れられたのだが……

 身持ちが固いって彼女の誘惑をバッサリ切った事への当て付けだろうか?

 それからデオドラ男爵邸に着くまで彼女が口を開く事は無かった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二度目の訪問となるデオドラ男爵の屋敷、相変わらず大きいな。

 華美にならず、しかし歴史と気品を感じる佇まいとでも言えば良いのだろうか?

 新興の連中には醸し出せない何かが有る。馬車を降りて玄関に向かうと美少女が一人立っているが……

 

「お待ちしておりました、リーンハルト様」

 

「ジゼル様、どうして?」

 

 ウィンディアの驚き様を見れば彼女も知らなかったサプライズらしいが、様付とはデオドラ男爵のご令嬢か?確か六人いるとか聞いた様な……

 

「お初にお目にかかります、リーンハルト・フォン・バーレイです」

 

 貴族的作法にて一礼するが彼女と目が合った時に、何かを見透かされる様な気持ちになった。

 これは……思い出した『人物鑑定』のギフト(祝福)と同じだ!過去に同様の事をされた憶えがあるが、対策も知っている。

 心に壁を作るイメージで思考を覗き込まれるのを防ぐ、精神力の強さがレジストの成功率を高める。

 要はイメージが大切なのだが、ゴーレム錬成を得意とする僕には手慣れたものだ。

 抵抗を知ると直ぐに止めてくれたみたいだが……

 

「あら?全く分からないなんて……貴方って不思議な人なのね」

 

 ニッコリと微笑むが、これは裏の有る笑顔だ。この女性はデオドラ男爵家に来る者を調べるのが役目なのかも知れないな。

 

「貴族の令嬢が他人の心を覗き見るのはどうかと思います、『人物鑑定』のギフトですよね?」

 

 正直に質問をぶつけてみるが微笑みを絶やさずに無言のままだ……

 

「ウィンディア、案内を頼む。ではジゼル様、失礼致します」

 

 ヤバいな最初の頃の思考は面倒臭い、関わり合いになりたくないだ……

 彼女の無言も僅かながら思考を読まれたな。相手に失礼と取られる態度は、その気持ちに対する返礼だ。

 慌てるウィンディアを急かしてデオドラ男爵に取り次いで貰う。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今回は違う部屋に通された、完全な執務室みたいで華美な装飾や美術品も飾ってない。

 だがテーブルは豪華で対面にデオドラ男爵が座っている、実務の部屋だな。

 

「此方がビックビーの討伐証明部位、女王の結晶です。二つ有ります」

 

 毒針については依頼書に書かれてないので提出の義務は無い、僕等で処分して良いのだ。

 

「ふむ……アルクレイド、確認してくれ」

 

 デオドラ男爵の隣にはアルクレイドと呼ばれた魔術師が座り、その隣にはジゼル嬢が座っている。

 先程の件は既に知られていると思った方が良い。今回はルーテシア嬢は居ない、助かった?

 

「はい、ふむ……本物です。小振りですが質は良いですね」

 

「そうか、分かった。指名依頼は達成だな、ご苦労だった」

 

 サラサラと依頼書にサインをして捺印まで押してくれた。

 貴族の家紋を模した印は正式な書類に押すもので、冒険者ギルドへの依頼書程度には押さないのだが……

 

「報酬は既に冒険者ギルドに渡してある、この書類を見せれば問題無く受け取れるだろう」

 

「はい、有り難う御座います」

 

 依頼書を丁寧に畳み空間創造へしまう、報告は簡単ではあるが済ませたから、特に声を掛けられなければ引き上げよう。

 

「それでは……」

 

「リーンハルト殿、少しだけ話をしても良いかな?」

 

 アルクレイドさんが話し掛けてきたが、彼は魔術師だ。しかも転生してから初めて会う高レベルの……

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 ジゼル嬢の報告により僕への感情は低いだろうから体を向けて真摯な態度を取る……焼け石に水だろうが。

 

「リーンハルト殿は来年には廃嫡になるそうだな。だから冒険者ギルドに入りCランクを目指している、廃嫡する前に……」

 

 黙って頷く、その通りだが少し考えれば分かる事だ。

 

「だがな、Cランクになっても全ての貴族から干渉されない訳ではない。Aランクでも高位貴族の我が儘には泣かないと駄目なんだよ。

君は自身がCランクとなり男爵である父親の庇護の下で自由な暮らしが出来ると考えていないか?」

 

 少しだけ言葉がキツくなったが言われた事は真実だ、Cランクでは抑止出来るのは精々が力の無い子爵止まりだろう。

 デオドラ男爵程の力が有れば干渉は可能なんだ……僕は駆け出し冒険者に高位貴族が興味を持たないだろうと甘く見ていたのだ。

 

「一つ訂正が有るとすれば、実家に迷惑を掛けない為の独立です。

僕は弟の、インゴの足枷になるつもりはありませんし、アルノルト子爵家とも懇意にするつもりも無い。

リーンハルト個人として生きていくつもりでした」

 

 ははは、全ては甘い見通しだったのだな。

 転生し二度目のやり直しの人生を自分なりに考えて歩んで来たが、僅か一ヶ月で行き詰まったか……

 

 クソッ、また利用される人生を送らなければならないのか?

 

 涙が出そうなのを抑える為に、グッと両手を握り締めた……

 


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