古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第635話

 シャリテ湿原の決戦にて無事に、ザボンを倒す事が出来た。彼に付き従った正規兵や守備兵、貴族やその私兵達も全て倒した。

 クリスと妖狼族達の戦闘力を未だ甘く見ていた。マジックアイテムで強化した妖狼族の精鋭は、僅か十分程度で敵兵を皆殺しにしたし、クリスも重装歩兵と火属性魔術師を同じく十分程度で皆殺し。

 ザスキア公爵と護衛の精鋭達が戦場に到着した時には、生きている敵兵は誰も居なかった。此方を監視していた偵察部隊は、衝撃的な結果を主に報告する事になるだろう。

 少しやり過ぎたかも知れない。問答無用で短時間で皆殺しじゃ、怖くて降伏なんかして来ない可能性が高い。残虐過ぎたか?いや、これ位しないと日和見連中は動かないだろう。

 中途半端が一番困る、勝ち馬の尻に乗りたいのだろうが、後から味方ですみたいに擦り寄られて配当を寄越せとかふざけるな。それを平気で普通ですと騒ぎ出す。敵として倒した方が面倒が無くて良い。

 前回同様、倒した敵兵の武器や防具はバーリンゲン王国に、兵士達の私物は妖狼族に、軍事物資やバリスタは僕等が運用する事にした。まぁ今回バリスタを使う事は無いから、アウレール王に献上だな。

 お陰様で妖狼族の忠誠心とヤル気が天元突破したみたいで、全員が物凄く御機嫌だ。慢心しない様に注意が必要かと思ったが、次期族長候補現族長の娘である、フェルリルが引き締めていた。

 最初はどうかと微妙に思ったが、彼女の評価は鰻登りだな。サーフィルを副官にして鍛えれば、ウルフェル殿が引退する迄には次期族長としての教育が間に合うだろう。

 だが最近少し俗っぽい。奪った財貨で、エムデン王国の王都で色々買い漁るのが楽しみだと、サーフィルと盛り上がっている。田舎から出て来た純朴な村娘が、都会に慣れてエンジョイするみたいな?

 今回回収した武器や防具に、魔法の付加がされている物は結構有った。流石は元とは言え王族の直轄部隊、珍しい物は無かったので全て売る事にするが、ザボンの装備品は全てパゥルム女王に渡す事にした……

◇◇◇◇◇◇

 リヨネル伯爵の伝手を使い、ザボンの元領地の内、影響力の強いシャンヤンの街が全面降伏を申し出て僕等を受け入れてくれた。

 ソルンの街は交渉中だが、無血開城も時間の問題。代官と街の有力者達との交渉も、彼等の罪を問わずにすれば直ぐにも終わるのだが……

 リヨネル伯爵が交渉結果に色を付けようと、少し条件を盛ってるみたいだ。早く成果を出したいのは分かるが、時間を掛けては無意味なので程々にする様に指示してある。

 急遽滞在先として、代官の館と高級宿屋を徴収。勿論だが金は払うが最上級の持て成しと、周辺の日和見だった連中の愛想笑いに迎えられた訳だ。

 後続のバーリンゲン王国の部隊が来ないと動けない。シャンヤンの街とソルンの街は、殆どの兵力を先の決戦で失った訳だから無防備だ。

 逆に抵抗が出来無いから無条件降伏でも有るのか……困った事に待ち時間が多くて、当初の一ヶ月以内に帰国の計画がズレている。詳細な報告は送っているが、これは失点だろうな。

 取り入ろうとする連中の相手は、リヨネル伯爵に一任した。僕等は彼等に何の約束も出来無いので、全てはリヨネル伯爵を通じてパゥルム女王に報告させる。

 精々バーリンゲン王国への忠誠を誓ってくれ。僕に擦り寄られても何も配慮などしない、逆にパゥルム女王に全て報告するだけだ。

 お陰で領主の館に引き籠もって、盗賊ギルドの報告を待つまで暇が出来た。だからこうして、何もせず紅茶を飲む時間が有る。

「そろそろ盗賊ギルドからの報告が纏まるそうよ。事前の途中経過報告によると、かなり荒れているわね」

 向かい側のソファーに横座りで寛ぐ、ザスキア公爵が気怠そうに教えてくれた。彼女は盗賊ギルドの連中に、厳しい指導をしていたので報告の精度は高まるだろう。

 ザスキア公爵の諜報部隊は、数班を波状的に送る。彼等は他の班の情報は知らない、仮に捕まっても他の班の情報は漏れない。

 同じ班員は複数で構成され、最新の情報を定期的に送り出すし同じく増員も定期的に来る。常に複数の諜報部隊が動いて、最新の情報をザスキア公爵に届け続ける。

 彼女は定期的に複数届く情報を分析・精査して正しい状況を判断する。一つの情報だけを信じず、多方面からの情報と摺り合わせて裏取りもする。故に恐ろしい精度と速さで情報を握るんだ。

 僕の隣には、クリスが無表情で座っている。この娘も怖い……気配も極力消しているので、意識していないと居ないと錯覚する。その背後に、アインとツヴァイ、ドライが並んでいる。

 因みに、ザスキア公爵がフェルリルとサーフィルもお茶に誘ったのだが、全力で辞退していた。彼女達曰わく、野生の本能が戦闘力では遥かに下のザスキア公爵が怖いそうだ。

 その意見には、僕も全力で賛成した。不条理だが、力では勝てない何かが有るし分かるのだろう。

「荒れる、ですか……コーマの配下の離反や裏切り、中立の日和見連中の擦り寄り。辺境の少数部族の動き、色々考えられますね」

 カシンチ族のコリコとスアクの兄弟が、辺境の少数部族に声を掛けて取り纏めているらしいが、未だ接触は無い。三割近い部族が賛同し、連合を組んだそうだが……

 あの偵察部隊には、服装や装備品から辺境の少数部族の連中も居たらしい。僕等の力を知れば、コーマの仲間にはならないとは思うが、僕が、少数部族も滅ぼすつもりだ!とか騙されたら手を組みそうだ。

 敵の敵は味方とか一蓮托生みたいに話を誘導し、退けた後か王位を奪還した後とかに大きな見返りを提示すれば手を組む可能性も有るか?

「今迄は比較的侵入し易かった、イエルマの街とブレスの街の防備と防諜対策が固くなったみたいだわ。コーマも街を行き来しての演説を止めた、調子の良い事が言えなくなったのね」

 ふむ、自分の正当性は別にしても、戦力差の誤魔化しは出来無くなった。幾ら自分が正しいと言っても、勝てない相手に挑めとは言い辛いよな。これは心配しなくとも、少数部族はコーマに味方しない?

 兄弟三人で三千人以上の正規兵と共に領地に戻り、パゥルム女王の新政権に挑んだ訳だが、既に二人の兄弟と二千人前後の正規兵は倒された。

 ザボンも自分の不利な状況を跳ね返す為に、罠を張り巡らせたのに僕と妖狼族の僅かな戦力に短時間で負けた。偵察部隊が居たから嘘は言えず、情報も抑えられない。

 ふむ。僕でもこの状況なら、情報統制を行い拠点の守りを固めて引き籠もるな。負けは濃厚だが、他に手立てが少ない。辺境の少数部族を引き込みたいが、対価が思い浮かばない。やはり情報さえ流せば、奴等が纏まる事は無いな。

「コーマの動きですが、ザボンの最後を知っては打って出る事は無いでしょう。やはり籠城戦、だが増援の無い籠城戦など最初から負けは確定。内応はしなくても、僕とクリスで侵入し街は落とせる」

「私と主様なら、夜陰に乗じて侵入しなくとも、昼間に正々堂々と攻め込む事は可能です。あと戦わないと身体が鈍ります」

 おや?クリスの感情が少し漏れているが、ワクワクする期待感か?いや、街一つ落とすのが楽しくて仕方無い?

「まぁね。領民の被害を無視すれば、リトルキングダム(視界の中の王国)なら問題無いし、ゴーレムルークを並べて攻めても勝てる。城壁は半壊するけどね」

 あーうん、そうだね。クリスは十日以上もシャンヤンの街に足止めを食らっている事に飽きたんだ。拠点での護衛の任務は基本的に待ちだし、現状僕等を害する勢力は居ない。

 鍛錬するにも来賓扱いじゃ場所を借りるにも一苦労だし、相手になるのは僕位しか居ない。だが総司令官の僕が、気楽に配下の鍛錬に付き合えない。

 フェルリルとサーフィルの二人の武力は高く良い所迄は行くが、イマイチ物足りないらしい。クリスの戦闘力は折り紙付きだから、放置してると単独でコーマの所に戦いに行きかねない。

「街も領民も被害は甚大だよ、復興だって大きな手間が掛かる。奴等も自棄になって乱暴狼藉を働くとか、領民ごと巻き込んで焼き討ちするとか遣りかねない。どうせ負けるなら周囲も道連れとか……」

「それに今はリトルキングダムの詳細な情報を教えるのは駄目、敵にと言うより味方に知られるのが良くないわ。畏怖の対象となり敵から付け込まれる、その力が自分に向いたらどうする?ってね。

疚しい考えが有る連中なら何を考えるか分からない。最悪ウルム王国との戦争が終わったら、内戦とかになるわ。突出した力は敵味方に関係無く災いを招く、平和な時にこそ蠢く悪意は多いのよ」

 そうならない為に、貴方は動く必要が有る。細かい事は、お姉さんに任せなさい。私達は家族でしょ!って邪気の無い綺麗な笑顔で言われてしまった。

 確かに言われれば思い当たる節どころか、転生前は父王に畏怖されて邪魔になり排除されたんじゃないか!同じ失敗を繰り返してどうする?

 何の為に賭みたいな転生の秘術を実行し、第二の人生を掴んだんだ?今生は幸せになる為にだろ!しっかりしろ、未だ間に合う。

 しかし、ザスキア公爵のお姉さん発言や家族発言は、何と言うかくすぐったいな。家族……イルメラ達や両親達とは違う家族、恋愛や家族愛とも違う。

 何て不思議な関係だろうか?親愛?友愛?年の離れた男女間に生まれた絆って何だろう?悪い気は全くしないが、どうにもモヤモヤするんだ。

 まぁ良いか……盗賊ギルドからの報告も未だだし、もう一日か二日しないとバーリンゲン王国の部隊が来ない。彼等が来たら引き継ぎして、コーマを倒しに行く。

◇◇◇◇◇◇

 定期的に届く、ザスキア公爵と王家直轄の諜報部隊の報告書を並べて比較しながら読む。王国の諜報部隊からの報告書はありのままに、ザスキア公爵からの報告書は部分的に誤魔化してある。

 その誤魔化し方は悪い方じゃない、荒唐無稽過ぎる内容を他者の協力を合わせて何とか実現可能か?ってレベルに纏めている。成果の誇張じゃないから良いのだが……

 他人に成果を譲って尚、揺るぎない成果を出している。異常な程の能力だが、二心無き忠誠の持ち主だから安心出来る。普通なら疑心暗鬼になり、警戒から処分コースだろうな。

 この二つの報告書の他に、本人からの報告書も有る。奴からの報告書が本来の正式な物で、ザスキア公爵の物は俺が、リーンハルトには内緒で送る様に頼んだ。

 奴に正当な評価を下して欲しいのなら、出来る限り正確な情報を寄越せ。そう言ったのだが、ザスキアの奴は調整した内容を送ってくる。

 俺が奴に嫉妬し害さないギリギリの内容、時には自分が泥を被り失態を演じる気の使い様。ザスキアは俺や他の貴族連中が、リーンハルトを異端として害さない様に上手く情報を操作してやがる。

「不味いな。俺がザスキアに嫉妬しそうな程の熱愛じゃないか。くはっ、くははっ……アイツ等の関係はどうなっているんだ?行く所まで行ったのか?」

 執務室で一人で笑う、外に居る警備の近衛騎士団員は困惑しているだろう。だが笑いが込み上げて止まらない、信頼する臣下が出来過ぎて困るってか?

 リーンハルトの奴は、バーリンゲン王国の平定が遅れている事を詫びているが、アブドルの街に籠もる、クリッペンを少数の配下と一晩で攻略し奴を討ち取った。

 被害は最小限、守備兵や代官の妻を懐柔し、アブドルの街が混乱状態になるのを抑えた。敵対した連中は皆殺し、クリッペンの敵を討つ気概の有る者は皆無だろうな。

 戦力差を詰めようと有利な場所で決戦を挑んだ、ザボンの戦略は褒めても良い。だが規格外の奴一人を相手に一斉攻撃を繰り出し、傷一つ負わせずに逆に討ち取られた。

 残党狩りは妖狼族にも手伝わせたが、最初は二千人対一人でボロ負けだな。ザボンは一人を相手に卑怯にも罠を張り巡らして二千人の兵士を用意して、そして短時間で負けた。

 実質二日間で逆賊二人を討ち取ったのだが、期間が伸びたのは移動とバーリンゲン王国の応援部隊が遅れたからだ。その分、攻略した街の維持と管理を問題無く行っている。

「くっくっく。無様だな、ザボンよ。貴様には正当性など何も無く、愚かで哀れな負け犬としての評価しか無い。多対一で負けた卑怯者として広まる、バーリンゲン王国の連中は恥とも思わぬかもしれんがな」

 自国の元王族が無様に負けた様を全く気にせず、リーンハルトの活躍を自分の手柄の様に振る舞う愚かな連中が多いのは何故だ?

 報告書にも有ったが、レズンの街の代官のオルレゴンと饗応役のアチアとか言う小者もそうだが……貴族として適性が無い劣化した連中が多過ぎる、俺の国なら全員解雇で国外追放だぞ!

 リーンハルトも報告書に懸念事項として書いているが、属国化して旨味を吸い出すにしても吸い出す元の国が腐っていては意味が無い。

「文官を処分するから、その不足人員の補強の為に、我が国の下級貴族の次男坊以降との集団見合いを希望するか……」

 ザスキアは乗り気で、リーンハルトは保留。俺は提案を飲んでも良いが、ミッテルト王女とウチの宮廷魔術師との婚姻は不可だ。フレイナルには、ウルム王国の重鎮の娘を嫁がす。あの馬鹿も嫁を娶れば落ち着くだろう。

 逆にリーンハルトの奴に他国から婚姻外交も申し込みが多数来ている。お前も多対一の集団見合いが出来る位に申し込まれているんだぞ。

 断れない国の娘は、俺の側室にと条件を変更して飲ませた。同期の独身宮廷魔術師ではと言ったのだが、速攻で断られた。一考の余地すら無い、仕方無いから俺が後宮に招いた。

 端から見れば、俺が相手の女を気に入って、リーンハルトから奪ったみたいに誤解されるだろうが構わない。俺は奴と約束した、婚姻外交には使わないとな。

 国王に配慮させる臣下か……笑い話みたいだが、俺も悪い気持ちじゃない。気を遣える相手ってのは、意外と良いモノだな。

 




連続投稿も本日で終わり、次回は5/11(木)から毎週木曜日掲載に戻りますので宜しくお願いします。
日刊ランキング二十二位、有難う御座います。

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